プロンプトに顧客情報を入れてよいか|生成AIと個人情報保護法を弁護士が解説

プロンプトに顧客情報を入れてよいか|生成AIと個人情報保護法を弁護士が解説


和氣良浩 弁護士

この記事の監修者

和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士

弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒

専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生

「この問い合わせメールの束、AIに要約させたら一瞬で終わるのに」。「履歴書100通、AIで一次スクリーニングできないか」。生成AIを業務に入れようとすると必ずこの場面が来ます。そして現場が手を止めるのは技術的な理由ではなく、「顧客の名前が入っているものを外部のAIに入れていいのか、誰も答えられない」という理由です。

「入れてはいけない」と一律に答えればAI導入は止まります。「うちは大丈夫だろう」で通せば、あとから問われたときに確認した記録が何も残っていないことになります。実際に困るのは禁止か許可かではなく、どこで線を引き、その根拠をどう残すかです。AI開発から社内でのAI利用までを含めた全体像はAI開発・AI活用の法律問題 総合ガイドで俯瞰できます。

個人情報保護委員会は令和5年6月2日に「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を公表しています。この記事の執筆時点で、生成AIについて同委員会が事業者向けに出した「注意喚起」としては、これが唯一のものです(ガイドラインのQ&A等は随時更新されています)。分量はわずか3ページですが、事業者が確認すべきことは明確に書かれています。その原文を出発点に、問い合わせメール・議事録・履歴書・顧客名簿といった実務で迷う場面まで落として整理します。

弁護士法人ブライトは、大阪を中心に顧問先130社以上の実名を公開しながら、法務部がない会社の「外部法務部」として日常の法務に伴走しています。ITを主業としない業種の会社からも、生成AI利用について「これで足りているか」というご相談が届いています。

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結論から|プロンプトに顧客情報を入れてよいかは「3つの分岐」で決まる

プロンプトへの顧客情報の入力は「良い・悪い」の二択ではなく、3つの分岐を順番に通すことで判断できる形に整理できます。この順番を社内で共有できると、現場は都度上司に聞かなくても自分で判断できるようになります。

図解:プロンプトに顧客情報を入れてよいかを決める3つの分岐
1

個人データか

特定の個人を識別できるか。氏名を消しても社内の他の情報と照合できれば該当し得る

2

学習・二次利用されるか

応答を返す以外の目的で使われる設定なら、本人同意の要否という別の問題に変わる

3

利用目的の範囲内か

公表している利用目的の達成に必要な範囲を超えていないか(法17条・18条)

4

記録を残す

どのプランでどの設定を確認したかを、日付入りで残して初めて「確認した」と言える

分岐①その情報は「個人データ」か

実務で見落としやすいのは氏名を消しても該当し得る点です。「A社の担当者」「6月10日に来店した方」といった記述でも、社内の他の情報と容易に照合して特定の個人を識別できる状態であれば、個人情報として扱う前提で考えるのが安全です。逆に、社内マニュアルの文章整形など個人情報を含まない作業はこの分岐で終わります。実際に効くのは禁止範囲を広げることではなく、判断が不要な作業を先に切り出すことです。

分岐②入力先のAIが、その情報を学習・二次利用するか

第二の分岐が最も重要で、かつ最も飛ばされます。同じ顧客名簿を入力しても、入力内容が応答を返すためだけに使われるサービスと、機械学習に使われるサービスとでは法的な整理が変わります。前者は委託や外部サービスの利用として整理する余地がありますが、後者は事業者が自らのために個人データを使うため、本人の同意が必要かという問題に変わります。

やや酷な話ですが、この分岐はサービス名では決まりません。同じ事業者の同じAIでも、無料プランと法人向けプラン、API利用と画面からの利用とで入力データの取扱いが違うことがあります。「何を使うか」ではなく「どのプランで、どの設定か」を確認する必要があるということです。

