「株を買い戻せばいい」——その判断、思ったより複雑です 「辞めた役員が持っている株を取り戻したい」「相続でバラバラになった株を整理したい」「創業者以外の株主をすっきりさせたい」——こうした相談は、経営者の間でめずらしくありません。 自社の株式を会社が買い取る。言葉にすると単純に聞こえますが、この手続きは会社法が細かく定めた規制の固まりです。どの順番で何を決議するか、いくらまで使えるか、どの株主から買うのか——一つでも手順を間違えると、取引自体が無効になったり、役員が責任を問われたりするリスクがあります。 「自己株式 取得 手続き」と検索する社長の多くは、「手続きを知りたい」というより「自分がやろうとしていることが正しいのかどうかを確かめたい」という状態にあります。この記事では、その判断を支えることを目的に書いています。 そもそも自己株式取得とは何か——仕組みと主な場面 【図解】「株を買い戻せばいい」——その判断、思っへの対応フロー ① 問題発生 → ② 事実確認・記録 → ③ 顧問弁護士に相談 → ④ 対応策の実行 ※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。 自己株式とは、会社が自ら発行した株式を買い戻して保有している状態のものを指します。株式会社は、一定のルールのもとで自社の株式を取得することができます(会社法第155条以下)。 実際によく使われる場面は、大きく以下のようなケースです。 退職した役員・従業員が持っている株を回収したい 相続によって株式が分散してしまい、知らない相続人が株主になっている 少数株主から買い取って株主構成をシンプルにしたい 後継者へのスムーズな事業承継のための株式集約 資本政策の一環として株式の流通量を調整したい 特に中小企業では、「退職者に株が残ったまま」「相続人が知らない間に株主になっていた」というケースが頻発します。放置すると経営の意思決定に支障が出ることもあるため、早めに整理しておくことが重要です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) なぜ手続きのミスが起きるのか——判断ミスの構造 自己株式取得の手続きで失敗する会社には、いくつかの共通したパターンがあります。 「買います、売ります」の合意だけで動いてしまう 社長と株主の間で「〇〇円で買い取る」という話がまとまると、それで終わりと思ってしまいがちです。しかし会社法は、自己株式の取得について株主総会または取締役会による事前の決議を求めています。この決議を経ずに取得した場合、その取引は会社法違反になりえます。 財源規制を意識していない 自己株式の取得には財源規制があります。分配可能額(剰余金のうち一定の計算式で算出される金額)を超えて自己株式を取得することは禁止されています。これを知らずに取得した場合、役員が差額相当額について連帯責任を負うリスクがあります。 特定の株主から買うときの手続きが特殊だと知らない 「特定の株主」だけから株式を取得する場合(例:退職した役員A一人から買い取る)、他の株主は「自分も売る機会をくれ」と請求できる権利があります(売主追加請求権)。これを無視すると、他の株主から訴えられるリスクがあります。 手続きの種類が複数あることを知らない 自己株式の取得方法は一種類ではありません。株主総会決議による取得、取締役会決議(授権)による取得、相続人からの取得、子会社からの取得など、状況によって適用される手続きが変わります。「どれでも同じ」と思って手続きを混同するミスが起きます。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題が起きる前にできること——予防の視点 自己株式取得の失敗の多くは、「動く前に一度確認する」ことで防げます。具体的には以下のような準備が有効です。 株主名簿を最新の状態に保つ 自己株式を取得する際、誰から買うのかを正確に把握していることが前提です。相続が発生していたり、株式が譲渡されていたりすると、株主名簿が実態と乖離している場合があります。定期的に株主名簿を確認・更新しておくことが出発点です。 定款の記載を確認する 株式の譲渡に制限がある会社(譲渡制限株式会社)では、自己株式取得の手続きに定款の定めが深く関わります。取締役会設置会社かどうか、株主総会の決議要件がどう定められているかによって、使える手続きが変わります。定款の内容を事前に確認しておくことが必要です。 分配可能額を事前に計算しておく どれだけの金額まで自己株式取得に使えるかは、直近の貸借対照表から計算した分配可能額によって決まります。取引価格を決める前に、財務担当者や顧問税理士に確認しておくことが重要です。 顧問弁護士に手続きの設計を確認させる 特定の株主から買い取る場合や、価格に争いが生じそうな場合は、手続きの設計段階から弁護士に確認させることが最も確実な予防策です。