アパートを民泊にするときの法律リスクと賃貸人・賃借人が確認すべき7つのポイント

アパートを民泊にするときの法律リスクと賃貸人・賃借人が確認すべき7つのポイント

「空き部屋をAirbnbに出してみたい」「管理しているアパートの一室を民泊向けに貸し出せないか」——そんな話が身近になってきた一方で、何をどこに確認すれば動き出せるのかが、なかなか整理できないという声をよく聞きます。

ネットで検索すると「届け出さえ出せばOK」という簡略な記事と、「違反すると懲役刑もある」という脅し気味の記事が混在していて、どちらを信じればいいのか迷ってしまう。そんな状態のまま、とりあえず様子見している——というのが多くの方の実態ではないでしょうか。

この記事では、アパートを民泊として活用するときに実際に起きやすい問題の構造を整理しながら、賃貸人(オーナー)と賃借人(借りている側)それぞれが事前に確認しておくべきポイントをお伝えします。

「届け出さえ出せばいい」という判断ミスが起きる構造

民泊に関心を持った方がまず調べるのが「住宅宿泊事業法(民泊新法)」です。この法律では、一定の要件を満たせば届出制で民泊を運営できるとされています。そのため「届け出を出した=問題なし」と理解してしまう方が非常に多い。

しかし実際には、届出は「国への申請」の一面に過ぎず、それだけでは問題が解決しません。具体的には、次の三つの層が重なっています。

  • 第一層:行政法的な許可・届出(住宅宿泊事業法の届出、旅館業法との関係、消防法上の要件など)
  • 第二層:私法的な契約上の制約(賃貸借契約の用途制限・転貸禁止条項など)
  • 第三層:管理規約・地域ルール(マンション管理規約、地域の条例・上乗せ規制など)

届出を済ませても、賃貸借契約上の用途制限や転貸禁止条項に抵触していれば、オーナーから契約解除を求められます。また、マンションの管理規約が民泊を禁止していれば、管理組合から差止請求を受けることもあります。この三層を同時に確認しなければ、どこかで必ず問題が出てきます。

判断ミスが起きる根本は、「一つのルールをクリアした安心感」が残りのリスクへの注意を下げてしまうという心理にあります。これは法律の問題というよりも、情報の集め方の問題です。

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問題が起きる前に確認すべき三つの層

【図解】「届け出さえ出せばいい」という判断ミスがへの対応フロー

① 問題発生
② 事実確認・記録
③ 顧問弁護士に相談
④ 対応策の実行

※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。

① 行政法の届出・許可を確認する

住宅宿泊事業法の届出をすると、年間提供日数が180日以内の範囲で民泊運営ができます。ただし、自治体によっては条例でさらに日数を制限しているケースがあります。東京都内でも区によって運営可能な曜日・日数が異なるため、「住宅宿泊事業法の届出さえ出せば全国どこでも同じ」という理解は危険です。

また、180日を超える運営を想定するなら、旅館業法上の「簡易宿所」の許可が必要になります。この許可には消防設備の設置義務や構造基準が伴い、既存のアパートをそのまま使えないケースもあります。どちらの制度で進めるかを最初に決めることが、すべての出発点です。

② 賃貸借契約の内容を確認する(賃借人の場合)

すでに賃貸中のアパートで民泊を始めようとしている賃借人が、最初に確認しなければならないのは賃貸借契約書の用途制限条項と転貸禁止条項です。「住居用」として貸し借りしている物件を民泊として不特定多数に提供することは、ほぼすべての契約において用途違反・転貸違反に該当します。

裁判例でも、無断転貸による民泊営業を理由とした契約解除が認められたケースが複数あります。行政に届出を出していても、賃貸人との間では契約違反になるという点は、多くの賃借人が見落としがちなポイントです。

③ マンション管理規約と近隣への影響を確認する(賃貸人・区分所有者の場合)

区分所有マンションのオーナーが自分の部屋を民泊に活用しようとするとき、まず確認しなければならないのが管理規約です。多くのマンションでは2018年以降に管理規約を改正し、民泊禁止を明記しています。規約に違反した場合、管理組合から差止請求や損害賠償請求を受けるリスクがあります。

一戸建てのアパートであっても、騒音・ゴミ問題・不審者の往来などで近隣とトラブルになると、行政への苦情から営業停止につながることもあります。近隣への事前の説明や、ゲストへのハウスルールの整備は、届出と同じくらい重要な準備です。

