入院の身元保証人に医療費を請求できるか|極度額のない身元保証書が無効になる理由と院内書式の総点検

入院の身元保証人に医療費を請求できるか|極度額のない身元保証書が無効になる理由と院内書式の総点検


和氣良浩 弁護士

この記事の監修者

和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士

大阪弁護士会

取扱分野:顧問弁護士・企業法務・債権回収・M&A・事業再生

病院・医療法人の事務長や医事課の方から、未収金の相談でほぼ必ず出てくるのがこの一言です。「入院のときに身元保証人の署名をもらっているので、そちらに請求したい」。ところが、実際に保証書を拝見すると、請求できる形になっていないことが少なくありません。

分かれ目は極度額(上限額)の記載です。2020年4月1日に施行された改正民法により、個人が保証人となる根保証契約は、極度額(保証人が責任を負う上限額)を定めなければ効力を生じないと規定されました(民法465条の2第2項)。入院時の身元保証書は、これから発生する金額未確定の医療費を保証させるものであることが多く、個人根保証契約にあたると評価される可能性があります。そうであれば、極度額の記載がない保証書は、保証の部分について効力を生じないことになります。

この記事では、大阪で企業法務を扱う弁護士法人ブライトが、医療機関の事務長・医事課の方に向けて、身元保証書のどこを見ればよいか、院内書式をどう直せばよいか、すでに取ってしまった書面をどう扱うかを、条文と厚生労働省通知の原文に沿って整理します。なお、保証書の効力は個々の書面の文言と締結の経緯によって判断が分かれる領域です。この記事は一般的な整理であり、個別の債権について結論を示すものではありませんので、実際の対応は事案ごとに弁護士へご確認ください。

院内の身元保証書、極度額は入っていますか

書式が改正前のまま運用されていると、保証人への請求が空振りに終わることがあります。弁護士法人ブライトは大阪で、医療機関の未収金と院内書式の点検を継続的にお預かりしています。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが対応します。

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結論——極度額の記載がない身元保証書は、保証の部分が効力を生じない可能性がある

まず条文を確認します。

民法465条の2(個人根保証契約の保証人の責任等)※1項・2項

1項 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
2項 個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。

「一定の範囲に属する不特定の債務」にあたるか

465条の2が適用されるのは、保証の対象が不特定の債務である場合です。入院時に取る身元保証書の多くは、「入院中に生じる診療費・入院費その他一切の債務を保証する」といった包括的な文言になっています。入院期間も、実施される検査・手術・投薬も、署名の時点では確定していません。差額ベッド代、食事療養費、オムツ代などの実費も積み上がります。

つまり、署名の時点で金額が確定しておらず、入院の経過に応じて増えていく性質の債務です。この構造は、賃貸借契約の賃料保証や、継続的売買の売掛金保証と同じ形をしています。したがって、入院時の身元保証書は個人根保証契約にあたると評価される可能性が高いと考えられます。

逆に、退院時に金額が確定した医療費について、その特定の金額を第三者が保証する書面であれば、不特定の債務ではないため465条の2の適用は受けません。「いつ・何に対して」署名をもらっているかで結論が変わるのが、この論点の実務上の要点です。

効力を失うのは「保証の部分」であって、書面全部ではない

465条の2第2項は「その効力を生じない」と定めています。ここで効力を生じないのは、極度額の定めを欠く個人根保証契約としての保証です。同じ用紙に書かれている緊急連絡先の指定や、退院時の引き取りに関する約束まで一律に消えると決まっているわけではありません。

ただし、1枚の用紙にすべてが混在していると、どこまでが生きていてどこからが効力を生じないのかを、後から書面の解釈で争うことになります。院内書式を直すときに「条項を分ける」ことをおすすめする理由がここにあります。

書面がなければ、そもそも保証契約は成立しない

極度額以前の前提として、保証契約には書面(または電磁的記録)が必要です。

民法446条(保証人の責任等)

2項 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。
3項 保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。

「入院時に電話で了解をもらった」「家族が口頭で払うと言った」という記録だけでは、保証契約としては成立しません。医事課の記録に残っていても、それは保証の成立を基礎づける書面ではないという整理になります。

