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交通事故の基礎知識

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交通事故の高次脳機能障害|後遺障害認定・等級・慰謝料の完全ガイド【弁護士解説】

この記事の執筆弁護士

弁護士 松本 洋明(弁護士法人ブライト 交通事故主任)

大阪弁護士会所属(登録2010年・修習63期)。交通事故の重症事案・高次脳機能障害・脊髄損傷など立証難易度の高い後遺障害事案を多数経験。

この記事の監修弁護士

弁護士 和氣 良浩(弁護士法人ブライト 代表)

大阪弁護士会所属。弁護士法人ブライト代表。顧問先130社以上の企業法務と並行して、人身事故・労災事案を統括。

最終更新日:2026年5月29日

この記事の結論(30秒でわかる)

  • 高次脳機能障害は、交通事故の頭部外傷後に記憶・注意・遂行機能・社会的行動の障害が残った状態。
  • 後遺障害等級は 1級1号〜9級10号。賠償総額は数百万円〜1億円超まで開きが大きい。
  • 自賠責認定の3要件は (1) 意識障害/健忘の記録 (2) 画像所見 (3) 神経心理学的検査異常
  • 通常MRI正常でも認定事例があり、等級1段で賠償額1,000万円以上変わるため初期戦略が決定的です。
  • 本記事は実務専門書2冊(ぎょうせい刊2009/2020)を主要参考文献とし、素因減額・将来介護費・親族固有慰謝料まで実務目線で網羅します。

交通事故で頭を強く打ったあと、「以前と性格が変わった」「同じことを何度も聞く」「仕事のミスが急に増えた」——ご家族がそう気付いたとき、それは 高次脳機能障害 という後遺障害かもしれません。本人の自覚は乏しく、適切な等級認定には専門的な立証戦略が必要です。

本記事では、定義・4類型・後遺障害等級1〜9級・自賠責認定3要件・神経心理学的検査・慰謝料・親族固有慰謝料・将来介護費用・労働能力喪失率の修正・素因減額・通勤災害クロスを、松本洋明弁護士が実務専門書2冊に基づき解説します。全体像は 後遺障害認定の完全ガイド、横断比較は 神経・感覚系後遺障害完全ガイド

高次脳機能障害とは何か

定義

高次脳機能障害(Higher Brain Dysfunction)とは、脳損傷によって 記憶・注意・思考・判断・行動・感情 などの「高次の脳機能」に障害が残った状態で、「認知の障害」と「人格・行動の変化」が中心です。交通事故では頭部外傷を契機に発症し、本人は障害を自覚しにくく(病識欠如)、ご家族や職場が「事故前と人が変わった」と気付くのが典型像です。専門書①では、本人が訴えない症状をどう客観化するかが訴訟実務上の最大の論点だと指摘されています。

主な原因(受傷機転)

主な原因は (1) 脳挫傷(脳実質の直接損傷)、(2) びまん性軸索損傷(DAI)(回転加速度による神経線維の断裂・通常MRIで映りにくい)、(3) 急性硬膜下血腫・硬膜外血腫(血腫圧迫)、(4) 低酸素脳症(事故時心肺停止等)の4類型。ヘルメット非着用のバイク事故では軽微に見えても後から判明することがあります。

厚労省の行政基準

厚生労働省「高次脳機能障害支援普及事業」の診断基準は、(1) 4類型のいずれかの症状、(2) 画像での外傷の事実、(3) 症状の永続性。自賠責の後遺障害認定はこれと完全一致しませんが、専門書②によれば自賠責は厚労省基準より画像所見と意識障害の客観的記録を重視する傾向です。

【CTA①】ご家族が「事故前と違う」と感じたら

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4類型の症状(記憶/注意/遂行機能/社会的行動)

厚労省の診断基準では症状を 4類型 に整理します。実際の被害者の方は複数類型を併せ持つことが多いです。

類型1:記憶障害

新しいことを覚えられない(前向性健忘)、受傷前の出来事を思い出せない(逆向性健忘)状態。「さっき言ったことを何度も聞く」「予定をメモしないと忘れる」が典型。WMS-RRBMT で評価し、家族日記も立証材料になります。

