「精度98%と聞いて導入したのに、見逃しが出た」「約束した精度が出ないと言われて、代金を払ってもらえない」——AIの開発・導入をめぐって、発注する側と受託する側の双方から、こうしたご相談をいただくことがあります。 この種の紛争が長引く原因は、当事者の誠実さではなく、契約書に「精度」の書き方が用意されていないことです。「本件成果物は仕様書記載の性能を満たすものとする」程度の一文しかなく、その「性能」が何を指すのか、どのデータで、どう測って、誰が判定するのかが書かれていない。だから結果を見てから「達している/達していない」の言い合いになります。 この記事では、経済産業省の「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(AI編)」(平成30年6月)、「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」(2025年2月)、そして2026年4月公表の「AI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引き」(第1.0版)を一次資料に、性能保証・検収・責任制限の書き方を発注側・受託側の双方の視点で整理します。読み終えたときに「自社の契約書だと、この論点はどう書かれているだろうか」と手元の契約書を開いていただくことを狙っています。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 「精度が出ない」紛争が契約書を読んでも決着しない理由 事前の性能保証が「性質上」困難であること 従来型のソフトウェア開発は、処理手順をルールとして記述しコード化する演繹的な作業です。開発対象が特定され処理過程が明確なため、ガイドラインは、開発段階で扱わなかった未知の入力についても事前に一定の性能保証を行える場合があるとしています。 これに対し学習済みモデルの生成は、学習用データセットという限られたデータのみから未知の状況における法則を推測する性質を持ちます。ガイドラインは、AI技術に習熟した技術者であっても推測対象となる未知のあらゆる事象を予測して学習を行うのは極めて困難であるとし、次の2点を挙げます。 開発対象確定の困難さ——用意された学習用データセットから、求める挙動・精度・前提条件等を満たす学習済みモデルの生成が可能か、完成させられるかを事前に予測することが困難である 性能確定・保証の困難さ——学習済みモデルは学習用データセット以外の未知の入力に対する挙動が不明確であり、契約時点の性能保証が困難である 事後の原因切り分けも困難であること ガイドラインは、推論結果が期待された精度を達成しない場合、①学習用データセットの品質(性質)の問題か、②人為的に設定されたパラメータ(ハイパーパラメータ)の問題か、③プログラムのバグかといった原因の切り分けが現時点の技術水準では困難な場合があるとし、とりわけ深層学習で強く見られる性質だとしています。 原因が特定できなければ、発注側は「作り込みが甘い」、受託側は「提供データの質が悪かった」と主張し、どちらも立証しきれないまま消耗戦になります。だからこそ「誰の責任か」を後から決めるのではなく、「どこまでできたら合格か」を先に決める設計が必要になります。 ただし「保証が難しい」=「ベンダは何も責任を負わない」ではない 受託側に見られる誤解がここです。ガイドラインは、技術上、完成保証や未知の入力に対する性能保証を行うことは必ずしも容易ではないとしつつ、そのことは直ちにベンダが契約上何ら完成責任を負わないことを意味しないと明記しています。最終的には当事者のリスク分配により義務範囲が定まるからです。ベンダが開発段階において限定された評価用データについて契約上一定の性能を有する成果物の完成を約束することも想定でき、その場合にはユーザの希望目標を達成することが求められる、完成義務を負わない場合でもプロフェッショナルとして一般的に求められる水準で開発を進めることが求められるであろう、とも述べています。 つまり保証しにくいのは「未知の入力に対する性能」であって、「限定された条件下での性能」は保証の対象になり得る。この線引きが次の三点セットの出発点です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 精度をKPIとして書くなら「検証データ・評価指標・測定条件」の三点セットで ガイドラインは、既知の入力に対する性能については、評価用データを含む評価条件を適切に設定・限定することにより、契約上、性能保証を行うことに合理性が認められる場合もあると考えられる、と注記しています。