「学習済みモデルの権利は、当社に帰属しますよね?」——AI開発を外部に委託する会社の社長や担当者から、この確認を受けることがあります。逆に受託する側からは「発注元が成果物の権利を全部よこせと言ってきた」というご相談もあります。 結論から申し上げると、この問いはそのままでは答えが出ません。法律に「学習済みモデルの権利」という一本の権利が存在しないからです。学習済みモデルは法的性質のまったく違う要素の束であり、要素ごとに「契約に何も書かなければ誰のものになるか」の初期設定が変わります。ここを分けずに議論するから、交渉が膠着します。経済産業省「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(AI編)」(平成30年6月)も、実務では「何か問題があると困るため、とりあえず権利を全て取得しておけば安全である」との発想に陥るケースが散見されると述べ、権利帰属をめぐる議論に多大なコストを費やすことが常に必要とは限らないと警告しています。 AI開発の委託契約書全体のチェック順序はAI開発委託契約書のチェックポイント、AI開発から社内でのAI利用までを含めた全体像はAI開発・AI活用の法律問題 総合ガイドで扱っています。この記事では、同ガイドラインと2025年2月公表の「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」を一次資料に、①学習済みモデルは著作権で守れるのか(プログラム部分とパラメータの切り分け)、②学習用データセット・派生モデル・再利用モデルの帰属パターン、③「権利は全部発注者に」が拒まれる構造的な理由と落としどころ、④利用条件の設計——を発注側・受託側の双方の視点で整理します。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 「学習済みモデルの権利」という一本の権利は存在しない 経産省AI編ガイドラインは、権利帰属や利用条件が問題になる対象として、学習段階では生データ・学習用データセット・学習用プログラム・学習済みモデル(学習済みパラメータ・推論プログラム)・ノウハウ、利用段階では入力データ・AI生成物等を列挙し、これらを法的に①データ、②プログラム、③ノウハウの3つに大別すると整理しています。契約書もこの3分類で条項を立てるのが最短です。 プログラム部分は著作権・特許権の対象になり得る 学習用プログラムや推論プログラムは、ソースコード部分について「プログラムの著作物」として保護を受ける可能性があります(著作権法10条1項9号)。アルゴリズム部分は特許法上の要件を充足すれば「物(プログラム)の発明」等として保護を受け得ます。 押さえるべきはデフォルトの帰属先です。原則として著作権を取得するのは著作者、特許を受ける権利を取得するのは発明者です。したがってベンダーが開発したプログラムは、職務著作(著作権法15条)や職務発明(特許法35条)を通じて一次的にはベンダーに帰属することが多い、とガイドラインは述べています。契約に何も書かなければ推論プログラムの著作権はベンダー側にあるのが出発点で、発注者が権利を取得したいなら譲渡または利用許諾を契約に明記する必要があります。 学習済みパラメータは著作権で守れない可能性が高い ガイドラインは学習済みパラメータを「大量の数値データであって、創作性等が認められず、通常は知的財産権(著作権等)の対象にはならない可能性が高い」と整理し、総論では学習済みパラメータについて著作権が生じるか否かは確立された解釈が存在していないとまで明言しています。 この帰結は重要です。知的財産権の対象にならない成果物には法律上の明確なデフォルトルールが存在せず、原則として「現実にアクセス可能な当事者が自由に利用することができる」状態になります。つまり学習済みパラメータについて「著作権は当社に帰属する」とだけ書いた契約書は、実質的に何も確保できていない可能性があります。確保すべきは帰属ではなく利用条件——具体的な利用態様の合意です。 構成要素ごとの法的性質を一覧で押さえる 構成要素 法的性質 契約がない場合の初期状態 生データ 無体物。写真・音声・映像等であれば著作物に該当する可能性 所有権の対象外。