遺言書が無効になるケースとは?弁護士が解説する条件と対応策

遺言書が無効になるケースとは?弁護士が解説する条件と対応策

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「遺言書を残したのに無効と言われた」「この遺言書は本当に有効なのか」——遺言書は形式・内容の条件を満たさないと無効になります。せっかく準備した遺言書が、肝心の場面で効力を失うケースは決して珍しくありません。この記事でわかること3点:①遺言書が無効になる主な5つのケース、②公正証書遺言・自筆証書遺言それぞれの注意点、③遺言書の有効性を争う方法と有効な遺言書を作成するための対策。遺言書の作成を検討している経営者・事業者の方、また現在受け取った遺言書の有効性に疑問をお持ちの相続人の方は、ぜひ最後までご覧ください。

遺言書が無効になる5つのケース

遺言書が無効となる原因は、大きく「意思能力の欠如」「形式要件の不備」「内容の違法性」「複数遺言の矛盾」「身分関係の変化」の5つに分類できます。それぞれ詳しく見ていきましょう。

①遺言者の意思能力がなかった

遺言書が無効となる最も深刻なケースが、遺言作成時に遺言者の意思能力が欠如していた場合です。重篤な認知症・意識レベルの著しい低下・発話困難な状態での作成は、民法963条が定める「遺言能力」を欠くとして無効となる可能性があります。

実務上、意思能力の有無を立証するためには、以下の資料が重要な証拠となります。

  • 遺言作成時前後の医師の診断書・カルテ・看護記録
  • 介護保険の認定調査票・ケアマネジャーの記録
  • 遺言作成時の映像・録音(存在する場合)
  • 親族・近隣者の陳述書(遺言者の言動に関する証言)

「公証人がその場で意思確認をしているから大丈夫」と思われがちですが、公正証書遺言であっても後から意思能力を争われるケースは少なくありません。公証人の確認はあくまでその瞬間の外見的な反応を確認するものであり、医療記録によって作成時に能力が低下していたことが立証されれば、遺言書は無効と判断される余地があります。

②形式要件を満たしていない(自筆証書遺言)

自筆証書遺言は、民法968条により「全文・日付・氏名を自筆で書き、押印すること」が必須要件です。一つでも欠けると遺言書は無効となります。特に問題となりやすい点を整理します。

  • 日付の不明確さ:「令和〇年吉日」のような記載は日付として無効とされた判例があります(後述FAQ参照)
  • 代筆・パソコン入力の本文:本文が自筆でない場合は無効。第三者が代わりに書いた場合も同様です
  • 署名・押印の欠如:署名のみで押印がない場合も無効となるリスクがあります
  • 加筆訂正の方式違反:訂正箇所に署名・捺印・変更旨の付記が必要です(民法968条3項)

なお、2019年(令和元年)の法改正により、財産目録についてはパソコン作成が認められています。ただし、財産目録の各ページに署名・押印が必要であるため、この点も見落とさないよう注意が必要です。

③内容が法律に反している

遺言書の内容が公序良俗に違反している場合、または強行法規に反する条件が付されている場合、その部分は無効となります(民法90条)。

典型例として、「特定の人物と再婚した場合は遺産を返還すること」「相続人が特定の宗教活動を続けることを条件とする」といった条件付き遺言があります。こうした条件が公序良俗違反と判断された場合、条件部分のみ、あるいは遺言全体が無効とされることがあります。

また、遺留分を完全に排除するような内容は、遺留分侵害額請求の対象にはなりますが、遺言書自体は有効です。遺留分と遺言の無効は別の問題として整理しておく必要があります。

④二つの遺言書が矛盾している

複数の遺言書が存在し、内容が矛盾している場合、後の遺言が前の遺言を抵触する範囲で撤回したとみなされます(民法1023条)。このルール自体はシンプルですが、実務では「どちらが後の遺言か」が問題になるケースがあります。

日付の記載が不明確・曖昧な場合、優先順位が定まらず、遺言書全体の効力が争われることになります。自筆証書遺言を複数作成している場合は、必ず明確な日付を記入し、古い遺言書は破棄するか、最新の遺言書に「〇年〇月〇日付遺言書を撤回する」旨を明記することが重要です。

