「もう少し様子を見てから判断したい」——採用した社員が期待通りのパフォーマンスを発揮していないとき、多くの社長はそう思います。試用期間を延長すれば、判断を先送りにできる。それだけのつもりで動いたことが、後から「違法な延長だった」と問題になる。そんなケースが実際に起きています。 試用期間の延長は、社長が思っている以上に法的なリスクを伴う判断です。「就業規則に書いてあるからOK」でも、「本人が同意したからOK」でもない。今回は、試用期間の延長が違法になる構造と、会社を守るために社長が押さえておくべき判断基準を整理します。 試用期間の延長が「違法」になる、そのメカニズム まず、試用期間そのものの法的な意味を確認しておきましょう。試用期間は「本採用するかどうかを判断するための期間」であり、判例上は「解約権留保付き労働契約」として位置づけられています。つまり、試用期間中であっても、労働契約はすでに成立しているのです。 ここが多くの社長にとって落とし穴になります。「まだ正式採用していないから、自由に決められる」という感覚で動いてしまう。しかし法律的には、試用期間が始まった時点で雇用関係はスタートしており、会社は一定のルールに縛られます。 試用期間の延長については、裁判所は次のような基準で判断しています。 就業規則に延長を認める規定があること(根拠のない延長は原則として無効) 延長に客観的・合理的な理由があること(「なんとなく不安」では足りない) 延長期間が相当なものであること(何度も繰り返す延長は問題になりやすい) 本人に理由を説明し、書面等で通知していること これらを満たさない延長は、「事実上の本採用拒否」または「無効な雇用管理」とみなされ、その後の解雇が無効と判断されるリスクがあります。東京地裁の裁判例(平成11年)でも、「就業規則上の根拠なく一方的に延長することは原則として許されない」と明確に示されています。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) なぜ社長はこの判断ミスをしてしまうのか 【図解】試用期間の延長が「違法」になる、そのメカへの対応フロー ① 問題発生 → ② 事実確認・記録 → ③ 顧問弁護士に相談 → ④ 対応策の実行 ※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。 問題は、多くの社長が「試用期間を延長している」という認識すら持っていないことがある点です。実際によくあるパターンを見ると、次のような構造があります。 「様子を見る」が習慣になっている 試用期間が終わりそうになったとき、まだ判断がつかないから「もう少し」と口頭で伝えてしまう。本人も「わかりました」と返事をする。この瞬間、正式な手続きなき延長が発生します。 「本人が同意しているから問題ない」という誤解 同意があれば有効になりそうに見えますが、法律はそう単純ではありません。労働者の同意があっても、就業規則に根拠がなければ延長の効力が認められない場合があります。また、労働者の「同意」が本当に自由な意思によるものかどうかも問われます。立場が強い使用者側からの提案に、従業員が実質的に拒否できない状況であれば、「自由な意思に基づく合意」とは言えないと判断される可能性があります。 「試用期間=有期雇用契約」の危険な運用 鍼灸整骨院グループからの相談事例でも見られましたが、試用期間を「有期雇用契約」として運用している会社は少なくありません。この場合、期間満了での雇止めが「解雇」と同視され、客観的合理性・社会的相当性が求められることになります。形式は有期でも、実質は無期雇用に近い扱いをしていれば、より厳しい基準で審査されます。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題が起きる前にできること——就業規則と運用の整備 試用期間の延長トラブルは、多くの場合「問題が起きてから」相談が来ます。しかし、本当に重要な対策は採用の前段階にあります。 就業規則に延長条項を明記する 「試用期間は○ヶ月とし、会社が必要と認める場合には○ヶ月を上限に延長することができる」——こうした規定がなければ、延長自体の根拠が失われます。ただし、就業規則への記載は「あればOK」ではなく、その規定が合理的な内容である必要があります。また、実際の労働者に対して就業規則が周知されていることも要件です。 評価基準を採用時に明確にする 「期待するパフォーマンスの水準」を、採用時点で文書化しておく。越境EC企業の事例では、試用期間中のスキル不足を理由とする本採用拒否の場面で、評価基準の事前明示と記録の存在が紛争リスクを大きく左右しました。何を基準に評価するかを最初から共有しておくことが、後の判断の根拠になります。 定期的な面談記録を残す 試用期間中に問題があれば、その都度フィードバックし、改善を求めた事実を記録に残す。口頭だけで終わらせず、メールや面談記録として残しておくことで、「指導した・改善の機会を与えた」という証拠になります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題発生時の対応フロー——証拠の残し方が勝負を分ける 「試用期間を延長したい」「本採用を拒否したい」という状況が生じたとき、会社が取るべきステップは次の通りです。 