この記事の執筆弁護士
弁護士 松本 洋明(弁護士法人ブライト 交通事故主任)
大阪弁護士会所属(登録2010年・修習63期)。むちうち14級認定の実務を多数経験。通院記録・症状一貫性の立証戦略に強み。
この記事の監修弁護士
弁護士 和氣 良浩(弁護士法人ブライト 代表)
大阪弁護士会所属。弁護士法人ブライト代表。
最終更新日:2026年5月28日
この記事の結論(30秒でわかる)
- 後遺障害14級9号は 「局部に神経症状を残すもの」。むちうち・腰部捻挫で最も多い等級。
- 自賠責慰謝料 32万円、赤本基準慰謝料 110万円、労働能力喪失率 5%。
- 認定の鍵は ① 通院の継続性 ② 症状の一貫性 ③ 自覚症状の医学的合理性 の3つ。
- 「他覚的所見がある」ケースでは 12級13号 へのステップアップを検討すべき。
交通事故でむちうち・腰部捻挫の症状が残ったとき、最初に目指す等級が 後遺障害14級9号 です。「局部に神経症状を残すもの」と定義され、画像所見では明確に示せない症状でも、適切な立証により認定されます。
この記事では、14級9号の認定要件・慰謝料相場・実務上のポイント・12級13号へのステップアップ戦略まで、弁護士法人ブライト交通事故主任の松本洋明弁護士が解説します。後遺障害認定の全体像は 後遺障害認定の完全ガイド をご覧ください。
目次
後遺障害14級9号の定義と対象症状
自動車損害賠償保障法施行令 別表第2 14級9号は、後遺障害として 「局部に神経症状を残すもの」 と定義されています。「局部」とは身体の特定の部位を意味し、「神経症状」とは痛み・しびれ・違和感などの自覚症状を指します。
14級9号の対象となる主な症状
- むちうち(頚椎捻挫・外傷性頚部症候群):頚部の痛み、頭痛、めまい、手のしびれ
- 腰部捻挫:腰痛、下肢のしびれ、坐骨神経痛
- 軽度の打撲・挫傷:症状固定後も持続する痛み
- 関節周囲の軟部組織損傷:可動域制限に至らない違和感・疼痛
14級9号と非該当の境界
14級9号は 後遺障害の最も低い等級 ですが、認定されるか非該当になるかで賠償額は大きく違います。14級9号が認定されれば最低でも赤本基準で 慰謝料110万円+逸失利益。非該当だとこれらの上乗せ請求は不可能です。
14級9号の慰謝料・逸失利益(自賠責 vs 赤本)
等級別の比較表
| 項目 | 14級9号 | 12級13号 |
|---|---|---|
| 自賠責慰謝料 | 32万円 | 94万円 |
| 赤本基準慰謝料 | 110万円 | 290万円 |
| 労働能力喪失率 | 5% | 14% |
| 労働能力喪失期間 | 3〜5年(むちうち) | 10年〜67歳まで |
逸失利益の計算例(年収500万円・35歳)
14級9号の場合:500万円 × 5% × ライプニッツ係数4.58(5年・年利3%)≒ 約115万円
赤本基準慰謝料110万円を加えて、合計約225万円。
これに加えて、傷害分の慰謝料・治療費・休業損害が別途請求できます。
むちうちの労働能力喪失期間が短い理由
むちうちなど他覚的所見が乏しい14級9号の労働能力喪失期間は、実務上 3〜5年 に制限されるのが一般的です。これは「症状が時間の経過で改善する蓋然性がある」と判断されるためです。骨折等の他覚的所見がある場合は、より長い期間(67歳までなど)が認められる傾向があります。
認定に必要な3つの条件
条件① 通院の継続性
事故から症状固定まで、継続的に通院しているか が最重要です。通院が断続的だったり、途中で長期間空いたりすると、「症状が軽い」「治癒した」と判断されます。
条件② 症状の一貫性
事故直後から症状固定まで、主訴(首が痛い・腰が痛いなど)が一貫している ことが必要です。「痛い部位が時期ごとに変わる」「症状が消失していた時期がある」などは認定の障害になります。
条件③ 自覚症状の医学的合理性
自覚症状が 医学的に説明可能 であることも重要です。たとえばむちうちで「腰が痛い」だけだと、事故との因果関係が疑われます。神経学的検査(スパーリングテスト等)の異常所見、X線・MRIで微細な所見でも、自覚症状と整合していることが立証材料になります。
