遺留分侵害額請求とは?計算方法と手続きを弁護士が解説

遺留分侵害額請求とは?計算方法と手続きを弁護士が解説

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「遺言書で財産をほとんどもらえなかった」——遺留分は、一定の相続人に最低限保障された法的権利です。この記事でわかること3点:①遺留分の割合と相続人構成別の計算方法、②遺留分侵害額請求の具体的手順と時効、③事業承継・農業法人等で遺留分請求を受けるリスクを減らす対策。請求する側にも備える側にも役立つ実務情報をわかりやすく解説します。

遺留分とは何か・遺留分侵害額請求ができる権利者は誰か

遺留分とは、被相続人(亡くなった方)の意思によっても奪うことのできない、一定の相続人に法律上保障された最低限の財産取得割合です。遺言書によって全財産を特定の人物に渡すことは法律上可能ですが、その場合でも遺留分権利者は侵害された分を金銭で請求できます。

遺留分侵害額請求ができる相続人の範囲

遺留分権利者となるのは以下の相続人です。

  • 配偶者(法律上の婚姻関係にある者)
  • 子・代襲相続人(子が先に亡くなっている場合の孫等)
  • 直系尊属(父母・祖父母等):子がいない場合に限る

注意が必要なのは、兄弟姉妹には遺留分がない点です。遺言書で兄弟姉妹への取り分がゼロであっても、兄弟姉妹は遺留分侵害額請求をすることができません。

遺留分の割合(総体的遺留分)

遺留分の総体的な割合は民法で次のように定められています。

  • 直系尊属のみが相続人の場合:相続財産全体の3分の1
  • それ以外の場合(配偶者・子等が相続人に含まれる場合):相続財産全体の2分の1

各相続人の個別遺留分は次の計算式で求めます。

個別遺留分 = 遺留分算定の基礎財産 × 総体的遺留分率 × 法定相続分

遺留分 計算の方法——基礎財産の構成と具体例

遺留分の計算において最も重要なのが「遺留分算定の基礎財産」の把握です。単純に相続開始時の財産だけを見るのではなく、生前贈与を加算し、相続債務を差し引いた額が基礎になります。

遺留分算定の基礎財産の計算式

基礎財産 = 相続開始時の積極財産 + 生前贈与額 - 相続債務

生前贈与については、誰への贈与かによって算入される期間が異なります。

  • 相続人への贈与:相続開始前10年以内のものが算入対象
  • 第三者(相続人以外)への贈与:相続開始前1年以内が原則。ただし、贈与をした者と受けた者の双方が遺留分を害することを知っていた場合は期間制限なし

この「10年ルール」は見落とされがちです。たとえば事業承継の場面で、後継者である相続人が10年以上前に多額の贈与を受けていれば、それは遺留分計算に含まれません。逆に10年以内であれば算入されるため、後継者は注意が必要です。

遺留分 計算の具体例(子3人・配偶者なし)

次のケースを例に計算してみましょう。

  • 相続人:子3人(配偶者なし)
  • 各自の法定相続分:3分の1
  • 総体的遺留分率:2分の1
  • 遺留分算定の基礎財産:5,000万円

各自の遺留分 = 5,000万円 × 1/2 × 1/3 = 約833万円

遺言書によって実際に取得した財産がこの833万円を下回る場合、その差額を「遺留分侵害額」として請求できます。また、株式が遺産に含まれている場合は時価評価が必要となり、評価方法によって基礎財産の額が変わります。株式評価や少数株主の権利については 少数株主の権利行使と株式買取請求の実務 も参照してください。

遺留分侵害額請求の手順——時効を絶対に逃さないために

遺留分侵害額請求権は、行使できる期間(時効・除斥期間)が法律で厳格に定められています。期間を過ぎると権利が消滅するため、請求を検討している方は早期に動くことが不可欠です。

遺留分侵害額請求の時効(消滅時効・除斥期間)