分岐③入力の目的が、公表している利用目的の範囲内か

第三の分岐は自社側の話です。個人情報保護法17条1項は利用目的をできる限り特定しなければならないと定め、18条1項は、あらかじめ本人の同意を得ないで、特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱ってはならないと定めています。AIに入れる行為そのものを禁じる条文はなく、問われるのは「その作業が、もともと公表していた利用目的の達成に必要な範囲に収まっているか」です。

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個人情報保護委員会の注意喚起(令和5年6月2日)が実際に求めていること

同注意喚起は生成AIサービスを「質問・作業指示(プロンプト入力)等に応えて文章・画像等を生成するAIを利用したサービス」と定義した上で、個人情報取扱事業者向けの注意点を2つだけ挙げています。この2つを運用に落とせているかが実質的な分かれ目です。

注意喚起①「利用目的を達成するために必要な範囲内」の確認

1つ目は、「個人情報取扱事業者が生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場合には、特定された当該個人情報の利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること」。先の分岐③に対応します。注目すべきは「十分に確認すること」という言い方で、範囲内であればよいのではなく、範囲内であることを確認する行為を求めています。確認した事実が社内のどこにも残っていなければ「十分に確認した」と説明することは難しくなります。

注意喚起②「機械学習に利用しないこと等」の確認

2つ目はより踏み込んでいます。原文では、「個人情報取扱事業者が、あらかじめ本人の同意を得ることなく生成AIサービスに個人データを含むプロンプトを入力し、当該個人データが当該プロンプトに対する応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合、当該個人情報取扱事業者は個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性がある」とされ、そのため「当該生成AIサービスを提供する事業者が、当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること」が求められています。

読み取れることは3つです。第一に、責任が向くのはAIを使う会社の側です。学習に使うのは提供事業者ですが、確認義務は利用者側に置かれています。第二に、基準は「学習に使われるか」ではなく「応答結果の出力以外の目的で取り扱われるか」という、より広い言い方です。第三に、求められているのは確認することであり、規約を読んだ形跡が必要になります。

なお注意喚起は「違反する」と断定せず「可能性がある」と書いています。これは曖昧さではなく、事案によって適用される条文が変わるためと読むのが自然です。利用目的の問題(18条)として現れることもあれば、第三者提供の問題(27条)として現れることもあり、外国の事業者が関わるなら28条の問題にもなり得ます。

OpenAIへの注意喚起が示す、学習オフ設定の意味

同委員会は、ChatGPTを提供するOpenAIに対しても法147条に基づく注意喚起を行っています(令和5年6月1日付け・概要の公表は6月2日/別添2)。内容は要配慮個人情報を本人同意なく取得しないこと利用目的を日本語で通知または公表することの2点です。とくに、利用者が機械学習に利用されないことを選択して入力した要配慮個人情報について正当な理由がない限り取り扱わないことが求められている点は、利用企業側から見ても意味があります。学習オフの設定は単なる社内方針ではなく、規制側も前提に置いている仕組みだということです。

表1:注意喚起の要求事項と、社内に残しておくべき記録
注意喚起が求めていること 現場で実際にやること 残すべき記録
利用目的の達成に必要な範囲内であることを十分に確認 その作業がプライバシーポリシー記載の利用目的のどれに当たるかを対応づける 業務ごとの利用目的の対応表(誰が・いつ判断したか)
提供事業者が機械学習に利用しないこと等を十分に確認 利用するプランの規約・データ取扱方針・学習利用のオンオフ設定を確認 確認日・確認した規約のバージョン・設定画面の記録
応答結果の出力以外の目的で取り扱われないかの確認 ログ保存期間、人手によるレビューの有無、再学習の有無まで確認 確認項目のチェックリストと、次回の再確認予定日
(OpenAIへの注意喚起より)要配慮個人情報の扱い 要配慮個人情報は原則入力しない情報として明示的に列挙 入力禁止情報リストと、従業員への周知・同意の記録

この表の要点は、注意喚起への対応が文書作成ではなく記録の運用だという点です。規約は改定され、プランは変わるため、再確認のタイミングを決めておく設計が必要になります。