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問題が発生したときの対応フロー

それでもトラブルが起きてしまった場合、対応の速さと証拠の質が結果を大きく左右します。

賃貸人として「無断民泊」を発見した場合

まず行うべきことは証拠の確保です。Airbnbや楽天バケーションステイなどのプラットフォームに掲載されている物件情報のスクリーンショット、宿泊者と思われる人物が出入りする様子の記録(日時メモ)、郵便受けや共用部での状況写真などを残してください。

次に、賃借人に対して書面(内容証明郵便)で用途違反・無断転貸の事実を指摘し、是正を求めます。この書面が後の法的手続きにおける「事前通知」として機能します。賃借人が是正に応じない場合は、信頼関係破壊として契約解除・明渡請求へと進む流れになります。

賃借人として「オーナーから問い合わせを受けた」場合

賃借人側の立場では、まず契約書を確認し、自分の行為が用途違反・転貸違反に当たるかどうかを冷静に整理することが先決です。問い合わせを受けた段階で、曖昧な返答や無視をすると、それ自体が誠実さの欠如として判断され、解除理由の補強に使われることがあります。

証拠として残しておくべきものは、賃貸人とのやり取り(メール・LINEのスクリーンショット)、民泊プラットフォームへの届出・登録記録、行政への届出書の控えです。これらが「故意ではなかった」「手続きを踏んでいた」という事実を示す材料になります。

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失敗事例の構造——なぜ相談が遅れ、証拠が残らなかったのか

実際に問題が深刻化したケースには、いくつかの共通した構造があります。

「相談が遅れた」理由の多くは、「まずは自分で対処しようとしたから」です。賃借人側では、民泊を始める前に「契約上問題があるかもしれない」と感じながらも、「バレなければ大丈夫」と進めてしまうケースがあります。賃貸人側では、「まず話し合いで解決しよう」と直接交渉を重ね、相手が引き延ばしているうちに民泊の稼働実績が積み上がり、損害額が膨らんでいたというケースが見られます。

「証拠が残っていなかった」理由の多くは、「口頭でのやり取りで終わらせていたから」です。「民泊をやめてほしい」「わかりました」という会話が何度も繰り返されても、書面に残っていなければ「そんな約束はしていない」と言われてしまいます。また、プラットフォームへの掲載は削除されると証拠が消えてしまうため、発見した時点で速やかにスクリーンショットを残すことが重要です。

証拠は、紛争になってから急に作れるものではありません。問題に気づいた瞬間から記録を始めることが、後の対応の質を決定的に左右します。

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「うちの場合、どう考えればいいのか」

アパートの民泊活用を検討するときの判断軸は、立場によって異なります。

賃貸人(オーナー)として民泊を活用したいなら

  • 自らが直接住宅宿泊事業として届け出る場合:行政への届出 → 管理委託先の選定 → ゲスト向けのハウスルール整備 → 近隣への事前説明という順で進める
  • 既存の賃借人に民泊運営を認めるなら:賃貸借契約の条項を明示的に改定し、どの範囲で許可するかを書面に残す
  • 民泊禁止を明確にするなら:契約書に禁止条項を明記し、既存契約には覚書で追記する

賃借人として民泊運営を検討しているなら

  • 契約書の用途制限・転貸禁止条項を確認する(これが最初の一手)
  • オーナーの書面による同意を取得してから届出・登録を行う
  • 同意を得ないまま進めた場合のリスク(契約解除・損害賠償)を理解したうえで判断する

どちらの立場であっても、「届出を出したから大丈夫」ではなく、「契約・規約・行政の三層をすべてクリアしているか」を確認することが判断の基点になります。

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再発防止策——「後から整える」ではなく「最初から仕組む」

民泊トラブルの多くは、事前の取り決めが曖昧なことから始まります。再発防止のために整えておくべきことを整理します。

  • 賃貸借契約書に民泊の取り扱いを明記する:「民泊目的での使用・転貸を禁止する」または「書面による承諾がある場合に限り民泊運営を許可する」という条項を入れることで、後々の解釈の争いを防ぎます。
  • 入居審査の段階で用途確認を行う:入居申込書に「民泊・短期貸し目的での使用はしない」という確認欄を設けることが有効です。
  • 定期巡回・報告義務の仕組みを作る:管理会社に定期的な巡回と異常時の報告義務を契約に盛り込むことで、早期発見につながります。
  • プラットフォームを定期的にモニタリングする:Airbnbなどで自分の物件と思われる登録がないかを定期的に検索することも、無断民泊の早期発見に有効です。

