「外国人のお客様が来られたとき、パスポートの写真を撮るだけでいいのか、原本をコピーしないといけないのか、現場がいつも迷っている」——宿泊施設を運営する経営者や管理部門の方から、こういった声をよく聞きます。 法令の存在は知っている。でも、現場の実態として何が「適法」で何が「グレー」なのか、明確な答えを持てていないまま、なんとなくの運用が続いている。そのうしろめたさが、どこかに残っている。 この記事では、旅館業法が定める外国人宿泊客への対応義務——とりわけ「パスポート確認」の部分——について、経営判断の軸になる情報を整理します。「とりあえず写真でOKらしい」という曖昧な理解ではなく、なぜそうなのか、どこまでが許容されるのかを、現場が動けるレベルで解説します。 旅館業法が「パスポート確認」を求める理由 旅館業法第6条は、宿泊者名簿の備え付けと記載義務を定めています。外国人宿泊客については、旅券番号(パスポートナンバー)の記載が求められており、これが「パスポート確認」の法的根拠です。 もともとこの制度は、テロ対策・感染症対策・失踪者の追跡といった公安・公衆衛生上の目的から設けられたものです。宿泊施設は、宿泊者が誰であるかを把握する義務を負っており、その履行手段として「旅券番号の記録」が位置づけられています。 ポイントは、法律が求めているのは「旅券番号の正確な記録」であって、「原本コピーの保管」そのものではないという点です。この区別が、「写真データでよいのか」という実務上の問いへの回答につながります。 写真データ・スキャンデータでの確認は法令上許容されるのか 【図解】旅館業法が「パスポート確認」を求める理由への対応フロー ① 問題発生 → ② 事実確認・記録 → ③ 顧問弁護士に相談 → ④ 対応策の実行 ※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 結論から言えば、旅館業法の条文そのものは「原本の物理的なコピー」を義務付けていません。求められているのは宿泊者名簿への旅券番号等の正確な記載であり、その確認手段として写真データやスキャンデータを使うことは、条文上は禁止されていません。 実際、関西を拠点とする大手ホテル運営会社からの相談でも、「フロントスタッフがスマートフォンのカメラでパスポートを撮影し、その画像を確認して宿泊者名簿に転記する」という運用が法令上許容されるかどうかが争点となりました。この点について精査した結果、旅券番号が正確に記録されている限り、確認手段としての写真データの利用は旅館業法違反を構成しないという方向性で整理されています。 ただし、注意すべき点が複数あります。 記録の正確性:番号の転記ミスがあれば、義務の履行としては不十分になります。画像を撮るだけで転記しない運用は不可。 画像データの保管・管理:パスポートの画像は個人情報保護法上の個人情報(かつ要配慮個人情報に準じる扱いが推奨されます)。適切なアクセス管理・保存期間の設定が必要です。 自治体の条例・指導:旅館業法は国の法律ですが、宿泊業の許可は都道府県・保健所が行います。自治体によっては独自の運用指導をしているケースがあるため、管轄の行政窓口への確認を怠らないことが重要です。 民泊(住宅宿泊事業法)との違い:住宅宿泊事業法(民泊新法)においても同様の本人確認義務がありますが、旅館業法とは根拠条文が異なります。運用している施設の許可・届出の種別を正確に把握したうえで対応することが必要です。 なぜ「なんとなくの運用」が生まれるのか——判断ミスの構造 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 多くのホテル・旅館・民泊運営者が「曖昧な運用」を続けてしまう背景には、共通した構造があります。 第一に、法令の条文と行政の運用指導がズレていることがあるという点です。条文上は明示されていなくても、行政の立入検査や更新審査の場で「原本コピーを保存するように」と指導を受けた経験のある事業者は少なくありません。この「指導」が事実上の慣行となり、「原本コピーが義務」という誤解が広がっています。 第二に、現場の判断と経営層の判断が分断されていることです。フロントスタッフが「どうしたらよいかわからないから、とりあえず原本を見るだけにしている」という対応を続けているケースは多い。しかし、それが記録として残っていなければ、義務を果たしていないことになります。「見た」という行為だけでは法的には不十分です。 第三に、グレーゾーンについて「まあ大丈夫だろう」で済ませてしまいやすいという構造です。外国人宿泊客のパスポート確認義務違反で即座に行政処分を受けるケースは多くありませんが、問題は積み重なるとリスクが顕在化する点にあります。特に大規模なホテル運営では、監査・査察が入った際に記録の不備が一括して指摘される事態もあります。 問題が起きる前にできること——予防的な法務の使い方 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 宿泊業における法令対応は、問題が起きてから対処するのでは遅いケースが多くあります。