通院頻度・期間の実務感覚
「何回通院すれば14級が取れますか」とよく聞かれますが、「○回以上で確実」というような目安は申し上げられません。あくまで実務感覚として、参考になる目安を共有します。
14級認定の実務的な目安(断定ではない)
- 通院期間:事故から症状固定まで 6ヶ月以上 が一般的
- 実通院日数:100日前後(週2〜3回ペース)
- 通院の連続性:通院間隔は2週間以内を目安に
- 整形外科の継続通院:整骨院だけでは不十分。整形外科での定期診察を必ず維持
整骨院通院の落とし穴
「痛いから整骨院に通っている」だけでは、後遺障害認定では 正規の医療機関による治療として評価されません。整形外科の医師の指示書をもらい、定期診察を継続することが必須です。「整骨院しか行っていない」ケースでは認定が困難になります。
関連記事:交通事故と整骨院通院の注意点
14級9号の認定実例(症状別)
むちうち(頚椎捻挫)の認定実例
もっとも多いパターン。追突事故などで頚部痛・頭痛・上肢しびれが残存。6ヶ月以上の整形外科通院+スパーリングテスト陽性所見で14級9号認定。
腰部捻挫の認定実例
側突・後突事故での腰痛・下肢しびれ。MRIで明らかな椎間板ヘルニアがなくても、神経学的検査と症状の一貫性で14級9号認定が可能。
関節周囲の14級認定実例
肩関節・膝関節周辺の打撲後の慢性疼痛。可動域制限には至らないが、症状の一貫性で14級9号が認められた事例があります。
14級9号→12級13号へステップアップする条件
14級と12級の決定的な違いは 「他覚的所見の有無」 です。12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」と認定されるには、以下のいずれかが必要です。
12級認定に必要な他覚的所見
- MRIでの神経圧迫所見:椎間板ヘルニア・神経根圧迫
- 神経学的検査の明確な異常:知覚異常の範囲が解剖学的に整合
- 電気生理学的検査の異常:神経伝導速度低下、針筋電図の脱神経所見
14級→12級のステップアップ戦略
1回目の申請で14級9号にとどまった場合、追加MRIの撮影+神経学的検査の補強+医師の意見書 を組み合わせて異議申立てを行います。等級が1つ上がるだけで、賠償額は 225万円 → 1,717万円(年収500万円35歳の試算)と大きく変わります。
詳しくは むちうち14級vs12級の分かれ目 / 異議申立て3つの戦略 をご覧ください。
非該当になりやすい3つのパターン
パターン① 通院が断続的・短期
3ヶ月で通院をやめた、通院間隔が月1回ペースなど。「症状が軽い」と判断されます。
パターン② 事故直後の受診が遅い
事故から2週間以上経ってから初診の場合、事故との因果関係が疑われます。事故当日または翌日の初診が原則です。
関連事例:初診遅れ事案の自賠責被害者請求
パターン③ 自賠責の事前認定(保険会社任せ)
相手方任意保険会社に任せきりにすると、十分な資料が揃わないまま申請されることがあります。被害者請求 に切替えて被害者側で資料を整えるべきです。
関連事例:事前認定→被害者請求への切替判断
【CTA④】非該当のリスクを事前にチェック
部位別の14級9号認定パターン
14級9号「局部に神経症状を残すもの」は、ほぼ すべての身体部位 で起こり得ます。部位別の認定パターンを、実務感覚で整理します。
頚部の14級9号
最も典型的なパターンが 頚椎捻挫(むちうち) です。追突事故後の頚部痛・後頭部痛・上肢のしびれが代表症状。神経学的検査ではスパーリングテストやジャクソンテストの陽性所見が重要な立証材料になります。整形外科を 事故直後から6ヶ月以上 継続通院し、症状の一貫性を確保することが認定の要となります。
腰部の14級9号
側突事故・後突事故での 腰部捻挫 で生じる腰痛・下肢のしびれ・坐骨神経痛。SLRテスト陽性や下肢の知覚低下が補強材料です。腰椎の場合、神経症状が L4・L5・S1 のどの神経根に由来するかが明確になれば、12級13号への足掛かりにもなります。
