特商法の罰則を社長が知っておくべき理由|違反が会社を止める前に整える対策

特商法の罰則を社長が知っておくべき理由|違反が会社を止める前に整える対策

「うちのサービスは普通に売っているだけなのに、特定商取引法って本当に関係あるの?」——そんな感覚で事業を続けている社長は少なくありません。罰則があると聞いても、「それは悪質な業者の話だろう」と思いがちです。ところが実際には、自社のビジネスモデルが特定商取引法(以下「特商法」)の規制対象になっているかどうかすら把握していないまま、気づいたら義務違反の状態だったというケースが顧問先企業からも相談として寄せられています。特商法の罰則は、悪意のある業者だけを罰するものではありません。「知らなかった」という社長の判断ミスを、法律は待ってくれないのです。

特商法の罰則とはどのような仕組みか

特定商取引法は、訪問販売・通信販売・電話勧誘販売・連鎖販売取引・特定継続的役務提供・業務提供誘引販売取引・訪問購入の7類型を規制します。問題は、「自社がどの類型に該当するか」を正確に把握していない会社が非常に多いという点です。

罰則の体系はおおむね次の3層で構成されています。

  • 行政処分(業務停止命令・業務禁止命令):消費者庁・都道府県が行う行政処分。最長2年間の業務停止命令が下ることがあります。
  • 刑事罰:業務停止命令違反・不実告知・書面未交付など、違反行為の内容によって3年以下の懲役または300万円以下の罰金(法人に対しては3億円以下の罰金)が科されることがあります。
  • 民事上の効果(クーリングオフ・中途解約):書面交付義務が果たされていなければ、クーリングオフ期間が起算されず、消費者はいつでも解約できる状態になります。これは直接「罰則」ではありませんが、事業の収益構造を根底から崩す効果があります。

特に見落とされがちなのが、「書面を渡していなかった」「記載事項が不足していた」というだけでも義務違反になるという点です。悪意がなくても、形式上の不備が違反となります。

なぜ判断ミスが起きるのか——構造的な理由

【図解】特商法の罰則とはどのような仕組みかへの対応フロー

① 問題発生
② 事実確認・記録
③ 顧問弁護士に相談
④ 対応策の実行

※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。

社長が特商法の罰則リスクを見誤る理由は、大きく3つあります。

①「うちはBtoBだから関係ない」という思い込み
特商法は基本的に消費者保護を目的としていますが、業務提供誘引販売取引(いわゆる「仕事をあっせんするからノウハウや道具を買わせる」スキーム)は、相手が法人であっても個人事業主など「事業のために」取引する者が含まれれば対象になることがあります。また、研修サービスを個人に販売している場合、「特定継続的役務提供」に該当するかどうかを精査していない会社は多いです。

②「自分たちで作った契約書があるから大丈夫」という過信
インターネットで拾ったひな形や、顧問弁護士に頼まず自社で作成した契約書は、特商法が求める記載事項を満たしていないことがあります。クーリングオフの方法・期間・中途解約の条件など、法定事項が欠けていれば義務違反です。「書いてある」と「正しく書いてある」は別の話です。

③「相談するほどのことでもない」という判断の遅れ
特商法の規制対象か否か、書面が適法か否かは、専門家に確認しなければ正確にはわかりません。しかし多くの社長は「何か問題があってから相談すればいい」と考えます。問題が起きてからでは、クーリングオフの権利は既に発生しており、行政調査が入った後では対応できることが限られます。

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問題が起きる前にできること——予防フェーズで整えるべきこと

特商法の罰則リスクを下げるための予防策は、「自社のビジネスが何類型に該当するかを確認すること」から始まります。以下のチェックポイントを事前に整理してください。

  • 自社のサービス・商品の販売方法(訪問・電話・ネット・対面)を類型別に書き出す
  • 販売相手が消費者(個人)か、法人か、個人事業主かを区別する
  • 継続的にサービスを提供する契約の場合、期間・金額が「特定継続的役務提供」の閾値(原則として2か月超・5万円超)を超えていないか確認する
  • 契約書・申込書に法定記載事項(クーリングオフ条項・中途解約条件・事業者情報など)が含まれているか第三者にレビューしてもらう
  • 消費者に渡す書面(申込書・契約書面)が「明瞭に記載されている」か確認する

この確認作業を「一度だけやればいい」と思うのも危険です。事業モデルが変わるたびに、法的な類型該当性も変わります。新サービスを追加するとき、販売チャネルを増やすとき、料金体系を変えるときは必ず再確認が必要です。

問題発生時の対応フロー——証拠を残すことの意味

消費者からクーリングオフの通知が届いた、行政から問い合わせが来た、という状況になったとき、会社がとるべき初動は以下の通りです。

  1. 通知・問い合わせの内容を記録する(日時・手段・相手方の主張内容)
  2. 該当する契約書・申込書・送付記録を即座に保全する
  3. 社内担当者に「口頭での回答・説明をしないこと」を徹底する
  4. 弁護士に連絡し、初動対応の方針を確認する

ここで重要なのは、「証拠は紛争になってから急に作れるものではない」という点です。書面を渡したかどうか、いつ渡したかは、送付記録・メール・受領確認書がなければ証明できません。電話勧誘販売なら通話記録が、訪問販売なら訪問日時と説明内容の記録が、後の判断を左右します。日常業務の中で「渡した」「説明した」を記録する習慣が、いざというときの会社の守りになります。

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失敗事例の構造——なぜ相談が遅れ、なぜ証拠がなかったのか

