「この社員はクビにして当然だろう」と思える事案であっても、いざ懲戒解雇に踏み切ろうとすると、必ずといっていいほど総務担当者から同じ質問が飛んでくる。「解雇予告手当は払わなくていいんですよね?」。その問いに即答できる社長は、実は多くない。払わなくていいケースはある。でも、それは「当然だろう」という感覚だけで決まるものではないし、申請もせずに「これは例外だ」と社長が判断した瞬間、後になって多額の請求を受けるリスクが生まれる。この記事では、解雇予告除外認定という制度の中身と、判断を誤りやすい構造をお伝えします。 そもそも「解雇予告手当」とは何か——なぜ問題になるのか 労働基準法は、会社が従業員を解雇する場合、原則として少なくとも30日前に予告するか、予告しない場合は30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払うことを義務づけています。これは労働者を突然の失業から守るための制度です。 問題は「懲戒解雇なら払わなくていい」と多くの経営者が思い込んでいる点です。これは誤りです。懲戒解雇であっても、原則として解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要です。例外が認められるのは、労働基準監督署長の「解雇予告除外認定」を受けた場合に限られます。この認定を受けずに解雇予告手当を払わないと、後日、元従業員から未払い請求をされたり、労働基準監督署から是正指導を受けたりするリスクがあります。 解雇予告除外認定が認められる条件——「当然だろう」は通用しない 【図解】そもそも「解雇予告手当」とは何か——なぜへの対応フロー ① 問題発生 → ② 事実確認・記録 → ③ 顧問弁護士に相談 → ④ 対応策の実行 ※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。 解雇予告除外認定は、従業員が「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」に申請できます。ただし、どんな懲戒解雇でも認められるわけではありません。厚生労働省の通達(昭23.11.11基発第1637号など)で示された基準によると、認定が相当とされる主な事由は以下のようなものです。 事業場内における盗取、横領、傷害など刑事犯罪行為 会社に重大な損害を与える横領、背任行為 故意または重大な過失によって会社に損害を生じさせた場合 正当な理由のない2週間以上の無断欠勤(出勤の催促にも応じない場合) 素行不良で職場の秩序を著しく乱した場合 重要なのは「認定は自動的に行われるものではない」という点です。会社が管轄の労働基準監督署に申請書と証拠を提出し、監督官の審査を経て認定が下りて初めて、解雇予告手当を支払わずに即日解雇することが適法になります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) なぜ判断ミスが起きるのか——「感情的な正しさ」と「法的な要件」のズレ 実際の顧問先の相談でも、「これだけの不正をしていた社員なのだから除外認定は当然取れると思っていた」という声を聞くことがあります。製造業の会社で、在職中に競合他社を設立し、出向先を利用して自社の利益を不正に流出させた中核社員を懲戒解雇した事案では、行為自体は明確に背任・詐欺に相当するものでした。しかし、「証拠が十分でない状態で監督署に申請しても認定が下りない」リスクがあり、かつ「ヒアリング前に本人に情報が漏れると証拠隠滅される」おそれもあった。 判断ミスが起きる構造は3つあります。 「悪いことをした」という事実と「法的に証明できる」ことを混同している:不正の確信があっても、客観的な証拠がなければ申請は通りません。 申請と解雇のタイミングを誤解している:「解雇予告除外認定が下りてから解雇する」と思っている会社も多いですが、実際には解雇と同時または直後に申請することも実務では行われており、タイミングの理解が曖昧なまま進めると手続きが瑕疵になります。 「懲戒解雇=解雇予告手当不要」という思い込みで申請を省略する:最もリスクが高いパターンです。申請を経ずに支払わなかった場合、後から元従業員に請求されても反論が難しくなります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題が起きる前にできること——証拠の残し方と内部調査の進め方 解雇予告除外認定の申請で鍵を握るのは「証拠」です。不正行為が発覚したとき、調査の初動で証拠を正しく保全できるかどうかで、その後の展開が大きく変わります。 