「会社の安全管理がずさんだったせいで、こんな大けがを負った。労災保険は下りたが、これで終わりなのか」——重い後遺障害が残った方、大切なご家族を亡くされたご遺族から、私たちが最も多く受けるご相談です。
このとき本当に恐れているのは、多くの場合「お金が足りない」ことだけではありません。これから何十年も続く生活が成り立つのか。会社と正面から争って職場に居場所が残るのか。自分(あるいは家族)の受けた被害が、なかったことにされるのではないか——その不安のほうが、はるかに重くのしかかっています。
その出口になり得るのが、会社の「安全配慮義務違反」を理由とする損害賠償請求です。本記事では、安全配慮義務とは何か、どういう場合に損害賠償が認められるのか、労災保険給付と何がどう違うのか、いくらぐらいの請求になるのか、いつまでに動く必要があるのかを、労災事故を数多く取り扱う弁護士が総論として整理します。
この記事の結論
- 労災保険給付と、会社への損害賠償請求は別の制度。労災保険が下りても、慰謝料は1円も含まれていない。
- 会社に賠償を求める法的な根拠が「安全配慮義務違反」(労働契約法5条)。会社が危険を予見でき、かつ防ぐ手立てがあったのに取らなかった、という構造で組み立てる。
- 請求できるのは慰謝料・逸失利益・将来介護費など、労災保険では埋まらない損害。重い後遺障害や死亡の事案では、金額が大きく動く。
- 時効は「制度」と「法律構成」で年数が違う。「もう3年過ぎた」と言われた方でも、別の構成では請求権が残っていることがある。
重い後遺障害・死亡事故のご相談は、労災事故部が直接お受けします。
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安全配慮義務とは何か——労働契約法5条が定める会社の義務
安全配慮義務は、労働契約法5条に次のとおり定められています。
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。(労働契約法5条)
ポイントは「労働契約に伴い」という部分です。会社と労働者の間には、給料を払う・労務を提供するという約束のほかに、「働く人の命と身体を危険から守る」という約束が当然に含まれている——これが安全配慮義務の考え方です。契約書に書いていなくても、会社はこの義務を負います。
この考え方は、労働契約法ができる前から裁判例の積み重ねによって形づくられてきました。国と公務員との関係について、国は公務の遂行のために設置する場所・施設・器具等の管理や、公務の管理にあたって、その生命および健康を危険から保護するよう配慮すべき義務を負うと判断したのが、最高裁判所第三小法廷 昭和50年2月25日判決(昭和48年(オ)第383号・損害賠償請求事件/判例秘書 L03010017)です。
その後、民間企業の雇用関係についても、最高裁判所第三小法廷 昭和59年4月10日判決(昭和58年(オ)第152号・損害賠償請求事件/判例秘書 L03910054)が、使用者は物的な設備だけでなく人的な体制の面でも配慮する義務を負うことを明らかにしました。「機械や設備さえ規格どおりであれば義務を尽くした」とは言えない——この点は、現在の労災訴訟でもそのまま生きています。
2つの法律構成——なぜ弁護士は両方を主張するのか
安全配慮義務違反を理由に会社へ損害賠償を求める場合、実務では次の2つの法律構成があり、事案に応じて一方または双方を主張します。
| 構成 | 根拠条文 | 実務上の特徴 |
|---|---|---|
| ①債務不履行構成 (安全配慮義務違反) | 民法415条+労働契約法5条 | 労働契約に伴う義務の違反として主張する。義務の内容を具体的に特定して主張する必要がある一方、消滅時効の年数が不法行為構成と異なるため、時効が問題になる事案で重要になる。 |
| ②不法行為構成 | 民法709条(+使用者責任715条・工作物責任717条) | 会社や現場責任者の過失を主張する。元請会社・注文者・設備の所有者など、雇用契約のない相手にも広げやすい。遅延損害金の起算点でも違いが出る。 |
