この記事でわかること
- クレーン・移動式クレーンの吊り荷落下・玉掛け事故で会社が負う法的責任(クレーン等安全規則の義務)
- 定格荷重・玉掛け作業者資格・合図・立入禁止区域の管理責任
- 元請の統括安全配慮義務と下請労働者への責任
- 後遺障害等級と損害賠償額の相場・解決事例
執筆・監修
笹野 皓平 弁護士(労災部部長)
大阪弁護士会 登録2011年・修習64期・弁護士歴14年
監修
和氣 良浩 弁護士(代表)
大阪弁護士会 登録2004年
クレーン・移動式クレーンによる吊り荷の落下、玉掛けワイヤーの外れ・切断、旋回時の接触事故は、建設・製造・港湾・倉庫現場で繰り返し発生する重大労働災害です。吊り荷が落下した場合、直撃を受けた労働者は骨折・臓器損傷・脊髄損傷・死亡という致命的な傷害を負います。
このような事故では、クレーン等安全規則(クレーン則)に定められた多数の安全義務を会社が怠っていることが多く、安全配慮義務違反として損害賠償を請求できます。弁護士法人ブライトの労災部は、クレーン事故・玉掛け事故による損害賠償請求を受任してきました。このページでは法的責任の根拠・後遺障害等級・賠償額の相場を解説します。
労災認定の先に——会社への損害賠償という選択肢
労災保険が補填するのは、損害のすべてではありません。慰謝料・逸失利益・後遺障害による将来の損失は、安全配慮義務違反(労働契約法5条・民法415条)に基づき会社へ別途損害賠償を請求できます。
重傷・後遺障害・死亡に至った事案では、弁護士への早期相談が証拠保全と時効対策の両面で重要です。まずは無料でご相談ください。
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担当:笹野 皓平 弁護士(労災部部長・修習64期)|弁護士法人ブライト
クレーン事故で会社が負う安全配慮義務違反の内容
クレーン等安全規則(クレーン則)が定める使用者の義務
クレーン則は、クレーンの設置・検査・作業方法・作業者の資格について詳細な規制を定めています。以下は特に労災事故との関係で重要な条文です。
- クレーン則第23条・第24条(過負荷の制限・定格荷重):クレーンの定格荷重(フック、グラブバケット等の重量を含む最大吊り上げ荷重)を超えた使用は禁止。定格荷重を超えた作業指示は会社の重大過失となります
- クレーン則第25条(玉掛け用具の安全係数):ワイヤロープの安全係数は6以上(つりチェーンは4以上)と規定。劣化したワイヤの使用継続は義務違反です
- クレーン則第26条(立入禁止):クレーンで荷を吊り上げて作業する場合、吊り荷の下への労働者の立入りを禁止しなければならない。立入禁止措置(標識・ロープ・監視者の配置)が不十分な場合は会社の過失となります
- クレーン則第73条・第74条(玉掛け作業者の資格):つり上げ荷重1トン以上のクレーンの玉掛け作業は、玉掛け技能講習修了者でなければ行えません。無資格者に玉掛けを行わせた場合は義務違反となります
- クレーン則第71条・第72条(合図):クレーンの運転者に対する合図は一定の方法で行い、合図者を指名しなければならない。合図の不徹底・複数者からの合図混在が事故原因となるケースが多くあります
これらの義務に違反して事故が発生した場合、会社は労働契約法5条(安全配慮義務)・民法415条(債務不履行)・709条(不法行為)に基づき損害賠償責任を負います。
移動式クレーン(ラフター・カーゴクレーン)の特有リスク
建設・土木現場で多用される移動式クレーン(ラフタークレーン・トラッククレーン等)は、地盤の状態・傾斜・アウトリガーの設置状況によって転倒・転落リスクが大きく変わります。移動式クレーンに関しては特に以下の管理義務が問題となります。
- クレーン則第70条(地盤の安定確保・アウトリガーの使用義務):軟弱地盤・傾斜地での作業時に敷鉄板・アウトリガー完全張出しを行わなかったケース
- クレーン則第66条の2(作業計画の作成・周知):移動式クレーン使用作業の作業計画を作成し、作業者に周知しなければならない。計画なしの即興作業は義務違反
- 強風時の作業中止義務(クレーン則第74条の3):瞬間風速10m/sを超えるおそれがある場合は作業を中止しなければならない。強風が予見できた状況での作業継続は過失
玉掛け作業の安全管理と会社の責任
玉掛け作業は吊り荷の荷重中心の把握・ワイヤの本数と角度の計算・フックへの掛け方など、専門知識と技能を要する作業です。ブライトの実務経験では、以下のような玉掛け管理の不備が事故原因として指摘されるケースが多くあります。
ブライトの実務経験から:
玉掛けワイヤーが経年劣化したまま使用され続け、吊り上げ中に素線が折れて荷物が落下したケースや、複数人が別々に玉掛けを行った際の合図の混乱で荷が振れてクレーンオペレーターが適切に停止できなかったケースが実際にありました。こうした事故では、日常点検記録・ワイヤの交換履歴・作業指示書が重要な証拠になります。
