「契約書に違約金の金額を書いておけば、いざとなれば取れるはずだ」「相手に違約金条項を突きつけられたが、実際の損害はそこまでじゃないから減額してもらえるだろう」――こういう判断を、ちゃんとした根拠なく下している社長は少なくありません。 違約金や損害賠償額の取り決めは、契約書の中でも「いざとなったとき」に初めて効いてくる条項です。普段は意識しないまま署名捺印し、トラブルになって初めて「こんな条項があったのか」と気づく――そのときには、もう交渉の余地がほとんど残っていないことも多い。 この記事では、民法420条(損害賠償額の予定)が社長の経営判断にどう関わるのかを、法律の条文説明よりも「なぜ判断ミスが起きるのか」という視点から整理します。契約書を作る側の社長にも、相手から提示される側の社長にも、読んでおいていただきたい内容です。 民法420条が定めていること——一言でいえば「書いた金額が原則そのまま効く」 民法420条は、「当事者が損害賠償の額を予定した場合、裁判所はその額を増減できない」という原則を定めた条文です。つまり、契約書に「違約した場合は〇〇万円を支払う」と書いてあれば、実際の損害がそれより少なくても、あるいは多くても、原則として書いた金額で決着がつきます。 ここで重要なのは、「損害を証明しなくてもいい」という点です。請求する側は、「この金額の損害が出た」と立証する必要がなく、契約書の条項を示すだけで足ります。逆に言えば、支払う側は「実際の損害はそんなに大きくない」と主張しても、原則として通りません。 ただし例外もあります。あまりに不合理な金額や、公序良俗(民法90条)に反するほど過大な違約金については、裁判所が無効と判断する可能性があります。しかし「少し高すぎる気がする」という程度では、無効にはなりません。 なぜ社長は判断を誤るのか——「書いておけば安心」という思い込みの構造 【図解】民法420条が定めていること——一言でいへの対応フロー ① 問題発生 → ② 事実確認・記録 → ③ 顧問弁護士に相談 → ④ 対応策の実行 ※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。 違約金条項をめぐる判断ミスには、いくつかの共通パターンがあります。 ① 「違約金を書けば抑止力になる」という過信 相手が違反したときの備えとして違約金を設定すること自体は正しい判断です。ただし、金額の根拠が曖昧なまま「キリのいい数字」を書いてしまうケースが多い。後で「この金額では実際の損害を全然カバーできない」となっても、原則として追加請求はできません。 ② 「実損害より低い違約金を相手に認めさせれば有利」という誤解 交渉の場面で「高い違約金は払いたくない」という相手の要求を受け入れて、低めの金額に合意してしまう社長がいます。しかしそれは、相手が大きな損害を与えても低い金額しか回収できない契約を自ら締結することを意味します。 ③ 「違約金条項は交渉で減らせる」という期待 相手から高額の違約金条項を提示されたとき、「いざとなれば裁判所が減額してくれる」と考える社長がいます。しかし民法420条の原則は「裁判所は増減できない」です。事前に交渉・修正しておかなければ、後から変えることはほとんどできません。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題が起きる前にできること——契約書レビューの段階で判断軸を持つ 違約金条項のリスクは、契約書にサインする前の段階でほぼ決まります。発生した後に「条項を見直したい」と言っても、相手が応じなければどうにもなりません。 契約書を作成・確認する際に押さえておきたい判断軸は次の通りです。 違約金の金額に根拠があるか:実際に生じうる損害(逸失利益、代替調達コスト、信用損害など)をざっくりでも積算した金額になっているか。根拠のない「100万円」「契約金額の〇%」という設定は、過少でも過大でも後悔のもとになります。 どの違反に適用されるかが明確か:「本契約に違反した場合」という曖昧な表現では、どの義務に違反したときに発動するのかが争いになります。適用対象を具体的に列挙しておくことが重要です。 違約金と実損害の関係をどう設定するか:民法420条3項は「違約金は損害賠償の予定と推定する」と定めています。違約金を受け取った上で実損害も別途請求したい場合は、その旨を明確に書く必要があります。 相手から提示された条項のリスクを定量的に見ているか:「最大でいくらの支払いリスクを抱えることになるか」を具体的な数字で把握してから判断する習慣を持つことが、社長の判断の質を上げます。 顧問弁護士がいれば、契約書を「法的に問題ないか」だけでなく「この条項が発動したとき自社にどんな影響があるか」という視点でレビューしてもらうことができます。これが予防的な法務活用の核心です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題発生時の対応フロー——証拠の残し方が勝負を分ける 相手が違約した、あるいは自社が違約を主張されたとき。このときの初動が、その後の展開を大きく左右します。 【請求する側の場合】 契約書の違約金条項と、相手の違反事実を照合する(どの条項のどの義務に違反したか) 違反の事実を示す証拠を集める(メール・チャット・納品記録・受領書・通話録音など) 違反が発生した日時・経緯を時系列で整理する 違約金の支払いを求める内容証明郵便を送る 相手が拒否した場合、訴訟・調停・仲裁のいずれで解決するかを判断する 【請求される側の場合】 違約金条項の内容と、主張されている違反事実が本当に一致しているかを確認する 「違反していない」と言える証拠を集める(履行記録・連絡記録・承認の証跡など) 条項が公序良俗違反(民法90条)に該当するほど過大かどうかを評価する 交渉による和解が可能かどうかを検討する 証拠は、紛争になってから急に作れるものではありません。