どちらを選ぶか(あるいは併せて主張するか)は、事故の態様・請求相手・事故からの経過期間によって変わります。「同じ事故なのに、構成の選び方ひとつで結論が変わる」のが、この分野の実務です。とくに時効が絡む事案では、この選択が決定的になります(後述)。
労災保険給付と損害賠償は「別の制度」——ここを取り違えると損をする
多くの記事は「労災保険を申請しましょう」で終わります。しかし、重い後遺障害が残った方・ご家族を亡くされた方にとっての本丸は、その先にある会社への損害賠償請求です。労災保険には、そもそも慰謝料という費目が存在しないからです。
図解:補償の二層構造
[第1層]労災保険給付 = 国からの給付(会社の落ち度は不要)
療養(治療費)/休業(給付基礎日額の6割+特別支給金2割)/障害(等級に応じた年金・一時金)/遺族 など
▶ 慰謝料は含まれない。休業も全額は埋まらない。
+
[第2層]会社への損害賠償請求 = 安全配慮義務違反が必要
入通院慰謝料/後遺障害慰謝料・死亡慰謝料/逸失利益の不足分/将来介護費/住宅・車両の改修費/近親者の付添費 など
▶ 重篤事案ほど、こちらの金額が大きくなる。
※ 同じ費目・同じ性質の部分については、二重取りにならないよう調整(損益相殺的な調整)が行われます。
この二層構造を知らないまま、労災保険の給付決定だけを受け取って終わってしまう方が少なくありません。とくに重篤な事案では、第2層に手をつけたかどうかで最終的な受取額が大きく変わります。
調整(損益相殺)の基本的な考え方
労災保険から給付を受けた分は、損害賠償額の計算にあたって次のように整理するのが実務の一般的な取扱いです。
| 労災保険からの支給 | 損害賠償額からの控除 | 考え方 |
|---|---|---|
| 療養(補償)給付 | 治療費部分から控除 | 同じ費目を填補しているため。 |
| 休業(補償)給付 | 休業損害から控除 | 同じ費目。ただし全額は填補されない。 |
| 障害(補償)給付・遺族(補償)給付 | 逸失利益から控除 | 年金給付の場合、控除の対象になるのは既に支給を受けた分・支給が確定した分に限られると整理されるのが実務上の一般的な扱い。将来の不確定な給付分まで一律に差し引かれるわけではない。 |
| 慰謝料 | 控除されない | 労災保険に慰謝料の費目がないため、性質が異なる。 |
| 特別支給金(休業特別支給金など) | 控除されないのが実務上の取扱い | 損害の填補ではなく、労働福祉事業としての給付という位置づけのため。 |
ここは、会社側の代理人と最も見解が割れるところです。「労災保険からこれだけ出ているのだから、会社が払うものはもう残っていない」という主張は、私たちが実際の交渉で繰り返し受けてきた反論です。しかし、慰謝料と特別支給金の扱いを正しく整理すれば、その主張がそのまま認められるとは限りません。労災保険給付の内訳と金額の目安は、労災で慰謝料はいくら請求できる?相場・時効・解決事例で詳しく整理しています。
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損害賠償が認められるための4つの要素
「会社の安全管理がひどかった」という実感だけでは、請求は通りません。裁判所に認めてもらうには、次の4つを具体的な事実で埋めていく必要があります。
| 要素 | 問われること | 典型的な立証材料 |
|---|---|---|
| ①義務の特定 | 会社は具体的に何をすべきだったのか | 労働安全衛生法・労働安全衛生規則の該当条文、社内の作業手順書・安全衛生管理規程、業界の安全基準 |
| ②予見可能性 | その事故が起きうると会社は分かっていたか(分かるはずだったか) | ヒヤリハット記録、過去の同種事故、労基署の是正勧告・行政指導歴、従業員からの申し出の記録 |
| ③結果回避可能性 | 現実的に取れる手立てで、その事故を防げたか | 具体的な安全設備の存在と価格、代替の作業手順、他社・他現場での実施例、人員配置の見直し可能性 |
| ④因果関係 | 会社が義務を果たしていれば、その被害は生じなかったか | 事故態様の再現、災害調査復命書、医学的所見(受傷機転と後遺障害の結びつき) |
