執筆・監修者
執筆:笹野 皓平(ささの こうへい)弁護士|弁護士法人ブライト 労災事故部統括・登録2011年・修習64期
監修:和氣 良浩(わけ よしひろ)弁護士|弁護士法人ブライト 代表
【この記事でわかること】
- 「労災が認定されない」「会社が認めない」ときに取れる法的手段の全体像
- 労働基準監督署への申告・不服申立て(審査請求・再審査請求・行政訴訟)の流れ
- 会社が労災を隠蔽しているときの証拠保全の方法
- 「認定ゼロ回答」の状況から会社への損害賠償請求へ切り替える戦略
「会社が労災と認めない」という状況で、多くの方が感じているのは”申請が通らない”という焦りではなく、「会社と一人で戦えるのか」という孤立感と恐怖です。法的には、会社の承認なしに申請でき、不服がある場合は3段階の申立ルートが用意されています。このページでは、認定・会社対応クラスターの子記事を体系的に案内します。
目次
1. 「会社が認めない」は法的にはどういうことか
「会社が労災と認めない」と言われた場合、多くの方が「では申請できない」と思ってしまいます。しかしこれは誤解です。
労災申請は、事業主証明がなくても被災者本人が申請できます(労働者災害補償保険法12条の8第2項)。会社の承認・協力は法的要件ではありません。会社が事業主証明を拒否した場合は、「証明を受けられなかった理由」を付記して申請できます。
| 状況 | 法的な位置づけ | 対処手段 |
|---|---|---|
| 会社が事業主証明を拒否 | 労働基準法120条違反(罰則あり) | 証明なしで申請・労基署へ申告 |
| 会社が「業務外」と判断 | 会社の判断は労基署の認定と別 | 労基署に独自申請・不服申立て |
| 会社が労災保険を使わせない | 健康保険との切り替え強要は違法 | 労基署・弁護士に相談 |
| 会社が事故を隠蔽 | 労働安全衛生法100条・120条の罰則対象 | 証拠保全・労基署申告・警察への届出 |
詳しくは会社が労災を認めない・労災隠しに遭ったときの対処法(ID:9085)をご参照ください。
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2. 会社が労災を認めないケース別の対処法
「会社が認めない」には複数のパターンがあり、それぞれ対処法が異なります。
パターン1:会社が「業務外の怪我」と主張するケース
会社の「業務外」との判断は、労働基準監督署の認定に影響しません。業務遂行性(業務中であったか)・業務起因性(業務が原因かどうか)は、実際の就業状況・作業記録・目撃証言・医療記録をもとに労基署が独自に判断します。
実務でよく問題になるのは、「会社行事(歓送迎会)の帰りの事故」「残業後の帰社中の事故」「社内施設での怪我」など、会社が「自発的行動」として業務外とみなそうとするケースです(ブライト Slack抽出ナレッジ参照)。
パターン2:会社が労災保険を使わせないケース
「健康保険で処理してほしい」と会社から言われた場合、健康保険は業務上の傷病には本来使用できません(健康保険法55条1項)。労災保険に切り替えることは被害者の権利であり、会社の承認なしに手続きできます。
パターン3:会社が事故自体を否定するケース(労災隠し)
事故があったにもかかわらず、会社が事故の発生を労働基準監督署に報告しない(労働安全衛生法100条)、あるいは被害者に口外しないよう圧力をかけるケースです。これは刑事罰を伴う「労災かくし」に該当します(労働基準法120条:30万円以下の罰金)。証拠保全が最優先です。
3. 労災が認定されないときの不服申立て(3段階ルート)
労働基準監督署の決定に不服がある場合、以下の3段階の不服申立てルートがあります。
| 段階 | 申立先 | 期限 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 1段階目 | 審査請求(労働者災害補償保険審査官) | 決定を知った日の翌日から3ヶ月以内 | 書面で不服を申立て。新たな証拠提出が可能 |
| 2段階目 | 再審査請求(労働保険審査会) | 審査請求決定から2ヶ月以内 | 審査官の判断に不服がある場合 |
| 3段階目 | 行政訴訟(地方裁判所) | 再審査請求決定から6ヶ月以内 | 不服がある場合は裁判で争う |
後遺障害等級の認定結果に不服がある場合(「等級が低すぎる」「非該当とされた」)は、不服申立ての手続き(ID:324)をご参照ください。
また、等級の不服申立てと並行して、会社への損害賠償請求を進めることも可能です。2つの手続きは独立しているため、認定結果を待つ必要はありません。
4. 会社を訴える(損害賠償請求)への切り替え
労災認定が得られない場合でも、会社への損害賠償請求は別途行えます。損害賠償請求の根拠は労働契約法5条(安全配慮義務)・民法415条(債務不履行)・民法709条(不法行為)であり、労災認定の有無は会社への損害賠償請求の成否を直接左右しません。
ブライトが実際に対応した案件では、労基署から労災認定を受けられなかった案件(不支給決定後)に審査請求棄却後に民事請求に切り替え、100万円台の解決を実現した事例があります(体験談記事:「労災不支給でも諦めなかった」民事請求で100万円台・ID:19460)。
詳細は労災で会社を訴える完全ガイド(ID:9105)をご参照ください。