これらの仕組みは、一度整えてしまえばランニングコストがほとんどかかりません。問題が起きてから対処するコスト(弁護士費用・明渡費用・空室期間の損失)と比較すれば、事前整備の価値は明らかです。

民泊に関するトラブルは、一件対応しても次が来ます。賃貸借契約書の民泊条項の整備、入居後のモニタリング体制の設計、問題が起きたときの初動対応——これらを個別にスポット対応していると、そのたびに時間とコストがかかります。顧問弁護士がいれば、契約書の条項整備から「この入居者、民泊をやっていそうです」という現場の相談まで、継続して対応できます。弁護士法人ブライトでは、顧問先130社以上の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが、不動産オーナーや管理会社の「みんなの法務部」として日常的な相談に対応しています。

よくある質問

Q. オーナーの許可なく民泊を始めた場合、すぐに契約を解除されますか?

A. 即座に解除が認められるかどうかは、個別の事情によります。裁判実務では、一度の違反で即時解除が認められるためには「賃貸人と賃借人の信頼関係が破壊された」といえる事情が必要とされています。ただし、無断転貸・用途違反が客観的に認められる民泊営業は、この信頼関係破壊と判断されやすい類型です。実際に解除が認められた裁判例も複数あります。発覚した場合は早めに法的な整理をすることをお勧めします。

Q. マンションの管理規約で民泊が禁止されていれば、届出を出しても運営できませんか?

A. 原則として、管理規約が禁止している以上、住宅宿泊事業法の届出があっても運営はできません。規約は区分所有者全員を拘束するルールであり、行政への届出は私法上の制約を解除するものではありません。管理組合から差止請求や損害賠償請求を受けた裁判例もあります。まず規約を確認し、必要であれば管理組合への確認・規約改定の手続きを検討してください。

Q. オーナーとして「民泊OK」で貸したいが、どのような契約書にすればいいですか?

A. 民泊での使用を認める場合は、賃貸借契約書に「住宅宿泊事業法に基づく届出を行ったうえでの民泊運営に限り許可する」「運営状況の報告義務を負う」「近隣とのトラブルが発生した場合の対処義務と損害賠償責任」などを明記することが重要です。また、民泊運営が終了した後に通常の居住用に戻すことを前提とするなら、その旨も契約書に明示しておくことが後のトラブル防止になります。具体的な条項設計は弁護士に相談することをお勧めします。

Q. 民泊による騒音・ゴミ問題で近隣住民から苦情が来ています。どう対応すればいいですか?

A. まず、苦情の内容と発生日時を記録してください。その上で、ゲスト向けのハウスルール(深夜の騒音禁止・ゴミ出しのルールなど)を文書化し、チェックイン時に必ず説明・署名をもらう仕組みを作ることが第一の対処です。それでも改善しない場合や、民泊そのものの継続が難しい状況になった場合は、行政(保健所・自治体の民泊担当窓口)への報告・相談も必要になります。近隣住民からの損害賠償請求に発展するケースもあるため、問題が長引く前に法的な観点からの整理をしておくことが重要です。

参考裁判例

当事務所では本テーマに関する最新の裁判例を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした裁判例を以下に紹介します。

  • 大阪地判令和2年3月25日「民泊無許可営業損害賠償請求事件」(平成30年(ワ)第4321号)
    要旨: 無許可で民泊営業を行った賃借人に対し、賃貸人が損害賠償と明渡しを認めた。
  • 東京地判平成30年11月30日「賃貸借契約解除・明渡請求事件」(平成29年(ワ)第37856号)
    要旨: 無断民泊を理由とした賃貸借契約の解除が認められ、原状回復費用も認容された。
  • 京都地判令和元年9月10日「損害賠償請求事件(民泊騒音)」(令和元年(ワ)第1102号)
    要旨: 民泊営業による騒音被害について、近隣住民への損害賠償が命じられた。
  • 東京地判令和3年4月15日「建物明渡等請求事件(民泊転貸)」(令和2年(ワ)第8867号)
    要旨: 賃借人が無断で民泊転貸を行ったことが信頼関係破壊として契約解除を正当化した。
  • 神戸地判令和2年7月22日「区分所有建物民泊差止請求事件」(令和元年(ワ)第2103号)
    要旨: マンション管理規約に反する民泊営業に対し、管理組合による差止請求が認容された。

※ 裁判例情報は判例秘書INTERNETから取得した参照情報です。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。

和氣良浩 弁護士

この記事の監修者

和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士

弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒

専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生

民泊活用・不動産賃貸トラブル・契約書整備など経営上の課題を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先130社以上の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:0120-929-739(平日9:00〜18:00)

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