「また来た」「今日も長引きそうだ」——現場から報告が上がるたびに、対応する社員が疲弊していく。それでも、「これで警察を呼んでいいのか」という迷いが、判断を止めてしまう。クレームと犯罪行為の境目は曖昧で、「大げさだと思われたくない」「かえってこじれるのではないか」と考えているうちに、問題はどんどん深くなる。 カスタマーハラスメント(カスハラ)を警察に通報するタイミングは、多くの会社にとって「正解がわからない判断」になっています。この記事では、その判断を社長と現場が迷わず下せるよう、構造から整理していきます。 なぜ「警察を呼ぶタイミング」を会社は間違えるのか 警察通報の判断が遅れる背景には、いくつかの構造的な理由があります。 まず、「お客様」という関係性が判断を鈍らせます。相手が顧客である以上、強硬手段に出ることへの心理的ハードルが上がります。「まだ話し合いの余地があるかもしれない」「穏便に済ませたい」という感覚が、会社として合理的に見えても、実際には問題を長引かせる原因になります。 次に、「警察は犯罪が起きてから動くもの」という思い込みがあります。脅迫や暴行が明確に起きていないと通報できないと考え、相手の言動がエスカレートし続けるのを静観してしまうケースが多い。しかし実際には、警察に相談できる行為はもっと早い段階から存在します。 そして、現場が「自分たちで何とかしなければならない」というプレッシャーを感じていることも見逃せません。上長への報告が遅れ、エスカレーションの機会を逃してしまう。その間に従業員の精神的ダメージが蓄積されていきます。 警察に通報・相談できるカスハラ行為とは 【図解】なぜ「警察を呼ぶタイミング」を会社は間違への対応フロー ① 問題発生 → ② 事実確認・記録 → ③ 顧問弁護士に相談 → ④ 対応策の実行 ※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。 カスハラのすべてが警察案件になるわけではありませんが、以下に該当する行為は、警察への通報・相談の対象になります。 脅迫・恐喝:「訴えてやる」だけでは該当しないケースもありますが、「お前の自宅に行く」「家族に何かあっても知らないぞ」など生命・身体への危害をほのめかす発言は脅迫罪の可能性があります。 不退去:「帰ってください」と明確に告げたにもかかわらず居座り続ける行為。不退去罪(刑法130条)に該当しえます。 暴行・傷害:物を投げる、つかみかかる、怒鳴り声で威圧するなど、身体的・精神的な攻撃行為。 業務妨害:長時間の電話占拠、店舗内での怒号・妨害行為、SNSへの虚偽情報の書き込みなど。 つきまとい・ストーキング:特定の従業員を繰り返し訪ねてくる、退勤時に待ち伏せするなどの行為。 重要なのは、「犯罪が完成してから通報する」のではなく、「犯罪になりそうな兆候が見えた段階で相談する」という発想に切り替えることです。警察の相談窓口(#9110)は、事件化していない段階でも利用できます。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題が起きる前にできること——予防のための社内体制 カスハラは「起きてから対応する問題」ではなく、「起きたときに迷わないよう準備しておく問題」です。予防段階で整えておくべきことを整理します。 カスハラ対応規程を就業規則に組み込む 「どの行為をカスハラと認定するか」「現場はどう初動するか」「いつ警察を呼ぶか」を文書として定めておくことで、現場の迷いをなくします。規程がなければ、担当者が毎回一から判断することになり、対応がブレます。 「これはカスハラです」と伝えるスクリプトを用意する 現場の従業員が口頭でカスハラだと告げるのは心理的に難しい。「当社ではお客様への不当な言動に対してお断りする場合があります」という内容の告知掲示や、対応担当者が使えるスクリプトを準備しておくことが有効です。 記録フォーマットをあらかじめ作っておく いざ問題が起きたとき、何を記録すべきかをゼロから考えていると大切な情報が抜け落ちます。「日時・場所・相手の言動・対応した従業員・証人の有無」を即座に記録できるシートを用意しておきましょう。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題発生時の対応フロー——証拠の残し方が命綱になる カスハラが発生したとき、最初の30分の行動が後の判断を左右します。以下のフローを頭に入れておいてください。 記録を始める:日時・場所・相手の氏名(名乗った場合)・言動の内容を可能な限り詳細にメモする。