類型2:注意障害

「集中力が続かない」「2つの作業を同時にできない」が典型。TMTCAT で評価し、仕事のミス増加・運転中の不注意として日常に現れます。

類型3:遂行機能障害

計画立案・段取りよく実行することが難しい状態。「料理の手順が組み立てられない」「複数案件の並行処理ができない」が典型。BADSFABWCST で評価。前頭葉損傷で出やすい症状です。

類型4:社会的行動障害

感情や行動のコントロールが難しくなり対人関係に支障が出る状態。「些細なことで激怒する(脱抑制)」「意欲低下」「空気が読めない」が典型。標準化検査が乏しい ため、家族・職場・主治医の陳述書と生活実態の記録が決定的材料です。社会復帰と家族負担に最も影響します。

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後遺障害等級1〜9級の完全一覧

自賠責の高次脳機能障害は症状の重さに応じて 1級1号〜9級10号 まで認定。等級が1段違うだけで賠償総額は1,000万円以上変わるため、適切な認定が極めて重要です。

等級 状態 労働能力喪失率
別表第1の1級1号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの 100%
別表第1の2級1号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの 100%
別表第2の3級3号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 100%
別表第2の5級2号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 79%
別表第2の7級4号 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 56%
別表第2の9級10号 神経系統の機能又は精神の障害により、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 35%

等級判定の実務的な目安

等級判定は 「意思疎通能力」「問題解決能力」「作業負荷への持続力・持久力」「社会行動能力」 の4能力評価で、神経心理学的検査と日常生活状況報告書から総合判定。1〜2級は常時介護・随時介護、3級は就労困難、5級は単純作業限定の短時間就労、7級は軽易業務可、9級は対人折衝で制限——が実務目安です。

労働能力喪失期間

高次脳機能障害は 器質的脳損傷 に基づくため、原則 症状固定時から67歳までの全期間 労働能力喪失が継続するものとして逸失利益を算定。むちうちの神経症状(14級9号5年・12級13号10年で打ち切り)とは扱いが根本的に違います。

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自賠責認定の3要件

自賠責の高次脳機能障害認定では、以下の 3要件 がすべて確認される必要があります(自賠責「高次脳機能障害審査会」運用基準)。

要件1:受傷直後の意識障害/健忘の記録

頭部外傷の事実を裏付ける 受傷直後の意識障害または健忘 の記録が必要。目安は (a) JCS 3桁またはGCS 12点以下が 6時間以上 持続、(b) JCS 1〜2桁またはGCS 13〜14点が 1週間以上 持続、(c) 外傷後健忘——のいずれか。救急隊記録・初診時カルテ・看護記録 が鍵です。

要件2:画像所見

頭部外傷を画像で確認できることが原則。CTで急性期出血・骨折・浮腫、通常MRI(T1・T2・FLAIR)で脳挫傷・血腫・浮腫を確認。T2*強調画像(SWI) はDAIの微小出血検出に有効、DTI は神経線維損傷を可視化。通常MRI「異常なし」でも専門医療機関での再検査が認定の鍵です。

要件3:神経心理学的検査の異常

標準化された神経心理学的検査で症状を裏付ける異常所見が必要(次の §5 で詳述)。

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神経心理学的検査の使い分け

立証では複数の神経心理学的検査を組み合わせて症状を客観化します。代表的な検査を機能別に整理します。

機能別の主要検査一覧

評価対象 主な検査 用途のポイント
全般的知的機能 MMSE / WAIS-IV / HDS-R MMSE 23点以下が障害疑い。WAIS-IVは4指標で事故前後のIQ比較が可能
記憶機能 WMS-R / RBMT / 三宅式記銘力検査 WMS-Rは記憶障害立証の中心。言語性・視覚性・遅延再生を多面評価
遂行機能・前頭葉機能 FAB / BADS / WCST / TMT-B 前頭葉損傷で出やすい計画立案・柔軟性・問題解決能力を評価
注意機能 TMT-A / CAT / かなひろいテスト 持続性・選択性・分配性注意・処理速度を評価

