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仕事が原因の病気・健康障害で会社に損害賠償請求できるか|業務起因性と安全配慮義務

執筆・監修

執筆:笹野 皓平 弁護士(労災事業部部長・修習64期・登録2011年/弁護士法人ブライト)
監修:和氣 良浩 弁護士(代表・修習57期・登録2004年/弁護士法人ブライト)

弁護士歴平均14年以上のチームが監修。労災の損害賠償請求を専門に取り扱っています。

この記事でわかること(結論)

  • 仕事が原因の病気・健康障害でも会社に損害賠償請求できる。根拠は労働契約法5条・民法415条・709条の安全配慮義務違反。
  • 損害賠償請求は労災保険給付とは別制度。労災保険をもらっても会社への請求権は残る(損益相殺で調整)。
  • 業務起因疾病(職業病)で賠償を問うには「業務起因性の立証」と「会社の過失(安全配慮義務違反)の立証」の2段階が必要。
  • 時効は損害賠償請求で5年(民法724条の2・166条1項・2020年4月1日以降の生命・身体侵害)。
  • 弁護士への相談は無料。症状固定後・労災認定後が動き出しのタイミング。

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仕事が原因の病気でも会社に損害賠償を請求できる

「病気は仕事のせいだ」と思っても、会社から「証明できない」「個人の体質の問題だ」と言われ、泣き寝入りしている方は少なくありません。

しかし、業務が原因で病気や健康障害が生じた場合、会社への損害賠償請求は法的に認められています。根拠となるのは以下の3つの法律上の義務です。

  • 労働契約法5条:使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
  • 民法415条:債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求
  • 民法709条・715条:不法行為(会社の過失・使用者責任)に基づく損害賠償請求

これらを根拠に、労働者は会社に対して慰謝料・逸失利益・治療費・休業損害等を請求できます。

業務起因疾病(職業病)の定義と主な種類

業務起因疾病とは、業務遂行中の有害因子への曝露や過重な労働負荷を原因として発症した疾病をいいます。労働基準法施行規則別表第1の2(職業病リスト)に列挙されており、具体的には以下の疾病が含まれます。

カテゴリ代表的な疾病主な業種・作業
物理的因子振動障害(手腕振動症候群)・騒音性難聴・熱中症・凍傷・減圧症建設業・林業・製造業(振動工具使用)、騒音作業場、屋外作業
化学的因子じん肺(珪肺・石綿肺)・有機溶剤中毒・鉛中毒・石綿関連疾患(中皮腫)建設業・採石業・製造業・塗装業
生物学的因子感染症(業務上の感染)・ウイルス性肝炎医療機関・介護施設・食品加工業
過重労働・ストレス脳・心臓疾患(過労死)・精神障害(過労うつ)全業種(特に長時間労働が常態化している職場)
作業態様・姿勢腰痛(職業性腰痛)・腱鞘炎・頸肩腕症候群建設業・介護業・製造業・事務職

「業務起因性」の立証が損害賠償の第一関門

会社への損害賠償請求において、最初の壁となるのが業務起因性の立証です。「この病気が業務によって生じた」ことを法的に証明しなければなりません。

実務書では、業務起因性の判断要素として以下が挙げられています。

  1. 有害因子の存在と曝露実態:振動・騒音・粉塵・熱・化学物質等が実際に存在したか、どの程度曝露したか(曝露量・曝露期間)
  2. 曝露と発症の時間的関係:曝露開始後に症状が現れたか、業務から離れると症状が改善するか
  3. 医学的知見との整合性:当該有害因子が当該疾病を引き起こすことが医学的に認められているか
  4. 他の原因の排除:業務外の要因(生活習慣・既往症等)では説明できないか

労災保険の業務起因性認定(労基署の判断)がある場合、民事訴訟においても有力な証拠となります。ただし、労災認定がなくても損害賠償請求は可能です。

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安全配慮義務違反の立証が損害賠償の第二関門

業務起因性が認められても、それだけでは損害賠償請求は成立しません。会社が安全配慮義務に違反していたこと(会社に過失があること)の立証も必要です。

安全配慮義務の内容は疾病の種類によって異なりますが、代表的な義務として以下が挙げられます。

振動障害・騒音性難聴の場合

  • 労安衛法に基づく振動・騒音レベルの管理(労働安全衛生法65条・作業環境測定法)
  • 振動工具の使用時間制限・防振手袋の配備
  • 定期健康診断(特殊健康診断)の実施(労安衛法66条)
  • 異常所見者に対する就業制限・配置転換