「身元保証人」と「連帯保証人」は別物——支払義務は書面の文言で決まる

院内で最も誤解が多いのがここです。「身元保証人の欄に署名をもらっている=医療費を請求できる」とは限りません。

1枚の用紙に3つの役割が混ざっている

入院時の書面には、性質のまったく異なる3つの役割が、区別されないまま並んでいることがよくあります。

役割 内容 医療費の支払義務
緊急連絡先 容体急変時などの連絡先として名前を出す 連絡先になっただけでは生じない
身元引受(身元引受人) 退院時の引き取り、転院先の調整、死亡時のご遺体・遺留品の引き取り 引受の約束だけでは当然には生じない
支払保証(連帯保証人) 患者が支払わないときに代わって支払う 保証条項が有効に成立していれば生じる
入院時の書面に混在しやすい3つの役割

「身元保証人」という言葉自体は法律上の定義があるものではありません。何を引き受けたのかは、その用紙に何と書いてあるかで決まります。「身元を引き受ける」としか書かれていない欄に署名した方に対して、当然に医療費の支払義務を認めることはできない、という整理になります。

「身元保証ニ関スル法律」とは別の話

「身元保証」という言葉から、身元保証ニ関スル法律(昭和8年法律第42号)を思い浮かべる方がいます。しかし同法1条は「被用者ノ行為ニ因リ使用者ノ受ケタル損害ヲ賠償スルコトヲ約スル身元保証契約」と定めており、対象は雇用関係における身元保証です。入院時に患者の家族から取る書面は、同法が想定する場面ではありません。同法の期間制限(3年・5年)をそのまま持ち込んで考えると、判断を誤ります。

「連帯保証人」と書けば極度額が不要になるわけではない

欄の名称を「連帯保証人」に変えても、保証の対象が不特定の債務である限り、個人根保証契約であることに変わりはありません。連帯保証とは、催告の抗弁・検索の抗弁を持たないという保証の態様の話であって、根保証かどうかの区別とは別の軸です。名称の書き換えだけでは、極度額の問題は解消しません。

身元保証書の文言、そのままで請求できますか

「どの欄の署名なら請求できるのか」を1枚ずつ判断するのは、医事課だけでは荷が重い作業です。弁護士法人ブライトは法務部がない会社の外部法務部として、書面の読み分けから院内ルールの整備まで伴走します。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上。

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2020年4月1日をまたぐ書式——いつ締結した保証契約かで扱いが割れる

極度額のルールは、すべての身元保証書に一律に及ぶわけではありません。基準は保証契約をいつ締結したかです。

民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則21条1項

施行日前に締結された保証契約に係る保証債務については、なお従前の例による。

施行日前の署名は旧法、施行日以後の署名は新法

改正法の施行日は2020年4月1日です。したがって、2020年3月31日以前に署名された保証契約については、極度額の定めがなくても、そのことだけで効力を否定されるわけではありません。一方、2020年4月1日以後に署名された個人根保証契約は、極度額の定めがなければ効力を生じないことになります。

ここで重要なのは、「書式をいつ作ったか」ではなく「その保証契約にいつ署名をもらったか」で判断される点です。2019年に印刷した書式を2024年の入院で使えば、それは2024年に締結された保証契約です。院内に古い版の用紙が残っていると、この形で新法違反の書面が今も生産され続けることになります。

入院のたびに署名をもらう運用は「そのつど新しい契約」

同じ患者が複数回入院し、そのたびに保証書へ署名をもらっている医療機関は多いはずです。この場合、各入院の署名がそれぞれ別の保証契約と評価されるのが通常です。過去の入院分は旧法、直近の入院分は新法という形で、同じ患者・同じ保証人でも扱いが割れることがあります。

院内で確認する3点

確認すること 見る場所 ここが欠けていると
極度額の記載があるか 保証条項の中の金額欄 2020年4月1日以後の署名分は保証の効力が問題になる
署名日が入っているか 署名欄の日付 新法・旧法のどちらで判断するかが決められない
保証の対象が特定されているか 「一切の債務」等の文言 どこまで保証されているかを後から争われる
身元保証書の点検で最初に見る3点

