水増し請求・キックバックを社員に疑ったとき、社長が最初に考えるべきこと

水増し請求・キックバックを社員に疑ったとき、社長が最初に考えるべきこと

「あの取引先との金額、なんかおかしい気がする」――そう感じながらも、確信が持てないまま月日が流れていく。社員を疑うことへの後ろめたさ、取引先との関係が壊れることへの不安、そして「もし違ったら」という恐れが重なって、なかなか踏み込めない。そういう状況で、多くの社長は最初の一歩を躊躇します。その躊躇の間に、不正は続き、証拠は消えていきます。

水増し請求・キックバックとは何か――社長が「感じる違和感」の正体

水増し請求とは、実際の取引金額よりも高い金額で請求書を作成し、差額を不正に得る行為です。キックバックとは、発注を請け負った取引先から、担当社員が「紹介料」「謝礼」などの名目で裏金を受け取る行為を指します。この二つはしばしばセットで起きます。

典型的な構図はこうです。社員Aが取引先Bに「100万円で発注するから、請求書は130万円で出して。差額の30万円は後で個人口座に振り込んで」と持ちかける。取引先Bにとっても売上が上がるため、断る理由がない。会社だけが損をし続けます。

この不正が発覚しにくい理由は、請求書の形式そのものは正常だからです。書類上は問題のない取引に見える。担当者が社内の決裁フローをそのまま通してしまえば、誰も気づかない構造になっています。社長が感じる「なんかおかしい」という直感は、むしろ重要なシグナルです。

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なぜ判断が遅れるのか――不正を見逃す組織の構造

【図解】水増し請求・キックバックとは何か――社長への対応フロー

① 問題発生
② 事実確認・記録
③ 顧問弁護士に相談
④ 対応策の実行

※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。

水増し請求・キックバックの問題が長期化するのは、会社の仕組みそのものに盲点があるからです。社長が直接すべての取引をチェックすることは不可能で、現場の担当者に権限が集中している会社ほど、このリスクは高まります。

特に危ないのは次のような状況です。

  • 発注から検収・支払いまでを一人の担当者が管理している
  • 特定の取引先との取引が長年続いており「この人なら大丈夫」という性善説が機能している
  • 業務委託や外注費など、成果物の価値が見えにくい費用項目がある
  • 担当者が社内で高く評価されており、疑うこと自体がはばかられる

また、「疑ったけれど証拠がない」「本人に聞いたら否定された」という段階で動きを止めてしまうケースも多くあります。証拠は、紛争になってから急に作れるものではありません。疑念が生じた瞬間から、記録の保全を意識することが重要です。

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問題が起きる前にできること――予防の仕組みをつくる

不正は「性格の悪い社員が起こすもの」ではありません。仕組みがなければ、誰でも不正に手を染めやすい状況になります。だからこそ、予防の設計が重要です。

具体的には以下の観点が参考になります。

  • 発注・検収・支払いの担当者を分ける:同一人物が全工程を管理しないよう、内部牽制の仕組みを作る
  • 複数見積もりの取得を義務化する:一定金額以上の発注は必ず複数の業者から見積もりを取り、担当者が単独で決定できない体制にする
  • 取引先との直接コミュニケーション経路を持つ:経営陣が取引先と直接確認できるルートを確保しておく
  • 内部通報制度を整備する:同僚の不正に気づいた社員が安心して報告できる窓口を作る
  • 就業規則に不正行為の禁止と懲戒処分を明記する:後の法的措置のためにも、規程の整備は欠かせない

これらを一度に全部やる必要はありません。「どこが一番危ないか」を把握することが先決です。顧問弁護士に会社の業務フローを見せて、法務ドック(会社の法務リスクの健康診断)として確認してもらうだけでも、盲点に気づくきっかけになります。

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問題発生時の対応フロー――最初の48時間が分かれ目

水増し請求・キックバックの疑いが生じたとき、社長がまず避けなければならないのは、本人に直接「やったか」と問いただすことです。これをやると、証拠を隠滅される可能性が高まります。不正の証拠はデジタルデータであれ紙であれ、当事者に気づかれた瞬間に消えるリスクがあります。

初動で行うべきことを整理します。

  1. 疑惑を持った事実と根拠を記録する:いつ、何をきっかけに疑念が生じたか、日時を含めてメモしておく
  2. 関連する書類・データを保全する:請求書、発注書、見積書、支払い記録、メール、チャット履歴などを複製・保存する。社内システムのアクセスログも有用
  3. 関係者への情報共有を最小限にする:調査中に不正当事者の耳に入ると証拠隠滅につながる。知らせるのは調査に必要な最低限の人員にとどめる
  4. 弁護士に相談する:証拠収集の適法性(不法なアクセスにならないか等)や、その後の対応方針を確認する

損害額の算定も重要です。過去の取引履歴を遡り、「正常な価格との差額がいくらか」を積み上げる作業は、弁護士と一緒に進めることで法的な請求に耐えうる形に整えることができます。

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失敗事例の構造――なぜ相談が遅れ、なぜ証拠がなかったのか

実際の相談事例をもとに整理すると、水増し請求・キックバックの被害が深刻化するケースには共通したパターンがあります。

あるイベント企画・運営会社では、退職した元従業員2名(制作マネージャーと営業マネージャー)が、在職中に取引先業者と共謀して業務委託費を水増し請求していた疑いが退職後に発覚しました。さらに、会社の経費で購入した高額機材が大量に紛失しており、元従業員らによる業務上横領も疑われる状況でした。加えて、元従業員らは競合会社を設立し、顧客情報を不正利用して顧客を引き抜いていた可能性も浮上しました。