アクセスできる者が自由に利用できる 学習用データセット 「情報の選択又は体系的な構成」に創作性があればデータベースの著作物(著作権法12条の2) 創作性がなければ制限は及ばない 学習用プログラム・推論プログラム プログラムの著作物(著作権法10条1項9号)/アルゴリズムは特許法 職務著作・職務発明により作成者(多くはベンダー)に帰属 学習済みパラメータ 大量の数値データ。通常は知的財産権の対象にならない可能性が高い(確立した解釈なし) デフォルトルールなし。アクセスできる者が自由に利用できる ノウハウ 秘密管理性・有用性・非公知性を満たせば営業秘密として不正競争防止法の保護 3要件を欠けば保護なし AI生成物(アウトプット) 生成過程に人間の創作的寄与がない限り、現行著作権法上は著作物と認められないと考えられている 契約で決めるほかない この表を横に置いて自社の契約書を読み直すと、「本件成果物の著作権は甲に帰属する」の一文が、どの要素を取りこぼしているかが見えてきます。点検軸の全体像は契約書チェックの50項目もご参照ください。 データの「帰属」を議論しても守れない——民法85条・206条の壁 発注側が最も誤解しやすいのが、提供したデータの扱いです。「うちのデータで学習させたのだから、モデルもうちのものだ」という感覚は自然ですが、法律の建て付けは違います。 データは所有権の対象にならない ガイドラインは、生データ・学習用データセット・学習済みパラメータ・入力データ・AI生成物等は「データ」であり、無体物(情報)であるため所有権の対象とはなり得ないと整理します(民法206条、同法85条参照)。所有権がないため、「返せ」「使うな」という主張の法的な足場が契約なしには立ちにくいのです。そのうえで、知的財産法制や個人情報保護法制による保護を受ける場合を除いては、契約による定めがない限り、データに現実にアクセスできる者が自由に利用できるとしています。制限を希望するなら契約で明示的に禁止する必要があるということです。 「帰属」ではなく「利用制限」を具体的に書く ガイドラインが最も強く打ち出すのは、「データの『帰属』を抽象的に議論するのではなく、データ利用の制限の当否および内容を具体的に議論し、契約に定めることが重要である」という一点です。交渉のテーブルに載せるべき問いは「このデータは誰のものか」ではなく、「誰が、何の目的で、いつまで、どこまで使えるのか」です。この置き換えができるかどうかで、交渉が3往復で終わるか3か月膠着するかが分かれます。 ノウハウは「管理していなければ守られない」 AI開発では、データの前処理の勘所や学習条件の調整手順といったノウハウの価値が高くなります。ガイドラインは、これらも無体物で所有権の対象にならず、営業秘密や特許法上の発明に該当する場合を除いては現実にアクセス可能な者が自由に利用できるのが原則だとしています。加えて、AI開発はベンダーとユーザーの共同作業としての性質もあり、その過程で生じたノウハウは双方が権利を主張することも少なくないため、契約で明示的に合意することが重要だと指摘しています。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 派生モデル・再利用モデル——「後から生まれるもの」を決め忘れる 契約書レビューで頻繁に見つかる穴です。締結時点で存在するものは書かれているのに、契約後に生まれるものが抜けています。 再利用モデルが争点になる典型パターン ガイドラインは、モデルの精度を維持・向上させるため入力データを用いて追加学習を行うことが想定され、これにより再利用モデルが生成された場合の取扱いが問題になり得るとします。特に争点になりやすいのは、追加学習で生成された再利用モデルを、ベンダーがユーザー以外の第三者へのサービスに利用する場合です。この判断は双方の寄与度や利益のバランスを基準に、新たに学習されたデータの提供主体・データの機微度や流出のリスク・追加学習にかかる労力やコストの負担・ノウハウの希少性・利用範囲・責任の分担といった要素を考慮して決めることになるとされています。 フォアグラウンドIPとバックグラウンドIPを切り分ける 2025年2月に経産省が公表した「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」は、開発により創出された成果に関する知的財産をフォアグラウンドIP、開発と関係なく各当事者が有する知的財産をバックグラウンドIPと位置づけ、前者に関する権利帰属や利用条件が契約上議論されることが少なくないとしています。 