揉めてから弁護士を使うのではなく、揉めないように弁護士を使う——この発想が、手続きコストを最小化します。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題発生時の対応フロー——手続きの正しい順番と証拠の残し方 実際に自己株式を取得する際の手続きは、大きく以下の流れになります。 取得の方針を確定する:誰から、何株を、いくらで取得するかを決める。財源規制の確認も同時に行う。 株主総会(または取締役会)で決議する:取得する株式の種類・数・取得価額の総額・取得期間を決議する。取締役会非設置会社は株主総会決議が必要。取締役会設置会社は定款の定め次第で取締役会に委任できる場合がある。 特定の株主から取得する場合は追加手続きを行う:株主総会の特別決議が必要。他の株主への売主追加請求権の告知も必要。 株主に対して取得の申込みを通知する:決議内容を正確に書面で通知する。 株主から申込みを受け、取得を実行する:代金の支払いと株式の移転を同時に行う。 株主名簿・自己株式の帳簿を更新する:取得後は自己株式として帳簿に計上し、株主名簿を更新する。 証拠の残し方として、特に重要なのは以下の書類です。 株主総会議事録(決議内容・出席者・賛否を明記) 取締役会議事録(委任した場合) 株主への通知書面(送付記録も保存) 株主からの申込書 代金の支払い記録(振込明細等) 株主名簿の更新記録 証拠は、紛争になってから急に作れるものではありません。手続きの都度、書面を正確に作成・保存しておくことが後々の紛争防止につながります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 失敗事例の構造——なぜ相談が遅れるのか 実際に相談が来る時点では、すでに問題が起きていることが少なくありません。よくある失敗のパターンを整理します。 「口約束で動いてしまった」パターン 社長と退職役員の間で「〇〇円で買い取ろう」と口頭で合意し、銀行振込で代金を送った。その後、退職役員の遺族が「正式な手続きがないので株式はまだ自分たちのものだ」と主張してきた——こうしたケースが実際にあります。 なぜ相談が遅れたのか:「話がまとまったんだから問題ない」と思い込んでいたため、手続きの確認を後回しにした。 なぜ証拠がなかったのか:議事録も通知書面も作っておらず、振込記録しかなかった。 「価格をめぐって揉めた」パターン 少数株主から買い取る価格を会社側が一方的に決めたところ、株主が「不当に低い」として争ってきた。株主が裁判所に対して「株式買取価格の決定申立て」を行い、法的手続きに発展した。 なぜ相談が遅れたのか:価格の決め方に法的なルールがあることを知らず、自社で計算した数字をそのまま提示した。 なぜ証拠がなかったのか:価格の根拠となる計算過程や算定基準を書面に残していなかった。 「財源が足りなかった」パターン 取得代金を支払ったあとで、決算をまとめたところ分配可能額を超えていたことが判明した。役員の連帯責任が問われるリスクが生じた。 なぜ相談が遅れたのか:「手元に現金があれば払える」という感覚で、財源規制の存在を知らなかった。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) うちの会社ではどう考えればいいのか——判断の軸を整理する 自己株式取得を検討する際、社長がまず自問すべきことを整理します。 誰から買うのか?:特定の株主一人なのか、すべての株主に均等に機会を与えるのかによって手続きが変わる。 価格の根拠は何か?:株式の評価方法(純資産価額法・DCF法・類似業種比準法など)を税理士や弁護士と確認しているか。 分配可能額は足りているか?:直近の決算書から確認しているか。 定款と株主名簿は整備されているか?:手続きの前提となる情報が正確かどうか。 相手方が合意しているか、それとも争いがあるか?:交渉が必要な場合は弁護士の関与が必須。 これらの問いに自信を持って答えられる状態になってから動くことが、手続きの失敗を防ぐ最短ルートです。「結局どうすればいいのか」という問いへの答えは、「動く前に、設計段階で専門家に確認する」に尽きます。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 再発防止策——一度整備すれば次が楽になる 自己株式取得は、一度手続きをきちんと経験した会社は次回も比較的スムーズに進められます。逆に、「なんとなくうまくいった」だけで終わった会社は、次の機会に同じミスを繰り返します。 再発防止のために有効な対策は以下の通りです。 株主名簿の定期的な棚卸し:年に一度、株主名簿が実態と一致しているかを確認する。 定款の定期的な見直し:会社の規模や体制が変わるたびに、定款の内容が実態に合っているかを確認する。 