脅迫を受けた会社が民事で取れる対策と請求|経営者が知っておくべき判断の順番

脅迫を受けた会社が民事で取れる対策と請求|経営者が知っておくべき判断の順番

「このままだと潰すぞ」「今から家に行く」——そんな言葉を受けたとき、経営者はどう動けばいいのか。

怒鳴られて怖い。でも警察に行くほどのことなのか迷う。相手の要求を一部でも飲んでしまえばそれで終わるかもしれない。そう考えて、とりあえず場を収めようとしてしまう。

そのひとつひとつの判断が、後になって会社を苦しめる伏線になることがあります。

この記事では、脅迫的な言動を受けた経営者が民事上どう対応できるのか、何をいつ動かせばいいのかを、判断の順番で整理します。法律の教科書ではなく、社長が「次に何をすべきか」を考えられる記事を目指します。

「脅迫」は刑事だけの問題ではない

脅迫という言葉を聞くと、多くの経営者は「警察の話」と受け取ります。確かに、脅迫罪・恐喝罪という刑事事件としての側面はあります。しかし、それと同時に、民事上の損害賠償請求や接触禁止の仮処分といった手段も存在します。

刑事と民事は別の手続きです。警察が動かなくても、民事では弁護士が主体的に動けます。逆に言えば、刑事で警察に相談しているから民事は後回しでいい、という考え方は危険です。

民事でできることを整理すると、大きく次の3つです。

  • 不法行為に基づく損害賠償請求:脅迫的言動によって生じた精神的苦痛・業務損害に対して金銭賠償を求める
  • 接触禁止の仮処分(保全処分):緊急性が高い場合、裁判所に相手方との接触を禁止する仮処分を申し立てる
  • 内容証明郵便による通知:弁護士名義で「これ以上の連絡・要求には法的措置を取る」と明示し、相手の行動を牽制する

これらは刑事手続とは独立して進められます。警察に相談しながら、弁護士が民事の手を打つことも可能です。

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なぜ経営者の判断ミスが起きるのか

【図解】「脅迫」は刑事だけの問題ではないへの対応フロー

① 問題発生
② 事実確認・記録
③ 顧問弁護士に相談
④ 対応策の実行

※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。

相談が遅れるケースには、構造的な理由があります。

まず、「一時的なことだろう」という期待です。怒鳴り込んできた取引先が、少し時間をおけば落ち着くかもしれない。そう考えて連絡を無視したり、ひとまず場を収めようと対応したりしているうちに、相手の要求がエスカレートしていく。

次に、「こちらにも後ろめたさがある」という心理です。元従業員に対して契約解除や未払いがあった。取引先に迷惑をかけた事実がある。そういう状況では、「先に謝れば終わるのでは」と考えてしまいます。しかし相手が脅迫的な言動をとっているなら、それは別問題です。こちらに非があることと、脅迫行為が許されることはまったく別の話です。

さらに深刻なのが、「相手の弱みを握られている」ケースです。「あの件を税務署に言うぞ」「従業員の労働問題を暴露するぞ」——こういった言葉で口を封じようとする相手に対して、会社側が委縮してしまうことがあります。こうなると、相談自体をためらうようになります。

そして最大の問題は、その間に証拠が消えていくことです。

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問題が起きる前にできること

脅迫リスクは、事前の取り決めと記録の習慣で大幅に軽減できます。

契約書の整備が出発点です。業務委託契約・取引基本契約において、トラブル発生時の連絡方法・解決手続・禁止行為を明記しておくだけで、相手が過激な言動をとりにくくなります。「書面での通知のみ有効」と定めておけば、「電話で言った・言わない」の争いも防げます。

社内のルール化も重要です。クレームや脅迫的な言動を受けた場合の初動フローを決めておく。誰が記録し、誰が対応し、誰が弁護士に連絡するのかを事前に定めておくことで、いざというときに現場が委縮せずに動けます。

