従業員の無断副業が発覚したときの対応|懲戒の可否と就業規則の整え方【大阪の企業法務弁護士解説】

従業員の無断副業が発覚したときの対応|懲戒の可否と就業規則の整え方【大阪の企業法務弁護士解説】

和氣 良浩

監修:和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士|大阪弁護士会

大阪で20年以上、中小企業の企業法務・顧問弁護士サービスを提供。顧問先130社以上に透明性の高いリーガルサポートを実践している。

「経理担当の社員が、就業時間外にネットショップを運営していた」「営業社員がSNSで別会社の名刺を使って仕事をしていたと発覚した」——従業員の無断副業が発覚したという相談は、副業・兼業を容認する社会的な流れのなかで、以前にも増して増えています。

結論から言うと、副業は本来、社員の私生活における自由の一部であり、会社が理由もなく全面的に禁止できるものではありません。懲戒の対象になるかどうかは、「無許可だった」という一点だけでなく、本業への支障・競業性・信用毀損・情報漏洩といった実質的な影響の有無によって判断されます。頭ごなしに「副業禁止だから懲戒解雇」と進めると、後日の紛争で会社側の対応が権利濫用と評価されるリスクがあります。

本記事では、副業を理由に懲戒できる範囲、就業規則の副業規定の有効性、無断副業が発覚したときの調査の進め方、懲戒の相当性の考え方、副業解禁の潮流との向き合い方、競業に該当する場合の追加論点までを、企業法務を扱う弁護士法人ブライトが、大阪の中小企業の相談実務を踏まえて解説します。

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副業は原則自由|会社が制限できる場合との境界

まず押さえておくべきは、副業・兼業そのものは、就業時間外における社員の私生活上の自由に属するという原則です。

勤務時間外の行動は本来、社員の自由に委ねられる

労働契約は、あくまで労働時間中の労務提供とその対価を定める契約であり、就業時間外の時間の使い方まで会社が包括的に支配できるわけではありません。副業をするかどうか、何をするかは、本来は社員個人の判断に委ねられる領域です。厚生労働省が公表しているモデル就業規則も、副業・兼業を原則として容認する内容に改訂されており、これから就業規則を整備する企業は、この潮流を前提に規定を設計する必要があります。

例外的に制限・懲戒の対象となり得る4つの類型

もっとも、副業が無制限に許容されるわけではありません。裁判例の傾向を踏まえると、会社が副業を制限し、あるいは懲戒の対象とすることが認められやすいのは、大きく次の4つの類型に整理できます。

①労務提供に支障を生じさせる場合(長時間労働により本業の遂行に具体的な支障が出ている、体調不良で欠勤が増えている等)、②企業秘密の漏洩につながるおそれがある場合、③競業により自社の利益を害する場合、④会社の名誉・信用を著しく損なう副業内容である場合、の4類型です。逆に言えば、これらのいずれにも該当しない副業を理由に懲戒処分を行うと、処分が無効と判断されるリスクが高くなります。

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その副業、懲戒できる4類型に
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就業規則の副業規定はどこまで有効か

無断副業への対応の出発点は、そもそも自社の就業規則の副業規定が有効に成立しているかの確認です。

副業を全面的に禁止する条項は無効と判断されるリスクが高い

「副業を一切禁止する」という条項は、就業時間外の私生活の自由を過度に制約するものとして、合理性を欠くと判断されるリスクがあります。労働契約法7条・10条は、就業規則の内容が労働者にとって合理的なものであることを前提としており、実質的な弊害が生じない副業まで一律に禁止する規定は、その有効性そのものが争われる可能性があります。

届出制と許可制、どちらを選ぶべきか

実務上は、副業を「届出制」とするか「許可制」とするかで、会社が把握・管理できる程度が変わります。届出制は、社員が副業の事実を会社に知らせれば足りる緩やかな仕組みです。これに対し許可制は、会社が個別に内容を確認し、前記4類型に該当するおそれがないかを事前に審査したうえで許可の可否を判断する仕組みで、管理の実効性は高まります。すでに届出制を採用している企業でも、業種や職種によっては、より実効性のある許可制への切り替えを検討する価値があります。

有効な副業規定に盛り込むべき要素

副業規定を整備する際は、①原則として副業を認めることを明記したうえで、②前記4類型に該当するおそれがある場合に限り、許可を得ることを条件とし、または禁止できる旨を定め、③許可申請の書式・審査項目(労働時間の見込み、業務内容、競業性の有無等)を具体的に定めておくことが望ましいといえます。制限を目的とした規定ではなく、リスクを管理するための規定として設計する視点が重要です。

無断副業が発覚したときの調査の進め方

無断副業は、会社が能動的に把握するというより、何らかのきっかけで偶然発覚することが多いテーマです。発覚の経緯を踏まえた適切な調査手順を踏むことが、その後の対応の正当性を支えます。