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民事請求に切り替えるという選択肢があります。まずご相談ください。
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5. 安全配慮義務違反の立証方法
会社への損害賠償請求で核心となるのは安全配慮義務違反の立証です。安全配慮義務は労働契約法5条に明文化されており、会社は「雇用している労働者の生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるよう必要な配慮をする義務」を負います。
実務的な立証の手順は以下のとおりです。
- 具体的な法令違反の特定:安全衛生法令(労働安全衛生法・安衛則・個別の安全基準規則)の違反条文を特定する。例:高所作業での安全帯未使用(安衛則518条・519条)、プレス機のインターロック未設置(プレス機械安全規則など)
- 事故前の状況証拠の収集:過去のヒヤリハット記録・安全教育の実施状況・作業手順書の有無・安全装置の設置状況
- 因果関係の証明:法令違反と受傷の間に因果関係があることを医学的・工学的に立証する(専門家の意見書が有効)
詳細は安全配慮義務違反 労災 会社の完全ガイド(ID:20316)および労災で会社の安全配慮義務違反を問う(ID:19987)をご参照ください。
6. 証拠保全の重要性と具体的手段
労災事故の証拠は時間の経過とともに失われます。特に会社が隠蔽・廃棄するリスクがある場合は、早期に法的手続きで証拠を確保することが不可欠です。
主な証拠保全の手段:
| 手段 | 内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| 民事訴訟法234条の証拠保全 | 裁判所に申立て→裁判官が事故現場・書類を検証・謄写 | 会社の協力不要・法的強制力あり |
| 情報公開(労働局への開示請求) | 労働基準監督署が保有する調査記録・労災認定調書の開示 | 認定調書は受任後に弁護士経由で取得しやすい |
| 弁護士照会(23条照会) | 弁護士が医療機関・会社・行政機関に照会 | 任意協力だが実務的に有効 |
| 自主的な証拠収集 | 写真撮影・目撃者の証言録取・タイムカード・LINE保全 | 事故直後に実施すること |
詳細は労災事故の証拠保全|民事訴訟法234条の証拠保全申立から労働局開示請求まで(ID:10229)をご参照ください。
7. 認定・会社対応クラスター 全子記事リスト
このクラスターが束ねる子記事の全リストです。
| テーマ | 記事 | ID |
|---|---|---|
| 会社が認めない・労災隠し | 会社が労災を認めない・労災隠しに遭ったときの対処法 | 9085 |
| 労災が認定されない | 労災が認定されない・業務起因性が認められないときの対処法 | 9084 |
| 会社を訴える(基礎) | 労災で会社を訴えることはできる? | 887 |
| 会社を訴える(完全ガイド) | 労災で会社を訴える完全ガイド | 9105 |
| 不服申立て | 障害等級に納得いかないときの不服申立て | 324 |
| 安全配慮義務違反(総論) | 安全配慮義務違反 労災 会社の完全ガイド | 20316 |
| 安全配慮義務違反(実践) | 労災で会社の安全配慮義務違反を問う | 19987 |
| 安全配慮義務違反(裁判) | 安全配慮義務違反 裁判 損害賠償 会社の完全ガイド | 20336 |
| 証拠保全 | 労災事故の証拠保全 | 10229 |
| 認定後の損害賠償 | 労災認定の次に会社へ損害賠償請求 | 19485 |
| 報復・不利益取扱い | 労災申請で会社から報復・不利益取扱を受けた場合の対処法 | 7732 |
| 不支給後の民事請求 | 「労災不支給でも諦めなかった」民事請求で100万円台 | 19460 |
| 労災保険を使うべきか | 労災は使わない方がいい?仕事中の怪我なら使うべき【弁護士が執筆】 | 183 |
| 建設業の申請先・賠償請求先 | 建設業の労災保険は通常と異なる?労災の申請先や賠償請求先を弁護士が解説 | 508 |
| 休業中のボーナスへの影響 | 労災で休業中、ボーナス分は保障される?労災によるボーナスへの影響を解説 | 832 |
| 会社が手続に協力しない | 労災保険の請求手続を会社が協力してくれない場合 | 3788 |
| 労災保険での治療と依頼すべきケース | 仕事中・通勤中の怪我は労災保険で治療できる|弁護士に依頼すべきケース【弁護士解説】 | 5854 |
| 復職後の損害賠償請求 | 労災事故の損害賠償は復職後も請求できる|雇用を守る交渉術【弁護士解説】 | 8597 |
| 一人親方・高所事故の責任 | 一人親方は労災対象外?高所事故の責任 | 8670 |
| 見舞金と損害賠償の差額 | 労災の骨折で見舞金をもらうべきか?弁護士が損害賠償との差額を解説 | 20908 |
| 熱中症の労災認定 | 職場で熱中症になったら労災になる?認定条件や申請方法を解説 | 6118 |
| 交通事故との両方請求 | 労災 交通事故 両方 請求 夜間業務の完全ガイド|弁護士法人ブライト | 20345 |
