交通事故で車が損傷した場合、修理費以外に評価損(格落ち損)を請求できることがあります。この評価損を証明する書類として、「一般財団法人日本自動車査定協会の事故減価額証明書」が存在します。しかし、この証明書さえ取得すれば評価損が必ず認められるわけではありません。裁判例では、査定協会の査定価格を基に評価損を認定した例がある一方、証明書の評価根拠が明らかでないとして採用を否定した例もあります(園部厚著『交通事故物的損害の認定の実際』4章参照)。
- 査定協会の事故減価額証明書で評価損を認定した裁判例あり(神戸地判平11・1・27交民集32巻1号198頁)
- 一方、証明書の評価根拠が不明として否定した裁判例もあり(東京地判平18・1・24交民集39巻1号70頁)
- 証明書は「有力な証拠の一つ」であって、それだけで勝負は決まらない
- 裁判例を踏まえた主張立証が必要——だから弁護士への相談が重要
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一般財団法人日本自動車査定協会とは
一般財団法人日本自動車査定協会(略称:JAAI)は、自動車の価値査定に関する専門機関です。事故車両について、事故前の状態に修理復元した後の状態での評価損(事故減価額)を証明する「事故減価額証明書」を発行しています。
同協会は国土交通大臣の指定を受けた中古自動車査定士の資格認定機関であり、中古車市場における車両価値の査定について一定の専門性・公的信頼性を持っています。交通事故の物損交渉・訴訟において、この証明書が証拠として提出されることがあります。
事故減価額証明書とは何か
証明書の目的と内容
事故減価額証明書は、交通事故で損傷を受けた車両について、修理後に生じる中古車市場における評価損(格落ち損)の額を証明する書面です。具体的には、車種・初度登録年月・走行距離・損傷部位・修理費用などを基礎として、査定士が事故による評価の下落額を算出します。
保険会社との示談交渉において「評価損を認めない」とする主張に対し、客観的な数値根拠として提示することが主な目的です。
証明書の取得方法・費用・期間
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申請者 | 車両所有者本人(代理人も可) |
| 申請先 | 一般財団法人日本自動車査定協会の各都道府県査定会等(大阪府・関西地区も設置あり) |
| 必要書類 | 車検証・修理明細書または修理見積書・損傷部位の写真等 |
| 費用目安 | 査定料として数万円程度(車種・損傷規模等により変動。協会窓口に要確認) |
| 所要期間 | 査定の申し込みから証明書交付まで数週間程度(案件の複雑さによる) |
| 取得タイミング | 修理完了後(修理前の状態では査定できない場合がある) |
取得にあたっては、修理明細書や損傷写真を事前に整えておくことが重要です。証明書の評価根拠として、修理箇所・損傷部位の情報が査定額に影響します。
評価損の2種類——技術上の評価損と取引上の評価損
評価損には、実務上2種類があります(専門書・実務書参照)。

| 種類 | 内容 | 認定される主なケース |
|---|---|---|
| 技術上の評価損 | 修理しても機能・外観に欠陥が残存する損害 | 骨格(フレーム)損傷で歪みが残る場合等 |
| 取引上の評価損 | 修理により欠陥は残存しないが、事故歴・修理歴により中古市場での評価価値が下がる損害 | 高級車・外車・新車購入直後の事故等 |
実務上、主に問題となるのは取引上の評価損です(専門書参照)。保険会社は「修理したのだから価値は元に戻った」と主張しますが、中古車市場では事故歴・修理歴があるだけで買取価格が下がることは一般的に知られており、この損害が評価損の核心です。
保険会社が「払えない」と言っても諦めないでください。弁護士が裁判例を示して交渉・訴訟を行います。
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裁判例(一)——査定協会の証明書を基に評価損を認定した例
園部厚著『交通事故物的損害の認定の実際』第4章「4. 一般財団法人日本自動車査定協会作成の事故減価額証明書等の査定価格について」に収録された裁判例から、査定協会の査定価格を基に評価損を認定した例を紹介します。
神戸地判平11・1・27交民集32巻1号198頁——査定協会の査定額をそのまま認定
事故の2か月弱前に初度登録された、事故までの走行距離約3,600kmのキャデラックについて、財団法人日本自動車査定協会が修理費用(315万円)による修理復元後の状態で35万3,000円の評価損が発生している旨の査定をし、これらの事実と修理費用を併せ考えると、35万3,000円を事故による評価損と認めるのが相当であるとした(神戸地判平11・1・27交民集32巻1号198頁)。
この裁判例の特徴は以下の点にあります:
- 初度登録から2か月弱・走行距離3,600kmという購入直後の高級外車であること
- 査定協会の評価書において評価根拠が確認できる案件であり、裁判所が査定額をそのまま採用したこと
- 修理費315万円に対し35万3,000円(約11%相当)の評価損を認定