性能保証は「する/しない」の二択ではなく条件を限定できるかの問題として設計する——ここが勘所です。要素は3つで、1つ欠けると数字だけが残って測り方が争点になります。 ①検証データ——誰が用意し、誰の費用と責任で準備するか 見落とされやすいのが、評価用データの準備を誰が負担するかです。ガイドラインは、評価用データが発注側の事業上のリスクを十分に評価したものであるかは通常発注側のみが把握する事項であり、したがって評価用データの準備は原則としてユーザの費用と責任で行われることが合理的なことが多いと述べています。裏を返せば自社の現場の難しさを反映したデータを出さない限り、契約上の精度は自社の現場を保証しないということです。 契約書には、評価用データの提供者・件数・取得時期・アノテーション(正解付け)の実施者・正解付けに疑義が生じたときの決定手順まで書き分けます。「正解を誰が決めるか」を空欄にしないのが要点です。 ②評価指標——「精度」の一語で合意したつもりにならない 日本語の「精度」は多義的で、正解率を指すことも、見逃しの少なさを指すこともあります。検査・審査・与信・不正検知のような業務では、見逃しと誤検知のどちらを許容しないかが業務価値を決めます。ここを決めずに「精度95%以上」と書くと、受託側は全体の正解率で達成を主張し、発注側は見逃し件数で未達を主張する——という典型的なすれ違いが起きます。 実務では、主要指標を1つに絞り、副次指標に下限を置き、トレードオフを明記する順に整理します。「検出漏れ率を主要指標として上限値を定め、誤検知率にも別途上限を置き、両者が同時に満たされたときに合格とする」という形です。数値の妥当性は業務内容で変わるため、技術担当と業務担当が同席して決めます。 ③測定条件——いつ・誰が・何回測って、どの結果を採るか 測定回数、測定環境(本番相当か開発環境か)、前処理の条件、実施主体、立会いの要否、記録方法、再測定の可否と回数上限。ここが空欄だと、同じモデルでも測るタイミングと環境で数字が動き、「どちらの測定が正しいか」という不毛な争いになります。 あわせて未知の入力が保証の対象外であることを明示することも重要です。ガイドラインは、限定された評価用データに対する性能保証を行う場合、既知の入力のみならず未知の入力に対する性能保証について当事者間の認識を明確にしておくことが重要になると思われる、としています。発注側には不利に見えますが、この一文で「保証している範囲」が確定し、逆にその範囲内での未達を主張しやすくなります。曖昧なままのほうが、発注側にとっても危ういのです。 三点セット よくある曖昧な書き方 具体化した書き方の方向性 検証データ 「仕様書記載の性能を満たすものとする」 発注側が提供する評価用データセット(件数・取得期間・アノテーション実施者を特定)で測定する旨を明記し、準備の費用と責任の所在も定める 評価指標 「精度95%以上」 主要指標(例:検出漏れ率)と副次指標(例:誤検知率)を分け、それぞれの閾値と、両者を同時に満たすことが合格条件である旨を定める 測定条件 (記載なし) 測定環境・実施主体・立会いの要否・測定回数・記録方法・再測定の可否と上限、および未知の入力が保証対象外であることを明記する 未達時の扱い 「協議のうえ決定する」 追加学習の実施回数と費用負担・期限、それでも未達の場合の選択肢(次段階へ進まない/報酬の取扱い/解約)を段階ごとに定める この表を横に置いて読み直すと、「性能」という言葉が実は何も特定していない契約書が少なくありません。契約書全体の点検軸は契約書チェックの50項目、業務委託の危険条項の型は業務委託契約書のひな型と8つの危険条項もご確認ください。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 検収と契約不適合責任は別の話——切り分けを間違えると回収も反論もできない 検収(納品物の確認)と契約不適合責任(引き渡された目的物が契約の内容に適合しないときの責任)を混同すると、発注側は支払いを止める根拠を失い、受託側は終わりの見えない追完を求められます。 準委任型か請負型かで「完成義務」と「契約不適合責任」の有無が変わる ガイドラインは、従来型のソフトウェア開発では企画・要件定義段階は準委任型、設計・開発段階は請負型が親和的と言われている一方、学習済みモデル生成の場合はどの段階においても準委任型の契約が親和的であると整理しています。