就業規則の延長条項を確認する——まず、規定があるかどうかを確認します。なければ延長を検討する前に、法的リスクの評価が必要です。 延長の理由を書面で整理する——「なぜ延長が必要か」を具体的に書き出す。業務上のミス内容、指導の経緯、改善状況などを時系列で整理します。 本人への説明と書面での通知——口頭だけでなく、延長の事実・理由・期間・評価基準を書面(通知書)で渡します。本人の署名やメールでの確認を取ることも有効です。 延長中の指導記録を継続して残す——延長期間中も面談を定期的に行い、指導内容と本人の反応を記録します。 弁護士に相談して本採用拒否の可否を判断する——延長期間が終わる前に、弁護士と「本採用拒否が法的に有効か」を確認します。感覚ではなく、判例基準に照らした判断が必要です。 証拠は、紛争になってから急に作れるものではありません。試用期間中のリアルタイムの記録が、後の判断の根拠になります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 失敗事例の構造——なぜ相談が遅れ、なぜ証拠がなかったのか 実際に問題になったケースを振り返ると、共通した構造が見えてきます。 相談が遅れた理由 最も多いのは「まだ揉めていないから大丈夫」という判断です。延長を口頭で伝えた段階では、従業員もとくに何も言わない。だから問題がないように見える。しかし退職後、または弁護士を立てた後に「あの延長は違法だった」「本採用されていたはずだ」という主張が来る。そのとき初めて社長は事の深刻さに気づきます。 福岡地裁の事案(平成25年)では、試用期間の延長を複数回繰り返した企業が、延長の都度適切な通知・理由説明をしていなかったとして、延長自体が無効と判断されました。「問題が起きていない」と「問題がない」は違います。 証拠がなかった理由 「言った・言わない」の世界に入ってしまったとき、証拠がなければ会社は圧倒的に不利です。面談は口頭だけ、評価も感覚的なもの、延長の通知も口頭——これでは、後から「正当な理由があった」ことを証明できません。 大阪地裁(平成20年)の裁判例では、能力不足を理由に本採用を拒否した事案で、「指導・改善指示の経過の記録と評価の客観性」が求められました。感覚的な評価では足りない、ということです。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) うちの会社ではどう考えればいいのか 試用期間の運用について、会社ごとの状況を踏まえた整理をするとすれば、次のように考えると判断しやすくなります。 「延長したい」と思ったとき まず、就業規則に延長の根拠規定があるかを確認する。なければ、その時点で延長という選択肢は原則として取れません。規定があっても、延長する「合理的な理由」が客観的に説明できるかどうかを自問してください。「なんとなく不安」では足りません。 「本採用を拒否したい」と思ったとき 試用期間中の本採用拒否は、通常の解雇より緩やかな基準が適用されますが、「客観的に合理的な理由と社会的相当性」は必要です。採用時に示した基準に照らして評価できているか、指導の経緯が記録されているかが問われます。 「有期雇用として試用期間を設けている」場合 実態として反復更新が見込まれる場合や、正社員登用を前提として採用している場合は、雇止めに厳しい制限がかかる可能性があります。形式だけ有期にしても、実態が無期雇用に近ければ、裁判所はその実態を重視します。 試用期間の延長・本採用拒否を検討しているなら、「動く前に一度確認する」という習慣が最大のリスクヘッジです。揉めてから弁護士を使うのではなく、揉めないように弁護士を使う——この使い方が、会社を守ります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 再発防止策——この問題を「一度きり」にしないために 試用期間のトラブルは、採用のたびに繰り返されるリスクがあります。一度問題が起きた後で「次から気をつける」では足りません。仕組みとして再発を防ぐ体制が必要です。 就業規則の試用期間条項を見直す——延長条項の有無、延長期間の上限、本採用拒否の手続きが明記されているかを確認し、実態に合わせて整備する。 採用時チェックリストを作る——試用期間の開始・終了日、評価基準の説明記録、面談スケジュールを記録するシートを用意する。 面談記録をシステム化する——口頭で終わらせない。日付・内容・本人の反応・次のアクションを書き留めるフォーマットを決め、継続的に使う。 本採用判断の前に弁護士チェックを入れる——問題がある社員の本採用拒否や延長を検討するとき、決断の前に法的リスクを確認するフローを定める。 試用期間の問題は、採用管理全体の問題でもあります。「その人をどう評価するか」だけでなく、「評価の根拠をどう残すか」という観点で採用プロセスを設計することが、後のトラブルを防ぎます。 試用期間の延長・本採用拒否・問題社員対応は、一件一件をスポットで解決しても根本的なリスクは消えません。重要なのは、就業規則の条項整備と、採用から評価・退職までの一連の労務管理体制を仕組みとして整えることです。弁護士法人ブライトでは、顧問先130社以上の実名を公開しており、弁護士歴平均14年以上のチームが「みんなの法務部」として企業の採用・労務管理体制を継続的にサポートしています。