社内調査の基本ステップ 不正の疑いが浮上した段階で、本人に知らせず電子データ(メール、チャット、ファイル閲覧履歴等)を保全する 関係者のヒアリングは一対一ではなく複数名で行い、記録を文書化する ヒアリング内容は本人に確認署名を求める(後の言い逃れを防ぐ) 出退勤記録・経費精算記録・取引記録など客観的なデータを保全する また、平時にやっておくべきことがあります。就業規則に「懲戒解雇に該当する行為の類型」を具体的に列挙しておくことです。「競業行為の禁止」「会社の情報を無断で持ち出すことの禁止」「社外での業務に従事することの禁止」などが明記されていなければ、懲戒処分の有効性自体が揺らぎます。さらに、競業避止義務や守秘義務に関する誓約書を入社時に取得しておくことも有効な予防策です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題発生時の対応フロー——解雇予告除外認定申請の実際 解雇予告除外認定の申請から解雇までの流れを整理します。 事実確認・証拠保全:不正行為を裏付ける証拠を収集する。 弁護士との連携:申請の見込みと、並行して進めるべき懲戒手続きの確認を行う。 本人へのヒアリング・弁明の機会付与:多くの就業規則で義務化されている。この記録も証拠になる。 懲戒解雇の決定と解雇通知:書面で明確に行う。 解雇予告除外認定の申請:管轄の労働基準監督署に、解雇の事由・証拠書類を添えて申請する。 認定・不認定の結果を受けて対応:不認定の場合は解雇予告手当を支払う必要がある。ただし懲戒解雇自体の有効性とは別問題。 注意点として、認定が下りなくても懲戒解雇が無効になるわけではありません。解雇予告除外認定は「予告手当を支払わなくていいか」という手続き的な問題であり、懲戒解雇の実体的な有効性(解雇権の濫用に当たらないか)とは別の問題です。この2つを混同すると、「認定が下りたから懲戒解雇は完璧」「認定が下りなかったから解雇が無効だ」という誤解につながります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 失敗事例の構造——なぜ相談が遅れ、なぜ証拠がなかったのか 相談が遅れるパターンには共通した構造があります。「まず自分たちで対応してから弁護士に相談しよう」という判断が、証拠保全のタイミングを逃させ、結果として申請が通らなくなるケースです。 あるホテル運営会社の事案では、従業員が詐欺容疑で逮捕された後、会社が懲戒解雇を決定しました。逮捕という事実は明確であり、刑事手続きが進んでいたため「除外認定は当然取れる」と思いがちです。しかし、勾留中の本人への通知の方法、社宅の明け渡し問題、残置物の処理、さらに解雇予告手当の取り扱いまで、複数の法的問題が同時に発生しており、一つひとつの対応が後続の問題に影響していた。「逮捕されたなら懲戒解雇できて当然」という判断の速さが、手続きの抜けを生みやすいのです。 証拠がなかったケースの典型は、不正が疑われた段階で本人に問いただしてしまうことです。口頭でのやり取りは記録が残りにくく、相手に準備の時間を与え、電子データを削除される可能性が高まります。「白黒はっきりさせたい」という社長の感情は自然ですが、それが証拠隠滅を招く結果になることがある。調査の初動こそ、弁護士と相談しながら進める場面です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) うちの会社ではどう考えればいいのか——規模・業種別の判断軸 「解雇予告除外認定を申請すべきか」「申請が通るか」の判断は、事案の性質によります。以下の視点で整理してみてください。 行為が刑事犯罪に相当するか:横領・背任・詐欺など刑事事件に発展する可能性がある行為は、認定が通りやすい傾向があります。 客観的証拠があるか:会社の主観的判断ではなく、第三者が見ても「不正がある」と判断できる証拠があるかどうかが鍵です。 就業規則の整備状況:懲戒解雇事由が具体的に規定されていなければ、解雇自体の有効性が問われます。 申請が通らなかった場合の財務的影響:解雇予告手当は30日分の平均賃金ですが、高額役職者の場合は金額が大きくなります。不認定を想定した資金の準備も現実的な選択肢です。 「認定が取れるか否か」は申請してみなければわからない部分もあります。しかし、「取れないかもしれないから払わなくていいや」という逆算はリスクが高い。申請は行い、結果を受けてから対応するのが基本的な姿勢です。 再発防止策——一度の問題を会社の仕組みに変える 解雇予告除外認定の問題は、懲戒解雇が発生したときに初めて表面化します。しかし、その根本にあるのは「平時の体制が整っていない」ことです。以下の3点を整備しておくことが、同じ問題の再発を防ぐ核心です。 