可能であれば音声録音を行う(店舗内や電話であれば録音は有効な証拠になります)。 複数人で対応する:一対一を避け、証人を確保します。一人で対応すると「言った・言わない」の水掛け論になりやすい。 クレームの内容と要求を分離して記録する:「何を不満に思っているか」と「何を要求しているか」は分けて記録します。不当な要求の証拠になります。 カスハラと判断したら明確に告げる:「これ以上の対応はできません」「お引き取りください」と告げた事実を記録します。告知なく不退去罪を問うことはできません。 退去しない場合は警察に通報する:「帰ってください」を明確に伝えたにもかかわらず居座る行為は不退去罪。ためらわず110番通報します。 通報後も記録を続ける:警察が来るまでの相手の言動も記録します。後日、被害届や告訴状を作成する際の証拠になります。 証拠は、紛争になってから急に作れるものではありません。その場で記録しなければ、後から再現することは極めて困難です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 失敗事例の構造——なぜ対応が遅れ、証拠が残らなかったのか カスハラ対応で会社が後悔するパターンには、共通した構造があります。 「まだ大丈夫」が招く慢性化 あるサービス業の会社では、同一顧客から月に数回、長時間にわたって怒鳴り込まれる事態が半年以上続いていました。現場の担当者は「自分が我慢すれば収まる」と上への報告を控え続けた結果、担当者がメンタル不調で休職。その後も対応者が変わるたびに同じことが繰り返されました。 なぜ対応が遅れたのか:現場が自己判断で耐え続け、組織としての対応に切り替わるタイミングを逸した。上長も「クレームの延長線上」として深刻さを軽視していた。 録音・記録がなく、被害を証明できなかったケース 飲食店での暴言・脅迫行為について警察に相談したところ、「証拠がないと動けない」と言われて終わったというケースがあります。防犯カメラには映っていたものの、音声がなく、担当者の証言だけでは不十分と判断された。 なぜ証拠が残っていなかったのか:「まさかここまでやる人はいないだろう」という前提で、日常業務として対応していたため、意図的な証拠保全を行っていなかった。 「お客様だから」と弁護士への相談を後回しにした 相手が長年の顧客であったため、法的手段を検討することに経営者自身が抵抗感を持ち、相談が遅れた。その間に相手は「不当な対応を受けた」とSNSで発信し、会社への誹謗中傷が拡散。対応が大幅に複雑化しました。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) うちの会社ではどう考えればいいのか——判断の軸を持つ 「警察を呼ぶかどうか」の判断軸を、以下の3つの問いで考えてみてください。 従業員の安全が脅かされているか?——脅迫・暴行・つきまといがある場合は、通報を躊躇う必要はありません。従業員の安全確保は会社の法的義務です(労働契約法5条)。 「帰ってください」と明確に伝えたか?——不退去罪が成立するためには、退去を求めた事実が必要です。「暗黙の了解」では成立しません。明確に伝えた記録を残してください。 同じ行為が繰り返されているか?——一度の出来事であれば警察より先に社内対応・弁護士相談が優先される場合もありますが、繰り返しであれば早期に警察への相談・通報を検討してください。 また、警察への通報と弁護士への相談は、どちらか一方ではなく、同時並行で進めることが有効です。弁護士が内容証明郵便を送付することで、多くのカスハラ案件は警察沙汰にならずに解決することもあります。逆に、刑事手続きが進む場合も、証拠の整理や被害届の作成に弁護士のサポートが不可欠です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 再発防止策——「その都度の対応」から「仕組みによる防御」へ カスハラは一件対応しても、次が来ます。重要なのは”その都度の判断”ではなく、組織として動ける仕組みを作ることです。 カスハラ対応規程を就業規則に明記する 「カスハラの定義」「対応フロー」「警察通報の基準」「従業員の保護措置」を就業規則または別規程として文書化します。これがあることで、現場が迷わず動けるだけでなく、会社が従業員に対して「守る意志」を示すことにもなります。 記録・録音の運用ルールを整備する 「どんな場合に録音するか」「記録はどこに保存するか」「誰が上長に報告するか」という運用ルールを定めます。ルールがないと、個人の裁量に依存してしまい、証拠が残らないままになります。 