どの検査を選ぶか・画像との整合

症状像と損傷部位で組み合わせを決めます。前頭葉損傷で社会的行動障害中心なら WAIS-IV+WMS-R+FAB+BADS、記憶障害中心なら WAIS-IV+WMS-R+RBMT。「IQ正常」でも注意・遂行機能障害が残れば立証可能です。専門書②によると、認定実務では 画像所見と神経心理学的検査の整合性 が等級判定の決定打になり、画像が乏しい場合は神経心理検査の異常所見が複数領域にまたがり、受傷直後の意識障害記録および臨床経過と整合することで認定可能性が開けます(専門書②・第3章参照)。

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脳挫傷とびまん性軸索損傷(DAI)の違い

高次脳機能障害の原因となる頭部外傷には 「局所性損傷」「びまん性損傷」 があり、立証戦略の組み立てが大きく違うため両者の区別が必要です。

脳挫傷(局所性損傷)

頭蓋骨内で脳実質が直接損傷を受けた状態。打撃を受けた部位(直撃損傷)とその反対側(対側損傷)に出血・挫滅を生じます。好発部位は前頭葉底部・側頭葉前部。通常CT・MRIで描出でき、損傷部位に対応した症状(前頭葉なら社会的行動・遂行機能障害、側頭葉なら記憶障害)が出ます。

びまん性軸索損傷(DAI / Diffuse Axonal Injury)

頭部に強い 回転加速度 が加わったとき、脳実質内の神経線維(軸索)が広範に損傷を受ける状態。自動車・バイク事故・転倒で典型的に生じます。好発部位は脳梁・大脳皮質下白質・脳幹背側で、通常MRIで映らないことが多く、T2*強調画像・SWI・DTIで初めて検出。認知機能全般の低下と意識障害の遷延が特徴です。

画像が乏しい場合の立証戦略

専門書②によれば、DAI事案では受傷直後の画像で異常が描出されないことが珍しくなく、これが「画像所見なし=非該当」と短絡的に判断されるリスクの根本原因です。画像が乏しい場合の立証は3層で組み立てます(専門書②・第3章参照)。第一に 受傷直後の意識障害・健忘の客観的記録(救急隊記録・初診時GCS・外傷後健忘の継続期間)を救急病院から取り寄せる。第二に T2*強調画像・SWI・DTI再検査 を専門医療機関で実施。第三に 神経心理検査の異常所見と臨床経過(リハビリ記録・職場復帰状況)の整合 を示し、「事故前になかった機能低下が事故後に出現・残存」というストーリーを完結させる。

区別が認定に与える影響

脳挫傷は画像所見が明確で認定ハードルは低い一方、DAIは 「MRI異常なし」と判断されやすく 認定が困難。通常MRI正常でも症状が続く場合は、専門医療機関でのT2*・SWI・DTI再検査を検討。詳しくは MRI正常でも認定された立証パターン

慰謝料3基準・等級別金額目安・親族固有慰謝料

交通事故の慰謝料は 3つの基準 で計算され、どの基準で交渉するかで金額が大きく変わります。さらに重度高次脳機能障害の事案では、被害者本人とは別にご家族(近親者)固有の慰謝料が認められる場合があります。

3基準の概要

自賠責基準任意保険基準弁護士基準(裁判基準・赤本基準)の3層構造で、弁護士依頼により弁護士基準への引き上げが実現します。

等級別の後遺障害慰謝料(弁護士基準・目安)

等級 後遺障害慰謝料(赤本基準)
1級1号 約2,800万円
2級1号 約2,370万円
3級3号 約1,990万円
5級2号 約1,400万円
7級4号 約1,000万円
9級10号 約690万円

※赤本(民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準)の基準額目安。実際の事案では増減があります。

自賠責基準との差

自賠責基準の後遺障害慰謝料は1級1,650万円・9級249万円。弁護士基準との差額(1級約1,150万円・9級約440万円)が 弁護士依頼での増額分 です。

親族固有慰謝料(民法711条と重度後遺障害)

