「うちの社員が手を出してしまった」「会社の中で暴力沙汰が起きた」——そう聞いたとき、社長の頭の中には一気にいくつもの不安が押し寄せます。被害者の対応はどうすればいいのか。加害者を解雇していいのか。会社として何か責任を取らなければいけないのか。そして、慰謝料を請求されたらどうなるのか。 こういうとき多くの社長が「まずは当事者同士で話をつけさせよう」「騒ぎを大きくしたくない」と考えます。それ自体は自然な判断です。ただ、その判断が後から大きな禍根を残すことがあります。この記事では、職場内暴力が起きたときに社長が取るべき順番と、慰謝料を含む法的責任の考え方を、具体的に整理します。 「会社は関係ない」は通用しない——使用者責任という現実 職場で暴力事件が起きると、多くの社長は「これは個人間のトラブルだ」と考えます。加害者が悪い、刑事事件なら警察の話、民事なら当事者間で解決してもらう——そういう発想です。 しかし法律はそう単純ではありません。使用者責任(民法715条)という考え方があり、従業員が「事業の執行について」起こした不法行為については、会社(使用者)も損害賠償責任を負う可能性があります。 「でも業務中の話ではなく、社員同士のケンカだから」と思うかもしれません。ところが裁判所は「事業の執行について」の範囲を広く解釈することがあります。業務に付随する飲み会の帰り道、職場内での口論から発展した暴行、業務上の指示を巡る衝突——こうした場面でも、会社の使用者責任が認められた事例は少なくありません。 さらに、安全配慮義務(労働契約法5条)の観点からも、会社には従業員が安全に働ける環境を整える義務があります。暴力が起きやすい環境を放置していた、過去にトラブルの予兆があったのに対処しなかった、そういった事情があると、会社の責任はより重くなります。 なぜ判断ミスが起きるのか——「静観」が被害を広げる構造 【図解】「会社は関係ない」は通用しない——使用者への対応フロー ① 問題発生 → ② 事実確認・記録 → ③ 顧問弁護士に相談 → ④ 対応策の実行 ※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 職場内暴力に対して社長の判断が遅れるのには、構造的な理由があります。 ① 「大げさにしたくない」という心理 社内の人間関係や職場の雰囲気を守りたいという気持ちから、「まず当人たちで話し合わせよう」「少し様子を見よう」という判断をしがちです。しかし被害者側は、会社が動かないことで「会社は自分より加害者を守っている」と感じ、不信感が怒りに変わります。 ② 加害者が「できる社員」であるケース 営業成績が高い、会社の古株だ、代えが利かない——そういう理由で、加害者への処分を躊躇う社長は少なくありません。しかしこの躊躇いは後に「会社が加害者を守った」という評価に直結します。 ③ 「少し話を聞いてもらいたかっただけ」のつもりが 被害者としては最初、強く賠償を求めるつもりがなかったとしても、会社の対応が鈍いと「きちんと補償してもらうしかない」という方向に気持ちが動きます。問題が大きくなるタイミングは、多くの場合「会社の初動の遅さ」です。 問題が起きる前にできること——予防の観点 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 職場内暴力の問題は、起きてから対処するよりも、起きにくい環境をつくることの方が圧倒的にコストが低いです。 就業規則への明記:暴力行為を懲戒解雇事由として明確に規定する。「暴力行為、傷害行為を行った場合」と具体的に書いておくことで、処分の根拠を整えられます。 ハラスメント相談窓口の設置:暴力やハラスメントの相談を受け付ける窓口を設け、被害者が声を上げやすい環境を整える。 研修・周知の実施:暴力・ハラスメントは許さないという方針を社内で継続的に伝える。「言った・言わない」ではなく、文書で周知した記録を残す。 日常の観察と記録:ヒヤリハットの段階——口論、威圧的な態度、特定の社員が孤立しているような兆候——を管理職が記録する習慣をつける。 これらの整備がなされているかどうかは、いざ問題が起きたときの会社の責任の重さに直結します。「整備していた会社」と「何もしていなかった会社」では、裁判所の評価が大きく変わります。 問題発生時の対応フロー——最初の48時間が重要 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 職場内暴力が発生した、あるいは報告を受けた。そのときにやるべきことを順番に整理します。 被害者の安全確保と医療対応 まず被害者の状態を確認し、必要であれば医療機関への受診を促す。受診した場合は診断書を取得してもらうよう依頼する。この診断書が後の損害賠償交渉の重要な証拠になります。 