クラスター全体の入口は労災総合ハブをご参照ください。また、損害賠償の計算方法・弁護士費用については労災で慰謝料はいくら請求できるか(ID:3790)・労災の弁護士費用(ID:6148)を参照してください。
8. ブライトのポリシー
【ブライトの判断基準】
労災認定が下りなかったとき、多くの事務所は「業務起因性の立証が困難」として消極的な判断をすることがあります。
しかしブライトは、労災保険の不支給決定が出た後も、民事請求(安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求)に切り替えて会社の責任を追及する道を探ります。
「ブライトは『認定が取れなかった』で諦めない。民事請求という別ルートで、依頼者の正当な権利を取りに行く。」
これが、ブライト労災部が認定・会社対応案件で一貫して大切にしている考え方です。
【無料相談はこちら】
「会社に認めてもらえない」「労基署に認定されなかった」という方へ
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9. 解決事例(認定困難案件からの逆転)
| Before(介入前) | After(ブライト介入後) |
|---|---|
| 審査請求も棄却され、「もう道がない」と思っていた施設従事者 | 民事請求に切り替え、100万円台の解決を実現 |
| 「本人の不注意」と言われた高所転落事故(12級認定) | 安全衛生法令違反を立証し、1,000万円台の賠償額を取得 |
| 会社が「持病のせい」と主張してゼロ回答から始まった遺族の死亡事故案件 | 専門家鑑定で業務起因性を立証、3,000万円台で解決 |
※ 同様の結果を保証するものではありません。
- 「労災不支給でも諦めなかった」民事請求で100万円台の実話(ID:19460)
- 「本人の不注意」と退けられた高所転落事故——12級認定から1,000万円台(ID:19457)
- 「夫の死は持病のせいだ」ゼロ回答から3,000万円台へ(ID:19454)
10. よくある質問(FAQ)
Q1. 会社が「労災ではない」と言っても申請できますか?
A. できます。労災申請は事業主証明がなくても被災者本人が直接行えます(労働者災害補償保険法12条の8第2項)。会社が証明を拒否した場合は「証明を受けられなかった旨」を付記して申請します。
Q2. 労働基準監督署に申告するとどうなりますか?
A. 労働基準監督署は、申告を受けると事業所への調査・立入検査を行います。労働安全衛生法・労働基準法違反が確認された場合は、是正勧告・書類送検に至ることがあります。申告者の氏名は会社に明かされないよう配慮されますが、申告内容から特定されるリスクがゼロではないため、弁護士に相談してから申告することを推奨します。
Q3. 不服申立てには期限がありますか?
A. 審査請求は決定を知った日の翌日から3ヶ月以内(労働者災害補償保険法38条)。再審査請求は審査請求決定書を受け取った日の翌日から2ヶ月以内。行政訴訟は再審査請求決定から6ヶ月以内が出訴期間の基準(行政事件訴訟法14条)です。
Q4. 労災認定が取れなくても、会社に損害賠償請求できますか?
A. できます。損害賠償請求の根拠は安全配慮義務違反(労働契約法5条・民法415条・709条)であり、労災保険給付の認定結果とは別に判断されます。労基署が「業務外」と判断した場合でも、民事訴訟で業務起因性が認められることがあります。
Q5. 証拠を集めるのが難しい状況です。どうすればいいですか?
A. 弁護士に依頼すれば、民事訴訟法234条に基づく証拠保全申立て・弁護士照会(23条照会)・情報公開請求を活用できます。これらは会社の協力なしに証拠を取得する法的手段です。自主的な証拠収集(写真・LINE・証言録取)と並行して、早めに弁護士に相談することを推奨します。
Q6. 労災申請で会社から報復を受けそうです。
A. 労災申請を理由とした解雇・降格・賃金減額は、労働基準法19条・同法3条の観点から違法となります。報復を受けた場合は証拠を保全したうえで、弁護士を通じた内容証明郵便や労働局への申告が有効です。詳しくは労災申請で会社から報復・不利益取扱を受けた場合の対処法(ID:7732)をご参照ください。
Q7. 損害賠償請求の時効は何年ですか?
A. 生命・身体侵害に基づく損害賠償請求の時効は、損害および加害者を知った時から5年(改正民法724条の2・166条1項・2020年4月1日以降)です。労災保険給付の時効(療養・休業:2年、障害・遺族:5年)と混同しないよう注意が必要です。
11. まとめ・無料相談
このページでは、「会社が認めない」「労基署に認定されなかった」状況から取れる法的手段の全体像をご説明しました。
- 労災申請は事業主証明なしに本人が申請できる(労働者災害補償保険法12条の8第2項)
- 不服申立て(審査請求→再審査請求→行政訴訟)の3段階ルートがある
- 労災認定が取れなくても会社への損害賠償請求(民事)は別途行える
- 証拠保全(民訴法234条)・弁護士照会(23条照会)で証拠を法的に確保できる
- 労災申請を理由とする報復行為は違法
「諦めるしかない」と思っている状況でも、法的な手段は残されています。まずはご相談ください。
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