開発段階について、学習済みモデルの特性から契約締結時までに仕様や検収基準を確定することは難しいことが多く、未知の入力に対して当事者のいずれもが想定しない挙動をしないことの保証も困難であるため、具体的な仕事の完成を目的とし一定の瑕疵担保責任を伴う請負型にはなじみにくい、というのが理由です。 そのうえで、準委任型を選ぶ場合は成果完成型か履行割合型かを明確にしておくことが望ましく、成果完成型を選ぶなら対象となる成果物がどのようなものかについて合意しておく必要があるとしています。請負契約との大きな違いは完成義務および瑕疵担保責任の有無である、とも注記されています。 契約の型 完成義務 報酬の考え方 なじみやすい場面 準委任型(履行割合型) 負わない 委任事務の処理の割合に応じて支払う 実現可能性を検討するアセスメント段階、生成を進める可否を検証するPoC段階 準委任型(成果完成型) 負わない(成果の引渡しを報酬の支払条件にできる) 委任事務の履行により得られる成果に対して支払う 成果物の像は決まっているが、性能を請負水準で確約できない開発段階 請負型 負う(契約不適合責任を伴う) 仕事の完成に対して支払う 評価条件を適切に設定・限定でき、既知の入力に対する性能保証に合理性が認められる場合 実務でよく見るのが、タイトルは「業務委託契約書」で条項は請負型の検収・契約不適合責任を置き、しかし性能は特定していない——という組み合わせです。発注側は不合格の基準がないため検収を拒みにくく、受託側は「完成」の定義がないため契約不適合責任の終わりが見えません。 検収基準を確定できないなら、段階に分けて置き換える ガイドラインの答えは「段階に分ける」です。開発プロセスに①実現可能性を検討するアセスメント段階、②PoC段階、③開発段階、④追加学習段階を設け、段階ごとに次へ進むか否かを探索しながら進める「探索的段階型」の開発方式を提唱しています。この方式により性能保証の適否を含めた当事者の認識の違いが生じることをできるだけ防ぐことができるとし、必要な性能を有する成果物ができないと判明した場合には次の段階に進まないという選択をすることができる点をリスク限定の効果として挙げています。 1本の契約で「精度が出たら払う/出なければ払わない」を決めようとすると、決められないから空欄になる。段階に分ければ各段階の終わりが判断の場になり、「進まない」という出口が用意されます。検収基準を書けないことの代替策が、段階分けと出口の設計です。段階ごとに契約で決めるべき事項の一覧はAI開発委託契約書のチェックポイントで整理しています。 検収未了と支払義務——実務で最初に見るのは条項の書き方 「納品されたが要求水準を満たしていない。代金を払わなくてよいか」というご相談をいただくことがあります。当事務所が顧問先からこの種のご相談を受けたケースでは、検討の出発点は常に契約条項の文言でした。検収の完了が支払の条件として書かれているか。書かれていれば、検収未了の段階での支払義務の発生を争う足場になります。逆に支払時期が「納品後○日」のように検収と切り離して書かれていれば、同じ事実関係でも見通しが変わります。 あわせて確認するのが手続です。検収期間の長さ、期間内に異議を述べなかった場合の効果(みなし合格が発生するか)、不合格時の再納品の回数と期限、再納品でも不合格だった場合の解除権。紛争の帰趨は、精度の数字よりも手続条項の設計で決まる場面が少なくありません。この点はAI開発に限らず、システム開発の検収拒否・頓挫として蓄積のある領域です。全体像はシステム開発トラブルの紛争類型と対応の全体像、代金が支払われないときの進め方はシステム開発の検収拒否、頓挫した場合の責任論はPM義務・協力義務と責任の所在をご参照ください。 「検収期間経過後は一切請求できない」条項に気づけるか 当事務所が顧問先の契約書レビューで指摘したことがあるのは、契約不適合責任を極端に限定し検収期間の経過後は追完請求等を一切認めない条項と、損害賠償責任の上限を受託側にのみ有利な形で設定する条項の組み合わせです。AIの精度不足は検収時点では見えないことがあります。本番データで運用を始めて数週間経ってから、特定の条件下で精度が落ちることに気づく——という順序が現実には珍しくありません。その業務特性を前提にすると、「検収期間の経過で一切の請求ができなくなる」条項は発注側にとって想定以上に重いのです。