裁判例(二)——査定協会の証明書では足りなかった例
同じく園部厚著『交通事故物的損害の認定の実際』第4章から、査定協会の証明書を提出したにもかかわらず、評価損の算出根拠として採用されなかった裁判例を紹介します。
東京地判平18・1・24交民集39巻1号70頁——「評価根拠が明らかでない」として否定
原告会社は、訴外C作成の個別査定書および財団法人日本自動車査定協会作成の「中古自動車事故減価証明」と題する書面を提出して評価損の額を主張した。しかし裁判所は、「いずれも価格査定の拠及び妥当性が明らかであるとはいえないから、直ちに上記各書面記載の査定価格に基づいて評価額を算出することはできないといわざるを得ない」として、査定額に基づく評価損の算出を否定した(東京地判平18・1・24交民集39巻1号70頁)。
また、東京地判平18・7・31(平18(ワ)33328 判例秘書)においても、評価損の請求に際し一般財団法人A査定協会作成の証明書が提出されたが、「その評価根拠等が必ずしも明らかでないとして採用せず、評価損を認めない」とした(同書収録)。
否定された事例からわかること
この裁判例から、以下の重要な教訓が得られます:
- 査定協会の証明書の数字だけを提出しても、根拠・算定方法が不明瞭であれば採用されない
- 証明書は証拠の「出発点」であり、なぜその金額になるのかの合理的説明が必要
- 車種・初度登録年・走行距離・損傷部位・修理費用等との関係性を整合させる主張立証が不可欠
- 他の裁判例(修理費の何割か等)と照らし合わせた客観的な根拠づけが効果的
査定書の数字を裁判例と結びつけ、説得力ある主張立証を行うのが弁護士の仕事です。
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証明書の「限界」——実務上の3つの壁
壁①:評価根拠の透明性が問われる
前述の東京地判平18・1・24のように、査定協会の証明書でも「評価根拠・妥当性が明らかでない」と判断されることがあります。査定士の主観的評価に依存する部分があり、どのような基準・計算方法で算出したかが証明書の記載だけでは読み取れないケースがあります。
壁②:保険会社は証明書の存在を理由に払う義務を負わない
証明書を保険会社に提示しても、「査定協会の評価は参考に過ぎない」「当社の支払基準に評価損の項目がない」として拒絶されることがあります。任意保険の支払基準は修理費・代車費用等を中心に設計されており、評価損は原則として支払対象外とされているのが実態です。
壁③:車種・年式・走行距離によって認定が左右される
評価損を認定するかどうかは、最終的に裁判所が個別事情を踏まえて判断します。査定協会の証明書の有無にかかわらず、以下の要素が評価損の認定に大きく影響します(園部本収録の多数の裁判例参照):
- 初度登録からの経過期間(3年以内程度が認められやすい目安)
- 走行距離(少ないほど有利・7万km超では認められにくい傾向)
- 車種・購入価格(高級輸入車・外車は認められやすい)
- 骨格(フレーム)損傷の有無(骨格部分への波及が認定に有利)
- 修理費用の大きさ(修理費を基準として評価損割合を算定するケースが多い)
評価損が認められやすい条件と目安
専門書(園部厚著『交通事故物的損害の認定の実際』)に収録された裁判例を踏まえると、評価損の認定傾向は以下のとおりです。
| 評価損の割合目安 | 主な条件 | 裁判例(参考) |
|---|---|---|
| 修理費の40〜50%程度 | 新車納車直後・骨格損傷あり・高額車両 | 東京地判平12・3・29(新車納車直後・修理費の40%認定)/横浜地判平24・10・29(納車1週間未満・修理費の50%認定) |
| 修理費の30%程度 | 初度登録1年以内・外国製高級車・骨格損傷の有無を問わず | 東京地判平18・1・24(BMWの修理費の30%)/京都地判平18・9・22(ベンツCL600・51万7230円)/大阪地判平14・4・25(外国製大型自動二輪・新規登録20日で修理費3割) |
| 修理費の20%程度 | 初度登録から2〜3年・外車・骨格部分への損傷あり | 岡山地判平18・1・19(修理見積額の2割を認定)/神戸地判平22・5・11(修理費の20%・25万0520円) |
| 修理費の10%程度 | 初度登録から3〜5年・外車または高額国産車 | 名古屋地判平22・7・9(修理費の1割・19万2794円)/京都地判平11・7・6(ベンツE320・車両価格650万円の1割) |
| 認められにくい | 初登録から6年以上・走行距離7万km超・国産小型車・損傷軽微 | 大阪地判平6・8・24(国産車・走行3920km・評価損0円)/東京地判平25・10・23(高級外車も登録6年半超で否定) |
上記はあくまでも傾向であり、個別事案の事情によって結論が変わることがあります。「年式が古いから無理」と自己判断せず、弁護士への相談をお勧めします。
弁護士に依頼すると評価損以外にも増える
遅延損害金(事故日から年3%)
交通事故による損害賠償請求権は不法行為に基づくため、事故日から遅延損害金(法定利率年3%・現行民法)が加算されます。示談では保険会社は遅延損害金を乗せてきません。訴訟・訴訟前提の和解で初めて満額に乗る項目です。