実務上、勝敗を分けるのは圧倒的に②予見可能性と③結果回避可能性です。会社側はほぼ必ず「そんな事故が起きるとは思わなかった」「防ぎようがなかった」と主張してきます。
私たちが立証で重視しているのは、②予見可能性を会社が自ら外部に発信していた情報から組み立てるという視点です。「そのような危険があるとは予見できなかった」という会社の主張に対しては、その会社が自社の広告・募集資料・社内向けの通達などで、その危険の存在を前提とした説明をしていなかったかを丁寧に洗います。危険を認識していたことを、会社自身の発信物が語ってしまっていることは珍しくありません。
③結果回避可能性については、「その安全対策は現場の構造では使えない」という的外れな反論が出ることをあらかじめ見越して証拠を用意することを徹底しています。安価で現実的な対策が存在したことを示す証拠は、現場の構造に適合するものを選んで提出する。争点を本筋から逸らされないための、地味ですが決定的な準備です。
「安全配慮義務違反をどう立証するか」の具体的な手順(証拠の種類・入手先・時間的な限界)は、死亡事案を題材に労災死亡事故で会社の安全配慮義務違反を立証する方法で詳述しています。
誰に請求できるのか——雇用主だけとは限らない
「自分を雇っている会社」だけが相手とは限りません。建設現場や工場のように複数の会社が入り込む現場では、請求先の選び方そのものが結果を左右します。
| 請求先の候補 | 問える根拠の例 | 実務上のポイント |
|---|---|---|
| 直接の雇用主 | 安全配慮義務(労契法5条)/不法行為 | 最も基本。ただし資力が乏しい下請会社のみを相手にすると回収が難しいことがある。 |
| 元請会社・上位の請負会社 | 実質的な指揮監督下にあった場合の安全配慮義務/不法行為 | 現場の設備を誰が保有し、作業主任者が誰で、誰が指示していたかが決め手になる。 |
| 派遣先会社 | 指揮命令をしている以上の安全配慮義務 | 派遣元と派遣先の双方を検討する。 |
| 設備・工作物の占有者/所有者 | 工作物責任(民法717条) | 設備の設置・保存に瑕疵があった事故で有力。一次的には占有者が責任を負い、占有者が必要な注意を尽くしたと認められた場合に所有者が責任を負う構造。 |
| 加害行為をした他社の従業員が所属する会社 | 使用者責任(民法715条) | 第三者行為災害として、労災保険との調整も生じる。 |
「業務委託契約だから会社は責任を負わない」は通らないことがある
個人事業主・一人親方として業務委託契約で働いている方が事故に遭ったとき、会社側は決まって「雇用契約ではないから安全配慮義務を負わない」と主張します。この一言で請求そのものを諦めかけていた方からのご相談を、私たちは実際にお受けしています。
しかし、判断されるのは契約書の表題ではなく実態です。日々の配車指示や作業指示、業務報告の記録、報酬の決まり方、他社の仕事を受けられたかどうか——こうした事実を積み上げて、実質的に会社の指揮監督下で労務を提供していたことを示せれば、安全配慮義務を負う関係にあったと評価される余地があります。実際に、業務委託契約のドライバーの方の事案で、この点を訴訟で争い、賠償を得た経験があります。
【ブライトのポリシー】
「業務委託契約だから」「目撃者がいないから」「本人の不注意だと言われているから」——こうした理由で、会社への請求そのものを最初から諦めてしまう被災者・ご遺族は少なくありません。
「ブライトは『立証が難しい』で終わらせない。専門家の力を借りてでも、依頼者・ご遺族の正当な権利を取りに行く。」
これが、ブライトが労災の損害賠償請求で一貫して大切にしている考え方です。もっとも、見通しが厳しい事案でそのことを伏せることはしません。受任前に率直にお伝えします。
会社に請求できる損害の項目
安全配慮義務違反が認められた場合に請求できる主な損害は、次のとおりです。労災保険で埋まる部分と埋まらない部分を分けて把握することが重要です。
| 損害項目 | 内容 | 労災保険で埋まるか |
|---|---|---|
| 治療関係費 | 治療費・入院雑費・通院交通費・自費診療分・差額ベッド代 等 | 指定医療機関での治療費は給付されるが、自費診療分などは対象外のことがある |