顧問弁護士との事前共有も有効です。「この取引先と最近雰囲気が悪い」「元従業員から変なメッセージが来ている」という段階で相談できる関係があれば、本当に問題が起きる前に手が打てます。揉めてから弁護士を使うのではなく、揉めないように弁護士を使うというのが、今の時代の正しい使い方です。

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問題発生時の対応フロー|証拠の残し方を具体的に

脅迫的な言動を受けたとき、経営者がすべき動きを順番で整理します。

ステップ1:記録する

まず最初にすべきことは、記録です。感情的になりがちな状況でも、記録だけは冷静にとってください。

  • 電話・LINE・メール:スクリーンショットや録音を残す(日時・相手の言葉を正確に)
  • 直接訪問・対面:その場で録音する、終わった直後に日時・内容・相手の発言をメモする
  • 目撃者がいる場合:氏名・当時の状況を記録し、後日陳述書を作れる準備をする

証拠は、紛争になってから急に作れるものではありません。「あのとき録っておけばよかった」という後悔が最も多いのがこの場面です。

ステップ2:支払わない・単独で交渉しない

相手が金銭を要求してきた場合、一部でも支払うと「次の要求」につながります。また、弁護士を挟まずに単独で交渉すると、言った言わないの水掛け論になったり、不利な合意をしてしまったりするリスクがあります。要求には「弁護士に確認してから回答する」とだけ伝え、その場での返答を避けることが重要です。

ステップ3:弁護士に相談し、対応窓口を一本化する

弁護士が代理人として入ることで、相手への連絡窓口を一本化できます。以後、相手は弁護士に対してしか連絡できなくなります。これだけで、直接の脅迫的言動はほぼ止まります。

ステップ4:状況に応じて刑事・民事の手を選ぶ

弁護士と相談しながら、刑事告訴・内容証明・仮処分申請・損害賠償請求訴訟の中から、状況に応じた手を選んでいきます。どれが最善かは、相手の属性・要求内容・証拠の量によって変わります。

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失敗事例の構造|なぜ相談が遅れたのか

実際の相談を通じて見えてくる、失敗パターンがあります。

ケース:要求を一部飲んで、さらにエスカレートした事例

ある経営者は、元業務委託者から「強制解雇だ、金を払え」と迫られ、40万円台を支払いました。これで終わると思っていたところ、相手は「まだ足りない」と追加の要求を始めました。「今から家に行く」「潰すぞ」という言葉も飛び出し、相手が反社会的勢力とつながっている可能性も示唆されました。

この経営者が弁護士に相談するまでに時間がかかった理由は、「最初の支払いで和解が成立したと思っていた」「相手の住所が不明で、どこに法的手段を向ければいいかわからなかった」「自分の会社にも問題があると指摘されていて、表に出したくなかった」という三重の理由からでした。

問題は、この間にも相手の要求内容・言動の記録が不十分なまま時間が過ぎたことです。相談が遅れれば遅れるほど、証拠として使える会話記録は少なくなります。

弁護士が介入してからは、代理人として窓口を一本化し、直接の接触をまず断ちました。相手の住所は弁護士法に基づく照会手続きで特定し、書面での正式な通知を行いました。要求には一切応じない方針を明確にしたことで、相手の言動は収束していきました。

この事例が示す教訓は明確です。最初の一部支払いが「解決」ではなく「次の要求の呼び水」になる。そして、自社に後ろめたさがあっても、それは脅迫行為を黙認する理由にはならない。この二点です。

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結局、うちの会社ではどう考えればいいのか

脅迫的な言動を受けた経営者に、最初に考えてほしい問いがあります。

「今動かなかったら、3ヶ月後はどうなっているか」

相手が要求をエスカレートさせている間、会社の経営者は精神的に消耗し続けます。従業員にも影響が出ます。何より、証拠は日々薄れていきます。

「まだ大ごとにしたくない」という気持ちは理解できます。しかし、脅迫行為を受けた時点で、すでに「大ごと」は始まっています。その認識を早く持てるかどうかが、結果を大きく変えます。