行政処分(業務停止・許可取消)は、指摘を受けてから反論する余地が小さい。だからこそ、問題が起きる前の「型作り」が最も重要です。 具体的に、今すぐ着手できる予防策を整理します。 宿泊者名簿の記載フォームを整備する:外国人宿泊客欄に旅券番号・国籍・生年月日・住所(外国の住所で可)を漏れなく記載できる様式を用意する。デジタル管理の場合はシステムのフィールド設計を確認する。 確認手順をオペレーションマニュアルに明文化する:「パスポートを確認して番号を転記する」という手順を、誰が読んでも迷わないレベルで書く。写真撮影を使う場合は、その保管・削除ルールも併記する。 個人情報管理ルールとの整合を確認する:パスポート情報は個人情報です。プライバシーポリシーや社内の個人情報管理規程と一貫した取り扱いになっているかを確認する。 管轄保健所の運用指針を確認する:自治体によって細かい運用の指導内容が異なります。許可更新のタイミング等に合わせて確認しておく。 証拠は、紛争になってから急に作れるものではありません。「ちゃんとやっています」と言える記録を、日常業務の中で自然に残せる体制を整えることが、もっとも実効性のある予防法務です。 問題発生時の対応フロー——行政指導を受けたとき 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 万一、保健所や警察から立入検査・行政指導を受けた場合、初動の対応が結果を大きく左右します。 指導内容を文書で受け取る・記録する:口頭指導の場合も、「指導を受けた日時・担当者名・指導内容」をその場でメモし、後日の確認のために残しておく。 改善を約束する前に弁護士に確認する:行政の指導内容が法令の解釈として正確かどうか、確認が必要です。特に「原本コピーを保存せよ」という指導については、旅館業法の条文上の根拠を確認する価値があります。 改善報告書は弁護士と一緒に作成する:改善報告の内容が、将来の処分に際して参照されることがあります。内容は慎重に精査する必要があります。 再発防止策を文書化して保存する:「指導を受けて対応した」という記録そのものが、誠実な対応の証拠になります。 失敗事例の構造——なぜ相談が遅れたのか 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 宿泊業の法令対応で相談が遅れるケースには、共通したパターンがあります。 「立入検査が来て初めて、実は旅券番号を記録していなかった施設が複数あることが発覚した」——こういった状況は、経営層は「現場がちゃんとやっているはず」と思い、現場は「なんとなくの運用」を続けていたことで起きます。チェック機能が働いていなかった、ということです。 相談が遅れた理由として多いのは、以下の3パターンです。 「大ごとになってから相談するもの」という思い込み:法律相談は紛争が起きてからするもの、と考えている経営者は少なくありません。旅館業法の解釈確認のような「グレーゾーンの確認」こそ、早期相談で解決できる問題です。 担当者任せで経営層が把握していない:現場担当者が「たぶん大丈夫」と判断してエスカレーションしていなかった。経営層が法令対応の実態を把握するための仕組みがなかった。 記録がないため、対応の実績を証明できない:「ちゃんとパスポートを確認していた」と言えても、記録がなければ証明できません。義務を果たしていても、証明できなければ果たしていないのと同じ扱いになることがあります。 うちの会社では、どう考えればいいのか——判断の軸を作る 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) ホテル・旅館・民泊といった宿泊施設の規模や運営形態によって、パスポート確認の実務は異なります。以下の問いに答えることで、自社の現状を整理してみてください。 現在の宿泊者名簿に、外国人宿泊客の旅券番号が実際に記載されているか? 確認手順がオペレーションマニュアルに明文化されているか? 写真データを使っている場合、その保管・削除ルールが個人情報管理規程と整合しているか? 管轄の保健所から直近3年以内に指導を受けたことがあるか?その内容は記録されているか? 民泊(住宅宿泊事業法)と旅館業法のどちらの許可・届出で運営しているかを現場スタッフ全員が把握しているか? これらの問いに自信を持って答えられない項目があれば、そこが「不安の根拠」です。不安を放置しないために、まずは現状を整理することから始めましょう。社長の不安を、判断に変えることが最初の一歩です。 再発防止策——「型」を作れば現場は迷わない 旅館業法のパスポート確認に限らず、宿泊業の法令対応は「型を作ること」が再発防止の本質です。個別の問題が起きるたびに対処するのではなく、現場が迷わず動ける仕組みを整備することで、同種のリスクを継続的に低減できます。 オペレーションマニュアルの定期見直し:旅館業法は改正が続いており(2023年改正では感染症対策や宿泊拒否事由の整理が行われました)、法令変更に合わせてマニュアルを更新する仕組みを持つ。 