| 休業損害 | 働けなかった期間の減収 | 休業(補償)給付+休業特別支給金で一定割合。残りは会社へ請求 |
| 入通院慰謝料 | 治療期間中の精神的苦痛に対する賠償 | 対象外(労災保険に費目がない) |
| 後遺障害慰謝料 | 後遺障害が残ったことによる精神的苦痛 | 対象外 |
| 死亡慰謝料 | 本人分・遺族固有分 | 対象外 |
| 後遺障害逸失利益/死亡逸失利益 | 将来得られたはずの収入の減少分 | 障害(補償)給付・遺族(補償)給付で一部。不足分は会社へ請求 |
| 将来介護費・住宅改修費・車両改修費 | 重度の後遺障害が残った場合の生活費用 | 原則として対象外 |
| 近親者の付添費 | 入院中・通院時の家族による付添い | 対象外 |
| 葬儀費用 | 死亡事案 | 葬祭料が給付されるが、実費との差額を請求できることがある |
慰謝料の金額については、労災に固有の算定基準があるわけではなく、交通事故で用いられる弁護士基準(いわゆる赤い本の基準)を準用するのが実務の一般的な扱いです。等級ごとの具体的な水準は労災の慰謝料の相場に一覧で掲載しています。また、後遺障害等級そのものの認定・不服申立てについては労災の後遺障害|等級認定・診断書・不服申立ての解説をご覧ください。
「いくら請求できるのか」を知りたい方へ
損害項目の一覧を見ても、ご自身の場合にいくらになるかは分かりにくいと思います。診断書・等級・収入の資料をお持ちいただければ、その場でおおよその見通しをお伝えします。ご相談は何度でも無料です。
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立証の実務——何を、いつまでに集めるか
安全配慮義務違反の立証で決定的なのは、証拠が現場から消える前に動けたかどうかです。事故現場は復旧され、機械は修繕され、記録は「整理」されます。時間が経つほど、会社側の説明を崩す材料が減っていきます。
| 証拠 | 入手先・方法 | 失われやすさ |
|---|---|---|
| 事故現場の写真・動画 | 本人・同僚・会社の事故報告資料 | 高(現場は速やかに復旧される) |
| 作業指示書・当日の工程表・シフト表 | 会社。任意開示に応じない場合は訴訟での文書提出命令等 | 高 |
| 機械・設備の保守点検記録 | 会社・メーカー | 中 |
| ヒヤリハット記録・安全衛生委員会議事録 | 会社 | 中 |
| 労働基準監督署の災害調査復命書・是正勧告書 | 行政文書の開示請求 | 低(ただし取得に時間がかかる) |
| 同僚の証言 | ヒアリング・陳述書の作成 | 高(退職・異動、そして会社への遠慮で時間とともに得にくくなる) |
| 医療記録・後遺障害診断書 | 医療機関 | 低 |
私たちが実際に扱った建設現場からの転落事案では、会社が「本人の不注意だ」として労災申請にも非協力的でした。このとき私たちが最初に着手したのは、労災申請を進めることと、会社への損害賠償請求の準備を「並行して」動かすことです。労災の認定結果を待ってから賠償請求の準備を始めるのでは、その間に現場の状況も同僚の記憶も失われてしまうからです。
この事案では、足場の設置状況・当日の作業指示・悪天候下での作業指示の有無について同僚の方からのヒアリングを急ぎ、相手方が非協力的である以上、証拠保全手続も常に視野に入れるという方針で臨みました。結果として、後遺障害等級の認定を得た後の交渉で、比較的短期に示談が成立しています。
会社が労災の証明を拒む・「これは労災ではない」と言ってくる場合の具体的な対応は、会社が労災を認めない場合の対処法|証明拒否でも申請可能にまとめています。
会社側の典型的な3つの反論と、その受け止め方
反論1|「本人の不注意だ」(過失相殺)
最も多い反論です。被災者側にも落ち度があったとして、損害額から一定割合を差し引くよう求めてきます。
