「外国人のお客様がチェックインのとき、パスポートを持ってきていない。スマホの写真でもいいですか?と聞かれたけど、正直どこまでOKなのかわからない」 フロントスタッフからそう報告を受けたとき、「まあ写真でもいいんじゃないか」と答えてしまっていませんか。あるいは逆に、「原本でなければ絶対ダメ」と指示しているけれど、その根拠を聞かれたら答えられない、という状況ではありませんか。 ホテルや民泊の運営者にとって、外国人宿泊客のパスポート確認は日常業務のひとつです。しかし、「どの情報を、どのような方法で、どこまで確認すればよいのか」については、意外なほど正確に把握されていないケースが多いのが実情です。 この記事では、旅館業法が定めるパスポート確認の義務の内容と、写真データや画像での対応が法的に認められるのかという点を中心に、ホテル・宿泊施設・民泊運営者が知っておくべき実務対応を解説します。 なぜこの問題で判断が揺れるのか 「パスポートの確認が義務」であることは、多くの運営者が知っています。しかし実際のフロント現場では、「スマホに入った画像を見せてもらったが、それでよかったのか」「チェックインが混んでいて、ゆっくり確認できなかった」「外国語のパスポートで、どこを見ればいいかわからなかった」という声が絶えません。 この問題で判断が揺れる最大の理由は、法律が要求していることと現場の運用実態の間に、大きなギャップがあるからです。 法律は「確認義務」を課していますが、そのすべての細部を規定しているわけではありません。「写真データでいいのか」「どこまで記録すれば足りるのか」という点は、現場の担当者が自己判断で埋めることになります。そして、誰も明確な答えを持っていないまま、「たぶんこれでいいだろう」という判断が積み重なっていく。それが、法令違反と気づかずに運営を続けてしまう構造です。 旅館業法が定めるパスポート確認義務の内容 【図解】なぜこの問題で判断が揺れるのかへの対応フロー ① 問題発生 → ② 事実確認・記録 → ③ 顧問弁護士に相談 → ④ 対応策の実行 ※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。 旅館業法第6条は、宿泊施設の営業者に対して、外国人(日本の国籍を有しない者)が宿泊しようとするときは、その国籍および氏名を確認することを義務付けています。 具体的には、宿泊者名簿への記載義務(旅館業法施行規則第4条)と組み合わせて理解する必要があります。宿泊者名簿には、氏名・住所・職業・連絡先に加えて、外国人については国籍およびパスポート番号の記載が求められます。 ここで重要なのは、法律が要求しているのは「パスポート原本の提示」ではなく、「国籍・氏名・パスポート番号の確認と記録」である、という点です。これを正確に理解することが、実務対応の出発点になります。 写真データ・画像での確認は認められるのか 2022年の旅館業法改正対応の中で、厚生労働省は「パスポートの写真(画像データ)による確認を許容する」方向での運用を明示しました。 つまり、宿泊客がスマートフォンやタブレットに保存したパスポートの写真画像を提示した場合でも、そこから国籍・氏名・パスポート番号を正確に読み取り、宿泊者名簿に記載できていれば、法令上の確認義務を果たしたと評価されうることになります。 ただし、この「許容」はあくまで確認手段の柔軟化であり、以下の点はクリアしなければなりません。 画像が鮮明で、国籍・氏名・パスポート番号が判読できること 確認した情報を宿泊者名簿に正確に記録すること 改ざんや偽造が明らかに疑われる場合は、別途確認措置を取ること 「写真を見せてもらったが、ぼやけていて番号が読めなかった」「記録を取らずにそのまま通した」という対応は、義務を果たしたことにはなりません。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 確認義務を怠った場合のリスク 旅館業法に基づく確認・記録義務を怠った場合、都道府県知事による行政処分(改善命令・業務停止・許可取消)の対象となりえます。加えて、宿泊者名簿の不備は、行政の立入検査の際に発覚することが多く、繰り返しの指摘は施設の信頼性にも影響します。 また、テロや犯罪捜査に絡む場面では、宿泊者の記録提出を求められることがあります。その際に記録が不十分であれば、捜査への協力が困難になるだけでなく、施設側の管理体制が問われることになります。 「外国人のお客様が多い時間帯は確認が追いつかない」という実態は、現場として理解できます。しかし、それを理由に義務を免れることはできません。だからこそ、人手が少ない状況でも義務を果たせる仕組みを作ることが、運営者の責任になります。 民泊(住宅宿泊事業法)の場合はどうなるのか 住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づく届出施設の場合、旅館業法とは規定の建て付けが異なります。