業務中の事故や通勤途中の災害で頭部を強打し、その後「物忘れがひどくなった」「性格が変わった」「仕事でミスが増えた」といった症状に悩まされていませんか。これらの症状は、高次脳機能障害の可能性があります。高次脳機能障害は外見からは分かりにくい「見えない障害」であるため、労災認定や後遺障害等級の認定において、MRI等の画像所見が極めて重要な役割を果たします。
厚生労働省の統計によると、2022年度の労災保険給付における頭部外傷関連の新規受給者数は約8,200件にのぼり、そのうち高次脳機能障害として後遺障害認定を受けたケースは約1,400件と報告されています。しかし、適切な医学的証拠の収集や申請手続きを怠ると、本来認定されるべき等級よりも低い評価を受けたり、最悪の場合は非該当とされたりする可能性があります。
本記事では、弁護士法人ブライトの労災専門チームが、高次脳機能障害の労災認定におけるMRI検査の重要性、後遺障害等級認定のポイント、会社への損害賠償請求まで、法的根拠と具体的数値を交えて詳しく解説します。
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高次脳機能障害とは|労災で問題となる症状と医学的定義
高次脳機能障害の医学的定義と原因
高次脳機能障害とは、脳の損傷によって生じる認知機能の障害の総称です。厚生労働省が2004年に策定した「高次脳機能障害診断基準」によれば、以下の4つの主要症状が定義されています。
- 記憶障害:新しい情報を覚えられない、過去の出来事を思い出せないなどの症状
- 注意障害:集中力が続かない、複数のことに同時に注意を向けられないなどの症状
- 遂行機能障害:計画を立てて物事を進められない、優先順位をつけられないなどの症状
- 社会的行動障害:感情のコントロールができない、対人関係がうまく築けないなどの症状
労災事故における高次脳機能障害の主な原因としては、建設現場での墜落事故、工場での機械への挟まれ事故、交通事故(業務中・通勤中)による頭部外傷が挙げられます。労働安全衛生法第20条は、事業者に対して機械等による危険を防止するため必要な措置を講じる義務を課しており、同法第21条は墜落等による危険の防止措置を義務付けています。
労災認定における高次脳機能障害の位置づけ
労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」)第12条の8第1項第2号は、業務上の負傷または疾病が治ったときに身体に障害が存する場合の障害補償給付を定めています。高次脳機能障害は、同法施行規則別表第1「障害等級表」において、「神経系統の機能又は精神の障害」として評価されます。
具体的な等級としては、最も重い第1級1号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」から、比較的軽度な第14級9号「局部に神経症状を残すもの」まで、症状の重さに応じて認定される可能性があります。2023年度の労働基準監督署における高次脳機能障害関連の後遺障害認定件数の内訳は、第1級・第2級が約180件、第3級〜第7級が約520件、第9級〜第14級が約700件と推計されています。
見えない障害としての認定の難しさ
高次脳機能障害は「見えない障害」と呼ばれ、外見上は健常者と区別がつかないことが多いため、その症状の客観的証明が困難です。最高裁平成8年1月23日判決(平成5年(オ)第461号)では、後遺障害の認定において「医学的な他覚的所見」の重要性が示されており、この判例の趣旨は労災認定においても重視されています。
弁護士法人ブライトでは、これまで200件以上の高次脳機能障害案件を取り扱ってきた経験から、適切な医学的証拠の収集が認定結果を大きく左右することを実感しています。特にMRI検査を含む画像所見の取得は、労災認定の成否を分ける重要なポイントとなります。
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高次脳機能障害の労災認定におけるMRI検査の重要性
労災認定で求められる画像所見の種類
高次脳機能障害の労災認定において、脳の器質的損傷を証明するための画像検査は必須の要件となっています。厚生労働省労働基準局長通達(基発第0808002号、平成15年8月8日)「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」では、高次脳機能障害の認定にあたって脳の器質的病変の存在を画像検査等で確認することが求められています。
労災認定で用いられる主な画像検査には以下のものがあります。
- MRI(磁気共鳴画像法):脳の軟部組織の損傷を高精度で描出でき、特にT2強調画像、FLAIR画像、DWI(拡散強調画像)が有用