肩関節周辺の14級9号
肩鎖関節挫傷・腱板損傷後の慢性疼痛で、可動域制限には至らないが症状が残るケースです。MRIで腱板の部分損傷や関節包の肥厚が確認でき、症状の一貫性があれば14級9号が見えてきます。なお、可動域制限が明確に残る場合は 12級6号(関節機能障害)への上方修正を検討します。
膝関節周辺の14級9号
膝靭帯損傷(前十字靭帯・後十字靭帯・側副靭帯)や半月板損傷後の慢性疼痛。徒手検査での不安定性が確認でき、MRIで靭帯の部分損傷が見える場合に14級9号認定の可能性があります。動揺関節として明らかな機能障害があれば、より上位の等級も視野に入ります。
足関節・足部の14級9号
足関節捻挫・足趾の挫傷後の慢性疼痛。距骨と脛骨の隙間の左右差・足趾の可動域低下・歩行困難などが立証材料になります。重い荷重をかけられない・長距離歩行ができないなど、労働への影響を併せて示すことが重要です。
上肢の14級9号(手・指・前腕)
橈骨遠位端骨折後の手関節痛、TFCC損傷後の手首尺側痛など。神経損傷を伴う場合は 神経伝導速度検査(NCV) で客観化し、12級13号や12級10号(局部に著しい運動障害)を狙う戦略もあります。
主婦・自営業・無職の逸失利益計算
14級9号の逸失利益は 「基礎収入 × 労働能力喪失率 × 喪失期間に対応するライプニッツ係数」 で計算します。基礎収入の決め方が職業類型ごとに違うため、実務感覚を整理します。
給与所得者(サラリーマン・OL)
前年度の 源泉徴収票の支払金額 を基礎収入とします。事故年に昇給があった場合、事故時点の見込み年収を採用できることがあります。賞与・残業代を含む額が基本です。
主婦・主夫(家事従事者)
家事労働には金銭的対価がない代わりに、賃金センサス(全女性労働者の平均賃金) を基礎収入として認める運用が確立しています。直近の賃金構造基本統計調査(厚生労働省)における女性労働者・学歴計・全年齢平均は、賞与・特別給与を含む年収で 約400万円 前後で推移しています(適用年は赤本各年版で確認)。これに14級喪失率5%・喪失期間5年(むちうち実務)を掛けて、約90〜100万円が逸失利益の目安となります。
兼業主婦の場合
パート・アルバイトと家事の両方を担っている兼業主婦の場合、パート収入と賃金センサスのいずれか高い方 を基礎収入とできるケースがあります。ブライトの実例では、通勤中の追突被害(過失0:100)で兼業主婦の休業損害論点を交渉した事例 があります。
自営業者・フリーランス
確定申告書の 所得金額(収入から経費を引いた額) を基礎収入とするのが原則です。ただし、専従者控除前の金額や、事業経費に按分できる固定費の取扱いで争いになります。確定申告書3年分 を準備して交渉に臨むのが標準的です。
無職・学生
就労意欲・就労可能性があれば、賃金センサス(年齢別・全労働者平均) を基礎収入として主張できる場合があります。学生は卒業見込み学歴の賃金センサスを使うこともあります。就職活動中の方は 内定先の予定年収 を主張するパターンもあります。
14級9号で逸失利益が認められない・限定される事案
14級9号は他覚的所見が乏しい等級のため、相手保険会社から 「実際の収入減はないから逸失利益はない」 と争われることがあります。実務上は 「現実の減収がなくても、能力低下による将来の不利益」 として一定額が認められる傾向ですが、被害者側で 仕事への支障・将来の昇進機会への影響 等を陳述書で立証する必要があります。
治療打ち切りからの逆転戦略
事故から3〜6ヶ月経過すると、相手方任意保険会社から 治療費の支払い打ち切り(一括対応の終了) を打診されることが増えます。打ち切られると治療継続が難しくなり、結果として14級認定の可能性も下がります。打ち切りからの逆転戦略を整理します。
戦略①:健康保険への切替で治療継続
打ち切り後も治療継続が必要であれば、健康保険を使って自費通院 に切り替えます。第三者行為による傷病届を健康保険組合に提出すれば、健康保険の3割負担で通院を継続できます。あとから相手方保険会社・自賠責に治療費請求できます。