  • 短期の消滅時効:相続の開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った日から1年以内
  • 長期の除斥期間:相続開始の時から10年を経過すると、知る知らないにかかわらず権利が消滅

「知った日から1年」というカウントは、遺言書の内容を把握した時点から始まるのが一般的です。遺言書の存在に気づいていなかった場合でも、10年の除斥期間には注意が必要です。

遺留分侵害額請求の具体的な進め方

  1. 内容証明郵便による意思表示(時効中断の最優先事項)
    まず内容証明郵便で「遺留分侵害額請求権を行使する」旨を明示して相手方に送付します。これにより時効の進行を止めることができます。金額が確定していない段階でも、意思表示だけ先に行うことが重要です。
  2. 財産の全体像の把握
    不動産登記情報・預貯金残高・有価証券・生前贈与の履歴などを調査します。相手方が財産目録を開示しない場合、弁護士を通じた情報開示の要求が有効です。
  3. 当事者間の協議
    侵害額を提示し、任意の支払いを求める交渉を行います。
  4. 家庭裁判所への調停申立て
    協議が不調に終わった場合は、家庭裁判所に遺産分割調停または遺留分侵害額の請求調停を申し立てます。
  5. 訴訟(民事訴訟)
    調停でも解決しない場合は訴訟提起となります。なお、2019年の民法改正により、遺留分の請求は現物返還ではなく金銭支払いが原則となりました。不動産や株式を分割・返還する必要はなく、相当額を金銭で支払う形になります。

遺言書の内容に疑問がある場合は、請求の前に遺言書自体の有効性を確認することも重要です。詳しくは 遺言書が無効になるケースと有効な遺言書を作成するための対策 をご参照ください。

遺留分侵害額請求に関する実際の相談事例

事例①——農業法人の事業承継と遺留分問題

ある農業法人の後継者が、被相続人から「不動産持分の9分の8を後継者に相続させる」内容の公正証書遺言を受けた事例です。相続人は後継者・姉・息子の3名で、息子の法定相続分は3分の1。総体的遺留分2分の1を掛けると、息子の個別遺留分は法定相続分の6分の1となります。

不動産・預貯金を合計した基礎財産が数千万円規模だったため、遺留分侵害額は数百万円に達する見込みでした。しかし弁護士が調査したところ、被相続人が生前に息子へ相続開始前10年以内に数千万円規模の預金を贈与していた事実が確認されました。この贈与額を遺留分計算に組み込むことで、息子がすでに相当額を受け取っていたことが明確になり、実際に侵害されていた遺留分額は当初の想定より大幅に減少しました。

教訓:事業承継遺言を作成する際は、生前贈与を含めた遺留分計算のシミュレーションを事前に行い、請求が来た際の反論根拠(贈与の証拠書類等)を整理しておくことが重要です。

事例②——株式売却と婚姻の有効性が絡む複合案件

ある相続人が父の死亡後に遺言書を確認したところ、「特定の株式を自分に相続させる」と記載されていた株式がすでに売却されており、残っているのは売却代金の一部のみという状況でした。財産の全体像が不明なため、遺留分の計算自体ができない状態でした。

弁護士が相手方に対して財産目録の開示と株式売却の経緯に関する質問書を送付。さらに、被相続人が重篤な状態にあった時期に婚姻届が提出されていたことが判明し、婚姻の有効性が問題となりました。婚姻が有効であれば配偶者の存在により当該相続人の遺留分は4分の1、婚姻が無効であれば(他の相続人がいない場合)2分の1と、遺留分の算定結果が大きく変わるため、遺留分侵害額請求と婚姻無効確認を並行して進める複合案件となりました。

教訓:遺留分侵害額請求では、まず財産の全体像の把握が先決です。相手方が情報を開示しない場合は弁護士を通じた情報開示の要求が有効であり、婚姻の有効性など他の法的争点が絡む場合は複数の手続きを並行して検討する必要があります。