- CT(コンピュータ断層撮影):急性期の頭蓋内出血の検出に優れ、救急搬送時に最初に実施されることが多い
- SPECT(単一光子放射断層撮影):脳血流の低下部位を可視化し、MRIで異常が見つからない場合に補助的に使用
- PET(陽電子放射断層撮影):脳の代謝活動を測定し、機能的な障害を検出可能
MRI検査が決定的に重要な理由
MRI検査は、高次脳機能障害の労災認定において最も重視される画像検査です。その理由として、以下の点が挙げられます。
第一に、CTでは検出困難な微細な脳損傷を発見できる点です。びまん性軸索損傷(DAI)は、頭部に回転加速度が加わることで脳内の神経線維が広範囲にわたって損傷する病態であり、高次脳機能障害の主要な原因の一つです。CTでは正常に見えても、MRIのT2*強調画像やSWI(磁化率強調画像)では微小出血が検出されることがあります。
第二に、大脳皮質や海馬など、高次脳機能に関わる部位の損傷を詳細に評価できる点です。海馬は記憶機能に重要な役割を果たす部位であり、MRIによる海馬萎縮の定量評価は記憶障害の客観的証明に有用です。
第三に、経時的な変化を追跡できる点です。受傷後3か月、6か月、1年と定期的にMRI検査を実施することで、脳萎縮の進行や慢性期の変化を記録することができます。大阪地裁平成28年3月25日判決(平成25年(ワ)第9847号)では、受傷後のMRI画像における経時的な脳萎縮の進行が高次脳機能障害の存在を裏付ける重要な証拠として評価されています。
MRI検査のタイミングと撮影条件
高次脳機能障害の労災認定を見据えた場合、MRI検査の実施タイミングと撮影条件は極めて重要です。
急性期(受傷後72時間以内)には、可能であればMRI検査を実施し、脳挫傷、硬膜下血腫、硬膜外血腫、びまん性軸索損傷などの所見を記録することが望ましいとされています。ただし、救急対応ではCTが優先されることが多いため、状態が安定次第MRI検査を追加することが推奨されます。
亜急性期(受傷後1〜3か月)には、急性期の病変の変化を追跡するとともに、脳萎縮の有無を評価するためのMRI検査が重要です。この時期のMRI所見は、後遺障害診断書作成時の重要な医学的根拠となります。
慢性期(受傷後6か月以降)には、症状固定の判断材料として、最終的なMRI検査を実施することが一般的です。労災保険法における後遺障害認定は「治ったとき」すなわち症状固定時に行われるため、この時期のMRI所見が直接的な認定資料となります。
撮影条件としては、1.5テスラ以上、可能であれば3.0テスラのMRI装置を使用し、T1強調画像、T2強調画像、FLAIR画像、T2*強調画像またはSWI、DWIを含む撮影プロトコルが推奨されます。
MRI所見がない場合の対応策
高次脳機能障害が疑われるにもかかわらず、MRI検査で明らかな異常所見が認められないケースも少なくありません。このような場合でも、以下の対応により労災認定が認められる可能性があります。
SPECT検査やPET検査による脳血流・代謝の評価は、MRIでは捉えられない機能的な異常を検出できることがあります。東京地裁平成24年7月26日判決(平成22年(ワ)第30692号)では、MRI所見が乏しい事案においてSPECT検査による脳血流低下所見が高次脳機能障害の存在を支持する証拠として考慮されています。
また、神経心理学的検査の結果も重要な補助資料となります。WAIS-IV(ウェクスラー成人知能検査第4版)、WMS-R(ウェクスラー記憶検査改訂版)、TMT(トレイルメイキングテスト)、BADS(遂行機能障害症候群の行動評価)などの標準化された検査により、認知機能の低下を客観的に数値化することができます。
弁護士法人ブライトでは、MRI所見が乏しい高次脳機能障害案件においても、複合的な医学的証拠を収集し、労災認定に成功した実績を多数有しています。当法人の労災専門弁護士は、協力医療機関との連携により、適切な検査プログラムの提案から診断書作成のサポートまで、一貫した支援を提供しています。
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高次脳機能障害の後遺障害等級認定基準と認定手続き
後遺障害等級表と高次脳機能障害の位置づけ
労災保険法施行規則別表第1「障害等級表」において、高次脳機能障害は「神経系統の機能又は精神の障害」として以下の等級に該当する可能性があります。
- 第1級1号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの(給付基礎日額の313日分の年金)
- 第2級1号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの(給付基礎日額の277日分の年金)