当事務所に寄せられた相談の中には、研修事業を展開していた会社が、業務提供誘引販売取引への該当性を認識しないまま契約スキームを設計していたケースがあります。受講料相当の高額な費用を先払いさせ、修了後に業務をあっせんするという構造が、法律上の「仕事をあっせんするためにお金を取る」類型に当たっていました。

問題が顕在化したのは、離脱した受講者がクーリングオフを主張したときです。既存の顧問弁護士から「この契約では戦えない」と言われてから初めて、契約書の法的問題を直視することになりました。

なぜ相談が遅れたのか。それは「事業がうまく回っている間は問題が見えないから」です。クーリングオフを主張されるまで、法的リスクは表面化しません。特商法の義務違反は、トラブルが起きてから初めて「あのとき書面が不備だった」と明らかになります。

なぜ証拠がなかったのか。説明した内容・交付した書面・渡した日付を記録していなかったからです。「渡したはず」「説明した」では、法的には証明できません。

このケースでは、契約スキーム自体を法的に再設計し、書面の整備と記録体制を構築することで、新規の義務違反発生を防ぐ対応を取りました。しかし既発生のクーリングオフ請求への対応コストは、予防していれば発生しなかったものです。

うちの会社ではどう考えればいいのか

「特商法の罰則が自社に関係するかどうか」を判断するための問いは、次の3つです。

  • 消費者(個人)に対して、継続的なサービスや高額商品を販売しているか?
    研修・美容・語学・家庭教師・学習塾など、2か月超・5万円超のサービスは特定継続的役務提供の対象になります。
  • 「仕事を紹介する」「収入が得られる」などを売り文句にして、商品や研修費を買わせていないか?
    業務提供誘引販売取引に該当します。相手が個人の場合、金額にかかわらず対象になります。
  • 電話・訪問・ネット広告経由で申込みを取っているか?
    それぞれの販売方法ごとに義務が異なります。同じ商品でも売り方が変われば規制類型が変わります。

一つでも「当てはまる可能性がある」と感じたなら、現在の契約書・販売方法を専門家に確認してもらう価値があります。問題になってからの対応は、予防コストの数倍から数十倍の負担になることが多いです。

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再発防止策——事業が変わるたびに法務を更新する

特商法違反のリスクを再発させないための実務的な対策は次の通りです。

  • 新サービス・新販売チャネルのリリース前に特商法チェックを必須工程にする
    「売り方が変わる」「金額が変わる」「提供期間が変わる」たびに法的類型を再確認します。
  • 書面交付の記録を業務フローに組み込む
    渡した日・渡した相手・渡した書面の内容を記録するシートや電子ログを整備します。口頭説明の内容も録音または書面化するルールを作ります。
  • 契約書・規約・申込書を定期的に見直す体制を作る
    少なくとも年1回、あるいは法改正があった際に、専門家によるレビューを実施します。特商法は改正頻度が高い法律のひとつです。
  • 現場担当者へのルール周知
    営業担当者が「クーリングオフを妨害するような発言」をしていないか確認します。特商法ではクーリングオフを妨害した場合、刑事罰の対象となる可能性があります。

特商法対応は、一度整備すれば終わりではありません。事業の変化に合わせて、継続的に更新し続けるものです。

特商法の問題はスポット対応で終わらせるべきではありません。契約書の整備・販売フローの設計・書面交付の記録体制——これらはすべて、日常の事業運営の中に組み込まれてこそ機能します。当事務所では、顧問先135社の実名を公開し、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の弁護士チームが「みんなの法務部」として顧問先に伴走しています。「新しいサービスを始める前に一度確認したい」「今の契約書で大丈夫か不安だ」——そのような日常的な相談を継続的に受けられる体制が、特商法リスクをもっとも効果的に下げる安全装置になります。

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よくある質問(Q&A)

Q1. 通信販売(ネット販売)でも特商法の罰則は適用されますか?
はい、適用されます。通信販売は特商法の規制類型のひとつです。広告への法定事項の記載義務(返品・解約条件・事業者情報など)があり、これを満たさない場合は行政処分の対象になりえます。なお通信販売にはクーリングオフ制度はありませんが、返品特約の表示義務があります。
Q2. クーリングオフを「契約書で無効にする」ことはできますか?
できません。特商法のクーリングオフは強行規定(法律上排除できない権利)であるため、「クーリングオフはできません」と契約書に書いても法的効力はありません。むしろそのような記載があること自体が「不実告知」として違反になる可能性があります。
Q3. 「特定継続的役務提供」と「業務提供誘引販売取引」の違いは何ですか?
特定継続的役務提供は、エステや語学教室など一定の継続的サービスを提供する取引類型です。業務提供誘引販売取引は、「仕事をあっせんするから商品・研修を購入してください」という構造の取引類型です。研修費を取りながら修了後に仕事を紹介するビジネスは後者に該当することがあり、義務の内容が異なります。自社がどちらに当たるかは、事業スキームの内容によって判断が変わります。
Q4. 行政から業務停止命令を受けた場合、すぐに対応できますか?
命令が出た後では対応できる範囲が限られます。命令が出る前の段階(立入調査・事情聴取)で弁護士に相談し、適切な対応を取ることが重要です。また日頃から義務を履行していれば、調査への対応もスムーズになります。問題が起きてから弁護士を使うのではなく、揉めないために弁護士を活用する体制が、事業継続を守ります。
和氣良浩 弁護士

この記事の監修者

和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士

弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒

専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生

特商法対応・契約書整備・新サービスの法的リスク確認など、経営上の課題を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先135社の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:0120-929-739(平日9:00〜18:00)

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