検収期間を業務実態に合わせる、運用開始後一定期間の性能確認を別枠で置く、といった交渉の余地があります。 逆に受託側からすれば無限定な契約不適合責任は事業の継続性を損なうため、合理的な期間制限を置くこと自体は不当ではありません。問題は期間の長さが業務特性に見合っているか、相手方がその意味を理解して合意しているかです。揉めやすい条項の型は業務委託契約で揉めやすい条項、提示された契約書の読み方は取引先から契約書を提示されたときに会社が見るべきポイントにまとめています。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 責任制限条項の相場観——モデル契約は何をどこまで制限しているか 「精度が出なかったら、いくらまで責任を負うのか」。相場観を知るのに手早いのは、経産省ガイドラインが末尾に付けているモデル契約の条文と解説を読むことです。当事者が対等に交渉した場合の一つの落としどころが示されています。 モデル契約が置いている3つの制限と、請求期間 モデル契約の損害賠償条項は3段構えです。①相手方の責めに帰すべき事由により損害を被った場合に賠償を請求できるとしつつ、対象を「直接かつ現実に生じた通常の損害」に限定する。②ベンダが負担する損害賠償は、債務不履行・法律上の瑕疵担保責任・知的財産権の侵害・不当利得・不法行為その他請求原因の如何にかかわらず本契約の委託料を限度とする。③損害が故意または重大な過失に基づく場合には上限規定を適用しない。 ③には理由づけまで解説されています。損害発生の原因が故意による場合には判例上、免責・責任制限に関する条項は無効になるものと考えられており、故意に準ずる重過失の場合にも同様に無効とするのが有力な考え方であることから、このような規定を設けた——というものです。「上限は置くが、故意・重過失は除く」がモデル契約の立場と押さえておくと、交渉での位置取りが判断しやすくなります。 見落としやすいのが請求期間の制限です。モデル契約は損害賠償の請求について「業務の終了確認日から●か月間が経過した後は行うことができない」という期間制限を置いています。実務ではこの●の数字が実質的な責任範囲を左右します。発注側は運用開始後に問題が顕在化する可能性を踏まえて期間を確保したい、受託側は早期に確定させたい——という緊張関係がここに現れます。 交渉軸 発注側の狙い 受託側の狙い モデル契約が示す落としどころ 賠償の範囲 逸失利益や間接損害も含めたい 直接損害に限定したい 「直接かつ現実に生じた通常の損害」に限定 金額の上限 上限を置かない、または実損額まで 委託料相当額を上限にしたい 請求原因を問わず委託料を限度とする 故意・重過失 上限の適用から除外したい 一律の上限にしたい 故意・重過失の場合は上限規定を適用しない 請求期間 運用開始後の顕在化を見込んで長く 早期に確定させたい 業務の終了確認日から一定期間内に限る(期間は個別合意) 知財非侵害保証 保証を取りたい 調査コストを負いたくない 3案を提示(保証+上限/保証+上限なし/著作権のみ保証) 「保証を取れば取るほど有利」ではない 上表の知財非侵害保証に「保証しない案」が並んでいるのには理由があります。ガイドラインは、ベンダに調査義務や責任分担を課すと開発そのものが阻害されたり開発スピードの低下が生じ、AI技術の発展スピードが著しく早いことから開発スピードの低下は致命的なマイナスを招くこともある、さらに非侵害調査のコストが委託料に反映されて増加することを踏まえると、ベンダにそのような義務や責任を負担させないことが発注側にとっても合理的な選択となる場合も想定されるとしています。責任制限の交渉を「取り合い」ではなくコストの配分として見る視点は、性能保証の交渉にもそのまま使えます。 一方的に責任を押し付ける条項には別の規律も働く 取引上の地位に格差がある場面では契約自由だけでは説明が付きません。ガイドラインは権利帰属の文脈で、優越した地位にある委託者が一方的に受託者の権利を譲渡させたり二次利用を制限したりする場合には優越的地位の濫用として問題を生じやすいとされている一方、その譲渡や制限に対する対価を別途支払ったり当該対価を含む形で交渉を行っていたと認められるときは問題とならないとされている、と整理しています。この「対価と交渉経緯」という視点は、責任制限の押し付けを検討する際にも参考になります。 加えて、製造委託等の取引では代金の支払等を規律する法律の適用もあり得ます。