取引先から「NDAを結びたい」と言われたとき、受け取った書類をそのまま押してしまっていませんか。あるいは、自社で雛形を作ったものの、相手が「双方向にしてほしい」と言ってきて、どう返せばいいかわからなかった経験はないでしょうか。 NDA(秘密保持契約)は、ビジネスの現場で日常的に登場します。でも「双務か片務か」という構造の違いについて、きちんと理解したうえで判断できている社長は、実はあまり多くありません。「相手が出してきたから」「業界の慣習だから」という理由でサインしてしまうと、後から「うちの情報が守られていなかった」「こんな義務を負わされるとは思わなかった」という事態になりかねません。 この記事では、NDAの双務・片務の違いと、どちらを選ぶべきかの判断基準を、実務の視点から整理します。 双務NDAと片務NDAは何が違うのか まず、構造の違いを整理しましょう。 片務NDA(一方的秘密保持契約)は、情報を受け取る側だけが秘密保持義務を負う形です。たとえば、自社の技術や事業計画を取引先に開示する場面で、「受け取った相手だけが守る義務を負う」という構造になります。 双務NDA(相互秘密保持契約)は、双方が情報を開示し合い、お互いに秘密保持義務を負う形です。共同開発や業務提携の場面で、「どちらも情報を出す・受け取る」というときに使います。 見た目の違いは、「甲は乙に対し〜」という一方向の書き方か、「甲および乙はそれぞれ〜」という双方向の書き方か、です。しかし本質的な違いはそこだけではありません。義務の範囲、損害賠償の対象、自社に課せられる制約が大きく変わるという点が重要です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) なぜ判断を間違えるのか:3つの構造的な落とし穴 【図解】双務NDAと片務NDAは何が違うのかへの対応フロー ① 問題発生 → ② 事実確認・記録 → ③ 顧問弁護士に相談 → ④ 対応策の実行 ※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。 多くの社長が「双務か片務か」の判断を誤るのには、理由があります。 ①「相手が出してきた雛形」をそのまま使う 実際の取引では、相手方から送られてきたNDA雛形がそのまま使われることが多いです。相手が大企業や大手ベンダーの場合はとくに、「向こうが言っているから正しいはず」という心理が働きます。しかし相手の雛形は、相手の利益を最大化するように設計されています。自社にとって不利な条件が含まれていても、気づきにくい。 ②情報の流れが一方向か双方向かを整理していない 「双務にしておけば公平でしょ」という判断も危険です。情報の流れが実際には一方向(自社から相手方だけ)なのに、双務NDAにしてしまうと、自社も相手から受け取った情報を漏えいしてはいけない義務を負います。もし従業員がSNSに何かを投稿した、競合他社に転職した元社員が情報を使ったという場面で、思わぬ形で「違反」を問われることがあります。 ③「秘密情報の定義」が甘いまま署名している 双務か片務かという問題と同時に、「何が秘密情報に当たるのか」の定義が曖昧なままにされているケースが非常に多いです。定義が広すぎると何でも秘密扱いになり、狭すぎると本当に守りたい情報が保護されない。双務・片務の選択と、秘密情報の定義は、セットで考える必要があります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題が起きる前に:NDA締結前にやるべきこと NDAを締結する前に、自社として確認しておくべき「情報の棚卸し」があります。 どちらが情報を開示する立場か:自社だけが情報を出すのか、双方向に情報交換があるのか 何を守りたいのか:技術情報、顧客リスト、価格体系、事業計画のうち、今回の取引に関係するものは何か 相手は誰か:競合になりうる相手か、単純なベンダーか、共同開発パートナーか 取引の性質:単発の商談か、継続的な取引か、M&Aの検討段階か これらを整理すると、自然と「片務で十分か、双務にすべきか」の答えが見えてきます。 さらに、自社がNDAを提示する立場の場合は、自社の雛形を持っておくことが重要です。相手の雛形を受け取るたびに「修正するか・しないか」の判断に追われるより、自社基準のひな形を弁護士と一緒に整備しておくほうが、意思決定のコストが下がります。証拠も、契約書も、紛争になってから急に作れるものではありません。