重要なのは、過失相殺の割合は「会社の義務違反がどれだけ重いか」と表裏の関係にあるということです。工場の機械に手を巻き込まれた事案で、会社側代理人は過失相殺30%を主張してきました。これに対し私たちは、同種の機械での事故事例と、その機械の保守点検記録の不備を突き、会社側の安全配慮義務違反の重さを立証することで、被災者側の過失評価を大きく下げる方針を取りました。「本人の過失」を正面から否定しにいくのではなく、会社の義務違反の重さで押し返すという考え方です。
逆に、ご自身から危険な場所に近づいた事案などでは、相応の過失相殺が避けられないこともあります。私たちは、そうした見通しも受任前に率直にお伝えします。
反論2|「もともと持病があったからだ」(素因減額)
既往症や体質を持ち出して、損害の一部は事故のせいではないと主張してくるものです。既往の腰痛・皮膚疾患・聴力低下などを理由に、後遺障害との因果関係そのものを否定してくる例もあります。
対抗の軸になるのは、事故前後の症状の変化を、医療記録と就労実態の両面から具体的に示すことです。「事故前は問題なく同じ作業に従事できていた」という事実の積み上げが、抽象的な素因論を崩す材料になります。
反論3|「労災保険で十分填補されている」
前述のとおり、慰謝料は労災保険から1円も出ておらず、特別支給金も損害の填補とは扱われないのが実務の取扱いです。この反論に対しては、費目ごとの整理をきちんと示して反論することになります。
会社から「あなたにも過失がある」と言われた方へ
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時効——「3年過ぎた」と言われても、諦めるのはまだ早い
労災の時効は「労災保険給付の時効」と「会社への損害賠償請求権の時効」がまったく別物で、さらに損害賠償請求権の時効は法律構成によっても、事故の時期によっても年数が変わります。ここを一括りに理解してしまうと、まだ請求できるのに諦めてしまうことになります。
労災保険給付の時効
| 給付の種類 | 時効 |
|---|---|
| 療養(補償)給付・休業(補償)給付 | 2年 |
| 障害(補償)給付・遺族(補償)給付 | 5年 |
会社への損害賠償請求権の時効
2020年4月1日施行の改正民法により、生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効は次のように整理されています。
| 法律構成 | 時効期間(現行法) | 根拠 |
|---|---|---|
| 不法行為構成 | 損害および加害者を知った時から5年/不法行為の時から20年 | 民法724条・724条の2 |
| 債務不履行構成(安全配慮義務違反) | 権利を行使できることを知った時から5年/権利を行使できる時から20年 | 民法166条1項・167条 |
問題は、改正前に起きた事故です。改正前は、不法行為が3年、債務不履行が10年でした。改正民法には経過措置が置かれており(民法附則10条)、事故の発生時期だけでなく「労働契約そのものをいつ結んだか」によって、新旧どちらの法律が適用されるかが変わります。労働契約が2020年4月1日より前に結ばれている場合には、改正前の民法により債務不履行構成の時効期間を10年として整理できることがあります。
私たちが実際に扱った事案では、不法行為構成では時効が完成していた一方、債務不履行構成では時効がまだ到来していないという結論になったものがあります。事故が改正前に起き、症状固定からすでに数年が経過していたケースで、当所の弁護士は、雇用が長期にわたって継続していた事情も踏まえて適用される法律を検討し、債務不履行構成であれば請求権が残っていると整理して、会社への請求に進む方針を立てました。
「もう時効だ」と言われたときに確認すべき4点
- それは労災保険給付の時効の話か、会社への損害賠償の時効の話か
- 損害賠償の話なら、不法行為構成と債務不履行構成のどちらを前提にしているか
- 事故(および雇用契約の締結)は2020年4月1日より前か後か
- 起算点は事故日か、症状固定日か(後遺障害が問題になる事案では起算点の取り方で結論が変わる)
時効の判断は、事故の時期・契約の時期・症状固定の時期という複数の事実の組み合わせで決まります。「3年(あるいは5年)過ぎたから無理」と自己判断で終わらせず、期間が経過している事案ほど早く確認してください。