⑤婚姻・身分関係の変化で遺言の前提が崩れた

遺言書作成後に遺言者が婚姻した場合、子のいない遺言者の配偶者が新たに法定相続人となります。この場合、遺言書の内容が直ちに無効になるわけではありませんが、配偶者の法定相続分・遺留分が生じるため、遺言書どおりに相続が進まない可能性があります。

特に注意が必要なのは、遺言者が重篤な状態にある時期に婚姻届が提出されるケースです。この場合、婚姻自体の有効性(婚姻意思の欠如・成年後見人による取消し等)が争われることがあり、婚姻が無効・取消しとなれば、配偶者としての相続権も消滅します。遺言書の有効性と婚姻の有効性が連動して問題になる、複合的な事案となります。

公正証書遺言でも無効になるケースがある

公正証書遺言を作っておけば絶対安心」と考える方も多いですが、公正証書遺言であっても無効を主張できるケースがあります。

最も多いのが、前述した意思能力の欠如を理由とする無効主張です。公証人が形式的な手続きを踏んでいても、遺言作成時に認知症が相当程度進行していたことを医療記録で証明できれば、裁判所が無効と判断する余地があります。

また、証人の欠格事由も見落としがちなポイントです。民法974条は、以下の者を公正証書遺言の証人から除外しています。

  • 未成年者
  • 推定相続人・受遺者およびその配偶者・直系血族
  • 公証人の配偶者・四親等内の親族・書記・使用人

欠格者が証人として立ち会っていた場合、公正証書遺言全体が無効となる可能性があります。特に家族や身近な関係者を証人に選んでしまうケースが実務上散見されます。証人は利害関係のない第三者(弁護士・司法書士等の専門家)を選ぶことを強くお勧めします。

なお、事業承継に関連して少数株主の権利や株式の帰属が遺言書の内容と絡む場合は、少数株主の権利行使と株式買取請求の実務も合わせてご参照ください。

実際にあった相談事例

ケース1:意識低下中に変更された遺言書が問題となった事案

ある経営者が重篤な病で入院中、意識レベルが著しく低下し発話も困難な状態となった後、新たに婚姻届が提出されました。その数日後に、会社株式を特定の人物に相続させる旨を記載した遺言書の一部変更がなされていました。

相続人のひとりが「意識低下中に作成・変更された内容は遺言者の真意ではない」として弁護士に相談。担当弁護士は婚姻の有効性と遺言書の意思能力を同時並行で争う方針を採用し、相手方弁護士に対して婚姻の経緯・株式売却の経緯に関する質問書を送付するとともに、財産開示を求めました。

教訓:重篤な状態での遺言変更や婚姻届の提出は、後から有効性を争われるリスクが高まります。経営者・事業者の方は、会社株式の帰属が遺言内容と連動することを念頭に置き、健康なうちに専門家と遺言書を整備しておくことが不可欠です。

ケース2:農業法人の事業承継と遺言書設計の事案

ある農業法人の代表が、後継者である子に農地・不動産持分の9分の8を相続させ、他の子には預貯金を相続させる内容の公正証書遺言を作成しようとしていました。ところが、後継者以外の子(過去に法人内でトラブルがあり解雇された経緯あり)から遺留分侵害額請求が来ることを懸念していました。

担当弁護士は公正証書遺言の作成を支援しつつ、付言事項に遺言の背景・経緯を詳細に記載することで「遺言者の真意」を明確にし、遺留分請求を思いとどまらせる構成としました。また、事前に他の子へ預金を渡している場合は、相続開始前10年以内の贈与として遺留分計算に算入される点(民法1044条)も説明し、対策の全体設計を行いました。