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学習利用があると何が問題になるのか|第三者提供・委託・クラウド例外の分かれ目

ここが本記事の中心です。「AIに顧客情報を入れると第三者提供になる」という説明を見かけますが、常に第三者提供になるわけではありません。どう整理されるかは、提供事業者がその個人データを取り扱うのか、取り扱うとして誰のために取り扱うのかで変わります。

学習に使われる設定は、27条1項の第三者提供の問題になり得る

27条1項は、一定の例外を除きあらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供してはならないと定めています。入力した個人データがモデルの学習に使われる場合、その事業者は依頼された処理を返すためではなく、自らのサービス改善という目的でデータを使うことになります。これは委託の枠に収まらないため、第三者提供として本人同意が必要になると整理されるのが一般的な理解です。

顧客名簿について一人ひとりから「AIの学習に使われることに同意します」を取ることは現実にはほぼ不可能です。したがって実務上の答えは、同意を取る方向ではなく学習に使われない構成を選ぶ方向になります。

学習に使わない設定なら、委託(27条5項1号)で整理できる

27条5項1号は、「個人情報取扱事業者が利用目的の達成に必要な範囲内において個人データの取扱いの全部又は一部を委託することに伴って当該個人データが提供される場合」、提供を受ける者は第三者に該当しないと定めています。要約や文字起こしといった処理をAIに任せ、事業者はその処理のためにだけデータを扱う構成であれば、この委託として整理する余地があり、本人同意は不要です。ただし代わりに、25条が定める委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督の義務が生じます。

クラウド例外|そもそも「提供」に当たらない場合

もう一段手前の整理もあります。個人情報保護委員会のQ&A(Q7-53)は、判断の基準は保存している電子データに個人データが含まれるかではなく、クラウドサービス提供事業者において個人データを取り扱うこととなっているのかどうかだとしています。提供事業者が個人データを取り扱わないこととなっている場合には、本人同意は不要で、委託(27条5項1号)にも該当せず、25条の監督義務もかからないと整理されています。

もっとも、これで自社の義務がなくなるわけではありません。同Q&A(Q7-54)は、27条の「提供」に該当しない場合であっても利用する事業者は自ら果たすべき安全管理措置として適切な措置を講じる必要があるとしています。23条が求める安全管理措置は、どの整理を採っても自社に残ります。

外国の事業者を使うときは28条を別に見る

主要な生成AIサービスの提供事業者は日本国外の法人であることが多く、この場合は28条1項の外国にある第三者への提供の制限を別に検討する必要があります。委託として整理できる場合でも、27条5項が「第三者に該当しない」としているのは27条の適用についてであり、28条の検討が自動的に不要になるわけではありません。一方、Q7-53のクラウド例外に当たり、そもそも「提供」に該当しない場合であれば28条の問題としても現れません。どの整理を採るかで、確認すべき条文の数が変わるということです。

表2:3つの整理の比較(同じ「AIに入れる」でも義務が変わる)
整理 成り立つ典型的な場面 本人同意と、自社に残る主な義務
第三者提供
(27条1項)
入力内容がモデルの学習・サービス改善に使われる設定 同意:原則として必要
同意取得の実務が事実上困難。外国事業者なら28条も
委託
(27条5項1号)
要約・翻訳・文字起こしなど、依頼した処理のためだけに扱われる 同意:不要
25条の委託先監督+23条の安全管理措置。外国事業者なら28条の検討
クラウド例外
(Q7-53)
提供事業者が個人データを取り扱わないこととなっている 同意:不要
25条は不適用。23条の安全管理措置は自社に残る(Q7-54)

この表の使い方は、自社が今どの行にいるかを言い当てられるかの確認です。最初に必要なのは規程の条文を増やす作業ではなく、この一行を特定する作業です。

令和8年改正で「AI開発のための提供」に例外が入る(公布済み・未施行)