旧・下請法は2026年1月1日施行の改正により題名が変わり、現行の法律名は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(略称:中小受託取引適正化法、取適法)です。適用対象になるかは委託の内容と当事者の規模によって決まります。「契約自由だからどんな条項でも有効」という前提で条項を設計しないことが実務上の安全弁になります。個別の適用関係は取引の実態を確認したうえでの判断になりますので、気になる場合はご相談ください。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 精度不足で第三者に損害が出たら誰の責任か——2026年4月の新しい手引き ここまでは発注側と受託側の間の話でした。しかし精度不足が本当に怖いのは、その結果が第三者に及ぶ場面です。検査AIが不良を見逃し、その製品で消費者がけがをした。このとき、AIを使った会社と作った会社の責任はどう振り分けられるのか。経済産業省は2026年4月に「AI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引き」第1.0版を公表しました。主として不法行為法の観点から論点を整理した資料で、契約で責任分担を書く際の「デフォルト・ルール」を知るうえで参考になります。 「補助/支援型AI」と「依拠/代替型AI」で問われるものが変わる 手引きは、責任判断にあたってAIの利用形態に応じた2類型に整理することが有益だとしています。補助/支援型AIは、利用者の判断の補助ないし支援としてのみ用いられ最終的に人の判断や行動を介在させることが予定されている類型で、手引きは現状では多くのAIがこれに該当すると考えられるとしています。依拠/代替型AIは、人の判断や行動の全部または一部を代替する前提で提供され、AIの判断に依拠しながら用いることが予定されるAIです。 補助/支援型では、最終的な人の判断や行動の適切性を捉えて従来の過失の判断枠組みを適用できます。手引きは、AIの出力を援用したことは原則として利用者に求められる注意義務の水準を引き上げることも引き下げることもない、としています。 これに対し依拠/代替型では人の判断が介在しないため従来型の過失判断が困難になります。手引きは、この場合の利用者の注意義務を①AIシステムを組み入れた業務プロセスを適正に「構築」したか、②リスクを可能な限り低減しながら「運用」を行っていたかという観点から評価する方向性を示しています。人の判断を代替させるなら、問われるのは個別の判断ではなく「仕組みの作り方と回し方」だ、という発想の転換です。 精度の明示の合意がないと、水準は「通常人の作業水準」で測られる 手引きの想定事例のうち示唆が大きいのが外観検査AIの事例です。検品を受託する事業者が画像認識AIをX線検査装置と組み合わせて異物を高い確率で発見する検品サービスを提供していたところ、検出対象範囲内の異物が部品の陰に隠れており、AIがスクリーニング段階で非常に低い確率で見逃した——という設定です。注目したいのは、業務委託契約には「商業上合理的な注意及び技能をもって検品作業を行う」という抽象的な条項しかなく、サービスの具体的な精度についての合意がなかったとされている点です。まさに冒頭で述べた「性能の書き方が用意されていない契約書」です。 手引きは、従来人が行ってきた業務を代替するにあたりAIシステムが十分な精度水準を有しているかについては、同種業務に従事する通常人の作業水準が基準となり、これと当該システムの精度とを比較することが考えられると整理しています。そして、検品業務の委託において精度についての明示の合意がなかった事案の裁判例を引用し、受託者の債務の内容は「平均的な注意力を有する者が同種作業で通常発見可能な異物の大部分を発見する程度の精度」を有することであると紹介しています。 含意は明快です。精度を契約に書かなければ、水準が消えるのではなく、外から与えられる。明示の合意がない部分は外部基準で埋められる可能性があり、その基準が自社の期待と一致するとは限りません。だから、書くのです。 精度が落ちる領域は人を挟み、起きたことはログで残す 手引きは、AIシステムが業務プロセスの一部でのみ通常人と同等以上の精度水準を発揮する場合や、特定の条件下で精度が低下し通常人の作業水準に満たなくなる場合等には、AIの検出精度が低い領域を中心に人の関与を介在させることを含めた業務プロセス全体として精度を担保することも考えられるとしています。