被害者ご本人の慰謝料とは別に、近親者(配偶者・親・子)固有の慰謝料 が請求できる場合があります。民法711条は本来「被害者死亡」の規定ですが、専門書②によれば、重度の高次脳機能障害について「死亡に比肩する精神的苦痛」が認められるときに、最高裁判例の流れに沿って近親者固有慰謝料が肯定される実務運用です(専門書②・第4章参照)。認められやすいのは 1級1号・1級2号など重度認定事案 で、両親または配偶者に各200万円〜500万円程度の認定例がある一方、2級・3級でも日常生活が一定程度可能な事案では否定される例もあります。ブライトでは、ご家族が 介護負担・家族関係の変容・就労継続困難 といった具体的苦痛を抱えているケースで、家族陳述書と生活実態記録を積み上げて請求を検討します。

慰謝料以外の損害項目

慰謝料に加え治療費・休業損害・逸失利益・将来介護費用・装具器具・家屋改造費が認められます。関連:12級13号14級9号

【CTA⑥】ご家族の介護負担・親族固有慰謝料でお悩みの方へ

ご家族が長期間介護を担っている場合、近親者固有の慰謝料請求が可能なケースがあります。

▶ ご家族向け無料相談 0120-927-113

将来介護費用と逸失利益(労働能力喪失率の修正論点)

1〜5級の重度認定では 将来介護費用逸失利益 が賠償の中心で、計算根拠と立証資料の精度が結果を左右します。

逸失利益の基本式

逸失利益は後遺障害がなければ得られたはずの将来収入の減少分。

逸失利益=基礎収入 × 労働能力喪失率 × 喪失期間に対応するライプニッツ係数

基礎収入は事故前年の年収(専業主婦は賃金センサスの女性平均賃金)、喪失期間は 症状固定時から67歳まで が原則、ライプニッツ係数は法定利率3パーセントで中間利息を控除。40歳・年収600万円・5級2号なら600万円×79パーセント×約18.327(27年)≒ 約8,683万円。5級以上では1億円超も珍しくありません。

労働能力喪失率の修正論点

専門書①第3章では、自賠責認定等級と裁判所認定の喪失率が一致しないケース を多数の裁判例から分析。自賠責の基準表(1級100%/5級79%/7級56%/9級35%)は 目安 で、裁判では次の要素により上下修正されます。

  • 職業・職種:知的労働で高次脳機能の影響が大きい職種は喪失率を高く認定する傾向
  • 年齢:若年であるほど将来の昇給機会喪失が大きいと評価
  • 症状の現実的影響:就労継続状況・配置転換・収入減少の実額
  • 残存能力:現に行えている業務範囲・自己努力による補完の程度

5級認定でも職業上の影響が小さいとして引き下げた例、逆に7級認定の知的労働者で症状の現実的影響が大きいとして高く認定した例が紹介されています。職業特性と残存能力を主張立証で積み上げる作業が、賠償額に数千万円単位の差を生みます。

将来介護費用の基本式

将来介護費用は次の計算式で算定されます。

将来介護費用=日額単価 × 365日 × 平均余命に対応するライプニッツ係数

常時介護と随時介護の区別

専門書①第2章では、自賠責の 常時介護随時介護 の区別が裁判での将来介護費認定額に直結する論点として詳述されています。

  • 1級1号・1級2号=常時介護:食事・排泄・入浴のすべてに介助を要する。職業介護人を必要とする想定。
  • 2級1号=随時介護:声かけ・見守りなど断続的介助。近親者介護が中心。
  • 3級以下=原則として介護費否定:ただし例外的に看視費用を認める判例あり(専門書①・第4章参照)。

近親者介護・職業介護の日額相場(裁判基準)

近親者介護は 日額8,000円 を目安に介護内容により 7,000〜15,000円/日 の幅で認定。重度常時介護で介護者負担が極度に大きい事案では日額1万円超の認定例も。職業介護人の場合は 実費相当額として日額1万〜3万円 が相場で、近親者と職業介護の組み合わせ(昼は近親者・夜は職業介護等)で日額を分けて算定する例もあります。

平均余命とライプニッツ係数

将来介護費は 症状固定時から平均余命まで の支出を一括前払いする扱いのため、ライプニッツ係数(法定利率3パーセント)で現在価額に割引。40歳男性なら平均余命約43年・係数約24.0で、日額8,000円×365日×24.0≒約7,008万円が近親者介護のみの場合の概算です。

