この記事の結論
- 業務中に暑熱な場所で発症した熱中症は業務上疾病として認定されるのが原則です。不支給決定が出ても、そこで終わりではありません
- 不支給に対しては審査請求(3か月以内)→再審査請求→取消訴訟という不服申立ての道があります
- 重要なのは、会社への損害賠償請求は労災認定がなくても進められるということです。判断主体も要件も別です
- 争点になりやすいのは「業務起因性」(暑熱環境が原因か、私的な体調不良か)と基礎疾患の影響です
- 熱中症から脳梗塞・心疾患・腎障害へ進展したケースでは、因果関係の主張立証が結論を分けます
労働基準監督署から不支給決定通知が届いたとき、多くの方が「もう争えない」と受け止めてしまいます。しかし熱中症の労災では、不支給の理由が「業務起因性が確認できない」という一点であることが多く、資料を補充すれば結論が変わりうる類型です。
さらに見落とされがちなのが、労災認定と、会社への損害賠償請求は別のものだという点です。労災保険は国が支給する公的給付、損害賠償は会社に対する民事上の請求で、判断する主体も要件も異なります。
このページでは、弁護士法人ブライトの労災事故部統括・笹野皓平弁護士が、熱中症の労災が認められなかった場合に取りうる二つのルートを解説します。
労災専用フリーダイヤル:0120-931-501(平日9:00〜18:00)
不支給決定通知が届いた方は、審査請求の期限(3か月)にご注意ください。
熱中症の労災が「認められない」とされる主な理由
労働基準監督署は、業務遂行性(業務に就いている間の出来事か)と業務起因性(業務が原因か)で判断します。熱中症で問題になるのは、ほぼ業務起因性のほうです。
| 不支給の理由として示されやすい点 | 反論の切り口 |
|---|---|
| 作業環境の暑熱性が確認できない | 当日の気温・湿度・WBGT値、作業場所の空調・通風の状況を客観資料で補う。会社に記録がないこと自体が争点になります |
| 発症と作業の時間的な近接性が乏しい | 熱中症は帰宅後・翌日に重症化する例があります。深部体温上昇からの経過を医学的に説明します |
| 基礎疾患(高血圧・糖尿病・腎疾患等)の影響が大きい | 基礎疾患があっても、暑熱環境が発症の相対的に有力な原因であれば業務起因性は認められうる、という枠組みで主張します |
| 本人が水分補給を怠っていた | 水分・塩分の摂取を「確認する」のは事業者側の役割です(ガイドライン第3の3)。摂取機会が確保されていたかを問い直します |
| 屋内作業であり暑熱な場所とはいえない | 冷房設備がなく風通しの悪い屋内は、ガイドラインが実測を必要とする典型場面です。屋内であることは反論になりません |

ルート①:不服申立て(審査請求・再審査請求・取消訴訟)
- 審査請求:都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官に対し、決定があったことを知った日の翌日から3か月以内
- 再審査請求:労働保険審査会に対し、審査請求の決定書の謄本が送付された日の翌日から2か月以内
- 取消訴訟:処分の取消しを求める行政訴訟。審査請求の裁決を経た後などに提起します
実務上、審査請求の段階で追加すべきなのは医学的意見と作業環境の客観資料です。とくに熱中症では、主治医の診断書だけでは重症度の評価が争われることがあり、第三者の医師による意見書が結論を左右する場面があります。
労基署が作成した「調査結果復命書」は、開示請求により入手できる場合があります。何を理由に不支給としたのかを正確に把握することが、反論の出発点です。
不支給決定通知の理由がわからない、という段階でも構いません。
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ルート②:会社への損害賠償請求は、労災認定がなくても進められる
ここが最も重要な点です。労災保険の不支給決定は、「会社に責任がない」と国が判断したものではありません。
| 労災保険給付 | 会社への損害賠償 | |
|---|---|---|
| 判断する主体 | 労働基準監督署(国) | 会社との交渉、最終的には裁判所 |