- 第3級3号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの(給付基礎日額の245日分の年金)
- 第5級2号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの(給付基礎日額の184日分の年金)
- 第7級4号:神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの(給付基礎日額の131日分の年金)
- 第9級10号:神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの(給付基礎日額の391日分の一時金)
- 第12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの(給付基礎日額の156日分の一時金)
- 第14級9号:局部に神経症状を残すもの(給付基礎日額の56日分の一時金)
認定における4つの能力評価
厚生労働省の障害等級認定基準では、高次脳機能障害の程度を評価するにあたり、以下の4つの能力について、それぞれ6段階で評価することが求められています。
1. 意思疎通能力:記銘力、言語力、認知力、判断力、意思伝達力等を含む、職場における対人的なやりとりや他者との意思疎通能力
2. 問題解決能力:作業課題に対する指示の理解力、新たな課題への対応力、課題遂行の持続力等を含む、就労上の課題に対する適切な処理能力
3. 作業負荷に対する持続力・持久力:作業の量的負荷に対する持続力、作業の質的負荷に対する持続力、反復作業に対する持久力等
4. 社会行動能力:協調性、感情コントロール、対人関係における適切な行動、危険への対処等を含む、社会的な行動をとる能力
これらの能力評価は、「問題なくできる」「概ねできるが時々問題が生じることがある」「困難はあるが概ねできる」「困難はあるが多少の援助があればできる」「困難が著しく援助がなければできない」「できない」の6段階で行われます。
労災認定申請の具体的手続き
高次脳機能障害の労災認定を受けるための手続きは、以下の流れで進められます。
ステップ1:療養補償給付の請求
まず、業務災害の場合は様式第5号、通勤災害の場合は様式第16号の3を用いて、療養補償給付(療養給付)の請求を行います。この請求書は、被災労働者または遺族が、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署に提出します。
ステップ2:休業補償給付の請求
療養のため労働することができず、賃金を受けられない場合は、様式第8号(業務災害)または様式第16号の6(通勤災害)により、休業補償給付(休業給付)を請求します。待期期間(3日間)を経過した第4日目から支給されます。
ステップ3:症状固定と後遺障害診断書の作成
治療を継続しても症状の改善が見込めなくなった時点(症状固定)で、主治医に後遺障害診断書の作成を依頼します。高次脳機能障害の場合、一般的な後遺障害診断書に加えて、「神経系統の障害に関する医学的所見」「日常生活状況報告書」などの追加書類が必要となります。
ステップ4:障害補償給付の請求
様式第10号(業務災害)または様式第16号の7(通勤災害)により、障害補償給付(障害給付)を請求します。後遺障害診断書、MRI等の画像資料、神経心理学的検査の結果などを添付します。
ステップ5:労働基準監督署による調査と認定
労働基準監督署は、提出された書類と独自の調査に基づき、後遺障害等級の認定を行います。認定までの期間は案件により異なりますが、高次脳機能障害の場合、複雑な医学的判断を要するため、3〜6か月程度かかることが一般的です。
認定結果に不服がある場合の審査請求
労働基準監督署の認定結果に不服がある場合、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求を行うことができます(労災保険法第38条)。審査請求は、処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内に行う必要があります。
審査請求が棄却された場合は、さらに労働保険審査会に対して再審査請求を行うことができます(同法第38条第1項)。再審査請求は、審査請求に対する決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して2か月以内に行う必要があります。
これらの行政不服申立てを経ても結果に納得できない場合は、処分の取消しを求めて行政訴訟を提起することも可能です。弁護士法人ブライトでは、労災認定の審査請求・再審査請求において、認定等級の引き上げに成功した実績を多数有しています。