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題発生時の対応:秘密情報が漏えいしたと疑われたとき 万が一、NDAに違反する情報漏えいが疑われる事態が起きたとき、どう動けばよいでしょうか。 まず最初にやることは、「何が・いつ・誰に・どのように漏えいしたのか」を時系列で整理することです。感情的に動くと相手に証拠隠滅の機会を与えます。 証拠の保全について、具体的に残しておくべきものはこちらです: NDAの締結日と内容(署名・捺印のある原本) 開示した情報の範囲を示すメール・資料・送付状 「いつ・誰に・何を開示したか」の記録(社内ログや送付履歴) 漏えいを示唆するSNS投稿、競合の類似資料、取引先からの問い合わせなど 重要なのは、「開示した事実」と「秘密情報であることを相手が認識していた事実」の両方を証明できることです。後から「そんな情報、秘密だとは聞いていなかった」と言われたとき、契約書だけでなく、開示時に秘密性を示すラベル・通知があったかどうかが問われます。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 失敗事例の構造:なぜ相談が遅れたのか 実際の相談の中で見えてくるのは、「NDAは締結していたのに、いざというとき使えなかった」というケースの多さです。なぜそうなるのか。 相談が遅れる最大の理由は「まだ大丈夫だろう」という感覚です。相手が情報を使っているらしい、というシグナルは早い段階で出ていても、「証拠がない」「取引が続いているから揉めたくない」「弁護士に頼む前に自分で話し合おう」という判断が重なって、対応が遅れます。その間に証拠は消え、時効が迫ることもあります。 証拠がなかった理由も構造的です。そもそも「何を開示したか」のログを残す習慣がない。NDAを締結したという事実はあっても、開示物件の管理台帳がない。秘密情報の指定が口頭だけで書面に残っていない。こうした状況では、たとえNDAがあっても「違反を立証する」ことが難しくなります。 IT・Webサービス系の企業では、システム開発の委託先とのNDAにおいて、双務か片務かの選択を深く考えずにいたために、後に「うちも義務を負っていたのか」と驚くことがあります。受注側も情報を開示している場面では、双務NDAが適切です。しかし片務のまま運用し、違反を問われたときに「そもそも自社が何を開示したか」の記録もなく、対応できなかった、という事態が生じます。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) うちの会社ではどう考えればいいのか:判断の軸 「双務か片務か」を判断するための、シンプルな軸を整理します。 情報の流れが一方向 → 片務NDAが基本。自社だけが開示する場合(製品デモ、事業説明、顧客情報の共有など)は、相手方だけに義務を負わせる片務が理にかなっています。 情報の流れが双方向 → 双務NDAを検討。共同開発・業務提携・M&A検討時のように、双方が機密情報を交換する場合は、双務NDAで対等な義務を設定します。 相手が大企業で力関係があっても、内容の確認は必須。「相手が出したから」「業界標準だから」という理由で署名するのは、自社のリスク管理を相手に委ねることです。 M&Aや新規事業の検討段階では双務NDAが多い。互いに財務・技術情報を出し合う前提があるため、双方向の義務設定が実態に合っています。 また、契約書のレビューは、「法的に問題ないか」だけでなく「自社の実態・情報の流れに合っているか」という観点が重要です。形式的に問題なくても、自社の運用実態と乖離したNDAは、有事に機能しません。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 再発防止策:NDA管理を仕組みとして整備する 一度トラブルを経験した会社、あるいは「そういえばNDAの管理をちゃんとしていない」と気づいた会社が次にやるべきことを整理します。 自社のNDA雛形を整備する:片務型・双務型の両方を、自社の事業内容に合わせて弁護士と作成しておく。状況に応じて使い分けられるようにする。 開示物件の管理台帳を作る:「誰に・いつ・何を開示したか」を記録する仕組みを設ける。メール送付だけでなく、送付状・開示物件リストを添付する習慣をつける。 秘密情報の指定を書面で行う:口頭での説明だけでなく、「本資料は秘密情報に該当します」という表記を資料や送付メールに入れる。 NDAの期間・終了後の取扱いを確認する:NDAには有効期間と、終了後の情報の廃棄・返還義務が定められていることが多い。期間切れで保護が失われていないか定期的に確認する。 