ここまでは現行法の話です。令和8年7月17日に「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」が公布され、本記事の土台である27条1項・20条2項に例外が新設されました。施行期日は原則として公布の日から起算して2年を超えない範囲内とされており、この記事の執筆時点では未施行です。ただし方向性は先に押さえておく価値があります。

新設される30条の2(個人情報に係る統計作成等の特例)は、統計情報等の作成にのみ利用されることが担保されていること等を条件に、本人同意のない個人データの第三者提供と、公開されている要配慮個人情報の取得を可能とするという内容です。個人情報保護委員会の改正概要は、この「統計作成等」に「統計作成等であると整理できるAI開発等を含む」と明記しています。改正法は2条に「統計作成等」の定義も新設し、大量の情報を解析して傾向・性質に係る情報(個人に関する情報を除く)を作成する行為のうち、個人の権利利益を害するおそれが少ないものとして委員会規則で定めるものとしています。

もっとも条件は軽くありません。担保の仕組みとして、「統計情報等の作成」のみを目的とした提供である旨の書面による提供元・提供先間の合意、氏名・名称や行おうとする内容の公表、提供先における目的外利用と再提供の禁止が置かれています。つまり「AI開発なら同意が要らなくなる」ではなく、要件を満たした構成を作った場合にだけ例外が使えるという改正です。あわせて20条2項には契約の履行のために必要やむを得ないことが明らかな場合などの例外(新7号・8号)が加わり、課徴金の制度(148条の3以下)や特定生体個人情報の規律(21条の2)も新設されます。具体的な対象範囲は委員会規則に委ねられているため、自社の運用が施行後にどう変わるかは規則の内容が定まってからの検討事項です。今の時点でやるべきことは、現行法を前提に表2のどの行にいるかを確定させておくことに変わりありません。

利用目的の特定・通知公表との整合|プライバシーポリシーは書き換えるべきか

次に多いご質問が「AIを使うならプライバシーポリシーに『AIに入力します』と書き足すべきか」です。結論としては、書き足すべき場合と、必要がない場合の両方があります。分け方は、AIの利用が手段にとどまるのか、取扱いの目的そのものが増えるのかです。

手段としてのAI利用と、目的が増えるAI利用を分ける

問い合わせ対応のために取得した情報を、問い合わせ対応を早くするためにAIで要約する。この場合、達成しようとしている目的は「問い合わせ対応」のままで、手段が変わっただけです。利用目的の追加は必要ないと整理できる余地があります。一方、問い合わせ内容を分析して新商品の開発や顧客層の分析に使うのであればこれは新しい目的で、利用目的の追加と通知・公表が必要になります。

境界が曖昧な場面もあります。要約結果を蓄積して社内の傾向分析に使い始めるようなケースです。手段として始まったものが、いつのまにか目的に育っていることがあります。

21条|通知・公表はいつまでに何をするか

21条1項は、個人情報を取得した場合、あらかじめ利用目的を公表している場合を除き、速やかに利用目的を本人に通知し、又は公表しなければならないと定め、同条3項は、利用目的を変更した場合、変更後の利用目的について本人に通知し、又は公表しなければならないとしています。

実務では、プライバシーポリシーの利用目的欄が抽象的すぎてAI利用が範囲内なのか読み取れないことがよくあります。この場合に必要なのはAIについての条項を足すことよりも、17条1項が求める「できる限り特定」を満たす形に利用目的の記載を整えることです。なお18条3項の例外(法令に基づく場合等)に業務効率化のためのAI利用が当てはまることは通常は考えにくいため、例外規定に頼るより利用目的の範囲内で説明できる形を作るほうが安定します。

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要配慮個人情報をプロンプトに入れるとき|20条2項の同意はどこにかかるか

健康診断の結果、休職に関する診断書、障害の有無、前科・前歴、信条や社会的身分。これらは要配慮個人情報として通常の個人情報より厳しく扱われ、生成AIでは産業医面談の記録の要約や休職者対応の相談といった場面で登場します。