この事案でなぜ相談が遅れたのか。「まさか2人が共謀しているとは思わなかった」「一人が退職してから疑いが出てきたが、もう一人がまだ在職中だったため動けなかった」という状況が重なっていました。疑念が「確信」に変わるまで待ってしまったことで、相談の時点ではすでに重要な書類が見当たらなくなっていたケースもあります。

なぜ証拠がなかったのか。担当者が業務委託先との折衝を一手に担っており、発注の経緯がメールではなく口頭や個人のLINEで行われていました。会社の管理システム上には最終的な請求書しか残っておらず、「なぜその金額になったのか」の経緯が追えない状態でした。

この構造は多くの会社に当てはまります。担当者への信頼と業務委任が不正の温床になるという逆説を、多くの社長は「自分の会社では関係ない」と思っています。それ自体が、最初の判断ミスです。

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うちの会社ではどう考えればいいのか――規模別の判断の目安

「うちは小さい会社だから」「そこまでやる社員はいない」という感覚は理解できます。ただ、水増し請求・キックバックは大企業だけの問題ではなく、むしろ内部牽制が弱い中小企業・ベンチャーでこそ起きやすい不正です。

規模や状況に応じた、実践的な考え方の目安を示します。

  • 社員数10〜30名程度の会社:まず「発注・支払いの承認フロー」を見直す。一人の担当者が全工程を握っている場合、最低限「経営者が支払いを最終承認する」仕組みを作る
  • 外注・業務委託を多用する会社:見積書・発注書・検収書の3点セットを必ず残すルールにする。「電話で頼んで後で請求書もらう」という慣行を改める
  • 退職者が出た直後:その人が担当していた取引について、過去1〜2年分の取引履歴を確認する習慣をつける。退職後に不正が発覚するケースは少なくない
  • すでに疑念がある場合:「確信が持てないから動けない」ではなく、「疑念がある」という段階で弁護士に相談する。弁護士は証拠なしでも、調査の進め方についてアドバイスできる

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再発防止策――一度経験した会社が次に備える体制

不正が発覚した後、多くの会社は「なぜ気づけなかったのか」という後悔とともに、急いで対策を打とうとします。ただ、個別の対策を積み上げるだけでは不十分で、会社全体のガバナンス構造を見直す機会として捉えることが重要です。

再発防止のために検討すべき主な施策は以下の通りです。

  • 就業規則・社内規程への不正行為禁止条項・懲戒規程の明記(後の法的措置の土台になる)
  • 競業避止・秘密保持に関する誓約書の整備(退職時だけでなく入社時にも)
  • 取引先との契約書への反社会的行為・不正禁止条項の挿入
  • 経費精算・発注承認のフローをシステム化し、紙・口頭の慣行を見直す
  • 定期的な内部監査または取引先との直接確認の仕組みを作る

これらは「一度作れば終わり」ではありません。会社の成長や人員の変化に合わせて、継続的に見直していく必要があります。

水増し請求・キックバックの問題は、発覚した一件を解決すれば終わりではありません。就業規則や社内規程を整え、発注・支払いの承認フローを仕組みとして設計し直すことが本質的な再発防止につながります。しかし、それを社長一人でやり続けることには限界があります。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが担う弁護士法人ブライトの「みんなの法務部」では、顧問先130社以上の実名を公開し、不正発覚時の初動対応から、規程整備・日常的な法務相談まで継続的に支えています。揉めてから弁護士を使うのではなく、揉めないように弁護士を使う体制が、結果として会社を守る最も確実な選択肢です。

よくある質問(Q&A)

Q1. 疑いの段階で弁護士に相談してもいいですか?

はい、むしろ疑いの段階での相談が最も重要です。「確証がないから相談できない」と思う社長は多いのですが、弁護士は証拠がない段階でも「どうやって事実を確認するか」「何を保全すべきか」についてアドバイスすることができます。確証を得てから相談しようとすると、その間に証拠が消えるリスクがあります。

Q2. 取引先も共謀している場合、誰に請求できますか?

社員と取引先が共謀して水増し請求を行っていた場合、両者に対して共同不法行為(民法719条)を根拠とした損害賠償請求が可能です。社員には背任罪・業務上横領罪の刑事責任も問えます。ただし、実際に回収できるかどうかは相手方の資力にも依存するため、早期の財産保全(仮差押え等)を検討することが重要です。

Q3. 退職した元社員の不正が発覚しました。時効はありますか?

損害賠償請求権の時効は、不法行為の場合「損害及び加害者を知った時から3年」です(民法724条)。ただし、不正が継続していた期間・発覚のタイミング・請求する根拠によって時効の起算点が異なるため、早めに弁護士に確認することをお勧めします。「退職してしばらく経つから諦めた」という判断をする前に、相談してみることが重要です。

Q4. 社員を解雇する前に弁護士に相談すべきですか?

必ず相談してください。不正が疑われる段階での懲戒解雇は、手続きや根拠が不十分だと、後に解雇無効と判断されるリスクがあります。また、解雇を急ぐあまり証拠収集が不十分なまま進めてしまうと、損害賠償請求が困難になることもあります。解雇と損害賠償請求は別の手続きであり、並行して戦略的に進める必要があります。

和氣良浩 弁護士

この記事の監修者

和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士

弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒

専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生

水増し請求・キックバックへの対応、不正社員への懲戒・損害賠償請求、社内規程の整備など経営上の課題を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先130社以上の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:0120-929-739(平日9:00〜18:00)

「みんなの法務部」というブライトの考え方

中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームで、130社以上の顧問先と向き合っています。

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