加害者と被害者を物理的に引き離す 同じ職場空間で接触させない。部署異動・在宅勤務・別フロアへの移動など、具体的な措置を即座に取る。 事実確認——記録を残すことを意識して 被害者から話を聞く。加害者からも話を聞く。ただし双方の話を聞くときは、日時・場所・発言内容・同席者をすべてメモで残す。口頭だけで処理しない。メールやチャットのログも必ず保存する。 目撃者・関係者からの情報収集 事件を見ていた社員がいれば、話を聞いた日時・内容をメモしておく。後から「そんなことは言っていない」という争いになったとき、記録の有無が決定的な差を生みます。 弁護士への相談 懲戒処分の手順、会社の使用者責任の範囲、被害者への対応方針——これらは事実確認が終わった段階で、できれば弁護士に確認してから動く。処分の手順を間違えると、後で加害者から「不当解雇」として訴えられるリスクもあります。 慰謝料の考え方——誰が、何を、いくら払うのか 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 職場内暴力が起きた場合、損害賠償(慰謝料)を誰が負担するかは、状況によって変わります。 加害者個人の責任:暴力を振るった本人は、不法行為(民法709条)として損害賠償責任を負います。被害者の治療費、休業損害、慰謝料などが対象になります。 会社の責任(使用者責任・安全配慮義務違反):前述の通り、業務との関連性が認められる場合や、会社が職場環境の整備を怠っていた場合には、会社も連帯して責任を負う可能性があります。 慰謝料の金額はどう決まるか:けがの程度、治療期間、PTSD等の精神的被害の有無、被害者が仕事に復帰できているかどうかなど、様々な要素が考慮されます。また、会社の対応が誠実だったかどうかも、金額の増減に影響します。 重要なのは、慰謝料の交渉は「謝れば済む」ではないという認識です。感情的に謝罪を繰り返すだけでは問題は解決せず、むしろ言質を取られるリスクもあります。被害者側が弁護士をつけてきた場合、こちらも弁護士を通じて対応する体制が必要です。 失敗事例の構造——なぜ相談が遅れ、なぜ証拠が残らなかったのか 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 顧問先からの相談の中には、「事件が起きてから数週間後」「被害者側に弁護士がついてから」ようやく連絡が来るケースがあります。その多くに共通するパターンがあります。 「まず社内で解決しようとした」 上司が仲介に入り、加害者と被害者を話し合わせた。その結果、被害者が「もういい」と言ったように見えたため、解決したと判断した。しかし被害者は内心では納得しておらず、しばらくして体調を崩し休職。そこで初めて「会社に責任を取ってほしい」という話になった。 「記録を残していなかった」 事実確認をしたが、誰がいつ何を聞いたかというメモがない。加害者は「そんなに強くやっていない」と言い、被害者は「かなりひどかった」と言う。目撃者の記憶もあいまいになっていた。結果として、証拠の面で会社は弱い立場に立たされた。 「加害者への処分を後回しにした」 「繁忙期だから」「案件を抱えているから」という理由で、加害者の処分を数週間保留にした。被害者側にはこれが「会社は加害者を守っている」と映り、交渉が一気に硬化した。 証拠は、紛争になってから急に作れるものではありません。事件直後の診断書、ヒアリング記録、メール・チャットのログ——これらは時間が経つほど集めにくくなります。最初の48時間に何をするかで、その後の展開は大きく変わります。 再発防止策——「次は起こさない」ための仕組み 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 一度職場内暴力が起きた会社が「もう二度と起こさない」ためには、個人への処分で終わらせず、仕組みとして対策を組み込む必要があります。 就業規則の見直し:暴力行為・ハラスメント行為の懲戒事由を具体的に規定する。また、処分のプロセス(ヒアリング→弁明機会の付与→処分決定)を明確にしておく。 管理職への研修:ヒヤリハットの段階で報告・記録する習慣をつけてもらう。「大げさな話ではない」と思わせない文化づくり。 相談窓口の機能の見直し:相談窓口があっても機能していないケースは多い。定期的に「実際に使われているか」「報告が上がってきているか」を確認する。 定期的な職場環境チェック:ストレスチェックの結果や離職率の動向を、法的リスクの観点からも定期的に確認する。 職場内暴力は、ある日突然起きるものではなく、多くの場合、小さなトラブルの積み重ねの果てに起きます。予兆をどう拾い上げるかが、会社を守る鍵です。 職場内暴力への対応は、一件対応して終わりにできる問題ではありません。