そして実務でこじれる構図をこう指摘します。アウトプットの範囲が十分に認識されないまま開発が進み、権利帰属を決定する段階でそのアウトプットがフォアグラウンドIPなのか、ベンダーのバックグラウンドIPなのかが争点になる——。とくにカスタマイズ型ではこの線が引かれないまま長期開発に入りやすく、開発初期に当事者の認識をすり合わせることが重要だとされています。契約書の別紙に「ベンダーが本件開発以前から保有していた技術資産の一覧」を添付してもらうだけでも、整理の起点ができます。 開発完了後・契約終了後の扱いまで決める ガイドラインは、納品後も再利用モデルの生成や保守目的でベンダーにデータへのアクセスを認める必要が生じることを指摘し、開発完了後の利用条件についても定めを置く必要があるとしています。 ここで注意したいのが「共有」という着地です。権利を「両者の共有」とする条項は交渉が疲れたときの妥協点に選ばれがちですが、共有は契約が終わった後も相手方が自由に使い続けられる状態を意味します。弁護士法人ブライトが顧問先の業務提携契約や開発委託契約を拝見する場面でも、共同制作した知的財産やデータを「共有」と定めた条項について、契約終了後も相手方が無償で使い続けられ、将来その相手方が競合サービスを始めた際に自社の資産が使われるリスクを指摘することが少なくありません。共有にするなら、第三者提供の可否・競合事業者への利用禁止・契約終了後の扱いをセットで書く必要があります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 「権利は全部発注者に」がベンダーに拒まれる理由と落としどころ 立場 主張の根拠 本当に守りたいもの 発注側(ユーザー) 対価を支払っている。データの取得・生成に相応の投資をしている。自社のノウハウがデータに反映されている データ・ノウハウが外部に流出しないこと。競合に横展開されないこと 受託側(ベンダー) 権利が全部移転すると、今後の学習済みモデルの生成が自由にできなくなり、事業の自由度に大きな制約を受ける 汎用的な技術・知見を他案件でも使い続けられること ベンダー側の危惧はガイドラインにも明記されており、値切りの口実ではなく事業継続に関わる話です。そして注目すべきは、ベンダー側が持つ技術的な反論です。ガイドラインは、ベンダーは「学習済みモデルに含まれる学習済みパラメータから提供された生データを読み取ることは一般的に困難であることから、情報流出の懸念はないと考える傾向にある」と整理しています。つまり発注側が恐れている「データの流出」は、モデルの提供という形では起きにくい場合がある——この技術的事実を当事者間で共有できると、交渉の温度が下がります。 経産省が示す2つの落としどころ ベンダー帰属+制限型:ベンダーに権利を帰属させたうえで、開発後、一定期間の目的外利用や競業的利用をベンダーに禁止する ユーザー帰属+許諾型:ユーザーに権利を帰属させたうえで、ベンダーが事業上必要な範囲についてはその利用を認める 帰属先の判断基準として、ガイドラインは寄与度を挙げ、提供したデータ・ノウハウ・創意工夫の価値/技術力/生成に要した人的・物的コスト/生成物の独自性・有用性/対価の額や支払条件等を列挙します。「対価をいくら払ったか」も判断要素に明示されている点は、交渉で使える材料です。 「全部よこせ」が独占禁止法・下請法の問題になる場合 発注側が優位な立場を使って一方的に権利を取り上げると、法令上の問題にもなり得ます。ガイドラインは公正取引委員会「役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針」を引きながら、次の3段階で整理しています(独占禁止法2条9項5号)。 優越した地位にある委託者が一方的に受託者の権利を譲渡させたり二次利用を制限したりする場合、優越的地位の濫用として問題を生じやすい もっとも、その譲渡や制限に対する対価を別途支払ったり、当該対価を含む形で交渉を行っていたと認められるときは、問題とはならない ただし、その対価が不当に低い場合や、権利の譲渡等を事実上強制する場合等には、なお問題となる 権利を取りたいなら、その対価を積算し、交渉の記録を残す。これが発注側にとっての防御にもなります。 