契約の履行過程を記録する習慣(定期的な進捗確認メール、成果物の受領確認書など)は、日常業務の中で積み上げておくことが重要です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 失敗事例の構造——なぜ相談が遅れ、なぜ証拠がなかったのか 違約金トラブルで後悔する経営者の話を聞くと、ほぼ同じ構造が見えてきます。 【事例1:相談が遅れたケース】 取引先との業務委託契約に「途中解約の場合は残期間分の報酬を違約金として支払う」という条項が入っていた。解約を告げたとき、先方から多額の違約金を請求された。「そんな条項があったことを忘れていた」「まさかこんな金額になるとは思わなかった」という状況で初めて弁護士に相談した。 → 相談が遅れた理由:契約書をちゃんと読んでいなかった(または読んでも金額のリスクを具体的に考えていなかった)。解約を決断する前に法的リスクを確認していれば、交渉の選択肢が広がっていた可能性がある。 【事例2:証拠がなかったケース】 取引先が納期を守らず、多額の損失が出た。契約書には「納期遅延の場合は〇〇万円の違約金」と書いてあったが、取引先は「遅延について発注側から了承を得ていた」と主張した。電話でのやり取りが主で、了承した記録も否定した記録も残っていなかった。 → 証拠がなかった理由:納期遅延の連絡や対応をすべて口頭・電話で行い、メールやチャットでの記録が皆無だった。「信頼関係のある取引先だから」と記録を残さなかった結果、違約金条項があっても立証が困難になった。 共通しているのは、「契約書の中身を日常的に把握していなかった」という点と、「取引の過程を記録していなかった」という点です。法律の知識より先に、この2つの習慣がなければ、契約書の条項は機能しません。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) うちの会社ではどう考えればいいのか——規模・取引形態別の判断軸 民法420条の問題は、すべての会社に共通しているわけではありません。自社の状況に応じた判断軸を持つことが大切です。 ■ 継続的な取引が多い会社 業務委託、SaaS・ITシステム、長期売買など継続契約が主な取引の会社は、途中解約や更新拒絶に伴う違約金リスクが大きい。「解約条件」と「違約金の上限・下限」を明確にした条項設計が重要です。 ■ 大口の一発取引がある会社 建設・製造・イベント・M&Aアドバイザリーなど、1件ごとの金額が大きい取引では、違約金が経営に直撃するリスクがあります。相手から提示された条項をそのまま通すのではなく、必ず金額・発動条件・上限を交渉するべきです。 ■ フランチャイズ・代理店契約がある会社 フランチャイズ契約や代理店契約には、競業禁止や秘密保持に関連した違約金条項が多く含まれます。契約解除後にも効いてくる条項も多いため、締結前のレビューが特に重要です。 ■ 社内の業務委託・フリーランス活用が増えている会社 フリーランス保護法(2024年施行)の影響もあり、業務委託契約の設計が変化しています。違約金条項の有効性にも影響が出る可能性があるため、定期的な契約書の見直しが必要です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 再発防止策——「その都度の対応」から「仕組みとしての予防」へ 一度違約金トラブルを経験した会社は、「次からは気をつけよう」で終わらせがちです。しかしトラブルの構造は変わっていないので、また同じことが起きます。再発防止は「意識の問題」ではなく「仕組みの問題」です。 契約書レビューのルールを作る:一定金額以上の契約は必ず弁護士に確認する、というルールを社内で決める。閾値(例:取引総額100万円以上)を設定しておくと運用しやすい。 違約金条項のテンプレートを整備する:自社が作成する契約書に使う違約金条項のひな形を、弁護士と一緒に作成・管理する。毎回ゼロから作らない仕組みを持つ。 取引記録の保存ルールを設ける:口頭でのやり取りはその日のうちにメールで議事録を送る習慣、成果物の受領は必ず書面で確認するルール、など具体的な行動ルールに落とし込む。 定期的に既存契約をレビューする:締結済みの重要契約も、1〜2年に一度は見直す機会を設ける。法改正・取引環境の変化に対応できていない条項が残っていることは珍しくない。 違約金条項は「トラブルになってから読むもの」ではなく、「締結前に判断するもの」です。その判断の質を上げることが、会社を守る一番の防御線になります。 契約書に関するトラブルはスポットの相談で解決できることもありますが、継続的な取引が多い会社は「その都度の相談」では間に合わない局面が必ず来ます。重要なのは、契約書を作るたびに弁護士に相談するのではなく、会社のひな形契約書と判断フローをあらかじめ弁護士と整備しておくことです。顧問弁護士がいれば、新しい取引が出てきたときの「これ、どうすればいい?」という問いにリアルタイムで応えてもらえます。弁護士法人ブライトでは、顧問先130社以上(実名公開)に対して、企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが「みんなの法務部」として継続的に関わっています。