事故から時間が経っている方こそ、お早めに
時効が迫っている事案では、期間の進行を止めるための手続を先に打つ必要が出ることがあります。判断に時間の余裕がありません。まずはお電話ください。
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請求の流れと、依頼後に何が変わるか
| 段階 | やること | 目安期間 |
|---|---|---|
| ①相談・受任 | 事故態様の聴取、証拠の所在確認、請求先の見立て | 初回相談から数週間 |
| ②証拠収集 | 行政文書の開示請求、同僚ヒアリング、医療記録の取得 | 数か月 |
| ③症状固定・等級認定 | 後遺障害診断書の内容確認、労災の等級認定(必要なら不服申立て) | 受傷内容による |
| ④請求・交渉 | 内容証明郵便による請求、会社・保険会社との交渉 | 数か月 |
| ⑤訴訟 | 交渉決裂時。証拠調べ、和解協議、判決 | 1〜2年程度 |
実務上、②の証拠収集は③の等級認定を待たずに並行して着手します。また、等級認定が出た段階で、先に内容証明郵便で会社側に損害賠償請求を通知し、交渉のテーブルに着かせる——という進め方を取ることもあります。こちらから先に動くことで、相手の出方を早く把握し、主導権を握る狙いです。
依頼後に起きる変化
| Before(ご相談前) | After(ご依頼後) |
|---|---|
| 会社から「本人の不注意」と言われ、反論の材料がないまま孤立している | 会社の義務違反を条文・記録・同種事故で組み立て、こちらから請求を通知できる |
| 会社・保険会社との連絡に消耗し、治療とリハビリに集中できない | やり取りの窓口が弁護士に移り、治療に専念できる |
| 「労災保険が出たからこれで終わり」と思っていた | 慰謝料・逸失利益の不足分・将来介護費など、埋まっていなかった損害を請求できる |
| 提示された金額が妥当なのか判断がつかない | 弁護士基準による水準と比較して、受けるべきか争うべきかを判断できる |
解決事例(いずれも抽象化しています)
| 事案 | 会社側の主張 | 結果 |
|---|---|---|
| 工場の機械に手を巻き込まれ、後遺障害併合9級 | 本人の操作ミス。過失相殺30% | 保守点検記録の不備等を突き、訴訟上の和解で2,000万円台 |
| 建設現場の足場から転落、腰椎圧迫骨折で障害等級9級 | 本人の不注意。労災申請にも非協力 | 証拠を早期に確保し、示談で1,000万円台 |
| 業務委託契約のドライバーが荷台から転落、後遺障害11級 | 雇用契約ではないので安全配慮義務を負わない | 労働者性を訴訟で立証し、訴訟上の和解で1,000万円台後半 |
※ 事案の内容は依頼者の特定を避けるため抽象化しています。金額はレンジ表示であり、同様の結果を保証するものではありません。結果は個々の事案の事情により異なります。
弁護士費用
労災の損害賠償請求について、弁護士法人ブライトは着手金0円・完全成功報酬制で対応しています。報酬金は、獲得した経済的利益の24%です。ご相談は何度でも無料です。
なお、訴訟提起の際の印紙代・郵券代、記録の取得費用などの実費は依頼者にご負担いただきます(事案によっては「実費予納金」として数万円程度をあらかじめお預かりする場合があります。未使用分は精算してご返金します)。また、当法人は法テラスの立替制度には対応していません。費用の詳しい内訳と、費用倒れを避けるための考え方は労災の弁護士費用はいくら?相場と費用倒れを防ぐポイントで説明しています。
受傷の類型別の解説
安全配慮義務違反として問うべき内容は、事故の類型によって大きく異なります。転落・墜落、フォークリフトなどの機械への挟まれ・巻き込まれ、重機・クレーン、感電・爆発・やけど、切断・轢過、脊髄損傷・高次脳機能障害といった重篤な受傷の類型ごとの解説は、重篤な労働災害で会社に損害賠償請求する方法にまとめています。
また、ご家族を亡くされた場合の証拠保全と立証の進め方は労災死亡事故で会社の安全配慮義務違反を立証する方法を、会社が労災の存在自体を争っている場合は会社が労災を認めない場合の対処法をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 労災保険をもらったら、会社には請求できないのですか。