また、改良技術についてライセンサーに権利を帰属させる義務や独占ライセンスをする義務を課す行為は原則として不公正な取引方法に該当するとされ、共有とする場合であっても公正競争阻害性を有する場合には該当し得るとされています(独占禁止法19条・一般指定12項)。他方、非独占的にライセンスをする義務は、ライセンシーが自ら開発した改良技術を自由に利用できる場合は原則として該当しないとされています。グラントバック条項では、この「独占か非独占か」の線が効きます。 いわゆる下請法も適用範囲を押さえます。プログラムの作成委託は「情報成果物作成委託」に該当します(2条3項。プログラムは情報成果物の定義=2条7項1号)。なお同法は2026年1月1日施行の改正で「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に改称され、「親事業者」は「委託事業者」、「下請事業者」は「中小受託事業者」となりました(引用元のガイドラインは平成30年公表のため旧称です)。ガイドラインは、一般的なユーザー・ベンダーの取引には適用されず、大手システム会社が開発の一部を他の中小システム会社に委託するような場合に適用されると明示しています。委託構造の点検は業務委託契約書のチェックポイントもご確認ください。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 帰属を決めても終わらない——利用条件を設計する5つの軸 AI開発契約の勝負は帰属条項ではなく利用条件条項で決まります。ガイドラインは主な交渉ポイントとして次の5つを挙げています。 利用目的:契約に規定された開発目的に限定するか否か 利用期間:開発完了後・契約終了後の扱いを含む 利用態様:複製、改変およびリバースエンジニアリングを認めるか 第三者への利用許諾・譲渡:他社への提供(横展開)を認めるか、競合事業者への提供を禁じるか 利益配分:ライセンスフィー、プロフィットシェア 当事者 決めておくべき利用の範囲 各範囲で定める条件 ユーザー側 自己の業務遂行に必要な範囲での利用 利用対象・態様・地域/独占・非独占/期間/ライセンスフィー 再利用モデルの生成 生成の目的・態様(例:追加学習)/独占・非独占/期間/グラントバック等 第三者への開示、利用許諾、提供等 独占・非独占/期間/地域/再利用許諾権/ベンダーの競合事業者への利用許諾の可否 ベンダー側 本開発目的以外の利用(再利用モデルの生成等) 利用目的/態様/独占・非独占/期間/グラントバック等 第三者への開示、利用許諾、提供等 独占・非独占/期間/地域/再利用許諾権/ユーザーの競合事業者への利用許諾の可否 この表のマスを一つずつ埋めていけば、権利帰属の白黒をつけなくても双方が守りたいものはおおむね守れます。ガイドラインが「権利の帰属に必ずしもこだわるのではなく、利用条件についても目を向けることによって、妥当な解決を目指すことができる」と述べているのは、この意味です。 流出懸念は「限定」と「確認」で折り合える 発注側がモデルの転用を認めたくない理由が流出懸念にある場合、ガイドラインは第三者に提供する学習済みモデルをデータ提供者に見せて、秘密情報やノウハウが含まれていないことを確認してもらうという手当てを示しています。入力データの目的外利用についても、「ユーザーが特定できない形に加工したデータに限る」「研究開発目的に限定する」「一定期間ユーザーの特定の競合事業者へのサービスには利用しない」といった限定で懸念を解消できる場合があるとしています。 なお入力データに個人データが含まれる場合は、権利帰属とは別に個人情報保護法の第三者提供規制(同法27条)や、ベンダーが外国にある第三者にあたる場合の越境移転規制(同法28条)の検討が必要です。自社のAI利用がどのあたりに立っているかは、法務ドックのAI診断(AI利用リスク編)で無料・匿名の簡易チェックができます。 なお、この27条・28条の枠組みについては、令和8年7月17日に「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」が公布され、27条1項に例外が新設されています。ただし施行期日は公布の日から起算して2年を超えない範囲内とされており、本記事の執筆時点では未施行です。新設される30条の2(個人情報に係る統計作成等の特例)は、統計情報等の作成にのみ利用されることが担保されていること等を条件に本人の同意のない個人データの第三者提供を認めるもので、個人情報保護委員会の改正概要は「統計作成等」に統計作成等であると整理できるAI開発等を含むと明記しています。