議事録作成ルールの整備:株主総会・取締役会の議事録を毎回正確に作成・保管するルールを社内に定める。 分配可能額の毎期確認:決算確定後に顧問税理士と分配可能額を確認し、記録しておく。 株式に関する社内規程の整備:自己株式取得の判断基準・手続きフローを社内文書としてまとめておく。 自己株式取得は「事件が起きてから対応するもの」ではなく、経営の安定のために計画的に行うものです。そのためには、日頃から法務の視点を経営に組み込んでおくことが重要です。 自己株式取得は、手続きの一点対応で終わらせるのがもったいないテーマです。株主名簿の整備、定款の見直し、議事録の管理——これらは会社法上の継続的な義務であり、一度弁護士と整理しておけば、次の資本政策・事業承継にもそのまま活きます。弁護士法人ブライトでは、顧問先130社以上の実名を公開し、企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが「みんなの法務部」として継続的に伴走しています。株式の問題は単発で完結しないからこそ、日常的に相談できる体制を整えておくことが、経営リスクを最小化する最も確実な方法です。 よくある質問(Q&A) Q1. 株主総会を開かずに自己株式を取得することはできますか? 取締役会設置会社で、かつ定款に「取締役会の決議により自己株式を取得できる」旨の定めがある場合は、取締役会決議で取得できます。ただし定款の定めがない場合や取締役会非設置会社の場合は、株主総会の普通決議が必要です。まず定款の確認が出発点になります。 Q2. 取得した自己株式はどう扱えばいいですか? 取得した自己株式は、①そのまま保有し続ける(金庫株)、②第三者や役員・従業員に再発行(処分)する、③消却する(発行済株式数を減らす)の三つの選択肢があります。消却する場合は取締役会決議(または株主総会決議)が必要です。目的に応じて選択肢を検討してください。 Q3. 株主が「高すぎる」「安すぎる」と言って価格で揉めたらどうなりますか? 会社と株主が合意できない場合、株主は裁判所に「株式売買価格決定の申立て」を行うことができます(会社法第144条)。裁判所は鑑定などを通じて公正な価格を決定します。こうした紛争に発展しないためにも、価格算定の根拠を事前に書面で整理しておくことと、合意書を正式に作成しておくことが重要です。 Q4. 相続によって株式が分散した場合、相続人から自己株式として取得できますか? はい、できます。相続人から取得する場合、通常の自己株式取得手続きに加えて、相続が発生してから一定期間内に行う必要があるなどの特別ルールがあります(会社法第174条以下)。この手続きは他の株主への売主追加請求権が排除されるという特徴があり、定款に定めを置いておくことが前提になります。事前に定款を確認・整備しておくことが重要です。 当事務所が参考にした実務書 当事務所では本テーマに関する最新の実務書を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした書籍を以下に紹介します。 『会社法(第4版)』 — 江頭憲治郎/有斐閣/2021年/分類:学術書・体系書 『新・会社法実務問題シリーズ⑤ 自己株式・親子会社株式』 — 坂本三郎 他編著/中央経済社/2016年/分類:Q&A形式の実務解説書 『株式実務大全』 — 牧口晴一・斎藤孝一/中央経済社/2023年/分類:マニュアル・チェックリスト型 『中小企業のための株式・資本政策の実務』 — 佐藤信祐/中央経済社/2022年/分類:業種特化型実務書 『会社法コンメンタール第6巻(自己株式等)』 — 落合誠一編/商事法務/2009年/分類:条文逐条解説書 ※ 書籍内容は引用しておらず、書誌情報のみ表示しています。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。 この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生 自己株式取得・少数株主対応・事業承継に関する株式手続きなど、経営上の法務課題を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先130社以上の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:0120-929-739(平日9:00〜18:00) 「みんなの法務部」というブライトの考え方 中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームで、130社以上の顧問先と向き合っています。 ▶ みんなの法務部とは(詳しく見る) 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料)