発覚のきっかけとしてよくあるパターン

実務上よくある発覚のきっかけとしては、取引先や第三者からの情報提供、SNS上の投稿、確定申告に関する情報と本人の説明との齟齬、勤怠の乱れから副業の存在が疑われるケースなどが挙げられます。いずれの場合も、噂や推測の段階で懲戒処分に踏み切ることは避け、事実関係を客観的な資料で確認する姿勢が必要です。

初動対応|まず事実確認を最優先する

発覚した直後にまず行うべきは、感情的な叱責ではなく、事実関係の客観的な確認です。副業の具体的な内容、開始時期、就業時間との重なりの有無、取引先との関係性などを、資料に基づいて整理します。本人の説明のみに依拠せず、勤怠記録や業務上のやり取りなど客観的な資料と突き合わせることが、後日の紛争予防につながります。

本人へのヒアリングと書面での説明機会の付与

事実関係の概要を整理したうえで、本人に対して副業の内容・開始時期・本業への影響について説明を求めます。ヒアリングの結果は、その都度書面化しておくことが重要です。数か月分をまとめて記憶を頼りに作成した記録は、証拠としての信用性が下がります。処分を検討する場合は、本人に弁明の機会を与えたうえで進める姿勢が、手続きの相当性を基礎づけます。

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懲戒の相当性|副業の内容・程度による段階

無断副業が確認できたとしても、直ちに重い懲戒処分に踏み切ることは避けるべきです。労働契約法15条は、懲戒が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は権利濫用として無効になると定めています。副業の内容・程度に応じた段階的な対応が必要です。

副業の内容・程度 想定される対応 ポイント
届出漏れ程度(実害なし) 口頭・書面での注意指導にとどめる いきなり懲戒処分とすると相当性を欠くリスクが高い
本業への支障が生じている 注意指導→改善が見られない場合に軽い懲戒処分を検討 支障の内容(欠勤・遅刻・体調不良等)を記録で裏付ける
競業・情報漏洩・信用毀損を伴う 重い懲戒処分・解雇・損害賠償請求も選択肢に入る 事実関係の客観的な裏付けと弁明機会の確保が前提

軽微な無許可副業に重い処分を科すリスク

本業に何ら支障を生じさせておらず、競業性もない副業について、「無許可だった」という一点のみを理由に懲戒解雇まで踏み込むと、処分が重すぎるとして無効と判断されるリスクが高くなります。まずは注意指導により是正の機会を与え、改善が見られない場合に段階的に処分を重くしていく進め方が、紛争予防の観点から堅実です。

本業への支障が具体的に生じている場合

副業による長時間労働の結果、欠勤・遅刻が増えている、業務中の集中力低下が客観的に確認できるといった場合は、労務提供への支障という懲戒の正当な理由になり得ます。この場合も、支障の内容を記録として積み重ね、改善の機会を与えたうえで処分の程度を検討することが望まれます。

競業・情報漏洩・信用毀損を伴う場合は重い対応も選択肢に

副業が自社と競合する事業であったり、自社の営業秘密を利用するものであったり、自社の名誉・信用を著しく損なう内容であったりする場合は、より重い懲戒処分や解雇、さらには損害賠償請求も選択肢に入ります。ただし、この場合も事実関係の客観的な裏付けと本人への弁明機会の確保が前提となる点は変わりません。

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副業が「競業」に該当する場合の追加論点

無断副業のなかでも特に対応の難易度が高いのが、副業の内容が自社と競合する事業である場合です。この場合、単純な副業規定違反にとどまらない論点が加わります。

競業避止義務・忠実義務との関係

在職中の社員は、労働契約に付随する信義則上の義務として、会社の利益に著しく反する競業行為を避けるべき義務(忠実義務)を負うと解されています。副業の実態が自社の取引先を奪う、自社と同種の事業を営むといった内容である場合は、単なる副業規定違反ではなく、この忠実義務違反として評価される可能性があります。

営業秘密の漏洩・不正競争防止法上の問題

副業先で自社の顧客情報・ノウハウ・技術情報などを利用している疑いがある場合は、不正競争防止法上の営業秘密侵害に該当する可能性も検討が必要です。この場合、懲戒処分にとどまらず、差止請求や損害賠償請求といった民事上の対応も選択肢に入ります。

競業性の高い副業への対応は専門記事も参照

競業避止義務をめぐる論点は、退職後の競業や取締役の競業避止義務も含め独自の専門性を要する分野です。詳しくは競業避止義務に関する解説記事もあわせてご確認ください。

副業解禁の潮流とどう向き合うか

副業を理由とする懲戒を検討する際は、社会全体で副業・兼業が容認される方向に進んでいるという前提を踏まえた対応が求められます。

副業・兼業を促進する国の方針

国は副業・兼業を通じた柔軟な働き方を後押しする方針を継続しており、モデル就業規則も原則容認の内容に改訂されています。人材の確保・定着の観点からも、副業を一律に禁止する姿勢は、採用競争力の面でマイナスに働く可能性があります。