- 玉掛け用具(ワイヤロープ・スリング・シャックル)の定期点検・交換記録がない
- 玉掛け技能講習未修了者が常態的に玉掛け作業を行っていた
- 荷の重量確認を行わずに定格荷重の上限近くで吊り上げた
- 複数の吊り点から掛ける多点吊りで、荷重分散の計算が行われていなかった
- 吊り荷下への立入禁止措置(ロープ・カラーコーン・監視者)が設置されていなかった
元請の統括安全配慮義務と下請労働者への責任
建設・土木現場では元請・下請・孫請が混在してクレーン作業が行われることが多く、被災した下請労働者が元請会社にも損害賠償を請求できるケースがあります。
労安法第30条の統括安全衛生管理義務
特定元方事業者(建設業等)は、同一の場所で複数の事業者の労働者が混在して作業を行う場合、その作業全体の統括安全衛生管理を行う義務があります(労働安全衛生法第30条)。具体的には、毎朝の安全朝礼の主催・危険箇所の共有・作業計画の統括管理などが含まれます。
実務書(『建設工事における労働災害防止の法的責任』等)によれば、元請が下請の玉掛け作業者に対して適切な指導・確認を行わずに作業を継続させ、事故が発生した場合には、元請の統括管理義務違反として損害賠償責任が認められる傾向があります。
クレーン運転士と玉掛け作業者の役割分担と責任
クレーン運転士(クレーン・デリック運転士免許が必要)と玉掛け作業者(玉掛け技能講習修了者)は、それぞれ別の資格・職務を持ちます。合図者を介した連携が不十分な場合、クレーン運転士と玉掛け作業者の双方の過失が問われることがあります。しかし、被災した労働者の立場からは、使用者責任(民法715条)として会社全体の賠償責任を追及できます。
クレーン事故の後遺障害等級と損害賠償の相場
吊り荷落下・接触事故で生じる後遺障害の種類と等級
| 後遺障害の種類 | 主な等級目安 | 概要 |
|---|---|---|
| 脊髄損傷(四肢麻痺・対麻痺) | 1〜3級 | 脊柱の骨折に伴う脊髄損傷。完全麻痺は1級相当 |
| 頭部外傷・高次脳機能障害 | 1〜9級 | 記憶・注意・遂行機能の障害。画像+神経心理検査で立証 |
| 骨盤骨折・臓器損傷 | 5〜11級 | 変形・運動制限・内臓機能低下の程度 |
| 肋骨骨折・胸郭変形 | 12〜14級 | 変形治癒・神経症状残存 |
| 上下肢の骨折・関節機能障害 | 6〜12級 | 可動域制限・神経症状・筋力低下 |
| 死亡(吊り荷直撃) | — | 遺族が逸失利益・死亡慰謝料を請求 |
損害賠償の主要項目と金額目安
クレーン事故の損害賠償請求では、以下の項目を積み上げます。慰謝料・後遺障害慰謝料は労災保険から支給されないため、全額を会社への請求で回収します。
| 損害項目 | 概要・目安 |
|---|---|
| 治療費・入院費 | 実費(労災保険補填後の差額) |
| 休業損害 | 日額×休業日数。労災保険休業補償(給付基礎日額の60%)の差額 |
| 傷害慰謝料(入通院慰謝料) | 入院3〜6ヶ月で100〜300万円程度 |
| 後遺障害逸失利益 | 年収×労働能力喪失率×ライプニッツ係数。脊髄損傷1級(100%)なら数千万円規模 |
| 後遺障害慰謝料 | 1級2,800万円〜14級110万円(裁判所基準) |
| 将来介護費 | 1〜2級の重度障害で日額3,000〜8,000円×余命 |
| 死亡慰謝料 | 本人2,000〜2,800万円+遺族固有慰謝料 |
ライプニッツ係数の計算例:30歳・年収500万円・後遺障害1級(労働能力喪失率100%)・就労可能年数35年の場合、逸失利益は500万円×1.0×18.392(35年係数)=9,196万円。これに後遺障害慰謝料2,800万円・傷害慰謝料などを加えると総額は1億円を超える可能性があります。
クレーン・玉掛け事故の解決事例(弁護士法人ブライト)
事例1:吊り荷落下による脊椎骨折・神経症状(後遺障害12級相当)
製造業の工場内で、クレーンで搬送中の機械部品が落下し、作業中の労働者の腰部を直撃。腰椎圧迫骨折・硬膜外血腫の手術を経て、体幹機能の軽度制限・下肢のしびれが残存。労災保険で障害補償給付を受けた後、会社への損害賠償請求を依頼されました。
調査で、落下した機械部品の吊り荷の下への立入禁止措置(クレーン則第26条)が設置されておらず、玉掛けワイヤーの点検記録も直近2年間分が存在しないことが判明。会社の過失が明確な事案として後遺障害慰謝料・逸失利益を含む示談解決に至りました。
事例2:玉掛けワイヤー切断による金属部材落下・下肢骨折
建設現場で鉄骨部材を移動中、玉掛けワイヤーが切断して鉄骨が落下。作業者の足部・足首を直撃し、足首関節内骨折・靱帯損傷。術後も可動域制限が残り後遺障害等級が認定されました。
使用していたワイヤロープの素線切れが基準(安全係数6未満)を下回っていたことを安全係数計算書で立証。元請会社にも統括安全衛生管理義務違反の主張を行い、元請・下請両社への損害賠償請求を進めました。
