監修:和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士|大阪弁護士会 大阪で20年以上、中小企業の企業法務・顧問弁護士サービスを提供。顧問先140社に透明性の高いリーガルサポートを実践している。 事業の一部が急速に立ち上がったとき、「この事業は新会社(子会社)に切り出そう」という判断は自然な流れです。AI・DX関連の新規事業を本業とは別の法人にする、建設業や製造業の会社がデジタル部門を分社する——当事務所でも、この型のご相談が増えています。 そこで必ず問題になるのが、すでに親会社(既存会社)の名義で締結してしまった契約を、新会社へどう移すかです。結論からいえば、契約は会社を作っただけでは1本も移りません。しかも移すための手続は契約の数だけ発生するため、設立を待ってから考えると、契約が積み上がるほど巻き直しの負担が膨らみます。この記事では、移転の法的手段の使い分けと、実務での段取りを解説します。 この記事の結論 契約上の地位を移すには原則として相手方の承諾が必要(民法539条の2)=新会社を作っても契約は自動では移らない 移す方法は主に4つ(個別承継・事業譲渡・会社分割・巻き直し)で、契約の数と相手方の顔ぶれで最適解が変わる 切り出す事業がデータ・AIを扱う場合、顧客データの取扱いと利用権の承継という固有の論点が重なる 親会社名義の契約、いま何本ありますか? 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先140社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 法務ドックAI診断(無料・匿名・5分)を受ける 無料で相談する お電話でのご相談:0120-929-739 契約は新会社に「自動では」移らない 会社は法人格ごとに別人格です。親会社が締結した契約の当事者はあくまで親会社であり、新会社が同じオーナー・同じ経営者の会社であっても、契約上は完全な第三者です。 契約の当事者としての立場(契約上の地位)をまとめて第三者へ移すことは、民法539条の2が定めています。要件は2つで、①譲渡人と譲受人の間の譲渡の合意に加えて、②契約の相手方の承諾が必要です。売掛金のような個別の債権だけなら債権譲渡(民法466条以下)で移せますが、「今後も発注を受けて開発する」「毎月サービスを提供する」といった継続的な契約関係そのものを移すには、地位の移転によるほかなく、相手方を無視して進めることはできません。 また、契約から生じる債務だけを新会社に引き受けさせて親会社が抜ける形(免責的債務引受)にも、債権者の関与が必要です(民法472条)。つまりどの構成をとっても、「相手方に知らせず勝手に移す」ことは原則できないのが出発点です。 移す方法は4つ——使い分けの目安 方法 相手方の同意 特徴 向いている場面 ①個別の契約承継(三者間の承継合意) 契約ごとに必要 民法539条の2。承継合意書1通で地位・債権債務をまとめて移せる 契約数が少ない/相手方との関係が良好 ②事業譲渡 契約ごとに必要(個別承継) 事業に属する資産・契約を選んで移せるが、契約の移転には結局①が必要 移す資産と残す資産を選別したい ③会社分割(吸収分割・新設分割) 原則不要(包括承継) 分割契約・分割計画に記載した権利義務が法律上まとめて移る。債権者保護手続・労働契約承継法の手続が必要 契約数が多い/個別の承諾取得が現実的でない ④巻き直し(合意解約+新規締結) 実質的に必要(新契約の締結) 旧契約を終了させ、新会社名義で新しい契約を結ぶ。条件を現状に合わせて整え直せる 契約内容自体を見直したい/旧契約の条件が実態と合っていない 注意すべきは、③会社分割でも万能ではないことです。契約書に「合併・会社分割・支配権の変動があった場合は解除できる」という条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)や、組織再編による承継を明示的に禁止・制限する特約が入っていれば、法律上は包括承継されても相手方に解除の口実を与えます(単なる地位の譲渡禁止特約だけであれば、原則として会社分割による承継は妨げられないと解されています)。分割を選ぶ場合も、重要契約は条項の確認と相手方への事前説明が実務上欠かせません。 新会社への切り出し、契約の設計はお済みですか? 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先140社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 法務ドックAI診断(無料・匿名・5分)を受ける 無料で相談する お電話でのご相談:0120-929-739 実務の落とし穴5つ ①「書面による承諾を都度要する」と修正されている契約 取引先によっては、契約書のひな型交渉の段階で「契約上の地位の移転には、都度、書面による承諾を要する」という条項を入れてくることがあります。この条項がある契約は、口頭や黙示の承諾では足りず、承諾書の取得まで済ませなければ移転が完成しません。どの契約にこの型の条項が入っているかを設立前に棚卸ししておくことが、後の工数を大きく左右します。 ②契約が増えるほど巻き直しの負担が増える 新会社の設立時期が固まっていないまま親会社名義の契約が積み上がると、その全部が将来の承継・巻き直しの対象になります。設立前の段階から、新規契約には「当社の子会社または関連会社への契約上の地位の譲渡について、相手方はあらかじめ承諾する」といった事前承諾条項を入れておくだけで、移転の手続は大きく軽くなります。 ③許認可・業法上の地位は契約とは別枠 建設業許可や宅建業免許のような許認可は、契約の承継とは別の制度で動きます。