弁護士費用相当損害金(認容額の約1割)
不法行為訴訟では、認容額の約1割を弁護士費用相当損害金として加算するのが判例の扱いです。ただし、物損のみの事案では認められない裁判例もあります。人身損害と併存する案件や高額物損案件では認められやすいとされています。
弁護士費用特約の活用——注意点あり
弁護士費用特約がある場合、評価損を含む物損交渉・訴訟でも特約を使えることが一般的です。ただし、以下の点に注意が必要です。
弁特なし——弁護士費用相当損害金が自腹回避になる
弁護士費用特約をお持ちでない場合でも、訴訟・訴訟前提の和解では弁護士費用相当損害金(認容額の約1割)が相手方から支払われることがあります。また遅延損害金(事故日から年3%)は誰でも純増になります。
弁特あり——精算(返金・控除)が必要なケースがある
弁護士費用特約がある場合、判決や和解で相手方から弁護士費用相当額が支払われたときは、特約の保険会社との間で精算(返金・控除)が必要になることがあります。弁護士費用特約と弁護士費用相当損害金の両方を二重に受け取ることはできません。一方、遅延損害金は誰でも純増となり、精算の対象にはなりません。
弁護士費用特約をご利用の場合、判決などで相手方から弁護士費用相当額が支払われたときは、特約の保険会社との間で精算(返金・控除)が必要になることがあります。二重に受け取れるものではありません。詳しくはご相談ください。
弁護士費用特約の仕組みや活用方法については以下もご参照ください。
弁護士法人ブライト 交通事故専門チームの強み
- 交通事故主任:松本洋明弁護士(修習63期・登録2010年)が評価損交渉・訴訟の主担当
- 代表:和氣良浩弁護士(弁護士歴20年以上)が監修
- 弁護士歴平均14年以上のチームが担当
- 査定協会の証明書活用から裁判例に基づく主張立証まで一貫してサポート
- 着手金0円・完全成功報酬制(交通事故)
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よくある質問(FAQ)
Q1. 日本自動車査定協会の事故減価額証明書はどこで取得できますか?
一般財団法人日本自動車査定協会の各都道府県査定会等に申請します。大阪・近畿地区にも窓口があります。車検証・修理明細書・損傷写真等の準備が必要です。費用は数万円程度(案件によって異なります)。修理完了後に取得するのが一般的です。
Q2. 証明書があれば評価損は必ず認められますか?
必ずしも認められるわけではありません。裁判例(東京地判平18・1・24等)では、査定協会の証明書を提出したにもかかわらず「評価根拠の妥当性が明らかでない」として採用を否定した例があります。証明書は重要な証拠の一つですが、裁判例に基づく主張立証が必要です。
Q3. 保険会社に証明書を出しても「払えない」と言われました。
任意保険の支払基準に評価損の項目がなく、保険会社が証明書だけでは動かないことは珍しくありません。弁護士が裁判例を示して交渉・訴訟を行うことで、評価損が認められた事例が多数あります。諦めずにご相談ください。
Q4. 国産車でも評価損と査定協会の証明書は使えますか?
国産車でも評価損請求は可能であり、査定協会の証明書の取得自体は可能です。ただし、専門書の裁判例では外国車・高級国産車に認定事例が多く、5ナンバーの小型乗用車は否定事例も多い傾向にあります。個別事情(年式・走行距離・損傷部位)を踏まえた判断が必要です。
Q5. 評価損の時効は何年ですか?
物損の損害賠償請求権の時効は、損害および加害者を知った時から3年です(民法724条)。事故から3年が経過する前にご相談ください。なお、人身傷害(身体への損害)は改正民法により知った時から5年に延長されていますが、物損部分は3年のままです。
Q6. 弁護士費用特約があれば評価損の交渉・訴訟も使えますか?
はい、弁護士費用特約は物損(評価損を含む)の交渉・訴訟にも使えることが一般的です。ただし特約の補償限度額(通常300万円)の範囲内となります。また、訴訟で相手方から弁護士費用相当額が支払われた場合は特約保険会社との精算が必要になります。
Q7. 評価損請求に必要な書類を教えてください。
主な必要書類は①車検証(初度登録年月・車種・型式確認)②修理明細書・修理見積書(修理費の根拠)③損傷箇所の写真(骨格部分への影響確認)④走行距離の記録(車検記録・整備記録等)⑤査定協会の事故減価額証明書(取得できた場合)——です。弁護士が書類整理・主張立証をサポートします。
査定協会の事故減価額証明書は有力な証拠の一つですが、それだけで評価損が認められるわけではありません。裁判例を踏まえた主張立証には弁護士のサポートが不可欠です。
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監修弁護士
執筆:松本 洋明(まつもと ひろあき)弁護士
弁護士法人ブライト 交通事故主任。大阪弁護士会所属。登録2010年・修習63期。
監修:和氣 良浩(わけ よしひろ)弁護士
弁護士法人ブライト 代表弁護士。大阪弁護士会所属。弁護士歴20年以上。顧問先130社以上の実績。