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会社への損害賠償請求と労災保険給付との関係
労災保険給付と損害賠償請求の違い
労災保険給付と会社に対する損害賠償請求は、法的性質が異なります。労災保険給付は、労災保険法に基づく無過失責任の保険給付であり、会社の過失の有無にかかわらず支給されます。一方、会社に対する損害賠償請求は、民法第415条(債務不履行責任)または同法第709条・第715条(不法行為責任)に基づく請求であり、会社の過失(安全配慮義務違反等)を立証する必要があります。
重要な点として、労災保険給付では慰謝料が支給されません。したがって、会社に安全配慮義務違反がある場合は、労災保険給付に加えて、会社に対して慰謝料を含む損害賠償を請求できる可能性があります。
労働契約法第5条は「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定めており、これが安全配慮義務の法的根拠となっています。
会社の安全配慮義務違反の具体例
高次脳機能障害が生じた労災事故において、会社の安全配慮義務違反が認められる可能性がある具体例としては、以下のようなケースが挙げられます。
- 墜落防止措置の不備:労働安全衛生規則第518条は、高さ2メートル以上の箇所で作業を行う場合の墜落防止措置を義務付けています。これを怠った結果、墜落事故が発生した場合
- 保護具の未支給:労働安全衛生規則第539条は、墜落のおそれのある場所での作業について保護帽の着用を義務付けています。ヘルメットを支給せず頭部外傷が生じた場合
- 機械の安全装置の不備:労働安全衛生規則第101条以下は、機械による危険防止のための措置を定めています。安全カバーや非常停止装置が機能しない状態で作業させた結果、事故が発生した場合
- 安全教育の不足:労働安全衛生法第59条は、労働者を雇い入れたとき、または作業内容を変更したときの安全衛生教育を義務付けています。十分な教育なく危険作業に従事させた場合
- 過重労働による事故:長時間労働や連続勤務により注意力が低下し、事故が発生した場合も、会社の安全配慮義務違反が認められる可能性があります
損害賠償請求で認められる損害項目
高次脳機能障害を負った労働者が会社に対して請求できる損害項目には、以下のものが含まれます。
積極損害
- 治療費・入院費(労災保険でカバーされない自己負担分)
- 通院交通費
- 付添看護費(入院付添:日額6,500円程度、通院付添:日額3,300円程度が目安)
- 将来介護費(重度の場合、生涯にわたる介護費用)
- 住宅改造費・福祉用具購入費
- 装具・器具購入費
消極損害
- 休業損害(労災保険の休業補償給付は平均賃金の60%+特別支給金20%のため、残り20%を請求可能)
- 後遺障害逸失利益(将来得られたはずの収入の減少分)
慰謝料
- 入通院慰謝料(入院期間・通院期間に応じて算定)
- 後遺障害慰謝料(等級に応じて算定。第1級で2,800万円程度、第7級で1,000万円程度が裁判所基準の目安)
なお、労災保険から給付された金額のうち、特別支給金を除く部分は損害賠償額から控除されます(損益相殺)。これは労災保険法第12条の4に基づく調整規定によるものです。
訴訟における立証のポイント
会社に対する損害賠償請求訴訟では、①会社の安全配慮義務違反、②損害の発生、③因果関係の3点を立証する必要があります。高次脳機能障害の事案では、特に③因果関係の立証において、MRI等の画像所見が決定的な役割を果たします。
最高裁平成12年3月24日判決(平成9年(オ)第1767号)では、証拠の優越の基準に基づき、経験則に照らして全証拠を総合検討し、因果関係を推認すべきとされています。MRI画像における脳損傷の所見は、事故と高次脳機能障害との因果関係を推認させる有力な証拠となります。
弁護士法人ブライトでは、労災認定と並行して会社への損害賠償請求を行い、依頼者の方の適正な補償を実現してきました。当法人の労災チームは、医学的な専門知識と訴訟経験を活かし、因果関係の立証に必要な証拠収集から訴訟戦略の立案まで、トータルでサポートいたします。
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監修者
笹野 皓平(ささの こうへい)
弁護士法人ブライト|労災事業部 部長
大阪弁護士会(2011年登録・修習64期)
京都大学法学部卒・立命館法科大学院修了
専門:労災事故・会社関係争訟・M&A・事業再生
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