| 要件 | 業務遂行性・業務起因性 | 安全配慮義務違反(会社の落ち度)と、それによる損害 |
| 会社の落ち度 | 不要(無過失補償) | 必要 |
| 慰謝料 | 支給されない | 請求できる |
| 逸失利益 | 障害(補償)給付等で一部のみ | 差額を請求できる |
労災が不支給でも、会社が熱中症対策義務を果たしていなかったのであれば、安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求は成り立ちえます。むしろ「慰謝料は労災保険から一切支給されない」ため、重篤なケースほど会社への請求の重要性が高まります。
厚生労働省は令和8年3月18日付け基発0318第1号で「職場における熱中症防止対策のためのガイドライン」を定め、従来の「職場における熱中症予防基本対策要綱」(令和3年4月20日付け基発0420第3号)を廃止しました。同ガイドラインは、WBGT値の把握、暑熱順化、水分・塩分の摂取、作業中の巡視、健康管理などを熱中症リスクに応じて選択・実施すべき措置として整理しています。
| 根拠 | 会社が負う義務の中身 |
|---|---|
| 安衛則612条の2(令和7年6月1日施行) | 熱中症を生ずるおそれのある作業について、①自覚症状・疑いを報告させる体制の整備と周知、②作業からの離脱・身体冷却・医師の診察等重篤化を防ぐ措置の手順の作成と周知 |
| 安衛則617条 | 多量の発汗を伴う作業場に塩および飲料水を備え付ける義務 |
| 安衛法65条・65条の3 | 作業環境の管理と、作業の管理(作業内容・時間の適正化) |
| 労働契約法5条 | 使用者は労働者の生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるよう必要な配慮をする義務 |
| 民法415条・709条 | 安全配慮義務違反(債務不履行)/不法行為に基づく損害賠償責任 |
熱中症から脳梗塞・心疾患・腎障害へ進展したケース
熱中症は、脱水と循環不全を通じて他の重篤な疾患を引き起こすことがあります。実務では、次のような進展が争点になります。
- 脳梗塞・脳出血:脱水による血液濃縮が関与したかどうか
- 心疾患:循環血液量の減少と心負荷の関係
- 急性腎障害・慢性腎不全:横紋筋融解を伴う熱射病からの進展
- 高次脳機能障害:重症熱中症(熱射病)による中枢神経の障害
これらは「熱中症そのもの」よりも損害額が桁違いに大きくなる一方、会社側は基礎疾患による素因減額を強く主張してきます。医学的意見書の準備と、会社側が提出する意見書の前提の検証が、実務上の勝負どころです。
熱中症のあとに別の疾患を発症された方は、因果関係の整理が必要です。
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ご相談前と、ご相談後で変わること
| Before(ご相談前) | After(ブライトへのご相談後) |
|---|---|
| 不支給決定通知を受け取り、もう争えないと思っていた | 審査請求の期限と、補充すべき資料を具体的に把握できた |
| 「基礎疾患があるから仕方ない」と会社に言われ納得しかけていた | 基礎疾患があっても業務起因性が認められうる枠組みを理解し、主張の組み立てができた |
| 労災が認められないと会社にも請求できないと思っていた | 労災認定とは独立して、安全配慮義務違反による請求を検討できた |
※上記は一般的な相談内容を参考に抽象化したものです。個別の案件の結果を保証するものではありません。
着手金0円・完全成功報酬でご相談いただける理由
不支給決定への対応は時間との勝負になる一方、費用の見通しが立たないと踏み出しにくいものです。弁護士法人ブライトでは、労災の会社への損害賠償請求について着手金0円・完全成功報酬制で対応しています。
労災事故部統括の笹野皓平弁護士が、不服申立てと民事請求のどちらを主軸に置くべきかの見立てから、医学的意見の手配、会社側の素因減額主張への反論までを一貫して担当します。
相談料は何度でも無料・着手金無料です。何度でもご相談いただけますので、「まだ相談する段階ではないかもしれない」と迷われている段階でお声がけください。
