元従業員に商品・金銭を盗まれた場合の刑事・民事手続き 防犯カメラを確認したら従業員が商品を盗んでいた。退職後に転売の証拠が見つかった。会社の口座から不審な出金が続いていた——。 従業員・元従業員による窃盗・横領は、経営者にとって想定外のダメージをもたらします。「刑事告訴するべきか」「損害は回収できるのか」「どこから手をつければいいのか」、判断に迷う場面が多いのが実情です。 この記事では、従業員窃盗・横領が発覚した場合の初動対応から、刑事・民事両面の手続きの流れまでを経営者目線で解説します。 まず確認すべきこと:証拠の保全 被害が発覚したら、最初にやるべきことは証拠の保全です。感情的に動く前に、証拠を固めることが後の手続きの成否を左右します。 収集すべき証拠の例: 防犯カメラの映像(上書き前に保存) 転売先の記録(買取店のレシート・買取データ) 在庫の差異記録(棚卸し結果・システムログ) 入出金記録(口座明細・経費精算書・請求書) 本人のメール・チャット(会社支給端末の記録) このような相談がよくあります。「防犯カメラの映像を上書きしてしまった後で相談に来た」というケースです。映像が残っていれば犯罪の立証が格段に楽になります。発覚直後のカメラ確認・保存が最優先です。 刑事手続きの流れ 警察への告訴・被害届の提出 証拠が揃ったら、被疑者の管轄警察署(または事業所の管轄署)に告訴状または被害届を提出します。 告訴と被害届の違い: 種類 意味 効果 告訴 被疑者を特定して処罰を求める 警察に捜査義務が発生 被害届 被害の事実を申告する 捜査義務は生じないが記録として残る 被疑者が特定できている場合は「告訴状」の提出が有効です。弁護士が作成することで、証拠と法的根拠を整理した書面になり、警察への対応がスムーズになります。 捜査・刑事処分の結果 捜査の結果、起訴・不起訴・起訴猶予のいずれかが決まります。 起訴:正式裁判(有罪・無罪の判断) 不起訴:証拠不十分・被疑者死亡等の理由で公訴を提起しない 起訴猶予:犯罪は認定されるが被疑者の事情(初犯・反省・被害弁償等)により起訴しない 初犯で被疑者が謝罪・返済の意思を示している場合、起訴猶予になるケースが多いです。「刑事事件が終わった=解決した」ではなく、刑事手続きとは別に民事での損害回収が必要になります。 刑事手続きにおける示談・被害弁償 国選弁護人(または私選弁護人)から被害弁償の申し入れが来る場合があります。この段階で弁護士を通じた示談交渉(金銭支払いを条件に告訴を取り下げる)が行われることも多いです。 示談成立は民事での回収可能性と直結するため、示談金額・支払方法を慎重に交渉することが重要です。 民事手続きの流れ 刑事手続きとは別に、被害額の回収のために民事の損害賠償請求を進めます。刑事告訴をしていなくても民事請求は可能です。 内容証明郵便・損害賠償請求書の送付 まず弁護士名義の内容証明郵便で「◯◯万円を◯月◯日までに返還しなければ法的手続きを取る」と通知します。相手方が返済に応じる場合は、ここで解決することもあります。 公正証書(強制執行認諾文言付き)の活用 分割払いで返済合意が成立した場合、強制執行認諾文言付き公正証書を締結することを強くお勧めします。 通常の合意書と異なり、公正証書に強制執行認諾文言が入っていると、裁判なしで強制執行(給与差押え・口座差押え)が可能になります。分割払いが止まった場合にすぐ動けるため、回収の実効性が格段に上がります。 訴訟・強制執行 相手方が話し合いに応じない・連絡が取れない場合は、損害賠償訴訟を提起して判決を取得します。判決後は給与差押え・口座差押えで回収を図ります。 被害回収の現実的な見通し 従業員窃盗・横領案件では、残念ながら全額回収が難しいケースも多いのが実情です。 被害回収が困難になりやすい状況: 被疑者が退職・行方不明になっている 被疑者に安定した収入・資産がない 転職先が不明で給与差押えの対象が特定できない 被疑者が多重債務状態または破産している ただし、横領・窃盗による損害賠償債務は破産しても免責されません(破産法253条1項2号:故意による不法行為は免責除外)。被疑者が破産しても、引き続き損害賠償請求を継続できます。 → 関連:従業員への貸付金回収・退職後の対応方法 弁護士会照会(23条照会)の活用 被疑者の所在・財産が不明な場合、弁護士会照会(弁護士法23条の2)を利用することができます。 金融機関への口座照会(給与振込先の特定) 不動産登記の調査 勤務先の照会 ただし照会には費用(数万円〜)がかかります。財産の目星がある場合に限って使うことが費用対効果の観点から重要です。 → 関連:売掛金の強制執行・口座差押えの手順 → ご相談はこちら:/corporationlaw/ 電話:0120-929-739(受付 9:00〜18:00) 再発防止のための内部統制 窃盗・横領が起きた後は、再発防止策の整備も重要です。 定期的な棚卸し・在庫チェックの義務化 経費精算・支出承認の二重チェック体制 防犯カメラの適切な設置・保管期間の確認 就業規則の懲戒規定の整備(窃盗・横領を明確に懲戒解雇事由に記載) 採用段階でのバックグラウンドチェック(可能な範囲で) 就業規則に窃盗・横領の懲戒解雇規定が明確に書かれていないと、処分の有効性が争われるリスクがあります。 よくある質問 Q. 刑事告訴しないと民事請求もできませんか? A. 刑事告訴と民事請求は独立しています。告訴せずに民事(損害賠償請求)だけ進めることも可能です。ただし、刑事手続きは証拠収集や相手方へのプレッシャーとして有効なため、両方を並行して進めることが多いです。 Q. 起訴猶予になったのに民事請求できますか? A. はい、できます。起訴猶予は「刑事処分をしない」という検察の判断であり、被害者の民事請求権は影響を受けません。 Q. 被疑者が転職・行方不明になっています。どうすれば回収できますか? A. 弁護士会照会で勤務先・口座を特定する方法があります。財産開示手続き(民事執行法)を利用して裁判所経由で財産情報を開示させることもできます。ただし財産が全くない場合は強制執行が奏功しないケースもあります。 Q. 費用はどのくらいかかりますか? A. 事案の内容・回収予定額によって異なります。みんなの法務部では初回相談無料でご案内しています。弁護士費用と回収見込みのバランスについても正直にお伝えします。 → みんなの法務部サービスの詳細はこちら:/corporationlaw/service/ 電話:0120-929-739(受付 9:00〜18:00) 監修:弁護士法人ブライト 大阪・神戸を拠点に企業法務・顧問弁護士サービスを提供。みんなの法務部として中小企業の法的リスク対応を日々サポートしています。 本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、特定の事案に対する法律アドバイスではありません。個別の対応については弁護士にご相談ください。