この3点は、1件あたり1分もかからずに確認できます。未収金の回収方針を立てる前に、まず保証書の束をこの順で仕分けることをおすすめします。時効の側から在庫を仕分ける手順は、医療費(診療費・入院費)の消滅時効は何年か|3年と5年の切り分けと病院が今すぐやるべき未収金の棚卸しで整理しています。

保証人を取れないことを理由に入院を断ることはできない——厚生労働省通知の確認

「では、極度額入りの保証書に署名できる人がいない患者は入院させなければよいのでは」と考えたくなるかもしれません。しかし、その方向で解決することはできません。

平成30年4月27日 医政医発0427第2号

厚生労働省医政局医事課長は、各都道府県衛生主管部(局)長あてに「身元保証人等がいないことのみを理由に医療機関において入院を拒否することについて」(平成30年4月27日 医政医発0427第2号)を発出しています。同通知は次のように述べています。

平成30年4月27日 医政医発0427第2号(抜粋)

医師法(昭和23年法律第201号)第19条第1項において、「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」と定めている。ここにいう「正当な事由」とは、医師の不在又は病気等により事実上診療が不可能な場合に限られるのであって、入院による加療が必要であるにもかかわらず、入院に際し、身元保証人等がいないことのみを理由に、医師が患者の入院を拒否することは、医師法第19条第1項に抵触する。

同通知では、都道府県に対し、入院拒否の事例に関する情報に接した際には当該医療機関へ適切な指導を行うよう求めています。つまり、保証人を確保できないことは、入院を断る理由にならないという前提で院内の仕組みを組み立てる必要があります。

応招義務の行政解釈は令和元年通知に整理されている

なお、応招義務そのものの行政解釈は、その後に発出された「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」(令和元年12月25日 医政発1225第4号)に整理されています。同通知は、過去に発出された応招義務に係る通知等との関係について、今後は基本的に本通知が妥当するものとする旨を述べたうえで、最も重要な考慮要素を患者の病状の深刻度に置いています。医療費不払いについても、以前に不払いがあったとしてもそのことのみをもって診療しないことは正当化されない、としています。

平成30年通知の「正当な事由=医師の不在又は病気等」という定式だけを単独で引用すると、現行の整理より厳格に読めてしまいます。2通をセットで押さえるのが正確な理解です。未払いを理由に診療を断れるかという論点は、未収金があると診療を断れる?応招義務と医療費不払いの判断枠組みで詳しく整理しています。

結論として、医療機関がとるべき道は「保証人がいない患者を断る」ことではなく、保証に頼りきらない未収金対策を設計することになります。

保証人が取れない患者への院内ルールを作る

断れない前提で、どこまでを入口で確認し、どこから法的手続に乗せるか。大阪の弁護士法人ブライトは、医療機関の運用に合わせた院内ルールづくりから継続的にお預かりしています。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上。

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院内書式の直し方——極度額の入れ方と条項の分け方

ここからが実務の処方です。書式を直す作業は、外部に出さなくても院内で着手できます。

(1) 極度額を書面に明記する

極度額は、保証人が負う責任の上限額です。元本だけでなく、利息・違約金・損害賠償その他の従たるもの、保証債務について約定された違約金や損害賠償の額まで含めた全部に係る上限として定める必要があります(民法465条の2第1項)。「賃料の◯か月分」のような相対的な書き方ではなく、確定した金額として読み取れる形で記載するのが安全です。

金額の水準は、診療科・病床機能・平均在院日数によって大きく変わります。自院の実績値から、どの層の未収を想定するのかを決めて設定することになります。高すぎる極度額を一律に設定すると署名を得られなくなり、低すぎると保証としての機能を失います。

(2) 身元引受条項と支払保証条項を分ける

1枚の用紙のまま運用するにしても、条項は分けて書きます。

分ける単位 書き方の方向 署名欄
緊急連絡に関する条項 連絡先としての指定であり、支払義務を負うものではない旨を明記 連絡先届出者
身元引受に関する条項 退院時の引き取り、転院調整、死亡時の対応など具体的な行為を列挙 身元引受人
支払保証に関する条項 連帯保証であること・保証の対象・極度額・署名日を明記 連帯保証人
院内書式を分けるときの構成例