そのようなことはありません。労災保険給付と会社への損害賠償請求は別の制度です。とくに慰謝料は労災保険に費目自体がないため、労災保険を受給していても別途請求できます。同じ費目については二重取りにならないよう調整されますが、それは「請求できない」という意味ではありません。
Q2. 会社に賠償を請求したら、解雇されたり職場に居づらくなったりしませんか。
労災の請求をしたことを理由とする不利益な取扱いは、法律上許されません。実務上も、弁護士が窓口となって連絡を引き取ることで、ご本人が会社と直接やり取りする負担を減らすことができます。在職を続けながら請求を進める方も、退職後に請求される方もいらっしゃいます。ご事情に応じた進め方をご相談ください。
Q3. 事故から3年以上経っています。もう手遅れですか。
一概には言えません。損害賠償請求権の時効は、法律構成(不法行為か債務不履行か)と、事故が2020年4月1日の改正民法施行の前か後かによって年数が変わります。当所でも、不法行為構成では時効が完成していたものの、債務不履行構成では請求権が残っていると整理した事案があります。期間が経過している事案ほど、早めにご確認ください。
Q4. 一人親方・業務委託でも会社に請求できますか。
契約書の名称だけで決まるものではありません。日々の作業指示や業務報告の記録などから、実質的に会社の指揮監督下で労務を提供していた実態を示せれば、会社が安全配慮義務を負う関係にあったと評価される余地があります。契約書の形式を理由に断られた経験のある方も、一度ご相談ください。
Q5. 元請会社にも請求できますか。
可能な場合があります。現場の設備を誰が保有していたか、作業主任者は誰か、誰が指示を出していたか——こうした事実によって、元請会社が安全配慮義務を負っていたと評価できることがあります。請求先を複数にすることで、回収の確実性が高まる面もあります。
Q6. 会社に賠償能力がなさそうです。それでも意味はありますか。
多くの企業は労働災害に備えた保険(使用者賠償責任保険など)に加入しており、実際の支払いは保険から行われることが少なくありません。また、元請会社や設備の所有者など、資力のある請求先を検討できる場合もあります。相談の段階で、請求先と回収可能性を含めて見通しをお伝えします。
Q7. 通勤途中の事故も同じように会社に請求できますか。
原則として、請求の組み立てが変わります。通勤中の移動は原則として会社の指揮命令・支配管理のもとにあるとは言えないため、通勤災害について会社の安全配慮義務違反を問うのは容易ではありません。労災保険では通勤災害として給付を受けられますが、損害賠償の相手は原則として事故の加害者(およびその保険会社)になります。通勤中の交通事故については、交通事故のページをご覧ください。
まとめ
- 安全配慮義務は労働契約法5条に定められた会社の義務。契約書に書いていなくても会社は負う。
- 労災保険給付と会社への損害賠償は別の制度。労災保険に慰謝料は含まれていない。
- 請求が認められるには、①義務の特定 ②予見可能性 ③結果回避可能性 ④因果関係 の4つを事実で埋める必要がある。
- 請求先は雇用主だけとは限らない。元請・派遣先・設備の所有者を検討する。業務委託契約でも実態次第で請求できることがある。
- 会社側の典型的な反論は「本人の不注意」「もともと持病がある」「労災保険で足りている」の3つ。いずれも組み立て方で押し返せる。
- 時効は制度と法律構成で年数が違う。「3年過ぎた」で諦めない。
- 証拠は時間とともに失われる。動くのが早いほど、取れる材料が増える。
弁護士法人ブライトの労災事故部は、重い後遺障害が残った事案・ご家族を亡くされた事案を中心に、会社への損害賠償請求を扱っています。顧問先130社以上の企業法務を手がけてきた法人として、会社側がどのような論理で反論してくるかを熟知していることが、私たちの強みです。
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