もっとも書面による提供元・提供先間の合意、公表、提供先での目的外利用・再提供の禁止が要件として置かれており、要件を満たす構成を作った場合にだけ使える例外です。学習用データの提供スキームを設計する際は、施行時期と委員会規則の内容を確認したうえで現行法を前提に組み立ててください。詳しくはプロンプトに顧客情報を入れてよいか|生成AIと個人情報保護法で整理しています。 契約の性質と進め方——準委任か請負か、そして探索的段階型 性質決定を抽象的に議論しすぎない 2025年のチェックリストは、準委任契約(民法656条・643条)ならベンダーは善管注意義務(民法644条)を負うにとどまり、請負契約(民法632条)なら仕事の完成義務および契約不適合責任(民法559条・562条から564条)を負う、という一般的な相違を示しつつ、重要な留保を付けています。これらは合意がない場合の補充的なルールにすぎないため、どちらに分類されるかを抽象的に議論することの妥当性は検討が必要であり、仮に準委任契約でもベンダーは善管注意義務を負い、水準に達しない開発なら債務不履行責任を問われ得る点に変わりはない、と。むしろユーザーが成果の内容や水準をどの程度求めるかが重要な論点となる場合が少なくないとしています。「請負にしておけば安心」ではありません。 性能保証が難しいからこそ段階に分ける AI開発では成果物の性能が学習用データセットに依存するため、初期段階でどのような成果物が完成するか予測することが原理的に困難です。ガイドラインは、ベンダー側でモデルを完成できず開発を中止せざるを得なくなるおそれも小さくないとし、開発頓挫の責任をめぐる争いを避けるために、契約をアセスメント段階から開発段階(必要に応じて追加学習段階)まで多段階に分ける「探索的段階型」の開発方式を採用することは一考に価するとしています。段階を分ければ権利帰属も段階ごとに議論でき、「まだ何ができるか分からない段階で権利を全部決めろ」という無理な交渉を避けられます。性能をどう契約に書くか、検収と契約不適合責任をどう切り分けるかはAI開発の性能保証・検収・責任条項の書き方で扱っています。 自社がどの類型にいるかを先に確定する 2025年のチェックリストは、AI関連サービスを類型1:汎用的AIサービス利用型、類型2:カスタマイズ型(他社の汎用AIサービスを組み込んで自社向けに改良・調整)、類型3:新規開発型の3つに整理しています。とくにSaaS型でサービスを提供している事業者など類型2にあたる場合、中間の事業者は上流に対してはユーザー、下流に対してはベンダーという二重の立場になります。上流から受けている条件より広い条件を下流に約束すると板挟みになるため、契約書2本を並べて突き合わせる作業が欠かせません。AIによる自動レビューでこの突き合わせを済ませようとして落とし穴にはまるケースは、AI契約書レビューの落とし穴で整理しています。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 大阪の中小企業が実務で押さえる順序と、弁護士に相談すべきケース 契約書を開いたら、この4ステップで読む 成果物を特定する——「本件成果物」の定義に、学習済みパラメータ・推論プログラム・学習用データセット・中間生成物・ノウハウのどれが含まれているか。定義外のものは相手方が自由に使える前提で考える 要素ごとに帰属を確認する——一本の「著作権は甲に帰属」で済まされていないか。学習済みパラメータについて帰属だけでなく利用条件が書かれているかを見る 利用条件を5軸で埋める——目的・期間・態様・第三者提供・利益配分。とくに「競合事業者への提供」と「再利用モデルの生成」は空欄のまま締結されがちです 契約終了後を書く——データの返還・消去、モデルの利用継続、保守目的のアクセス。ここが白紙の契約書は珍しくありません 弁護士に相談したほうがよいケース 契約書に「本件成果物に関する一切の権利は甲に帰属する」とだけあり、要素ごとの整理がない 発注側で、提供するデータに顧客情報・生産管理データ・独自のノウハウが含まれている 受託側で、発注元から全権利の譲渡を求められているが、同種のモデルを他案件でも使いたい 他社の汎用AIサービスを組み込んで自社サービスとして提供している(類型2の板挟み構造) PoC・検証段階の成果物の扱いを決めずに開発が進んでいる すでに納品を受けたが、ベンダーが同じモデルを競合に提供している疑いがある 法務部がない会社の、外部法務部として AI開発契約の権利帰属条項は、条文の知識だけでは書けません。