分ける実務上の利点は2つあります。ひとつは、保証条項に問題があっても身元引受の合意まで巻き込まれにくくなること。もうひとつは、「連絡先にはなれるが保証人にはなれない」という方に、無理なく一部だけ引き受けてもらえることです。全部か無かの用紙だと、署名そのものを断られます。

(3) 保証人の死亡・破産で元本が確定することを想定しておく

個人根保証契約には、元本が確定する事由が法定されています。

民法465条の4第1項(個人根保証契約の元本の確定事由)

次に掲げる場合には、個人根保証契約における主たる債務の元本は、確定する。(ただし書略)
一 債権者が、保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。
二 保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。
三 主たる債務者又は保証人が死亡したとき。

長期入院の患者で、保証人となった高齢のご家族が先に亡くなるという事態は、現場では珍しくありません。この場合、元本は死亡時に確定し、その後に発生した医療費は保証の対象外という整理になります。保証人の死亡を把握したら、その時点までの残高を確定させ、以後の費用について別途の手当てを検討するという運用が必要になります。医事課の台帳に「保証人の生存確認」の項目がない医療機関は、追加を検討してください。

(4) 書式を差し替えたら、旧版の用紙を物理的に回収する

書式改定でいちばん多い失敗が、新旧の用紙が病棟に混在したまま運用されることです。分散して置かれている用紙をすべて回収し、版数と改定日をフッターに印字しておくと、後から「どの版で取ったか」を追えます。

そもそも保証に頼らない設計——高額療養費と限度額適用認定証を入口で案内する

保証人をめぐる議論は、「発生してしまった高額な自己負担をどう回収するか」という前提に立っています。入口を変えれば、この前提自体を縮められます。

高額療養費は法律上の給付

健康保険法115条1項(高額療養費)※抜粋

療養の給付について支払われた一部負担金の額又は療養(中略)に要した費用の額から(中略)控除した額(中略)が著しく高額であるときは、その療養の給付又はその保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、家族療養費若しくは家族訪問看護療養費の支給を受けた者に対し、高額療養費を支給する。

自己負担限度額を超えた部分は高額療養費として支給されます。そして、窓口での支払いを最初から限度額までにとどめる方法が用意されています。厚生労働省は、この取扱いを受けるにはマイナ保険証を利用するか、事前に限度額適用認定証を入手する必要がある旨を案内しています。認定証の交付手続は、加入先の健康保険組合、協会けんぽ、または市町村(国民健康保険・後期高齢者医療制度)などが窓口です。

入院案内の1行が、未収金の総額を変える

入退院支援の場面で「マイナ保険証をお持ちですか」「お持ちでなければ、加入先に限度額適用認定証を申請してください」と案内するだけで、窓口請求額そのものが下がります。回収の議論をする前に、請求額を制度上あるべき水準にそろえるという発想です。保証人の署名を取ることより、こちらのほうが未収金の総額に効くケースが実際にあります。

あわせて、医療ソーシャルワーカーへの早期連携や、無料低額診療事業・生活保護の医療扶助の該当性など、院内で確認できる制度は複数あります。入院時のチェックリストに載せておくと、事後の回収に投じる人手を減らせます。

入院保証金(預り金)は保証とは別の仕組み

入院時に預り金として一定額を申し受ける運用をしている医療機関もあります。これは第三者の保証とは別の仕組みで、退院時精算で充当し、余剰があれば返還するという性質のものです。ただし、金額の設定によっては事実上の入院拒否と評価されかねない点に注意が必要です。前掲の平成30年通知が示す方向と整合するよう、金額の水準、免除・分割の取扱い、返還のルールを院内規程に明文化しておくことをおすすめします。

分割払いの合意は、時効管理とセットで意味を持つ

支払いが難しい患者について分割払いを認める場合、書面に残すことが重要です。債務の承認にあたる場合、時効はその時から新たに進行を始めます(民法152条1項)。窓口での口頭のやり取りで終えず、金額・回数・期日・期限の利益喪失の条件を書面にする運用に切り替えてください。合意書の作り方の一般論は、分割払いの合意書を作るときの注意点|期限の利益・連帯保証・遅延損害金にまとめています。