戦略②:傷病手当金・労災給付の活用
業務外の事故であれば 健康保険の傷病手当金(給与の約2/3を最長1年6ヶ月)、通勤災害・業務災害であれば 労災保険(休業給付・療養給付)を活用して経済的負担を抑えながら治療を継続します。
戦略③:自賠責への被害者請求で内払い金確保
傷害分の自賠責支払い限度(120万円)の範囲で 被害者請求 を行い、治療費・休業損害の一部を確保します。最低限の経済的安定を確保しつつ、症状固定まで通院を継続できます。
ブライトの実例:大手損保への3ヶ月分休業損害内払い請求・5/15一括打切り後の傷病手当金切替と整骨院通院継続事例
労災後遺障害との比較(通勤災害の併用判断)
通勤中・業務中の交通事故では、自賠責に加えて 労災保険の後遺障害認定 を受けられます。労災と自賠責は別個に手続きが進み、等級認定基準が共通 ですが、給付内容・申請の進め方は異なります。
労災と自賠責の併用ルール
- 同じ損害項目について 二重取りはできない(損益相殺)
- 労災給付には 慰謝料がない(労災は休業給付・障害給付など実費補償が中心)
- 慰謝料相当部分は自賠責・任意保険から別途請求できる
- 労災の 特別支給金(給与の20%)は損益相殺の対象外=そのまま被害者に残る
14級認定での労災 vs 自賠責の支給比較
| 給付項目 | 自賠責 14級 | 労災 14級 |
|---|---|---|
| 後遺障害慰謝料 | 32万円 | なし(慰謝料は労災対象外) |
| 後遺障害給付(一時金) | — | 給付基礎日額の56日分 |
| 特別支給金 | — | 56万円(一時金) |
| 逸失利益相当 | 慰謝料に含むor別途算定 | 給付に含まれる |
通勤中の事故ではどちらを先に申請するか
通勤災害の場合、労災を先に使うほうが有利 なケースが多い実務感覚があります。理由は:
- 労災の 特別支給金(給与20%相当) は損益相殺の対象外で、まるごと残る
- 自賠責の120万円枠を 慰謝料・通院交通費 に温存できる
- 労災後遺障害認定が出れば、自賠責申請時に有利な参考資料になる
関連記事:労災と自賠責の併用判断 / 労災と自賠責を併用して圧迫骨折の慰謝料を最大化する方法
ブライトには労災部部長の 笹野皓平 弁護士(修習64期・登録2011年) が在籍し、自賠責と労災の最適な順序を事案ごとに設計します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 通院が3ヶ月で打切りになっても14級は取れますか?
A. 厳しい状況ですが、不可能ではありません。打切り後の自費通院・健康保険切替で通院継続できれば、認定の可能性が残ります。
Q2. むちうちでMRI異常がなくても14級は取れますか?
A. はい。14級9号は他覚的所見が乏しくても認定されます。通院記録・神経学的検査・症状の一貫性が立証材料になります。
Q3. 14級と非該当の境界はどこですか?
A. 一義的な基準はありませんが、通院期間6ヶ月・実通院100日前後・症状の一貫性 が概ねの分岐点です。
Q4. 14級9号認定後の慰謝料相場は?
A. 弁護士基準(赤本)で慰謝料110万円+逸失利益約115万円=合計約225万円(年収500万円35歳の場合)。傷害分の慰謝料・治療費は別途。
Q5. 14級9号は何年仕事に影響しますか?
A. 労働能力喪失期間は実務上 3〜5年 に制限されるのが一般的です。骨折等の他覚的所見があれば長期化します。
まとめ
後遺障害14級9号は、むちうち・腰部捻挫など 軽症に見える事故 でも認定される可能性がある重要な等級です。通院の継続性・症状の一貫性・自覚症状の医学的合理性——この3つを揃えれば、認定への道筋が見えてきます。
そして、14級9号で確定する前に、12級13号へのステップアップ余地 を検討することも重要です。追加検査・意見書・異議申立てを組み合わせれば、賠償額が大きく変わる可能性があります。
関連記事:後遺障害認定の完全ガイド / 12級13号の完全解説 / むちうち14級vs12級の分かれ目 / 異議申立て3つの戦略