頭ごなしの全面禁止は紛争リスクを高める

この潮流を踏まえずに、旧来型の「副業は一切禁止」という規定・運用を維持し続けると、規定自体の有効性が争われるだけでなく、懲戒処分についても社会通念上相当とは認められにくくなる方向に働きます。副業を理由とする懲戒を検討する場合は、この社会的背景も踏まえたうえで相当性を慎重に判断する必要があります。

⚖️ 副業規定を見直す際の考え方

  • 原則容認:副業を原則として認め、禁止・制限は例外として位置づける
  • 許可制の活用:前記4類型に該当するおそれがある場合に限り、許可を条件とする
  • 管理の実効性:労働時間の把握・競業性の確認を目的とした申請書式を整備する

関連する法的枠組み:労働契約法7条・10条(就業規則の合理性)/同法15条(懲戒権濫用の禁止)

副業規定は「制限」ではなく「管理」の発想へ

副業規定の見直しにあたっては、副業を制限すること自体を目的とするのではなく、労務提供への支障・情報漏洩・競業のリスクを事前に把握し管理することを目的とした設計へ切り替えることが望ましいといえます。許可制を採用する場合も、審査基準を明確にし、恣意的な不許可とならないよう運用することが重要です。

弁護士に相談すべきタイミング

次のいずれかに該当する場合は、対応方針を決める前に弁護士へ相談することを強くおすすめします。

  • 無断副業が発覚し、懲戒処分の可否・程度を判断しかねている
  • 副業の内容が自社と競合する事業であり、忠実義務違反や情報漏洩の疑いがある
  • 自社の就業規則の副業規定が、全面禁止に近い内容のまま整備されていない
  • 本人から「許可制であること自体を知らなかった」「軽微な副業であり問題ない」といった反論を受けている
  • 副業をきっかけとした対応が既に長期化し、他の社員への影響が懸念される(モンスター社員への対応方法はこちら

弁護士法人ブライトの「みんなの法務部」は、大阪の中小企業130社以上との顧問契約を通じて、無断副業への対応を含む労務トラブルの相談実績を積み重ねています。弁護士歴平均14年以上のチームが、就業規則の副業規定の整備から懲戒処分の相当性の確認まで一貫して対応しています。問題社員対応の全体像はこちらの記事でも解説しています。

よくある質問

従業員の無断副業が発覚した場合、すぐに懲戒処分にできますか?

無許可であったという一点だけで直ちに懲戒処分とするのは相当性を欠くリスクがあります。まず事実関係を客観的に確認し、本業への支障・競業性・情報漏洩・信用毀損の有無という観点から懲戒の可否・程度を判断することが基本です。

就業規則で副業を全面的に禁止することはできますか?

副業を一律に禁止する条項は、就業時間外の私生活の自由を過度に制約するものとして、合理性を欠くと判断されるリスクがあります。労務提供への支障・秘密漏洩・競業・信用毀損のおそれがある場合に限り制限する規定として設計することが望ましいといえます。

副業の届出制と許可制、どちらを採用すべきですか?

届出制は副業の事実を把握するにとどまりますが、許可制であれば会社が事前に内容を確認し、懲戒の対象となり得る4類型に該当するおそれがないかを審査できます。管理の実効性を重視する場合は許可制への切り替えを検討する価値があります。

副業の内容が自社と競合する事業だった場合はどう対応すればよいですか?

単純な副業規定違反にとどまらず、忠実義務違反や営業秘密侵害の疑いがないかを確認する必要があります。事実関係の裏付けを整理したうえで、懲戒処分に加えて損害賠償請求や差止請求が選択肢に入る場合もあります。

大阪の企業ですが、副業規定の整備や無断副業への対応を弁護士に相談できますか?

弁護士法人ブライトは大阪を拠点に、顧問先130社以上・弁護士歴平均14年以上のチームで労務トラブル対応をサポートしています。「みんなの法務部」として、副業規定の整備段階からの相談にも、無断副業が発覚した後の相談にも対応していますので、お気軽にご相談ください。

従業員の無断副業への対応は、「無許可だから懲戒処分」という単純な図式で進めると、副業解禁が進む社会的背景のなかで相当性を欠くと評価されるリスクがあります。まず事実関係を確認し、本業への支障・競業性・情報漏洩・信用毀損の有無を見極めたうえで、段階的な対応を検討することが確実性の高い進め方です。弁護士法人ブライトは、企業法務トップページ(企業法務コンテンツ一覧はこちら)でも、問題社員対応・契約・労務に関する実務記事を公開しています。対応に迷う場合は、一人で抱え込まず、まずはご相談ください。

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