3級以下でも介護費が認められる場合

自賠責では3級以下に介護費は原則含まれませんが、専門書①第4章では 3級・5級・7級でも個別事情により看視費用が認定された裁判例 が紹介。暴力・徘徊・てんかん発作・自傷他害リスク等で家族による「見守り」が必要とされた事案です。症状の具体性と家族の介護実態を立証することで、看視費用相当額を将来賠償に組み込む余地があります。

争点になりやすい論点(保険会社との交渉)

(1) 近親者介護 vs 職業介護の割合、(2) 平均余命の算定、(3) 将来的改善可能性、(4) 家屋改造費の必要性——の4点が主な争点。保険会社は「将来改善する」「家族介護で足りる」と主張しがちで、家族日記・医療資料・第三者陳述で介護実態を立証することが反論の柱です。

関連:高次脳機能障害で1〜5級が認定されたご家族へ

【CTA⑦】保険会社から賠償提示を受けた方へ

慰謝料・逸失利益・将来介護費用に「漏れ」「過少」がないか診断します。

▶ 提示書面の無料診断 0120-927-113

時効と請求スケジュール(症状固定タイミング)

時効の枠組み(2020年4月1日改正民法以降)

2020年4月1日以降に発生した交通事故では、加害者(任意保険会社)に対する人身損害(治療費・慰謝料など)の損害賠償請求権の消滅時効は、傷害分が事故の翌日から5年後遺障害分が症状固定の翌日から5年に延長されています(民法724条の2)。一方で、自賠責保険への被害者請求の時効は3年のまま据え置かれているため(自賠責法19条)、自賠責への直接請求は3年以内に行うか時効中断の手続が必要です。高次脳機能障害は 後遺障害分の起算点が症状固定日 のため、事故数年後の症状固定→そこから5年(自賠責被害者請求は3年)というスケジュールです。事故から一律「3年」と一括りに理解すると、加害者請求と自賠責請求の起算点・期間を取り違える原因になります。

症状固定の医学的タイミング(年齢別)

専門書①第2章では、症状固定時期は 年齢・受傷機転・症状経過 でばらつきがあり画一的に決められないと指摘されています。実務書の目安は次のとおりです。

  • 一般成人:事故から1〜2年。脳の改善期間(受傷後1〜1年半)に経過観察を加えた範囲で固定性を確認。
  • 小児:脳発達があり評価は慎重。固定時期は成人より遅め。就学・思春期の節目で生活実態への影響を見極める。
  • 高齢者:脳の可塑性が低く固定時期は早めの傾向。加齢性低下と事故由来障害の切り分けが論点。

自賠責運用では、受傷から症状固定まで6ヶ月〜1年、等級認定通知まで症状固定からさらに2〜3ヶ月が目安。早期の症状固定は等級認定上不利に働くため、リハビリ継続と医師との連携で固定タイミングを慎重に判断する必要があります。

請求スケジュールの全体像

急性期治療→リハビリ→症状固定(受傷後1〜2年)→後遺障害診断書→自賠責認定請求→認定通知→任意保険会社との示談交渉→示談または判決で、全体で 2〜4年程度。ご家族の生活支援・成年後見検討を含めた長期的な伴走が必要です。

認定されないケースと異議申立て・立証資料リスト

認定されない典型パターン

(1) 受傷時の意識障害の記録不十分(救急隊・初診カルテに記載なし)、(2) 通常MRIで異常なし(DAI未検査)、(3) 神経心理学的検査が不十分、(4) 日常生活状況報告書が薄い、(5) 事故前の精神科受診歴・既往症で因果関係を争われる——が認定却下の典型です。

症状発現時期の問題

専門書②によれば、症状発現が事故から相当期間後に始まったケース は因果関係立証が特に困難となる類型です(専門書②・第3章参照)。事故直後の救急記録に意識障害の記載がなく退院後の生活で初めて異変に気付いた事案では、「事故由来か別原因か」が中心争点。事故直後の主治医記録・家族の観察記録・職場や学校での評価変化を時系列で再構築し、症状発現の経過を医学的に説明できる構成にまとめる作業が不可欠です。

立証資料リスト(網羅版)