「取得」への同意と「入力」の判断は別の問題

ここで実務上よく混ざるのが20条2項の位置づけです。同項は各号に該当する場合を除きあらかじめ本人の同意を得ないで要配慮個人情報を取得してはならないと定めています。条文が向いているのは「取得」の場面です。

したがって、すでに適法に取得して保有している要配慮個人情報をプロンプトに入力する場面は、20条2項ではなく18条(利用目的による制限)や27条(第三者提供の制限)の問題として整理するのが筋道です。「要配慮個人情報の入力には常に本人同意が必要」という説明は、条文の対象を少しずらしています。もっとも結論として慎重な扱いが必要な点は変わりません。学習に使われる設定であれば27条の同意が問題になり、それが要配慮個人情報であればなおさら、同意を取って進めるという発想は現実的ではなくなります。

AI側が新たに「取得」する場面もある

逆に20条2項が正面から問題になる場面もあります。入力した情報が提供事業者に取り込まれて学習に使われるとき、提供事業者の側で要配慮個人情報の「取得」が起きます。同委員会がOpenAIに対して行った注意喚起はまさにこの点を扱っており、本人同意なく要配慮個人情報を取得しないことを求めています。利用企業から見ると、自社の入力が相手方の法令違反の引き金になり得るという構図です。

出力側にも注意点があります。注意喚起は、応答結果が確率的な相関関係に基づいて生成されるため不正確な内容の個人情報が含まれるリスクがあると指摘しています。健康状態や病歴についてAIが推測を交えた表現を出力し、それが社内の記録に残ると、正確でない要配慮個人情報を自社が保有することになりかねません。入力を絞るだけでなく出力をそのまま記録に残さない運用まで決めておく必要があります。

顧問先の運用を見てきた経験から言うと、要配慮個人情報は入力禁止情報として明示的に列挙してしまうほうが現場は動きやすいです。「機密情報は入力しない」では判断できませんが、「診断書・健康診断結果・休職に関する記録・履歴書の賞罰欄は入力しない」と具体的に書けば迷う余地が減ります。

現場が実際に迷う場面|問い合わせメール・議事録・履歴書・顧客名簿

ここまでの枠組みを、相談が多い4つの場面に当てはめます。以下は一般的な整理の方向性であり、結論は使うサービス・プラン・設定と自社の利用目的の記載によって変わります。個別の判断は弁護士にご相談ください。

問い合わせメールの要約と、議事録の文字起こし

問い合わせメールは最も相談が多い場面です。問い合わせ対応のために取得した情報を、問い合わせ対応を早くするために要約する構成であれば利用目的の範囲内と整理しやすく、焦点は分岐②に集まります。ただし問い合わせ内容には送信者が自発的に書いた健康状態や家族関係が混ざることがあり、要配慮個人情報が混ざる可能性のある窓口は別扱いにする設計が有効です。

議事録の文字起こしで難しくなるのは取引先が同席している場合と、人事に関する議題を扱っている場合です。前者は取引先との秘密保持契約で第三者への開示が制限されていないかの確認が必要で、これは個人情報保護法とは別の契約上の問題です。後者は要配慮個人情報が含まれる前提で扱うべき場面です。「議事録の文字起こしは一律OK」という運用が、実は一番危ういところです。

履歴書のスクリーニングと、顧客名簿の名寄せ

履歴書は難易度が最も高い場面で、理由が3つ重なります。第一に、応募者の情報は採用選考のために取得したもので、公表している利用目的の範囲が狭いことが多い。第二に、賞罰欄や健康状態など要配慮個人情報が含まれ得る。第三に、AIによる選考は個人情報保護法の枠を超えて採用選考の公正さという別の問題を伴います。外部AIに投入する前に、利用目的の記載の確認、学習利用のない構成の確認、要配慮個人情報を含む欄の扱い、AIの出力を最終判断に直結させない運用まで整えておくことをおすすめします。

顧客名簿の名寄せは、全件をまとめて投入する形になるため件数の多さがそのままリスクの大きさになります。分岐②の確認に加えてそもそも氏名を含む形で処理する必要があるかを検討する価値があります。個人を特定できない形に加工できれば、個人データの提供という論点に立ち入らずに済みます。