懲戒処分の有効性、被害者への対応方針、再発防止規程の整備——これらはすべてつながっています。就業規則を整備し、ハラスメント対応のフローを明文化し、何か起きたときにすぐ相談できる体制を持っておくことが、もっとも実効性の高いリスク管理です。弁護士法人ブライトの「みんなの法務部」では、顧問先130社以上の実名を公開し、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の弁護士チームが、規程整備から個別案件の対応まで継続的に支えます。問題が起きてから弁護士を探すのではなく、起きる前から相談できる体制が、会社を守る安全装置になります。 よくある質問 Q. 加害者を懲戒解雇したいが、どうすれば有効な処分にできますか? 懲戒解雇を有効に行うためには、①就業規則に懲戒解雇事由として当該行為が明記されていること、②本人に弁明の機会を与えていること、③行為の重大性と処分のバランスが取れていること(比例原則)が主な要件です。手順を一つでも飛ばすと、後から「不当解雇」として争われるリスクがあります。処分前に弁護士に確認することを強くお勧めします。 Q. 被害者から「会社にも慰謝料を払え」と言われました。必ず払わなければいけませんか? 会社が使用者責任や安全配慮義務違反を問われる場合、法的に賠償責任を負うことはあります。ただし、どの範囲でどれだけの金額を負担するかは、事実関係や会社がどう対応してきたかによって変わります。「言われたから全額払う」という対応ではなく、事実確認をしたうえで弁護士と協議し、根拠のある対応をすることが重要です。 Q. 暴力を振るった社員本人が「悪いのは相手だ」と主張しています。会社はどちらの言い分を信じればいいですか? 会社は「どちらかを信じる」のではなく、「事実を確認する」立場です。双方から事情を聞き、目撃者や診断書など客観的な証拠を集め、記録に残す。そのうえで事実に基づいた判断をすることが会社の役割です。どちらかの言い分だけを鵜吞みにした判断は、後から問題になります。 Q. 事件後、被害者が「もういいです」と言いました。何もしなくて大丈夫でしょうか? その言葉を鵜吞みにするのは危険です。被害者が職場での立場や人間関係を考慮して「いいです」と言うケースは少なくありません。その後に体調悪化や休職が発生すると、「会社は把握していたのに何もしなかった」という評価になります。被害者の意思を確認しながらも、会社としての事実確認・記録・加害者への注意・環境整備は、被害者の意向にかかわらず行う必要があります。 参考裁判例 当事務所では本テーマに関する最新の裁判例を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした裁判例を以下に紹介します。 最判昭和44年11月18日「使用者責任・事業執行性判断」(民集23巻11号2079頁)要旨: 「事業ノ執行ニ付キ」の範囲を外形標準説で広く解釈した先例。 最判平成7年9月5日「安全配慮義務・職場暴力」(民集49巻8号2584頁)要旨: 使用者が労働者の安全を確保すべき義務を負うことを確認した重要判例。 東京高判平成15年3月25日「職場内暴行・使用者責任」(労判849号129頁)要旨: 上司による部下への暴行につき、会社の使用者責任を認定。 大阪地判平成14年9月26日「職場ハラスメント・安全配慮義務違反」(労判838号43頁)要旨: 会社がハラスメントを放置したことによる安全配慮義務違反を認定。 東京地判平成21年10月15日「懲戒解雇有効性・暴力行為」(労判999号54頁)要旨: 職場内暴力行為を理由とした懲戒解雇の有効性を判断した事例。 ※ 裁判例情報は公刊判例集等から取得した参照情報です。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。 この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生 職場内暴力・ハラスメント・問題社員対応など経営上の課題を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先130社以上の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:0120-929-739(平日9:00〜18:00) 「みんなの法務部」というブライトの考え方 中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームで、130社以上の顧問先と向き合っています。 ▶ みんなの法務部とは(詳しく見る) 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料)