業法ごとに承継の可否・認可手続が異なり、たとえば建設業許可には事業譲渡・合併・分割に伴う事前認可による承継の制度がありますが、手続を踏まなければ新会社に許可のない空白期間が生じます。「契約は移せたが、事業を営む資格が新会社にない」という事態が最も危険です。 ④ライセンス・リースは「譲渡不可」が初期値 ソフトウェアのライセンス契約、リース契約、代理店契約などは、契約書上、地位の譲渡・再許諾が明示的に禁止されているのが通常です。事業に不可欠なツールのライセンスが新会社で使えるか、ライセンサーの承諾が取れるかは、切り出しの可否そのものに関わります。 ⑤担保・保証の付け替え 親会社の債務に経営者保証や担保が付いている場合、事業だけ新会社に移しても保証・担保関係は自動では整理されません。金融機関との調整は早い段階から並行して進める必要があります。 契約の棚卸しから、弁護士と一緒に進めませんか? 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先140社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 法務ドックAI診断(無料・匿名・5分)を受ける 無料で相談する お電話でのご相談:0120-929-739 巻き直しの段取り——4ステップ 棚卸し:親会社名義の契約を全件リスト化(相手方・契約類型・期間・地位譲渡条項の有無・重要度) 分類:(a)新会社へ移す契約/(b)親会社に残す契約/(c)終了させる契約に仕分けし、(a)は承諾の取り方(三者間合意書・承諾書・巻き直し)を決める 型を作る:承継合意書・承諾書・新会社の標準契約書式を先に整備し、相手方への説明文とセットで一斉に展開する 新規は最初から:設立時期が見えたら、以後の新規契約は可能な限り新会社名義で締結する(未設立の間は事前承諾条項でつなぐ) この段取りの発想は、システム開発の取引を基本契約+個別契約(SOW)の二層に組み直すときと同じです。二層構造の設計は基本契約と個別契約の優先関係で解説しています。 承継合意書・承諾書の型づくりからお任せください 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先140社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 法務ドックAI診断(無料・匿名・5分)を受ける 無料で相談する お電話でのご相談:0120-929-739 AI・DX事業の切り出しに特有の論点 顧客データは移せるか——個人情報保護法の整理 切り出す事業が顧客データを扱う場合、データの移転が個人データの第三者提供にあたるかが問題になります。合併その他の事由による事業の承継に伴って個人データが提供される場合、提供先は「第三者」に該当しないと整理されており(個人情報保護法27条5項2号)、会社分割・事業譲渡による移転はこれに含まれます。ただし、承継した個人情報は承継前の利用目的の範囲でしか利用できません(同法18条2項)。新会社で利用目的を広げたい場合は、本人の同意など別の手当てが必要です。顧客データをAIに入力する事業なら、プロンプトに顧客情報を入れてよいかの論点も同時に確認してください。 AIモデル・学習データの利用権は承継されるか AI開発の成果物(学習済みモデル・学習用データセット)は、開発契約の利用条件条項で使い方が縛られているのが通常です。契約上の地位ごと移転すれば利用条件も引き継がれますが、「ユーザー自身の利用に限る」型の条項だと、別法人となる新会社の利用が条項の射程外になるおそれがあります。利用条件条項の読み方は学習済みモデル・学習用データの権利帰属で解説しています。 開発体制ごと移すなら、契約の型も作り直す 切り出しを機に、外注先との開発契約を整え直す会社も多くあります。AI開発の契約設計はAI開発委託契約書のチェックポイント、AI関連の法律問題の全体像はAI開発・AI活用の法律問題 総合ガイドにまとめています。 AI・DX事業の分社、データと契約の両面から支援します 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先140社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 法務ドックAI診断(無料・匿名・5分)を受ける 無料で相談する お電話でのご相談:0120-929-739 よくある質問 Q1. 相手方が承諾してくれない契約はどうなりますか? 承諾が得られない契約は親会社に残ります。その場合、親会社が契約当事者のまま、実際の業務を新会社へ再委託する構成(親会社を間に挟む形)が次善策になりますが、再委託を禁止する条項がないか、下請関係の法規制(取適法・フリーランス新法)に触れないかの確認が必要です。 Q2. 会社分割なら相手方に何も言わなくてよいのですか? 法律上の承継自体には個別の承諾は不要ですが、官報公告等の債権者保護手続は必要ですし、契約書にチェンジ・オブ・コントロール条項があれば相手方は解除できます。実務上は、重要な取引先には事前に説明して信頼関係を保つのが定石です。 Q3. 新会社設立の何か月前から準備すべきですか? 契約の棚卸しと承諾の取得には相手方の社内決裁も絡むため、重要契約が10本を超えるなら3か月以上前からの着手をお勧めします。また設立前でも、新規契約に事前承諾条項を入れる対応は今日から始められます。 分社を決める前に、契約の棚卸しから 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先140社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 法務ドックAI診断(無料・匿名・5分)を受ける 無料で相談する お電話でのご相談:0120-929-739