入院案内から未収金対策を組み直す

回収の前に、請求額を制度上あるべき水準にそろえる。入院案内・チェックリスト・預り金規程まで含めて設計し直すご相談を、大阪の弁護士法人ブライトがお受けしています。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上。

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すでに取ってしまった「極度額なしの保証書」をどう扱うか

書式を直しても、手元にある過去の保証書は直りません。ここが実務でいちばん悩ましいところです。

追認しても、さかのぼって有効にはならない

民法119条(無効な行為の追認)

無効な行為は、追認によっても、その効力を生じない。ただし、当事者がその行為の無効であることを知って追認をしたときは、新たな行為をしたものとみなす。

効力を生じない保証契約について、後から保証人に「追認する」と書いてもらっても、さかのぼって有効になるわけではありません。当事者が無効であることを知って追認したときは新たな行為をしたものとみなされますが、それはそのときに新しい契約をしたのと同じという意味であり、新しい契約である以上、極度額を定める必要があります。「追認書」という表題の1枚を足せば解決する、という性質の問題ではありません。

改めて締結し直す場合の限界

過去分について、改めて極度額入りの保証契約を締結してもらうこと自体は可能です。ただし、限界が3つあります。

  • 相手方に応じる義務はない。すでに発生した債務について新たに保証を求めるのですから、断られれば終わりです。
  • 求め方によっては問題になる。退院や転院、今後の診療と結びつけて署名を迫るような求め方は、前掲の通知が示す方向と整合しません。
  • すでに金額が確定しているなら、根保証ではない。退院済みで金額が固まっているのであれば、その特定の金額についての通常の保証として締結するほうが素直です。この場合、465条の2の極度額の問題は生じません。

実務では、3つ目の整理が使える場面が最も多いと考えられます。「これから増えるお金」なのか「もう固まったお金」なのかで、取るべき書面の形が変わります。

やってはいけない対応

  • 効力に疑いがある保証書を根拠に、保証人へ支払義務があると断定して繰り返し督促する
  • 保証書の日付欄を後から書き足す、極度額を後から記入する
  • 患者本人の同意なく、保証人へ診療内容を説明する(別途、守秘の問題が生じます)

いずれも、回収できないだけでなく、医療機関側の責任問題に転化しうる対応です。判断に迷う書面が出てきたら、その1件の督促を止めて先に整理することをおすすめします。

保証に期待できない分は、本人に対する手続に切り替える

保証人への請求が難しいと判断したら、患者本人に対する回収手続へ切り替えます。督促、支払督促、少額訴訟、通常訴訟といった手段の使い分けは、債権額と相手方の状況で決まります。院内の在庫全体をどう仕分けるかという観点は、医療費・未収金回収の継続受託|病院・医療法人向けにまとめています。

弁護士に相談すべきケース

次のいずれかに当てはまる場合は、院内だけで結論を出さず、早い段階でご相談ください。

  • 院内書式が2020年4月1日より前に作られたまま運用されている——現在も新しい保証契約を締結し続けている状態です。書式の改定を最優先で検討すべき場面です。
  • 高額の未収金について、保証人への請求を予定している——請求に着手する前に、その書面で請求できるかを確認したほうが、結果的に早く進みます。
  • 保証人から「極度額が書いていないから払わない」と言われた——署名日と文言によって結論が分かれます。事実関係の整理が先です。
  • 患者が亡くなり、相続人と保証人の双方が関係している——相続放棄の有無、元本確定の時期、請求の順序など、判断すべき要素が重なります。
  • 身元保証を代行する事業者が関与している——事業者の契約形態によって、医療機関が誰に何を請求できるかが変わります。
  • 入院の受け入れ可否そのものを院内で判断しかねている——応招義務に関わるため、個別の事情を踏まえた検討が必要です。

弁護士法人ブライトは大阪を拠点に、法務部がない会社の「外部法務部」として企業法務を継続的にお預かりしています。医療機関からのご相談では、個別の回収だけでなく、院内書式・入院案内・台帳の項目までさかのぼって設計し直すご依頼を多くいただいています。

書式の点検から、回収の実行まで

1件の回収で終わらせず、同じ未収金が生まれない形に整える。弁護士法人ブライトは大阪で、医療機関の未収金を継続受託でお預かりしています。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが対応します。

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よくある質問

入院時の身元保証書に極度額が書かれていません。保証人に医療費を請求できませんか?