表3:場面別に、最初に確認すべきこと
場面 主に問題になる条文・論点 最初に確認すべきこと
問い合わせメールの要約 17条・18条(利用目的)/27条(学習利用がある場合) 学習利用のない構成か。要配慮個人情報が混ざる窓口を分けているか
会議録音の文字起こし 23条(安全管理措置)/取引先とのNDA/要配慮個人情報 同席者の範囲と議題。人事・健康に関する会議を別扱いにしているか
履歴書のスクリーニング 20条2項(要配慮個人情報)/17条・18条/採用選考の公正さ 採用目的の記載の範囲。AI出力を最終判断に直結させない運用か
顧客名簿の整理・名寄せ 27条・28条(提供)/23条(安全管理措置) 氏名を含めずに処理できないか。投入件数と担当者の限定

大阪の中小企業が今日からできる整え方と、弁護士に相談すべきケース

4ステップで、判断できる状態を作る

最初から完璧な体制を作る必要はありません。第一に、使うAIサービスとプランを1つか2つに絞る。判断の対象を減らすことが最も効果の大きい一手です。第二に、そのプランの規約と設定を確認し確認した日付とバージョンを記録する。表2のどの行に自社がいるかを言い当てられるようにします。第三に、入力してはいけない情報を具体的に列挙する。第四に、出力の扱いを決める。社外に出すもの、記録に残すものは人が確認してから通す経路にします。この4つを社内規程に落とすときに、ひな形をそのまま流用すると埋まらない論点は生成AIの社内規程、ひな形をそのまま使うと危ない5つの論点で整理しています。

この第四のステップは、弁護士法人ブライトの内部でも同じ形をとっています。事件記録をAIに読ませて文書の下書きを作らせる場面では、読み込ませる範囲を必要な部分に絞り、できあがったものは必ず担当弁護士と代表弁護士が確認してから外に出す運用にしています。範囲を絞ることと、出力を人が検証することは、業種を問わず共通の骨格です。

弁護士に相談したほうがよいケース

次のような場面は、社内の判断だけで進めると後戻りが大きくなりがちです。顧客の個人データを件数単位でAIに投入する予定があるとき要配慮個人情報が関わる業務にAIを使いたいとき(人事・健康・医療周辺が典型です)。採用選考にAIを組み込みたいとき取引先から預かったデータをAIで処理したいとき(契約上の制限が先に問題になります)。従業員が無断でAIを使っていることが分かったとき。そしてプライバシーポリシーの記載が今の業務の実態と合っていないと感じているときです。いずれも聞かれるのは「違法か合法か」ではなく「この構成なら説明が立つか」という問いになります。

法務部がない会社の、外部法務部として

弁護士法人ブライトは、法務部がない会社の「外部法務部」として、顧問先130社以上の実名を公開しながら日常の法務に伴走しています。生成AIの利用については、規程のひな形をお渡しして終わりにするのではなく、使っているサービスとプランの確認、利用目的の記載の見直し、入力禁止情報の具体化、出力の検証フローの設計までを一緒に組み立てます。企業法務を担当するチームの弁護士歴平均14年以上の体制で、ITを主業としない業種を含む会社のAI導入・運用に関わってきました。大阪を拠点に、顧問サービス(みんなの法務部プラン)としてご相談をお受けしています。

あわせて、AIの出力をどこまで信頼できるかという観点ではAI契約書レビューの落とし穴|自動チェックで見抜けない交渉ポイントもご参照ください。AIに任せられる部分と人が判断すべき部分の線引きは、契約書レビューでも今回の個人情報の話と同じ構造になります。SaaSを含むIT分野の法務全般についてはSaaS・IT企業の法務で整理しています。個人情報とは別に著作権の線引きが問題になる場面は生成AIの業務利用と著作権侵害リスクで扱っています。

AI利用と個人情報の線引きについて、まずご相談ください

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よくある質問

顧客の名前が入ったデータを生成AIに入力すると、それだけで個人情報保護法違反になりますか?