就業規則の懲戒規定を具体化する:競業行為・情報漏洩・横領・背任・無断欠勤など、懲戒解雇に該当する行為を具体的に列挙する。 入社時の誓約書を整備する:競業避止義務・守秘義務・社内調査への協力義務を明記した誓約書を全従業員から取得する。 社内調査の手順をあらかじめ決めておく:問題が発生したときに「まず証拠保全→次にヒアリング→その後弁護士相談」という流れを組織として共有しておく。 懲戒解雇が有効に機能するためには、解雇時の手続きだけでなく、採用時・就業規則・日常の記録管理まで含めた体制が必要です。問題社員の対応は「そのとき対処する」から「いつでも適切に対処できる仕組みを持つ」に変える必要があります。 懲戒解雇・解雇予告除外認定のような問題は、一度起きたら「次は気をつける」では済まない深刻さを持つことがあります。顧問先130社以上の実名を公開する弁護士法人ブライトでは、弁護士歴平均14年以上の弁護士が、就業規則の整備から問題社員対応のフロー設計まで継続的にサポートする「みんなの法務部」として機能しています。問題が起きてから弁護士を使うのではなく、問題が起きないように弁護士を使う体制が、会社を守るうえで最も実効性の高い選択です。 よくある質問(Q&A) Q1. 懲戒解雇すれば、解雇予告手当は必ず支払わなくてよいですか? いいえ、そうではありません。懲戒解雇であっても、解雇予告手当の支払い義務は原則として存在します。支払いを免れるには、管轄の労働基準監督署長から「解雇予告除外認定」を受ける必要があります。認定を受けずに支払わない場合、後から元従業員に請求されるリスクがあります。 Q2. 解雇予告除外認定の申請はいつすればよいですか? 実務上は、解雇と同時または解雇直後に申請することが多いです。「認定が下りてから解雇する」ことが要件ではありませんが、解雇後に申請が認められなかった場合は解雇予告手当を支払う必要が生じます。申請のタイミングや証拠の準備については、事前に弁護士と確認しておくことが重要です。 Q3. 解雇予告除外認定が認められなかった場合、懲戒解雇は無効になりますか? 無効にはなりません。解雇予告除外認定は「解雇予告手当を支払わなくてよいかどうか」という手続き上の問題であり、懲戒解雇の有効性(解雇権濫用に当たらないか)とは別の問題です。認定が下りなかった場合でも、懲戒解雇自体は有効であり得ます。ただし、その場合は解雇予告手当の支払いが必要です。 Q4. 2週間以上の無断欠勤で、解雇予告除外認定は取れますか? 厚生労働省の通達では、正当な理由のない2週間以上の無断欠勤(出勤催促にも応じない)は認定事由の一つとされています。ただし、「催促をしたが応じなかった」という事実を記録・証明する必要があります。催促の記録(内容証明郵便、書面等)を残すことが重要です。 当事務所が参考にした実務書 当事務所では本テーマに関する最新の実務書を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした書籍を以下に紹介します。 『労働基準法(上)(下)』 — 労働法令協会編/労働法令協会/逐条解説書(コンメンタール)/分類:条文逐条解説書 『懲戒処分の適正な実務と手続き』 — 岡芹健夫・他著/中央経済社/分類:Q&A形式の実務解説書 『問題社員トラブル円満解決の実践的手法』 — 向井蘭著/日本法令/分類:Q&A形式の実務解説書 『労働判例百選(第10版)』 — 荒木尚志・他編/有斐閣/分類:判例集 『労働法実務大系』 — 菅野和夫著/中央経済社/分類:学術書・体系書 ※ 書籍内容は引用しておらず、書誌情報のみ表示しています。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。 この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生 問題社員の懲戒解雇・解雇予告除外認定・就業規則の整備など、労務上の判断を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先130社以上の実名を公開しており、弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:0120-929-739(平日9:00〜18:00) 「みんなの法務部」というブライトの考え方 中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームで、130社以上の顧問先と向き合っています。 ▶ みんなの法務部とは(詳しく見る) 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料)