定期的な研修でカスハラの認識を揃える 「これはクレームか、カスハラか」の判断基準を現場全体で共有するための研修を定期的に行います。特に、新しいスタッフが入るタイミングでの教育が重要です。 カスハラは一件対応しても次が来ます。重要なのは”その都度の対応”ではなく、カスハラ対応規程を就業規則に組み込み、現場が迷わず動ける体制を整えること。弁護士法人ブライトでは、顧問先130社以上(実名公開)との継続的な関係の中で、就業規則の整備から現場の初動相談まで、弁護士歴平均14年以上のチームが一貫して支えます。「みんなの法務部」として機能することで、事件が起きてから弁護士を探すのではなく、起きないための安全装置として日常的に活用いただけます。 よくある質問 Q. 「訴えるぞ」と言われただけで警察に通報できますか? 「訴えるぞ」という発言は法的に認められた権利の主張であり、それだけでは脅迫罪には該当しません。ただし、「家に火をつけるぞ」「お前の家族を痛い目に遭わせてやる」など、生命・身体・財産への危害をほのめかす発言は脅迫罪の対象になります。発言の内容を正確に記録・録音しておくことが重要です。 Q. 警察に相談しても「民事だから」と断られることはありますか? 残念ながら、証拠が不十分な段階では警察が積極的に動かないケースもあります。そのため、相談窓口(#9110)への事前相談と並行して、弁護士に内容証明郵便の送付を依頼するといった民事的手段を組み合わせることが有効です。刑事・民事の両面から対応することで、解決の選択肢が広がります。 Q. カスハラ対応を理由に顧客との契約を解除することはできますか? 継続的な契約関係がある場合でも、カスハラ行為が著しく信頼関係を損なうものであれば、契約解除の正当な理由になります。ただし、解除の手順(書面による通知・相当の猶予期間)を踏まないとトラブルになるリスクがあります。事前に弁護士に確認することを強くお勧めします。 Q. 従業員がカスハラ被害を受けた場合、会社はどんな法的義務を負いますか? 会社は労働契約法5条に基づき、従業員の安全に配慮する義務(安全配慮義務)を負います。カスハラ被害を放置した場合、従業員から会社に対して損害賠償請求がなされるリスクがあります。2022年施行の改正労働施策総合推進法もカスハラ対策の必要性を示しており、会社として積極的な対応が求められます。 当事務所が参考にした実務書 当事務所では本テーマに関する最新の実務書を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした書籍を以下に紹介します。 『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』 — 厚生労働省/厚生労働省/2022年/分類:公的機関のガイドライン・Q&A 『ハラスメント対策の実務』 — 第一東京弁護士会労働法制委員会編/民事法研究会/2021年/分類:Q&A形式の実務解説書 『問題社員・ハラスメント・労働組合への実務対応』 — 向井蘭/労働調査会/2022年/分類:業種特化型実務書 『就業規則・労働契約の法律実務』 — 石嵜信憲・石嵜・山中総合法律事務所編/中央経済社/2020年/分類:Q&A形式の実務解説書 『職場のハラスメント──なぜ起きるのか、どう防ぐのか』 — 原田啓一郎/中公新書/2021年/分類:学術書・体系書 ※ 書籍内容は引用しておらず、書誌情報のみ表示しています。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。 この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生 カスハラ対応・問題社員・解雇・退職勧奨など経営上の課題を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先130社以上の実名を公開しており、弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:0120-929-739(平日9:00〜18:00) 「みんなの法務部」というブライトの考え方 中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームで、130社以上の顧問先と向き合っています。 ▶ みんなの法務部とは(詳しく見る) 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料)