じん肺・石綿関連疾患の場合

  • じん肺法に基づく粉塵濃度管理・防じんマスクの配備
  • 石綿障害予防規則(石綿則)に基づく石綿濃度測定・隔離措置
  • 特殊健康診断(じん肺健診)の実施

熱中症の場合

  • WBGT(暑さ指数)の測定と管理目標値の設定(熱中症予防対策の徹底通達・平成21年基発0610001号等)
  • 熱順化(暑熱順化)のための作業計画・水分塩分補給の確保
  • 休憩場所の確保・体調不良者の早期発見体制

感染症(医療従事者等)の場合

  • 感染防護具(PPE)の配備・着用指導
  • 感染リスクの高い作業手順の整備
  • 労働安全衛生法の衛生管理体制の整備

実務書では、「安全配慮義務違反の有無は、会社が当時の科学的・医学的知見に照らして合理的な予防措置を講じていたかどうかで判断される」とされています。会社が法令上の義務を果たしていなかった場合、過失が認定されやすくなります。

労災保険給付と損害賠償請求の関係(損益相殺)

労災保険給付(療養補償給付・休業補償給付・障害補償給付等)を受け取った場合、損害賠償額からその分が控除される場合があります(損益相殺・最高裁昭和52年10月25日判決参照)。

ただし、慰謝料は損益相殺の対象外です。また、逸失利益についても、労災保険給付との調整方法は給付の種類によって異なります。弁護士が介入することで、損益相殺を考慮した上で最大限の賠償額を計算・請求することが可能です。

損害項目損益相殺の対象
治療費療養補償給付と相殺
休業損害休業補償給付と相殺
逸失利益障害補償年金等と一部相殺(将来分は現価計算が必要)
慰謝料(入通院・後遺障害)相殺対象外(労災保険に慰謝料はない)
過失相殺・素因減額会社側の反論として必ず出る→弁護士による反論が必須

請求できる損害項目と相場(業務起因疾病の場合)

業務起因疾病で会社に請求できる損害項目と一般的な相場は以下の通りです。ただし、個別事案によって大きく異なります。

損害項目内容相場の目安
治療費・将来治療費既払い治療費+今後必要な医療費実費相当
休業損害病気により働けなかった期間の収入損失基礎収入×休業日数
逸失利益後遺障害による将来の収入減基礎収入×労働能力喪失率×ライプニッツ係数
入通院慰謝料入院・通院の精神的苦痛通院1か月あたり19万円程度(弁護士基準)
後遺障害慰謝料後遺症による将来の苦痛14級110万円〜1級2,800万円(弁護士基準)

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時効に注意|業務起因疾病の損害賠償請求は5年

業務起因疾病による損害賠償請求権は時効で消滅します。適切なタイミングで請求しなければ権利を失う危険があります。

請求の種類時効期間起算点
損害賠償請求(民法724条の2・166条1項)5年損害及び加害者を知った時から(2020年4月1日以降の生命・身体侵害)
労災保険・療養補償給付/休業補償給付2年給付事由が生じた日の翌日
労災保険・障害補償給付/遺族補償給付5年給付事由が生じた日の翌日

業務起因疾病の場合、「損害及び加害者を知った時」=疾病が業務起因であることを知り、会社の安全配慮義務違反を認識した時点と解されます。発症から時間が経過しても請求できるケースがありますが、時効の起算点・中断については個別に弁護士に確認することが重要です。

業務起因疾病の損害賠償請求の流れ

  1. 医療機関への受診・診断書の取得:疾病の診断書と業務との関連性に関する医師の意見書
  2. 労災保険の申請(可能な場合):労働基準監督署への業務上疾病の労災申請。認定されれば損害賠償の有力証拠に
  3. 弁護士への相談・依頼:業務起因性の立証方針・安全配慮義務違反の証拠収集・損害額の算定
  4. 証拠の収集・保全:作業記録・健康診断結果・職場環境測定記録・同僚の証言等
  5. 会社への内容証明郵便(損害賠償請求書)送付
  6. 交渉または訴訟:合意が得られなければ民事訴訟(損害賠償請求訴訟)へ