異議申立て・訴訟に向けて整える立証資料は以下のとおりです(専門書②で資料群として整理されています)。

  • 診療録一式:救急記録・手術記録・入院記録・外来カルテ・看護記録・リハビリ記録
  • 画像データ:CT・通常MRI・T2*強調画像・SWI・DTI(必要に応じ追加撮影)
  • 神経心理学的検査結果:MMSE・WAIS-IV・WMS-R・TMT・FAB・BADS・RBMT・WCST・CAT等の生データ
  • 日常生活状況報告書:食事・入浴・排泄・服薬・金銭管理・対人関係の変化の具体記載
  • 第三者陳述書:職場上司・同僚・学校教員等による事故前後の比較陳述
  • 職場・学校の評価書:勤務評価表・成績変化・配置転換記録
  • 主治医意見書:事故前後の能力比較・症状の永続性・他原因の否定
  • 家族日記:症状の出現頻度・介護内容の時系列記録

異議申立ての3つの戦略

非該当・下位等級の場合は 自賠責への異議申立て で覆る可能性。(1) 追加検査(T2*強調画像・DTI等)、(2) 主治医・専門医意見書の取得、(3) 日常生活状況報告書の再構成——の3パターンが王道。詳しくは 異議申立て3つの戦略認定されないと言われた方へ

紛争処理機構・訴訟という選択肢

異議申立てでも結果が変わらない場合、自賠責保険・共済紛争処理機構 申請または 訴訟 の選択肢があります。訴訟では裁判所が独自判断するため自賠責とは違う結論が出ることもあります。

【CTA⑧】認定結果に納得できない方へ

▶ 認定結果の無料診断 0120-927-113

通勤災害クロス(労災連携)の論点

通勤中の事故=労災保険と自賠責の併用

通勤中の交通事故で高次脳機能障害が残った場合、労災保険(通勤災害)自賠責保険 の両方を使えます(第三者行為災害)。労災から療養・休業・障害・介護補償、自賠責・任意保険から治療費・休業損害・慰謝料・逸失利益・将来介護費用が給付され、両保険の給付調整が論点になります。

労災と自賠責の使い分け

同一損害項目の二重給付は不可ですが特徴が異なります。労災は過失相殺の対象外・特別支給金あり・慰謝料なし、自賠責・任意保険は慰謝料項目あり・仮渡金あり。多くの場合、労災で治療費・休業補償・障害補償をカバー任意保険に慰謝料・逸失利益の上積み を請求するハイブリッド戦略が有利です。

「通勤途中の逸脱・中断」の論点

労災適用には「合理的な経路と方法による通勤」が必要で、スーパー立ち寄り・子の送迎などで 逸脱・中断 した後の事故は通勤災害扱いされないことがあります。詳しくは 逸脱・中断と労災適用の境界線

ブライトの労災連携

ブライトには 労災事業部部長の笹野皓平弁護士(修習64期) が在籍し、通勤災害クロス案件では松本弁護士と連携対応。労災給付最大化と任意保険会社交渉を 同一事務所内で完結。顧問先130社以上の企業法務と弁護士歴平均14年以上のキャリアで、ご家族・職場の状況まで含めた総合支援を行います。

【CTA⑨】通勤中の事故で高次脳機能障害になった方へ

▶ 通勤災害×交通事故クロスの相談 0120-927-113

素因減額(既往症・体質的素因と賠償金減額)

賠償金交渉や訴訟で保険会社から「事故前の既往症や体質が損害拡大に影響している」として 素因減額 を主張されることがあります。高次脳機能障害事案では認定獲得後の損害論段階で重要争点となり、減額幅は数百万円〜数千万円規模に及びます。

素因減額とは何か

素因減額とは、民法上の 損害の公平な分担 の観点から、被害者側の身体的・心理的素因(既往症・体質等)が損害の発生・拡大に寄与した場合に寄与度に応じて賠償額を減額する考え方です。専門書①第5章では、認定獲得後の損害論段階で問題となる論点として整理されています。

身体的特徴と「疾患」の区別(最高裁の立場)

専門書①によれば、最高裁判例の流れとして 単なる身体的特徴(首が長い・骨が細い等)は素因減額の対象にしない 方向性が確立しています。素因減額が認められるのは、原則として 治療を要する「疾患」 が損害の発生・拡大に寄与した場合に限られるとの整理で、これが実務の出発点です(専門書①・第5章参照)。