契約書の整備から個別トラブルの対応まで、社長の判断を支える体制を整えることが、もっとも確実で費用対効果の高いリスク管理です。 よくある質問(Q&A) Q1. 違約金条項に金額を書いておけば、損害の立証なしに請求できますか? はい、民法420条に基づく損害賠償額の予定であれば、原則として実損害の立証なしに契約書記載の金額を請求できます。ただし、相手の違反事実そのものは立証が必要です。「違反があったかどうか」については証拠が必要になります。 Q2. 相手から請求された違約金が高すぎると感じた場合、減額を求めることはできますか? 民法420条1項は「裁判所はその額を増減することができない」と定めています。つまり、単に「高すぎる」という理由では裁判所でも減額できません。ただし、その条項が公序良俗(民法90条)に反するほど不当な内容であれば無効となる可能性はあります。まずは弁護士に条項の内容を確認してもらうことが先決です。 Q3. 違約金とペナルティは別物ですか? 民法420条3項は「違約金は損害賠償の予定と推定する」と定めています。契約書に「ペナルティ」「罰金」と書かれていても、実質が損害賠償の予定であれば同じ扱いになります。一方、「違約罰」(損害賠償とは別に科すペナルティ)として設定する場合は、契約書に明記する必要があります。用語と意図がずれていると後でトラブルになるため、弁護士に確認しながら条項を設計することを推奨します。 Q4. 損害賠償の予定と実損害の両方を請求できますか? 原則としてはできません。損害賠償額を予定した場合は、実損害がそれより大きくても違約金の金額が上限になります(民法420条1項)。例外的に「違約金に加えて実損害も請求できる」旨を契約書に明記した場合は、別途請求が認められることがあります。契約書の設計段階でこの点を意識しておくことが重要です。 当事務所が参考にした実務書 当事務所では本テーマに関する最新の実務書を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした書籍を以下に紹介します。 『契約実務と法〔第2版〕』 — 中務裕之・清水祐一/商事法務/2021年6月/分類:Q&A形式の実務解説書 『逐条解説 民法(債権法)改正』 — 潮見佳男・千葉恵美子・片山直也・山野目章夫(編著)/商事法務/2021年3月/分類:条文逐条解説書 『新版 契約書の見方・作り方』 — 経営法友会/中央経済社/2023年11月/分類:マニュアル・チェックリスト型 『契約トラブル解決の実務〔第3版〕』 — 岩田合同法律事務所(編著)/民事法研究会/2022年5月/分類:Q&A形式の実務解説書 『損害賠償額の算定』 — 中村心/信山社/2020年12月/分類:学術書・体系書 ※ 書籍内容は引用しておらず、書誌情報のみ表示しています。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。 参考裁判例 当事務所では本テーマに関する最新の裁判例を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした裁判例を以下に紹介します。 東京地判令和4年12月21日「違約金請求事件」(令和4年(ワ)第4116号、判例秘書 L07751259)要旨: 損害賠償の予定として合意した違約金条項について民法420条1項の適用を認め、裁判所による減額を否定した。 東京地判令和3年9月14日「損害賠償請求事件」(令和2年(ワ)第26810号、判例秘書 L07620534)要旨: 業務委託契約の違約金条項が損害賠償の予定にあたるとして、実損害の証明なしに違約金全額の請求を認めた。 大阪地判令和2年3月19日「売買代金等請求事件」(令和元年(ワ)第9946号、判例秘書 L07510482)要旨: 売買契約解除に伴う違約金条項が損害賠償額の予定と解され、実損害の立証なしに請求が認められた。 名古屋地判令和元年12月19日「損害賠償請求事件」(平成31年(ワ)第1411号、判例秘書 L07451087)要旨: フランチャイズ契約上の違約金条項を民法420条に基づく損害賠償額の予定として有効と認定した。 東京高判令和3年2月25日「損害賠償請求事件」(令和2年(ネ)第3628号、判例秘書 L07620888)要旨: NDAの違約金条項について民法90条違反を否定し、民法420条の適用を認めた。 ※ 裁判例情報は判例秘書INTERNETから取得した参照情報です。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。 この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 注力分野:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生 契約書トラブル・違約金請求・取引先との紛争など経営上の課題を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先130社以上の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:0120-929-739(平日9:00〜18:00) 「みんなの法務部」というブライトの考え方 中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームで、130社以上の顧問先と向き合っています。 ▶ みんなの法務部とは(詳しく見る) 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