困ったときだけ相談するのではなく、問題が起きる前に相談できる体制をつくることが、会社の判断の質を上げます。 よくある質問 Q. 試用期間は何ヶ月まで延長できますか? 法律上の上限規定はありませんが、就業規則で定めた上限に収まる必要があります。一般的には試用期間自体が3〜6ヶ月とされることが多く、延長を含めて1年を超えるケースは合理性が問われやすくなります。延長を繰り返すことは「延長の乱用」とみなされるリスクがあります。 Q. 本人が口頭で「わかりました」と言えば、延長の同意として有効ですか? 口頭での同意だけでは証拠として不十分です。また、同意があっても就業規則に延長の根拠規定がなければ無効と判断される場合があります。延長の事実・理由・期間を書面で通知し、本人の署名またはメールでの確認を取ることを推奨します。 Q. 試用期間中の解雇と本採用拒否は同じですか? 法的な位置づけは異なります。試用期間中の解雇は解雇権の行使、本採用拒否は留保された解約権の行使です。いずれも「客観的に合理的な理由と社会的相当性」が必要ですが、本採用拒否は通常の解雇よりやや緩やかな基準が適用されるとされています。ただし「緩やか」であることは「自由」ではなく、記録と評価の客観性は同様に求められます。 Q. 有期雇用契約として試用期間を運用していれば、期間満了で終わらせられますか? 形式上は有期雇用でも、正社員登用を前提として採用し、実態として繰り返し更新されている場合には「雇用継続への合理的期待」が認められ、雇止めに解雇と同等の制限がかかる可能性があります。「形式さえ整えれば大丈夫」という運用には注意が必要です。 当事務所が参考にした実務書 当事務所では本テーマに関する最新の実務書を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした書籍を以下に紹介します。 『採用・内定・試用期間・本採用拒否の法律実務』 — 安西 愈/中央経済社/2019年9月/分類:Q&A形式の実務解説書 『採用内定・試用期間の法律と実務』 — 松本慎一・神内聡/労働調査会/2018年/分類:Q&A形式の実務解説書 『問題社員対応の法律実務』 — 向井蘭 編著/第一法規/2020年/分類:Q&A形式の実務解説書 『解雇・退職の実務と書式』 — 石嵜信憲 編著/中央経済社/2023年/分類:マニュアル・チェックリスト型 『就業規則の作り方・整備の実務』 — 渡辺 岳/日本法令/2022年/分類:マニュアル・チェックリスト型 ※ 書籍内容は引用しておらず、書誌情報のみ表示しています。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。 参考裁判例 当事務所では本テーマに関する最新の裁判例を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした裁判例を以下に紹介します。 東京地決平成11年11月15日「仮処分命令申立事件」(平成11年(ヨ)第21019号)要旨: 試用期間の延長には合理的理由が必要であり、就業規則上の根拠なく一方的に延長することは原則として許されない。 東京地判平成15年1月17日「地位確認等請求事件」(平成14年(ワ)第9485号)要旨: 試用期間の更新・延長は就業規則に規定がある場合でも、本採用拒否と同様に客観的に合理的な理由が必要である。 大阪地判平成20年11月27日「地位確認等請求事件」(平成18年(ワ)第3590号)要旨: 能力不足を理由に本採用を拒否する場合は、指導・改善指示の経過を記録し、評価の客観性を担保する必要がある。 福岡地判平成25年3月12日「解雇無効確認等請求事件」(平成24年(ワ)第2013号)要旨: 試用期間の延長を複数回繰り返した事案で、延長の都度適切な通知・理由説明がなく、延長自体が無効と判断された。 東京高判平成24年6月20日「地位確認等請求事件」(平成23年(ネ)第2754号)要旨: 試用期間終了後も継続的に雇用した場合、黙示の合意により本採用が成立したと認定され、その後の解雇が制限された。 ※ 裁判例情報は判例秘書INTERNETから取得した参照情報です。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。 この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生 試用期間の延長・本採用拒否・問題社員への対応など、採用に関わる労務課題を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先130社以上の実名を公開しており、弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:0120-929-739(平日9:00〜18:00) 「みんなの法務部」というブライトの考え方 中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームで、130社以上の顧問先と向き合っています。 ▶ みんなの法務部とは(詳しく見る) 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 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