「AI単体の精度」で合否を決めるのではなく「AIと人のレビューを組み合わせた業務プロセス全体の精度」で合格を定義する選択肢があるのです。運用面では、AIモデルの劣化有無の検証や、実運用で生じた見落としや誤検知を継続学習させて精度を高めること等が重要な要素になると考えられる、とされています。納品時点の精度を保証するだけの契約では、運用開始後の精度劣化に対応する義務が誰にあるのか決まりません。 もう一つが記録です。手引きは、関連する資料を専らAI開発者・提供者・利用者らが保有していることが多く、専門技術性や証拠の偏在に照らして過失や欠陥といった要件を主張立証するにあたっての困難が見込まれる、と率直に指摘しています。因果関係についても、用いるべきAIの検知精度が90%と仮定して実際には精度70%のAIを用いていた事例で、あるべき水準のAIを用いていれば個別の結果を防止し得たのかが評価し難い可能性があるとしています。統計的な精度の話だけでは決着せず、個別の事案で何が起きたかを示す記録が必要になるということです。 手引きが挙げる措置——検査画像・判定ログ・レビュー結果の保存、事故発生時のアカウンタビリティの確保、重要な誤検知に関する開発者へのフィードバックと原因分析・是正措置——は、契約条項に書けます。ログ・出力結果・レビュー結果の保存対象と期間、疑義が生じたときの開示手続、稼働バージョンを特定できる状態にする義務、重大な誤検知の通知期限、劣化検証の頻度。精度条項を精緻に書いても、記録が残っていなければ主張を裏づける材料がありません。受託側でも、記録があれば「契約で定めた条件下では合格していた」と示せます。記録の約束は双方の防御手段です。 大阪の中小企業が押さえる順序と、弁護士に相談すべきケース 契約書を開いたら、この5ステップで読む 契約の型——タイトルではなく条項を見る。完成義務の有無、報酬の支払条件、契約不適合責任の有無が準委任型と請負型のどちらの建て付けか 「性能」の書き方——検証データ・評価指標・測定条件の三点セットが揃っているか。数字だけで測り方が空欄になっていないか 合格・不合格の手続——検収期間、みなし合格の有無、不合格時の再納品の回数と期限、それでも未達の場合の出口 責任制限——賠償範囲、金額の上限、故意・重過失の除外、請求期間 記録の約束——ログ・判定結果・モデルバージョンの保存対象と期間、疑義が生じたときの開示手続(成果物の権利帰属と利用条件は学習済みモデル・学習用データの権利帰属で扱っています) この5点を見るだけでも、多くの契約書で空欄が見つかります。空欄は交渉のテーマです。AI開発から社内でのAI利用までを含めた全体像はAI開発・AI活用の法律問題 総合ガイドで俯瞰できます。相手方に悪意があるわけではなく、どちらも書き方を知らないまま雛形を流用しているケースが実務では多いのが実感です。 弁護士に相談したほうがよいケース AI開発・AI導入の契約書を提示された側で、責任制限や検収条項の意味を判断しかねている 精度の要求水準をこれから決める段階で、業務価値と技術的な実現可能性の折り合いをつけたい すでに「精度が出ない」「検収できない」で支払いが止まっている AI導入後に第三者に損害が生じた、または生じるおそれがある 従来型のシステム開発の雛形を流用してAI開発の契約を締結してしまった 特に3番目・4番目は時間が経つほど選択肢が狭まります。支払いを止めた状態が長引くと、主張の当否とは別に取引関係そのものが壊れます。第三者に損害が生じた場面では、ログの保存期間が過ぎると事実の再現ができなくなります。迷った段階でご相談いただくのが、結果的に費用も時間も少なくなる領域です。なお以上は一般的な考え方の整理であり、個別の事案の見通しは契約書と経緯を拝見したうえでのご相談になります。 法務部がない会社の、外部法務部として AI開発・AI導入の契約は、法務の知識だけでは足りません。「その精度は業務にとって何を意味するのか」「技術的にどこまで約束できるのか」を技術担当・業務担当と一緒に翻訳する作業が必要です。契約書を一度レビューして終わりではなく、PoCの結果を見て次の段階の条件を決め、運用開始後に精度劣化の話が出たら保守契約を見直す——という継続的な関与が向いている領域です。 弁護士法人ブライトは大阪を拠点に、法務部がない会社の外部法務部として、こうした継続的な相談を受けています(顧問サービス「みんなの法務部プラン」)。