※交渉・訴訟を行う際の実費(印紙代・郵送代・医学的意見書の作成費用等)は別途ご負担いただく場合があります。※事案の内容により、ご相談をお受けできない場合があります。※お電話でのご相談の受付は平日9:00〜18:00です。
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よくある質問(FAQ)
Q1:審査請求の期限を過ぎてしまいました。もう何もできませんか。
労災保険の不服申立てはできなくなる可能性がありますが、会社への損害賠償請求は別の制度です。こちらの時効は原則5年(人身損害の場合)ですので、まだ請求できる可能性があります。
Q2:労災が不支給なのに、会社に賠償請求して意味があるのでしょうか。
あります。労災保険は会社の落ち度を問わない公的補償で、判断基準が異なります。会社が熱中症対策義務を果たしていなかったのであれば、安全配慮義務違反による請求は成り立ちえます。そもそも慰謝料は労災保険から支給されないため、会社への請求でしか回収できません。
Q3:高血圧の持病があります。それでも認められますか。
基礎疾患があること自体で否定されるわけではありません。暑熱環境が発症の相対的に有力な原因といえるかどうかで判断されます。民事請求では素因減額が争点になりますが、会社が健康診断結果を踏まえた配慮をしていたかも同時に問われます。
Q4:屋内の作業でした。それでも熱中症の労災になりますか。
なりえます。ガイドラインは、冷房設備がなく風通しの悪い屋内における作業について、WBGT値を実測することが必要としています。屋内であることは、むしろ会社が実測義務を怠っていた根拠になりえます。
Q5:会社が「うちは対策していた」と主張しています。
主張だけでは足りません。WBGT値の記録、休憩の実態、報告体制の周知記録など、会社が実際に何をしていたかを資料で確認していくことになります。記録が存在しないこと自体が不利な事情になります。
Q6:熱中症の労災でも、損害賠償請求や労災申請に期限(時効)はありますか?
あります。労災保険給付そのものの請求期限は、療養(補償)給付・休業(補償)給付が2年、障害(補償)給付・遺族(補償)給付が5年です。会社への損害賠償請求権については、2020年4月以降に生じた損害の場合、安全配慮義務違反(債務不履行)または人身損害の不法行為に基づく請求は、損害及び加害者を知った時から原則5年が目安です。あわせて権利を行使できる時から20年という客観的な期間制限もあります。不法行為構成(民法724条2号)はもともと20年、安全配慮義務違反構成(民法166条1項2号)は本来10年ですが、人の生命・身体の侵害の場合は民法167条により20年に延長されるため、いずれの構成でも20年が目安になります。2020年4月より前の事案には旧法が適用される場合もあり、判断は事案ごとに異なります。熱中症は「治ったように見えて後から後遺症が分かる」ことがあるため、お早めにご相談ください。
Q7:弁護士に依頼する費用が心配です。
弁護士法人ブライトでは、労災の会社への損害賠償請求について着手金0円・完全成功報酬制で対応しています(※実費等が発生する場合があります)。相談料は何度でも無料ですので、費用面の不安だけで相談を諦める必要はありません。ただし、事案の内容によりご相談をお受けできない場合があります。お電話でのご相談の受付は平日9:00〜18:00です。
まとめ
- 不支給決定には審査請求(3か月以内)という道があります。まず理由を正確に把握してください
- 会社への損害賠償請求は、労災認定がなくても進められます。判断主体も要件も別です
- 慰謝料は労災保険から一切支給されません。会社への請求でしか回収できません
- 屋内作業であることは反論になりません。冷房のない屋内こそ実測が必要とされています
- 脳梗塞・腎障害等へ進展した事案では、医学的意見の準備が結論を分けます
不支給決定通知が届いた段階で、期限のあるものと、そうでないものを整理する必要があります。弁護士法人ブライトの労災事故部統括・笹野皓平弁護士にご相談ください。
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