スタッフへの定期研修:マニュアルがあっても、現場スタッフに周知されていなければ意味がありません。年1回程度の法令対応研修を組み込む。 内部監査の実施:宿泊者名簿の記載内容を定期的に抜き取り確認する内部チェックの仕組みを設ける。 行政との関係を維持する:管轄保健所との定期的なコミュニケーションは、法令解釈の最新情報を得るためにも有効です。 旅館業法の法令対応は、一度整備して終わりではありません。法改正・行政の運用方針変更・施設の運営形態の変化に合わせて、継続的に見直す体制が必要です。 宿泊業の法令対応は、パスポート確認だけでなく、景品表示法(宿泊プランの表示)、カスタマーハラスメント対応、外国語での宿泊約款整備、債権回収など、多岐にわたる問題が日常的に発生します。これらをスポット対応で一つひとつ処理するのではなく、困ったときにすぐ相談できる外部法務の体制を持つことが、経営の安定につながります。弁護士法人ブライトでは、顧問先130社以上の実名を公開しており、弁護士歴平均14年以上のチームが、宿泊業特有の日常法務から突発的なトラブル対応まで、「みんなの法務部」として継続的に支えています。揉めてから弁護士を使うのではなく、揉めないように弁護士を使う体制を整えることが、もっとも確実なリスク管理です。 よくある質問(Q&A) Q1. 外国人宿泊客がパスポートを持っていないと言った場合、どうすればよいですか? 旅館業法上、パスポート(旅券)の提示を求めることは宿泊者の義務であり、施設側はその確認を行う義務があります。提示を拒否された場合、旅館業法は一定の宿泊拒否事由を定めており、法令上の確認が取れない場合の対応については、自社の宿泊約款および法令に照らして判断する必要があります。個別のケースで判断に迷う場合は、弁護士に事前確認しておくことをお勧めします。 Q2. 民泊(住宅宿泊事業法)の場合も、パスポート確認の義務はありますか? はい、住宅宿泊事業法においても、宿泊者の本人確認義務が定められています(住宅宿泊事業法第8条)。ただし、旅館業法とは根拠条文・確認方法の詳細が異なります。特にオンライン完結型の民泊運営の場合、対面でのパスポート確認が困難なケースがあり、代替手段(本人確認アプリの利用等)の適法性について事前に確認しておくことが重要です。 Q3. 宿泊者名簿はどのくらいの期間、保存しなければなりませんか? 旅館業法施行規則は、宿泊者名簿を3年間保存することを義務付けています(旅館業法施行規則第4条の3)。デジタルデータで管理する場合も同様です。保存期間中は、権限のある者のみがアクセスできる状態を維持し、個人情報保護法上の安全管理措置と整合した管理が求められます。 Q4. 旅館業法の改正で、パスポート確認に関して何か変わりましたか? 2023年(令和5年)の旅館業法改正では、感染症対策義務や宿泊拒否事由の整理、カスタマーハラスメント対応に関する条文整備などが行われました。パスポート確認義務そのものの大きな変更はありませんでしたが、宿泊業全体のコンプライアンス要求水準は高まっています。改正内容のキャッチアップは、顧問弁護士を活用した定期的な情報確認が効率的です。 当事務所が参考にした実務書 当事務所では本テーマに関する最新の実務書を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした書籍を以下に紹介します。 『旅館業法の解説』 — 厚生労働省健康局生活衛生課監修/中央法規出版/分類:条文逐条解説書 『ホテル・旅館の法律実務』 — 松田幸彦著/民事法研究会/分類:業種特化型実務書 『民泊ビジネスの法律と実務』 — 中川裕貴著/日本法令/分類:業種特化型実務書 『個人情報保護法の実務対応Q&A』 — 岡村久道著/新日本法規出版/分類:Q&A形式の実務解説書 『宿泊業・観光業の法務対策』 — 東京弁護士会編/ぎょうせい/分類:業種特化型実務書 ※ 書籍内容は引用しておらず、書誌情報のみ表示しています。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。 この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生 旅館業法のパスポート確認・民泊運営の適法性・外国人宿泊客対応など、宿泊業・ホテル運営に関する法務上の課題を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先130社以上の実名を公開しており、弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:0120-929-739(平日9:00〜18:00) 「みんなの法務部」というブライトの考え方 中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームで、130社以上の顧問先と向き合っています。 ▶ みんなの法務部とは(詳しく見る) 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料)