等級認定はスタートライン
労災保険の後遺障害等級が認定されても、それは労災給付の基準に過ぎません。会社への損害賠償請求では、等級に対応した慰謝料・逸失利益・将来費用を全項目で積算できます。弁護士が介入することで、自己交渉の数倍〜数十倍の解決額になるケースがあります。
クレーン事故の損害賠償請求の流れ
- 労災申請・治療専念:労災保険の療養補償・休業補償で治療費・生活費を確保
- 証拠保全:作業指示書・クレーン点検記録・玉掛けワイヤーの交換記録・合図手順書・現場写真を早期に収集
- 症状固定・後遺障害等級認定:症状固定後に労災保険で障害補償給付の申請。等級に不服がある場合は審査請求
- 損害額の算定:弁護士が全損害項目を積算。労災保険給付との損益相殺を正確に計算
- 会社・元請との交渉・示談・訴訟:交渉が決裂した場合は民事訴訟も視野に
時効:損害賠償請求権(生命・身体侵害)の消滅時効は、改正民法(2020年4月1日以降)の下では損害および加害者を知ったときから5年(民法166条1項1号・724条の2)。症状固定・等級確定を待って相談開始が一般的です。
よくある質問
Q1. クレーン事故で即死・意識不明の状態です。遺族が代わりに請求できますか?
被災者が死亡した場合は相続人(遺族)が損害賠償請求権を相続します。死亡慰謝料(本人分2,000〜2,800万円)・逸失利益・葬儀費用などを遺族が会社に対して請求できます。意識不明(植物状態)の重篤な場合も、将来介護費・後遺障害慰謝料等を含む多額の賠償が認められるケースがあります。
Q2. クレーン運転士(クレーンオペ)自身も過失を問われますか?
クレーン運転士が会社の従業員である場合、使用者責任(民法715条)により会社が賠償責任を負います。個人としての運転士に対する請求は実務上まれですが、外部委託のクレーン業者の場合は、業者と発注元の双方の責任関係を弁護士が整理します。
Q3. 玉掛け技能講習を受けずに作業をしていた場合、労災補償に影響はありますか?
無資格作業であっても労災保険の給付は受けられます。被災者側の無資格は会社側の義務違反(無資格者に作業させていた)でもあるため、損害賠償請求における過失割合の争いでも被災者に不利な判断にはなりにくい面があります。弁護士が会社側の「被災者が無資格で作業した」という主張に適切に反論します。
Q4. 定格荷重以内の吊り上げ作業でも会社の責任は問えますか?
定格荷重以内であっても、玉掛け方法の不適切さ(素線切れワイヤーの使用・荷の重心見誤り)や立入禁止措置の不備が事故原因であれば、会社の安全配慮義務違反を問えます。定格荷重の遵守は最低限の義務であり、それだけでは会社の責任が免除されるわけではありません。
Q5. 下請労働者として元請現場でクレーン事故に遭いました。元請にも請求できますか?
元請が統括安全衛生管理義務(労安法第30条)に違反していた場合、元請にも損害賠償を請求できます。元請の現場代理人・安全管理者が立入禁止措置を確認せずに作業を承認していたケース、元請が玉掛け作業の計画・指示に関与していたケースでは元請の責任が認められる可能性があります。
Q6. 会社が「被災者が吊り荷下に入ったのが原因」と主張しています。
吊り荷下への立入禁止措置(標識・ロープ・監視者)が不十分な場合、立入禁止措置を設けなかった会社側の過失の方が大きいと主張できます。被災者に立入の「慣行」があった場合も、危険な慣行を黙認・放置した管理責任として会社側に帰責できるケースがあります。弁護士が現場の実態を調査して反論します。
Q7. 移動式クレーンが転倒して下敷きになりました。機械の欠陥も争えますか?
クレーン自体の製造上の欠陥が原因の場合は、製造物責任法(PL法)によるメーカーへの損害賠償請求も可能です。ただし多くのケースでは設置・管理・操作方法の誤りが主因であり、会社の安全配慮義務違反として構成する方が実務上の立証が容易です。機械の欠陥の可能性がある場合は弁護士と一緒に原因を精査します。
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まとめ
- クレーン・玉掛け事故は、クレーン則の多数の安全義務(定格荷重・立入禁止・合図・玉掛け資格・用具点検)違反として会社の安全配慮義務違反を構成できる
- 吊り荷落下による脊椎損傷・高次脳機能障害・死亡は、損害賠償総額が数千万〜1億円超になりうる重篤事故
- 元請の統括安全衛生管理義務違反も併せて追及することで、より実効的な賠償を期待できる
- 労災保険給付では補填されない慰謝料・逸失利益差額の回収には弁護士への依頼が必須
- 損害賠償請求の時効は損害認識から5年(改正民法)。症状固定後に速やかに弁護士へ相談を
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