自社の事業がその技術資産をこの先どう使うのか、どこまでなら相手に渡しても事業に響かないのか——という経営判断と一体で決まります。だからこそ、単発のレビューより、事業の中身を知っている弁護士が継続的に関わるほうが条項の精度が上がります。 弁護士法人ブライトは大阪を拠点に、法務部を置けない規模の会社の「外部法務部」として、顧問先130社以上の実名を公開しながら日常の法務に伴走しています。企業法務を担当する弁護士の弁護士歴は平均14年以上で、IT・製造・小売など業種の異なる会社のAI導入・AI開発をめぐる契約に関わってきました。顧問サービス(みんなの法務部プラン)では、契約書のレビューだけでなく「この技術資産は自社に残すべきか、使わせてよいか」という設計段階からご相談いただけます。企業法務のご相談は初回無料です。企業法務・顧問弁護士のご案内もご覧ください。 よくあるご質問 Q. 「学習済みモデルの著作権は当社に帰属する」と契約書に書けば安心ですか。 A. それだけでは足りない場合があります。経産省のAI編ガイドラインは、学習済みパラメータは創作性等が認められず、通常は知的財産権の対象にはならない可能性が高いと整理しています。著作権が発生しない対象について帰属だけ書いても実質的な保護につながりにくいため、利用目的・期間・態様・第三者提供の可否といった利用条件を具体的に定めることが重要です。個別の判断は内容を拝見したうえでご相談ください。 Q. 当社のデータで学習させたモデルを、ベンダーが競合他社に提供することを止められますか。 A. 契約に定めがあるかどうかで見通しが変わります。ガイドラインは、契約による定めがない限りデータに現実にアクセスできる者が自由に利用できるのが原則であり、制限を希望するなら契約で明示的に禁止する必要があるとしています。締結前なら「一定期間、特定の競合事業者への提供を禁止する」条項を入れる交渉が可能です。締結済みの場合は条項の文言と実際の提供態様を照らして検討します。 Q. 発注側として権利を全部取得したいのですが、独占禁止法上の問題はありますか。 A. 優越した地位にある委託者が一方的に受託者の権利を譲渡させたり二次利用を制限したりする場合には、優越的地位の濫用として問題を生じやすいとされています。もっとも、その譲渡や制限に対する対価を別途支払ったり、当該対価を含む形で交渉を行っていたと認められるときは問題とならないとされています。権利を取得したいなら、対価を積算し交渉の経緯を記録に残すことが要点です。 Q. PoC段階でできたものの権利は、どう扱えばよいですか。 A. PoC段階でも中間生成物やノウハウが生まれるため、段階ごとに取決めを置くのが安全です。ガイドラインは、成果物の内容・性能が契約締結時に不明瞭なことが多いことを踏まえ、アセスメント段階・PoC段階・開発段階・追加学習段階に分ける「探索的段階型」の採用は一考に価するとしています。 Q. 大阪の会社ですが、AI開発の契約について相談できますか。 A. はい。弁護士法人ブライトは大阪を拠点とし、大阪・関西の中小企業を中心に企業法務のご相談をお受けしています。AI開発委託契約・PoC契約・AI利用サービスの約款確認など、契約書を拝見しながらご相談いただけます。企業法務のご相談は初回無料です。詳しくはサービスのご案内をご覧ください。 この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生 AI開発委託契約における権利帰属条項の設計、PoC契約の切り分け、AI利用サービスの約款チェックなど、AIをめぐる契約実務を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライトにお問い合わせください。大阪を拠点に顧問先130社以上の実名を公開しており、企業法務を担当する弁護士の弁護士歴は平均14年以上です。企業法務窓口:0120-929-739(平日9:00〜18:00) 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料)