不動産が絡む事業承継では法的なトラブルが複合的に発生することがあります。不動産業でよくある法律トラブルと弁護士が必要なタイミングもご参照ください。

教訓:事業承継目的の遺言書は、遺留分対策・生前贈与の整理・付言事項の活用を組み合わせて総合的に設計することが重要です。

遺言書の有効性を争う(無効を主張する)手順

現在手元にある遺言書の有効性に疑問をお持ちの方は、以下の手順で対応を進めることをお勧めします。

  1. 遺言書の写しを取得する:自筆証書遺言は家庭裁判所での検認が必要(法務局保管制度を利用している場合を除く)。公正証書遺言は公証役場で謄本を取得できます。
  2. 医療記録・介護記録を収集する:遺言作成前後のカルテ・看護記録・介護保険の認定調査票等を早期に取り寄せます。記録の保管期間には限りがあるため、速やかな対応が重要です。
  3. 弁護士に相談し、意思能力・形式要件を精査する:収集した資料をもとに、無効主張の根拠・勝算・方針を専門家とともに検討します。
  4. 遺言無効確認訴訟または調停を申し立てる:当事者間で合意できない場合は、地方裁判所に遺言無効確認の訴えを提起します。まず家庭裁判所の調停(遺言無効確認調停)を経ることもあります。

遺言無効の主張は時間・費用・労力を要します。できる限り早い段階で弁護士に相談し、証拠保全の優先順位を確認することが肝心です。

有効な遺言書を作成するための対策

遺言書を作成する側の立場では、以下の5つの対策を実践することで、将来の無効リスクを最小化できます。

  1. 可能な限り公正証書遺言を選ぶ
    公正証書遺言は公証人が関与するため、形式的な有効性が自筆証書遺言より高く、紛失・偽造のリスクもありません。費用はかかりますが、遺言書の根幹となるものは公正証書遺言で作成することを強くお勧めします。
  2. 作成時に医師の意思能力証明書を取得しておく
    健康上の不安がある場合や高齢の場合は、遺言作成日に近い時期に医師から「遺言能力がある」旨の診断書を取得し、遺言書に添付しておくことで、後の意思能力争いに備えることができます。
  3. 弁護士が内容をレビューし、無効リスクを事前排除する
    公序良俗違反の条件・形式的な瑕疵・証人の欠格事由といった問題は、専門家のチェックで事前に発見・修正が可能です。
  4. 定期的に遺言書を見直し、最新版に更新する
    家族構成・財産内容・事業状況の変化に合わせて遺言書を更新します。新しい遺言書を作成する際は必ず明確な日付を記入し、旧遺言書との矛盾が生じないようにします。
  5. 付言事項に遺言の背景・経緯を記載する
    法的効力はありませんが、なぜその内容の遺言をするのかを付言事項として記載することで、遺言者の「真意」を示し、相続人間の感情的な対立を緩和する効果が期待できます。特に事業承継や特定の相続人への集中相続を行う場合に有効です。

よくある質問(FAQ)

Q1:公正証書遺言は絶対に有効ですか?無効を主張できますか?

公正証書遺言は形式的な有効性が高い遺言方式ですが、絶対に有効というわけではありません。遺言作成時に遺言者の意思能力が欠如していたことを医療記録等で立証できれば、公正証書遺言であっても無効を主張できます。また、証人に欠格者(相続人・受遺者の関係者等)が含まれていた場合も無効となります。「公正証書だから争えない」と諦める前に、弁護士に相談することをお勧めします。

Q2:自筆証書遺言の日付が「令和〇年吉日」でした。有効ですか?

「吉日」という記載は日付として無効と判断される可能性が高いです。最高裁判所の判例(昭和54年5月31日)は、「特定の日付を確定できない記載は日付の要件を満たさない」として「吉日」記載の遺言書を無効としています。自筆証書遺言の日付は「令和〇年〇月〇日」と具体的に記載することが必須です。すでにこのような遺言書しかない場合は、あらためて有効な日付を記した遺言書を作成することを強くお勧めします。

Q3:遺言書に書かれていない財産はどうなりますか?

遺言書に記載されていない財産については、遺産分割協議によって相続人全員で分け方を決める必要があります。このため、遺言書に「その他一切の財産は〇〇に相続させる」という包括条項を入れておくと、遺言書に記載し忘れた財産や、遺言作成後に取得した財産についても遺産分割協議を不要にできる場合があります。遺言書は財産を網羅的に記載し、定期的に見直すことが重要です。

監修:弁護士法人ブライト|相続・事業承継・企業法務
相続・遺言問題を専門とする弁護士が監修しています。

※本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、個別の法律アドバイスではありません。具体的な問題については、弁護士にご相談ください。

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