高次脳機能障害で素因減額が問題となる典型ケース

専門書①第5章では、典型ケースが次のとおり類型化されています。

  1. 既往の脳血管疾患:事故前の脳梗塞・脳出血・くも膜下出血などの既往が事故後の認知機能低下にどこまで影響したか。
  2. 先天的・後天的脳形成異常:先天性疾患や過去の頭部外傷後の脳構造変化が損害拡大に影響したか。
  3. アルコール依存・酩酊状態:事故時の飲酒や慢性的摂取が脳の脆弱性に影響したと主張される。
  4. 一酸化炭素中毒等の既往:相当割合の減額が認定された例も紹介。

素因減額の判断要素

素因減額の可否と減額率は次の要素を総合考慮して判断されます(専門書①・第5章参照)。

  • 既往症状が「治療を要する疾患」と評価できるか
  • 事故前に当該疾患が安定していたか進行中だったか
  • 事故と症状増悪との時間的・医学的近接性
  • 診療記録から事故前後の状態を客観的に切り分けられるか

素因減額を主張された場合の弁護士による対応

素因減額を主張された場合、ブライトでは以下の手順で反論・減額幅圧縮に取り組みます。

  1. 既往症と事故損害の医学的因果の切り分け:事故前のカルテ・健診結果から既往症の状態を確認し、事故前安定の立証。
  2. 神経心理検査の事故前後比較資料の収集:事故前の知能検査・健診・職場業績資料で機能低下が事故由来であることを示す。
  3. 主治医意見書による反論立証:寄与度について主治医・専門医の意見書を取得し相手方主張の医学的根拠を弱める。
  4. 判例の対比立証:実務書で整理された類似事案を用い、減額が認められなかった事例を主張に組み込む。

素因減額は「主張されたら諦める」論点ではなく、医学的立証で減額幅を大きく圧縮できます。

【CTA⑩】保険会社から「素因減額」を主張されてお困りの方へ

既往症を理由とした賠償減額主張への反論には、医学的立証と判例分析の戦略構築が必要です。

▶ 素因減額主張への反論相談 0120-927-113

参考文献

  • みらい総合法律事務所 編『交通事故訴訟における高次脳機能障害と損害賠償実務』ぎょうせい、2009年7月(ISBN 978-4-324-08657-5)
  • 松浦裕介・村田佳宏 編著『Q&A 高次脳機能障害の交通事故損害賠償実務』ぎょうせい、2020年8月(ISBN 978-4-324-10839-0)

上記実務書を主要参考文献として参照しました。本文中の「専門書①」「専門書②」はそれぞれ上記書籍を指します。記載内容は2026年5月時点の実務理解に基づくもので、個別事案の判断は弁護士にご相談ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 事故から半年経って症状に気付きました。今からでも認定されますか?

A. 可能性はあります。受傷時の意識障害の記録(救急隊・初診カルテ)と現在の症状を結びつける必要があり、早期の専門医療機関受診と神経心理学的検査がスタートラインです。専門書②でも、症状発現が遅れた事案の立証は時系列の再構築が鍵だと整理されています。

Q2. MRIで「異常なし」と言われましたが、症状は明らかにあります。認定の余地はありますか?

A. DAIは通常MRIで映らないことが多く、T2*強調画像・SWI・DTIで初めて検出されることがあります。専門医療機関での再検査を検討する価値があります。

Q3. 本人は「自分は何ともない」と言っています。それでも申請できますか?

A. 病識欠如は典型症状の一つです。ご家族・職場の陳述書と日常生活状況報告書を中心に立証し、客観的検査結果と生活実態で認定された事例は多数あります。

Q4. 9級と認定されましたが、実態は7級だと思います。どうすればいいですか?

A. 自賠責への異議申立てで等級が上がる可能性があります。詳しくは 異議申立て3つの戦略

Q5. 賠償金は最終的にいくらくらいになりますか?

A. 等級・年齢・収入で大きく変わりますが、5級2号・40歳・年収500万円なら 1億円〜1.5億円程度(慰謝料1,400万円+逸失利益+将来介護費用)が相場感です。

Q6. 重度の認定が出た本人の家族にも、別途慰謝料は認められますか?