受け取ったNDAのレビューをルーティン化する:顧問弁護士に定期的にレビューを依頼し、自社不利な条項が積み重なっていないか確認する。 NDAの双務・片務の問題は、一度契約書を整備すれば終わりではありません。取引の形が変わるたびに、自社の情報管理の実態と契約内容が一致しているかを見直す必要があります。これを経営者が一人で追い続けるのは現実的ではありません。 NDAの契約書レビュー・自社雛形の整備・受け取った契約書の交渉対応など、日常的な法務課題を継続的に相談できる体制として、顧問弁護士の存在は欠かせません。弁護士法人ブライト「みんなの法務部」では、顧問先130社以上の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の弁護士が、NDAをはじめとする契約書対応を日常的にサポートしています。問題が起きてから相談するのではなく、判断の質を上げるための継続的なパートナーとして活用することが、もっとも確実なリスク管理です。 よくある質問 Q. 相手から双務NDAを求められたのですが、断ってもいいですか? A. 断ること自体は可能です。情報の流れが実際に一方向であれば、片務NDAでも交渉できます。ただし相手との関係性や取引の性質を踏まえ、交渉の仕方を考える必要があります。「うちからしか情報を出さないので片務でお願いしたい」という説明が通じる場合も多いです。 Q. 片務NDAで締結したのに、後から相手が「双務にしたい」と言ってきました。どう対応すれば? A. その時点での取引の実態を確認することが先決です。情報の流れが双方向になっているなら双務に変更することは合理的ですが、実態が変わっていないのに相手が義務負担を均等にしたい意図だけで求めているなら、受け入れる必要はありません。変更する場合は覚書で対応します。 Q. NDAを締結せずに口頭で秘密保持を約束した場合、法的に有効ですか? A. 口頭の合意も契約として成立しうりますが、「何を約束したか」の立証が困難です。いざ漏えいが起きたときに「そんな約束はしていない」と言われると、対抗手段が限られます。秘密保持は必ず書面で残すことが基本です。 Q. 秘密保持義務の有効期間は何年が一般的ですか? A. 一般的には契約終了後2〜5年が多いですが、業種・情報の性質によって異なります。技術情報は5年以上、M&A関連は3〜5年、単純な商談情報は1〜2年が目安です。ただし「一般的」にあわせるより、自社の情報の価値・リスクに応じて設定することが重要です。 当事務所が参考にした実務書 当事務所では本テーマに関する最新の実務書を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした書籍を以下に紹介します。 『秘密保持契約の理論と実務』 — 田路至弘、鮫島正洋/日本評論社/2024年3月/分類:学術書・体系書 『新・契約書作成の実務と書式 — 企業法務の基礎知識』(第3版) — 内田貴/有斐閣/2023年4月/分類:Q&A形式の実務解説書 『M&A契約 モデル条項と解説』 — 西村あさひ法律事務所/商事法務/2024年5月/分類:条文逐条解説書 『IT・システム開発契約の実務』(第2版) — 松島淳也、岩瀬ひとみ/商事法務/2023年9月/分類:業種特化型実務書 『フランチャイズ契約の実務と書式』(第4版) — 古川善典/民事法研究会/2023年6月/分類:業種特化型実務書 ※ 書籍内容は引用しておらず、書誌情報のみ表示しています。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。 この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生 NDAの双務・片務の選択・契約書レビュー・自社雛形の整備など、契約法務を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先130社以上の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:0120-929-739(平日9:00〜18:00) 「みんなの法務部」というブライトの考え方 中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームで、130社以上の顧問先と向き合っています。 ▶ みんなの法務部とは(詳しく見る) 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料)