顧問弁護士より一歩、会社の中に入って伴走する形です。契約書レビュー自動化ツールとの使い分けはAI契約書レビューの落とし穴、SaaSやITサービス全般の法務論点はSaaS・IT企業の法務もご参照ください。自社の契約書を確認したい段階でしたらサービスのご案内および企業法務のご案内を、法務体制を一度棚卸ししたい場合は法務ドック(AI利用リスク編)をご覧ください。 よくあるご質問 Q. ベンダに「精度95%を保証してください」と求めるのは無理な要求でしょうか。 A. 条件の付け方によります。経産省のAI編ガイドラインは、既知の入力に対する性能については評価条件を適切に設定・限定することにより契約上性能保証を行うことに合理性が認められる場合もあると注記しています。「あらゆる場面で95%」は難しくても、「この評価用データセットに対して、この指標で、この測定条件で95%」なら交渉の対象になり得ます。ただし評価用データの準備は原則として発注側の費用と責任で行われることが合理的なことが多いとされている点にご留意ください。 Q. 検収期間が経過したら、精度不足を主張できなくなりますか。 A. 契約条項の書き方によります。「検収期間の経過後は追完請求等を一切認めない」という条項が入っていれば、その効力が問題になります。AIの精度不足は運用開始後に顕在化することがあるため、締結前であれば検収期間を業務実態に合わせる、運用開始後一定期間の性能確認を別枠で置くといった交渉が可能です。締結済みの場合は条項の文言と実際の経緯を照らして検討することになりますので、契約書をお持ちいただければ具体的にご相談いただけます。 Q. 損害賠償の上限を「委託料まで」とする条項は、受託側に有利すぎませんか。 A. 経産省ガイドラインのモデル契約自体が、ベンダの損害賠償を請求原因の如何にかかわらず委託料を限度とする条項を置いていますので、この水準自体が一方的とまではいえません。確認すべきは、故意・重大な過失の場合に上限規定を適用しない旨の除外が入っているかです。モデル契約は、故意による場合には判例上、免責・責任制限に関する条項は無効になるものと考えられていることからこの除外を設けたと解説しています。除外がない条項を提示されたら、交渉の余地があります。 Q. 大阪の会社ですが、AI開発の性能保証や検収について相談できますか。 A. はい。弁護士法人ブライトは大阪を拠点とし、大阪・関西の中小企業を中心に企業法務のご相談をお受けしています。AI開発委託契約の性能条項・検収条項・責任制限条項の設計、提示された契約書のレビュー、すでに精度不足で支払いが止まっている案件のご相談など、契約書を拝見しながらご相談いただけます。企業法務のご相談は初回無料です。詳しくはサービスのご案内をご覧ください。 本記事で参照した一次資料:経済産業省「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(AI編)」(平成30年6月/1.1版は令和元年12月改訂)、同「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」(令和7年2月)、同「AI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引き」第1.0版(令和8年4月)、総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン」第1.2版(2026年3月31日)。出典:経済産業省「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」関連ページ この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生 AI開発委託契約の性能条項・検収条項・責任制限条項の設計、AI導入前の契約書レビュー、精度不足をめぐる交渉など、AIをめぐる契約実務を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライトにお問い合わせください。大阪を拠点に顧問先130社以上の実名を公開しており、企業法務を担当する弁護士の弁護士歴は平均14年以上です。企業法務窓口:0120-929-739(平日9:00〜18:00) 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料)