A. 認められる可能性があります。専門書②によれば、重度高次脳機能障害について「死亡に比肩する精神的苦痛」が認められるとき、最高裁判例の流れに沿って近親者固有慰謝料が肯定される実務運用が紹介されており、1級事案で両親または配偶者に各200万円〜500万円程度の認定例があります。詳しくは本記事 §7。

Q7. 保険会社から「持病があったから減額する」と言われました。応じる必要がありますか?

A. すぐに応じる必要はありません。専門書①第5章では、素因減額は原則として「治療を要する疾患」が損害拡大に寄与した場合に限られ、単なる身体的特徴は減額対象にしないとする最高裁判例の流れが整理されています。減額幅は主治医意見書等で大きく変わります。詳しくは本記事 §12。

Q8. 弁護士費用が心配です。費用倒れになりませんか?

A. 賠償総額が大きく、弁護士基準と自賠責基準の差額だけで弁護士費用を上回ることがほとんど。弁護士費用特約 付帯なら自己負担なしで依頼できるケースもあります。

Q9. 成年後見人を立てる必要がありますか?

A. 重度で意思能力に問題がある場合、示談交渉や訴訟手続のために 成年後見人 を立てる必要があります。ブライトでは家事事件経験のある弁護士が後見申立てもサポートします。

まとめ

高次脳機能障害は 本人の自覚が乏しく、立証が複雑で、賠償総額が極めて大きい 領域で、初期段階からの戦略が決定的。(1) 受傷時の意識障害記録、(2) 画像検査、(3) 神経心理学的検査、(4) 日常生活状況報告書、(5) 専門医連携——の5本柱に加え、損害論段階での 労働能力喪失率の修正・親族固有慰謝料・素因減額への反論 も欠かせません。ブライトでは松本洋明弁護士(修習63期)が担当、通勤災害クロスは笹野皓平弁護士(労災部部長・修習64期)と連携し、弁護士歴平均14年以上のキャリアでご本人・ご家族の双方を支援します。

【まとめCTA】高次脳機能障害 無料相談

※弁護士費用特約付帯なら自己負担なしで依頼可能。重度案件は出張・訪問も承ります。

関連記事:後遺障害認定の完全ガイド神経・感覚系後遺障害ガイド異議申立て3戦略認定されないと言われた方へ1〜5級の介護費用

  • この記事を書いた人

代表弁護士:和氣 良浩

弁護士法人ブライト代表弁護士: 2006年に独立開業してから交通事故被害の回復に努めてきました。これまで1000件を超える交通事故を解決して参りましたが、被害者が低い賠償金で納得させられているケースをたくさん見てきました。 一人でも多くの被害者が適切な補償を受けられるように情報発信を行っています。

本記事は、一般的な情報の提供を目的とするものであり、個別案件に関する法的助言を目的とするものではありません。また、情報の正確性、完全性及び適時性を法的に保証するものではありません。
なお、本記事の内容に関する個別の質問や意見などにつきましては、ご対応できかねます。ただし、当該記事の内容に関連して、当事務所へのご相談又はご依頼を具体的に検討されている場合には、この限りではありません。

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事務所名 弁護士法人 ブライト(大阪弁護士会所属)
開 業 平成21年(代表弁護士独立開業)
設 立 平成24年11月設立、平成27年1月に法人化
所在地 〒530-0057 大阪府大阪市北区曽根崎2丁目6番6号 コウヅキキャピタルウエスト12階
TEL 0120-931-501(受付時間9:00~18:00)
FAX 06-6366-8771
事業内容 法人向け(法律顧問・顧問サービス、経営権紛争、M&A・事業承継、私的整理・破産・民事再生等、契約交渉・契約書作成等、売掛金等の債権保全・回収、経営相談、訴訟等の裁判手続対応、従業員等に関する対応、IT関連のご相談、不動産を巡るトラブルなど)、個人向け(交通事故・労災事故を中心とした損害賠償請求事件、債務整理・破産・再生等、相続、離婚・財産分与等、財産管理等に関する対応、不動産の明渡し等を巡る問題など)

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