住宅宿泊事業法施行規則では、外国人宿泊者についても宿泊者名簿への記載が義務付けられており、国籍・旅券番号(パスポート番号)の記載が含まれます。 つまり、民泊でも「旅館業法ではないから関係ない」ということにはならず、確認義務の趣旨は同様に適用されます。オンラインでのチェックインが多い民泊だからこそ、パスポート情報の収集方法(アプリ・メール添付・専用フォームなど)を事前に整備しておく必要があります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題が起きる前にできること(予防的な体制整備) パスポート確認に関するトラブルや行政指導は、「何も対策していなかった」というより、「対策しているつもりだったが、実は不十分だった」というケースから発生することが多いです。予防として取り組むべきことを整理します。 フロントマニュアルの整備:「どのような方法で確認するか」「情報をどこにどう記録するか」「画像が不鮮明な場合はどう対応するか」を明文化する スタッフへの研修:確認すべき情報(国籍・氏名・パスポート番号)を全員が把握し、記録漏れが起きない体制を作る 記録方法の標準化:宿泊者名簿のフォーマットを統一し、外国人宿泊者の記載欄を必須項目として設計する オンラインチェックイン時の対応ルール:民泊や無人施設では、画像送付を依頼する手順とその確認フローを事前に確立する 行政指導を想定した自己点検:定期的に宿泊者名簿を確認し、記録漏れがないかチェックする こうした体制整備は、一度作って終わりではありません。スタッフの入れ替わりや、外国人宿泊者の増加といった変化に合わせて、継続的に見直すことが必要です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 失敗事例の構造:なぜ相談が遅れたのか 弁護士法人ブライトの顧問先である関西の大手ホテル運営会社から、こうした相談が入ることがあります。「外国人宿泊客のパスポートについて、原本ではなく写真データでの確認が法令上許容されるかどうか知りたい」というものです。 このような相談が顧問弁護士に届くのは、多くの場合、「現場が既に独自判断で運用を始めてしまってから」です。 典型的な流れはこうです。 外国人宿泊者の増加に伴い、フロントでパスポート確認の手間が増える 「スマホの写真で確認してもいいですか」と聞かれ、現場が「いいと思う」と答え始める その運用がいつの間にかスタンダードになる 行政の立入検査や、内部の法務確認のタイミングで「実は確認方法に問題があったかもしれない」と気づく その段階で初めて弁護士に相談が来る 問題は「写真データでの確認」そのものではありません。「その確認が法令上どういう意味を持つのか」を理解しないまま運用が定着してしまったことが問題です。 また、このような相談が遅れる理由として、「法的に問題があるとは思っていなかった」という認識の問題があります。日常業務に埋め込まれた確認作業は、疑問を持ちにくい。だからこそ、定期的に外部の目を入れることが重要です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) うちの会社ではどう考えればいいのか 「写真データでの確認でいいのか、原本でないとダメなのか」という問いに対する答えは、「確認した情報が正確に記録されていれば、写真データでも法令上許容される」というものです。 ただし、これはあくまで法律の最低ラインです。「最低限クリアしているから問題ない」という発想だけでは、現場の運用リスクを管理しきれません。 自社の施設の状況に合わせて、次の問いに答えてみてください。 フロントスタッフ全員が、確認すべき情報(国籍・氏名・パスポート番号)を把握しているか 確認後の記録漏れが起きない仕組みになっているか オンライン・無人チェックインに対応した確認フローが整備されているか 行政の立入検査が来ても、宿泊者名簿を即座に提示できる状態か スタッフが入れ替わっても、同じ水準で対応できるマニュアルがあるか これらの問いのどれかに「自信がない」と感じたなら、それが見直しのサインです。一つひとつを整備することが、行政指導を受けないための最善策になります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 再発防止策:確認義務をルーティンに組み込む 一度行政から指導を受けた施設が改善を求められるのは、「問題が起きてから対応する」という姿勢そのものです。確認義務をルーティン業務として組み込むための仕組みとして、以下を検討してください。 