書面の文言と署名日によって結論が分かれます。保証の対象が「入院中に生じる一切の債務」のように不特定である場合、個人根保証契約にあたると評価される可能性が高く、2020年4月1日以後に締結されたものであれば、極度額の定めがなければ効力を生じないとされています(民法465条の2第2項)。一方、2020年3月31日以前に締結された保証契約については、なお従前の例によるとされています(民法の一部を改正する法律附則21条1項)。まずは署名日と保証条項の文言をご確認ください。

「身元引受人」として署名してもらった方に、医療費の支払義務はありますか?

当然に生じるとは言えません。「身元保証人」「身元引受人」という呼称は法律上の定義があるものではなく、何を引き受けたのかはその書面に何と書かれているかで判断されます。退院時の引き取りや緊急連絡のみを引き受ける趣旨の記載しかない場合、そこから支払義務を導くのは容易ではありません。院内書式では、身元引受に関する条項と支払保証に関する条項を分けて記載することをおすすめします。

身元保証人を用意できない患者の入院を断ることはできますか?

厚生労働省は「身元保証人等がいないことのみを理由に医療機関において入院を拒否することについて」(平成30年4月27日 医政医発0427第2号)において、入院による加療が必要であるにもかかわらず、身元保証人等がいないことのみを理由に入院を拒否することは医師法19条1項に抵触する旨を示しています。保証人の確保を入院の条件とする運用ではなく、高額療養費・限度額適用認定証の案内など、未収金を生じさせない入口の設計で対応することが現実的です。

すでに取ってしまった極度額なしの保証書は、追認書をもらえば有効になりますか?

さかのぼって有効になるわけではありません。無効な行為は追認によっても効力を生じず、無効であることを知って追認したときは新たな行為をしたものとみなされます(民法119条)。新たな行為である以上、それが不特定の債務の保証であれば極度額の定めが必要です。他方、すでに退院して金額が確定しているのであれば、その特定の金額についての通常の保証として締結し直す方法も考えられます。どの形をとるべきかは事案によりますので、着手前にご相談ください。

大阪の病院ですが、身元保証書の点検と未収金の整理をまとめて相談できますか?

ご相談いただけます。弁護士法人ブライトは大阪を拠点に、医療機関の未収金について、保証書の読み分け、院内書式の改定、回収手続の選択、定期報告までを継続受託する形をご用意しています。件数・債権額・依頼範囲によって進め方は変わりますので、まずは現状をお聞かせください。企業法務窓口:06-4965-9590(平日9:00〜18:00)

院内書式の総点検からご相談ください

「うちの用紙は大丈夫か」を確かめるところから始められます。弁護士法人ブライトは法務部がない会社の外部法務部として、大阪から医療機関の企業法務をお預かりしています。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上。

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【参照した一次資料】民法(明治29年法律第89号)119条・446条・465条の2・465条の4/民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則21条1項/医師法(昭和23年法律第201号)19条1項/健康保険法(大正11年法律第70号)115条/身元保証ニ関スル法律(昭和8年法律第42号)1条/厚生労働省医政局医事課長通知「身元保証人等がいないことのみを理由に医療機関において入院を拒否することについて」(平成30年4月27日 医政医発0427第2号)/厚生労働省医政局長通知「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」(令和元年12月25日 医政発1225第4号)。条文はe-Gov法令検索、通知は厚生労働省ウェブサイト掲載のPDF原文で確認しています(2026年9月16日時点)。

本記事は、一般的な情報の提供を目的とするものであり、個別案件に関する法的助言を目的とするものではありません。また、情報の正確性、完全性及び適時性を法的に保証するものではありません。
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