遺留分侵害額請求を受けるリスクを減らす——事業承継・遺言作成者のための対策

遺留分請求を受ける側(後継者・遺言で多く取得する相続人)は、以下の対策を事前に講じることでトラブルを大幅に軽減できます。

①遺言書作成前に遺留分計算をシミュレーションする

遺言書を作成する段階で、全相続人の遺留分額を試算しておくことが基本です。後継者に集中させたい財産と各相続人の遺留分額を比較し、侵害の有無と侵害額の概算を把握します。生前贈与の履歴も含めた計算が必要なため、弁護士・税理士との連携が不可欠です。

②生前贈与の10年ルールを理解して計画的に行う

相続人への贈与は相続開始前10年以内のものが遺留分計算に算入されます。計画的な資産移転を早期から行うことで、基礎財産を適正化することが可能です。ただし、節税・遺留分対策を名目とした過度な財産移転は他の相続人との紛争を招くリスクもあるため、目的と経緯を記録しておくことが重要です。

③遺言書の付言事項で経緯と意図を説明する

法的効力はないものの、遺言書の「付言事項」に後継者以外の相続人へ向けた感謝の言葉や財産配分の理由を記載することで、感情的な対立を和らげる効果があります。「なぜ後継者に集中させるのか」という被相続人の意思を言葉にすることで、請求を思いとどまるケースもあります。

④遺留分相当額を現金・生命保険で準備しておく

2019年の民法改正により遺留分の請求は金銭支払いが原則となったため、後継者が現金を準備できない場合に事業継続が困難になるリスクがあります。被相続人が生命保険(死亡保険金)を活用して遺留分相当額の現金を準備しておく、または後継者が金融機関からの融資を事前に検討しておくことが有効な対策です。不動産や株式の物納(現物返還)を回避できます。

⑤弁護士による事業承継遺言のレビューを受ける

遺言書は法律上の形式要件を満たしていても、内容の設計次第でトラブルの火種になります。相続人構成・財産構成・生前贈与の履歴を踏まえた上で、遺留分問題を含む法的リスクを弁護士が事前にチェックするレビューサービスを活用することを強くお勧めします。

遺留分侵害額請求に関するよくある質問(FAQ)


Q1. 遺留分請求の時効は何年ですか?

遺留分侵害額請求権は、相続の開始および遺留分を侵害する遺贈・贈与があったことを知った日から1年以内に行使しなければ時効によって消滅します。また、知る知らないにかかわらず、相続開始の時から10年を経過すると除斥期間によって権利が消滅します。時効を止めるためには、まず内容証明郵便で請求の意思表示を行うことが最優先事項です。金額が確定していない段階でも意思表示だけを先に行うことができます。

Q2. 会社の株式が遺産に含まれている場合、遺留分はどう計算しますか?

非上場株式の場合、遺留分算定の基礎財産に算入するためには株式の時価評価が必要です。評価方法には類似業種比準方式・純資産価額方式・折衷方式などがあり、どの方式を採用するかによって評価額が大きく変わります。評価をめぐって争いになるケースも多く、税理士と弁護士が連携して対応する必要があります。上場株式の場合は相続開始日の終値を基準とするため比較的明確です。

Q3. 遺留分を「放棄させる」ことはできますか?

相続開始前(被相続人の生前)に遺留分を放棄するには、家庭裁判所の許可が必要です(民法第1049条)。本人に署名・押印させるだけでは法的効力はありません。一方、相続開始後(被相続人の死亡後)であれば、相続人が自らの意思で請求しないことは自由です。なお、ある相続人が遺留分を放棄しても、他の相続人の遺留分の割合には影響しない点に注意が必要です。

監修:弁護士法人ブライト|相続・事業承継・企業法務
相続・遺留分問題を専門とする弁護士が監修しています。

※本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、個別の法律アドバイスではありません。具体的な問題については、弁護士にご相談ください。

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