経営者が一人で抱え込まなければいけない問題は何一つありません。弁護士に相談することは「負けを認める」ことでも「大げさにする」ことでもありません。判断の質を上げるために専門家を使う、それだけのことです。

相談すればするほど、会社は強くなります。逆に、相談しない時間が長いほど、リスクは積み上がっていきます。

再発防止策|一件収まった後に整えるべきこと

脅迫トラブルが収束した後こそ、落ち着いて体制を整えるタイミングです。

  • 契約書の見直し:業務委託・取引先との契約に、禁止行為条項・解除事由・書面連絡の原則を明記する
  • クレーム・脅迫対応フローの文書化:現場が迷わず動けるよう、初動の手順をルール化する
  • 反社チェックの仕組み化:新規取引先・業務委託者に対して反社会的勢力との関係を確認する手続きを整える
  • 証拠保全の習慣化:問題の兆候が見えた時点から記録をとる文化を社内に定着させる
  • 相談できる体制の整備:「問題が起きてから弁護士を探す」ではなく、日常的に相談できる関係を作っておく

これらは、一度整えてしまえばそれほどコストがかかるものではありません。しかし整えていないと、次のトラブルが起きたときにまた同じ判断ミスが起きます。

脅迫トラブルは繰り返すリスクがあります。「変な人に目をつけられる会社」になってしまうかどうかは、対応の仕方と社内体制次第です。一件対応で終わらせず、体制ごと変えることが本当の解決です。

脅迫や不当要求への対応は、一件ごとのスポット対応だけでは根本的な解決になりません。業務委託契約や取引基本契約への禁止行為条項の組み込み、クレーム・脅迫対応フローの文書化、そして何より「問題の兆候が出た段階で即座に相談できる体制」が必要です。顧問弁護士がいれば、契約書のチェックから、いざというときの初動判断まで、継続的に会社を支えることができます。弁護士法人ブライトでは、顧問先140社の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが顧問先企業の「みんなの法務部」として機能します。困ってから探すのではなく、困る前から使う体制が、最もコストパフォーマンスの高いリスク管理です。

よくある質問

Q. 脅迫を受けたが、証拠がほとんどない。今から何かできますか?

A. 証拠が少なくても、まず弁護士に相談することが重要です。弁護士名義の内容証明郵便を送ることで相手の言動を牽制しながら、今後の記録を適切に残す方法を一緒に考えられます。証拠は今この瞬間からでも作り始められます。ただし、時間が経つほど証明が難しくなるのも事実です。早期の相談が選択肢を広げます。

Q. 「警察に行っても何もしてくれなかった」という話を聞きます。それでも刑事相談すべきですか?

A. 警察が動かない場合でも、民事の手段は残っています。弁護士が代理人として介入することで、相手への直接の接触を断ち、書面での対応に切り替えることができます。刑事告訴・被害届の提出は民事と並行して進めることも可能です。どちらが有効かは状況次第ですので、両方の選択肢を弁護士と一緒に整理することをお勧めします。

Q. 相手から「お前の会社の不正を告発するぞ」と言われています。これも脅迫になりますか?

A. 自社の問題点を公表すると脅して金銭を要求する行為は、恐喝罪(刑事)や不法行為(民事)にあたる可能性があります。ただし、相手が本当に指摘している問題が実在する場合、自社側の対応も同時に検討が必要です。こうした複合的な状況こそ、弁護士と早期に相談することで、全体の方針を整理できます。

Q. 元業務委託者から脅迫されています。従業員とは対応が違いますか?

A. 労働法上の保護が適用されないという点で、業務委託者・元業務委託者への対応は従業員と異なります。一方で、民事上の不法行為責任・脅迫罪の成否は雇用形態に関係なく判断されます。契約解除の有効性と、脅迫行為への対応は別の問題として切り分けて考えることが重要です。

和氣良浩 弁護士

この記事の監修者

和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士

弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒

専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生

「みんなの法務部」というブライトの考え方

中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームで、140社の顧問先と向き合っています。

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