入力それ自体を禁じる条文はありません。個人情報保護委員会の注意喚起(令和5年6月2日)は、特定された利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること、および提供事業者が当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認することを求めています。この2点を確認し記録を残せている構成であれば、直ちに違反となるものではないと整理できます。逆に、学習に利用される設定のサービスに本人の同意なく個人データを入力した場合は、法の規定に違反することとなる可能性があるとされています。個別の判断はサービスやプランによって変わりますので、弁護士にご相談ください。

学習に使われない設定であれば、本人の同意は不要と考えてよいですか?

多くの場合、委託(法27条5項1号)またはクラウドサービスの利用として整理でき、本人の同意は不要と考えられます。ただし委託として整理する場合は法25条の委託先の監督義務が生じ、クラウド例外として整理する場合も法23条の安全管理措置は自社に残ります(個人情報保護委員会Q&A Q7-53・Q7-54)。また、提供事業者が外国法人である場合には法28条の検討が別に必要です。設定の確認だけで終わらせず、どの整理を採るのかまで決めておくことをおすすめします。

プライバシーポリシーに「生成AIに入力することがあります」と書き足す必要はありますか?

AIの利用が既存の利用目的を達成するための手段にとどまるのであれば、利用目的の追加は必要ないと整理できる余地があります。一方、AIで分析した結果を新しい用途に使うのであれば新たな利用目的にあたり、法21条3項に基づく通知または公表が必要になります。実務でより多いのは、利用目的の記載が抽象的すぎてAI利用が範囲内か判断できないケースです。この場合はAIについての条項を足すより、法17条1項が求める「できる限り特定」を満たす形に記載を整えるほうが先になります。

履歴書や健康診断結果をAIに要約させたいのですが、本人の同意は必要ですか?

法20条2項が本人の同意を求めているのは要配慮個人情報の「取得」の場面です。すでに適法に取得して保有している情報を入力する場面は、法18条や法27条の問題として整理されます。ただし入力内容が学習に使われる構成であれば提供事業者側で新たな取得が起こり得るため、慎重な検討が必要です。実務上は、診断書・健康診断結果・休職に関する記録・賞罰欄などを入力禁止情報として列挙し、必要な業務だけ個別に相談する二段構えの運用をおすすめしています。

大阪の中小企業でも、AI利用と個人情報の相談は受けてもらえますか?

弁護士法人ブライトには、大阪を中心とした顧問先企業から、生成AIの業務利用と個人情報の取扱いに関するご相談が実際に届いています。ITを主業としない業種の会社からのご相談も含まれます。多くは「もう使い始めているが、これで足りているか確認したい」という形です。顧問先130社以上・企業法務を担当するチームの弁護士歴平均14年以上の体制で、規約の確認から利用目的の記載の見直し、入力ルールの具体化までをお手伝いしています。まずは法務ドックAI診断(無料・匿名・所要5分)からでもご利用いただけます。

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関連記事

【参考にした一次資料】個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日・別添1/別添2=OpenAIに対する注意喚起は令和5年6月1日付け)/個人情報保護法17条・18条・20条・21条・23条・25条・27条・28条・147条/同委員会ガイドラインQ&A(Q7-53・Q7-54)/「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」(令和8年7月17日公布・未施行)および同委員会「個人情報保護法等の一部を改正する法律について」(令和8年7月)

本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、特定の事案に対する法律アドバイスではありません。個別の対応については弁護士にご相談ください。

本記事は、一般的な情報の提供を目的とするものであり、個別案件に関する法的助言を目的とするものではありません。また、情報の正確性、完全性及び適時性を法的に保証するものではありません。
なお、本記事の内容に関する個別の質問や意見などにつきましては、ご対応できかねます。ただし、当該記事の内容に関連して、当事務所へのご相談又はご依頼を具体的に検討されている場合には、この限りではありません。
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