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派遣社員でも会社(派遣先)に損害賠償請求できる

派遣社員の場合、労災保険は「派遣元」が適用事業主ですが、安全配慮義務違反の損害賠償は「派遣先」に対しても請求できます

実際にブライトに寄せられた相談では、派遣先の指示で本来の業務範囲外の作業を強いられ、劣悪な環境(冷気への継続的曝露等)で腰を負傷したケースがありました。労働基準監督署が「安全規定違反の可能性がある」と指摘した事実が、派遣先の安全配慮義務違反を裏付ける証拠の一つになります。

このような場合、派遣元・派遣先それぞれに対する責任追及の可否・範囲を整理した上で、損害賠償請求の戦略を立てることが重要です。

医療従事者・介護職の感染症と業務起因性

医療機関・介護施設で感染患者と接触する業務に従事し、感染症を発症した場合、業務起因性が認められ、さらに会社(医療機関・介護事業者)の感染防護措置が不十分であれば損害賠償請求が可能です。

実務書では、「感染症の業務起因性は、患者・同僚からの感染の可能性が高いと認められれば認定されやすい」とされています。PPEの未配備・感染対策マニュアルの不備等が会社の過失となりえます。

なお、既に健康保険で治療を受けた場合、労災申請後に健康保険側への返還(7割分の返還)が必要になります。手続きの順序と注意点については弁護士に確認してください。

弁護士に依頼するメリット(業務起因疾病の損害賠償)

  • 業務起因性の立証:医師との連携・専門家鑑定・職場環境記録の取得など、一人では困難な立証活動をサポート
  • 損益相殺の正確な計算:労災保険給付との調整を含め、受け取れる賠償額を最大化
  • 会社側の素因減額・過失相殺への反論:「個人の体質のせいだ」という会社の主張に専門的に反論
  • 時効管理:請求権を失わないよう適切なタイミングで時効中断の手続きを取る
  • 弁護士歴平均14年以上のチーム:ブライトは企業側の法務も扱う(顧問先130社以上の実名公開)。会社側の論理を熟知した上で被災者の代理人として交渉・訴訟に臨む

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よくある質問(FAQ)

Q1. 職業病と診断されたら、すぐに会社に請求できますか?

A. 損害賠償請求は診断後いつでも可能ですが、症状固定後(治療が一段落し、後遺症の程度が確定した後)が最も有効な時期です。症状固定前に請求すると、将来の治療費・逸失利益の算定が難しくなります。ただし時効があるため、早めに弁護士に相談してください。

Q2. 労災保険の申請と会社への損害賠償請求は同時にできますか?

A. はい、両方を同時に進めることができます。むしろ労災保険の申請を先行させることで、労災認定が損害賠償請求の有力な証拠になるため、並行して進めることが多いです。

Q3. 会社が「個人の体質の問題だ」と主張してきた場合は?

A. これは「素因減額」の主張です。確かに素因(既往症・体質)が損害の一部を生じさせたと認められれば、賠償額が一定程度減額されることがあります。しかし業務が主要因である場合は素因減額を最小化する反論が可能です。弁護士が医学的意見書等を活用して対応します。

Q4. 時効が過ぎていても請求できますか?

A. 原則として時効完成後は請求できません。ただし、時効の起算点(いつから5年か)については争いのある場合があります。業務起因疾病は発症から長年後に診断が確定するケースもあるため、「時効かもしれない」と思っても諦めずに弁護士に確認してください。

Q5. 退職後でも会社に請求できますか?

A. はい、退職後でも損害賠償請求は可能です。在職中・退職後を問わず、業務起因性と安全配慮義務違反が立証できれば請求できます。

Q6. 会社が倒産していても請求できますか?

A. 破産手続中であれば破産債権として届け出ることができますが、回収できる額は限られます。会社に労災民事賠償の保険(使用者賠償責任保険等)が付保されている場合は保険会社への直接請求も視野に入ります。

まとめ

業務が原因で病気や健康障害が生じた場合、会社への損害賠償請求は法律上の権利です。

  • 根拠は労働契約法5条・民法415条・709条の安全配慮義務違反
  • 「業務起因性の立証」と「会社の過失(安全配慮義務違反)」の2段階が必要
  • 労災保険給付を受けても慰謝料等の請求権は残る
  • 時効は損害賠償請求で5年
  • 派遣社員でも派遣先に請求可能

「仕事のせいで病気になったのに、会社は認めない」という状況で一人で悩まないでください。弁護士に相談することで、あなたの権利を守るための具体的な方針を立てることができます。

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笹野 皓平

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