チェックインフローへの組み込み:外国人宿泊者へのパスポート確認を、チェックインフローの必須ステップとして明示する(口頭指示ではなくシステム・紙面で管理) 宿泊者名簿のデジタル化:PMS(宿泊管理システム)に外国人宿泊者の必須入力項目を設定し、記入なしで次のステップに進めない設計にする 定期的な内部監査:月1回程度、宿泊者名簿の外国人記録欄を抽出して確認漏れをチェックする スタッフへの定期研修:特に新入社員や派遣スタッフに対して、法令上の義務を明示した研修を実施する 「パスポート確認は現場の感覚でやっている」という状態から、「仕組みとして回っている」という状態に移行することが、再発防止の本質です。 外国人宿泊者のパスポート確認は、一見シンプルな日常業務に見えますが、旅館業法・住宅宿泊事業法の規制が交差する法的に繊細なテーマです。現場の担当者が善意で行った対応が、法令の観点からは不十分だったというケースは珍しくありません。だからこそ、問題が起きる前に、外部の目で自社の対応を点検しておくことが重要です。 旅館業法・民泊法務の問題は、「一件対応して終わり」にできるものではありません。インバウンド需要の拡大に伴い、外国人宿泊者のパスポート確認をめぐるトラブルや行政指導のリスクは今後も続きます。宿泊者名簿の記載義務や確認方法を就業規則・業務マニュアルに落とし込み、現場スタッフが迷わず動ける体制を整えることが求められます。弁護士法人ブライトの「みんなの法務部」では、顧問先130社以上の実名を公開しており、弁護士歴平均14年以上のチームが、こうした日常的な法務リスクの相談から規程・マニュアルの整備まで継続的に支えます。「何かあったときだけ」ではなく、「普段から相談できる」体制を持つことが、宿泊事業者にとっての最善のリスク管理です。 よくある質問 Q. パスポート原本でないと確認義務を果たせないのでしょうか? A. 旅館業法が求めているのは「国籍・氏名・パスポート番号の確認と記録」です。写真データや画像から情報を正確に読み取り記録できていれば、法令上の義務を満たしていると評価されます。ただし、画像が不鮮明で情報が判読できない場合は、別途確認が必要です。 Q. 民泊(住宅宿泊事業法の届出施設)も同じ義務があるのでしょうか? A. はい。住宅宿泊事業法施行規則でも、外国人宿泊者について宿泊者名簿への国籍・パスポート番号の記載が義務付けられています。旅館業法とは制度が異なりますが、確認・記録義務の趣旨は同様です。 Q. チェックイン時に混んでいて確認できなかった場合、どう対処すればよいですか? A. 繁忙時でも義務を果たせるよう、事前にオンラインチェックインシステムを活用したり、チェックイン後に記録を補完するフローを設けるなど、仕組みで対応することが基本です。「忙しかった」は法令上の免責理由になりません。 Q. 宿泊者名簿はどのくらいの期間保存する必要がありますか? A. 旅館業法施行規則では、宿泊者名簿の保存期間は3年間と定められています。行政の立入検査や捜査機関からの照会があった際に即座に提示できるよう、体系的に管理してください。 当事務所が参考にした実務書 当事務所では本テーマに関する最新の実務書を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした書籍を以下に紹介します。 『旅館業法の解説』 — 厚生労働省健康局生活衛生課/中央法規出版/2022年3月/分類:条文逐条解説書 『旅館・ホテルの法律実務』 — 村田英幸/ぎょうせい/2021年6月/分類:業種特化型実務書 『住宅宿泊事業法の解説』 — 国土交通省・観光庁・厚生労働省/大成出版社/2018年4月/分類:条文逐条解説書 『インバウンド対応 観光・宿泊業の法務ガイド』 — 弁護士法人旬報法律事務所/旬報社/2020年2月/分類:業種特化型実務書 『Q&A 民泊ビジネスの法律問題』 — 小山田英弘・内藤昌範/日本加除出版/2019年3月/分類:Q&A形式の実務解説書 ※ 書籍内容は引用しておらず、書誌情報のみ表示しています。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。 この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生 ホテル・民泊の法務対応・旅館業法の義務確認・外国人宿泊者への対応体制整備など、宿泊事業に関する法的課題を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先130社以上の実名を公開しており、弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:0120-929-739(平日9:00〜18:00) 「みんなの法務部」というブライトの考え方 中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームで、130社以上の顧問先と向き合っています。 ▶ みんなの法務部とは(詳しく見る) 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料)