「もう1年以上前の話だから」「アカウントが閉鎖された時点で終わったこと」——そう考えて、Amazonに留保されたままの売上金(アカウント残高)を諦めていませんか。 結論からいえば、アカウント閉鎖から時間が経っていても、留保された売上金を返還請求できる可能性は残っています。留保金は「Amazonのお金」になったわけではなく、あなたが商品を売って稼いだ売上の未払い分だからです。ただし、放置できる時間は無限ではありません。この記事では、昔の留保金がなぜ眠ったままになるのか、法的にはどう扱われるのか、今から動く場合の進め方を解説します。 過去にAmazonに留保されたまま諦めている売上金がある方へ 閉鎖から時間が経っていても、状況を確認すれば「まだ動けるか」がわかります。 ▶ Amazonに留保された売上金の回収を弁護士に相談する(専門ページ) 「昔の留保金」が眠ったままになる3つの理由 当事務所への相談でも、留保から半年〜数年経ってから「実はずっと気になっていた」と連絡をいただくケースは珍しくありません。多くのセラーが動けなくなる理由は、次の3つに集約されます。 理由1:「規約違反をしたのだから全額没収されて当然」という思い込み Amazonの規約は「違反時は売上金を留保できる」と定めていますが、アカウント停止の根拠と、売上金を留保し続ける根拠は別物です。留保の根拠と金額について合理的な説明のない全額没収は、法的に正当化されないことがあります。詳しくはアカウント閉鎖後の売上金は取り戻せるのかの解説記事をご覧ください。 理由2:「閉鎖済みのアカウントでは打つ手がない」という誤解 アカウントが恒久停止・退店になっても、留保されている売上金の債権はあなた(あなたの会社)の財産として残ります。むしろ閉鎖が確定しているケースでは、「請求したらアカウントを止められるかもしれない」というリスクを考える必要がなくなるため、法的手段を取りやすくなる面もあります。 理由3:「時間が経ちすぎたからもう無理」という諦め 時間の経過そのものは、請求をあきらめる理由にはなりません。ただし後述するとおり消滅時効の問題があるため、「いつまでも請求できる」わけでもありません。ここが、昔の留保金ほど早めに状況確認をすべき理由です。 法的には「時間が経った=権利が消えた」ではない 留保された売上金は、あなたの「債権」として残っている セラーとAmazonの関係は契約関係であり、販売代金からAmazonの手数料等を差し引いた残額の支払いを求める権利は、契約に基づく金銭債権です。アカウントというログイン手段が失われても、債権そのものが自動的に消えるわけではありません。 ただし消滅時効はある——枠組みは「5年・10年」 民法166条1項は、債権は「権利を行使することができることを知った時から5年間」または「権利を行使することができる時から10年間」行使しないときは、時効によって消滅すると定めています。Amazonの売上金のような事業上の債権では、実務上まず5年が目安になり、10年が外側の枠になります。 裏を返せば、閉鎖から2〜3年程度の事案は時効の心配をする段階ですらありません。5年前後、あるいはそれを超えているように見える事案でも、起算点の取り方や経緯次第で動ける余地が残っていることがあります。 注意したいのは、「いつから5年を数えるか(起算点)」はケースによって議論がありうるという点です。留保通知を受けた時点なのか、閉鎖から90日などの所定期間が経過した時点なのか、事案の経緯によって評価が分かれる可能性があります。つまり「まだ大丈夫なはず」という自己判断は危険で、逆に「もう5年近いから無理」と諦めるのも早計です。閉鎖・留保の時期がわかる資料を手元に、早めに専門家へ確認することをおすすめします。 「そもそも時効が始まっていない」と考えられる場合 さらに一歩進んだ考え方として、時効がまだスタートすらしていないと構成できる場合があります。 消滅時効は「権利を行使することができる時」から進行します(民法166条1項)。Amazonが規約を根拠に売上金を留保している間、その留保が調査や購入者保護のための担保として一応正当と評価されるのであれば、その期間中セラーは返還を求めることができない——つまり権利をまだ行使できない状態にあるとも考えられます。この構成では、時効が動き出すのは閉鎖や留保通知の時点ではなく、調査に必要な合理的期間が過ぎ、留保を続ける正当な理由が失われた時点です。 Amazonの留保は「調査中」「保留中」のまま説明なく長期化することが少なくありません。皮肉なことに、その「説明のない長期化」こそが、留保の正当性が失われたこと=返還請求が可能になったことを示す事情になりえます。「閉鎖から5年経ったから終わり」と機械的に切り捨てられない理由が、ここにあります。もっとも、起算点をどう認定するかは最終的には個別の事案と裁判所の判断によりますので、この構成に頼って放置してよいという意味ではありません。 時間が経っていても請求できるケース・難しいケース 当事務所では、ご相談の際にまず「そもそも法的に動ける類型かどうか」を確認しています。大まかな線引きは次のとおりです。 対応できる可能性があるケース(Amazonの内部ルール違反型) アカウントの譲渡・売買を理由とする閉鎖(譲渡アカバンの解説記事) 複数アカウント運用を理由とする閉鎖 ドロップシッピングなど運用方法のポリシー違反 真贋調査で反論が通らなかったが、偽造品と立証されたわけではないケース 対応が難しいケース 偽造品と知りながら販売していたケース 架空取引・詐欺的取引など刑事性の高い行為が関わるケース 後者は弁護士倫理の観点からもお引き受けできないことが多い類型です。逆にいえば、「規約違反はしたが、犯罪をしたわけではない」というセラーの留保金は、検討の土俵に乗ります。 今から回収を目指す場合の進め方 留保金額と経緯の確認:セラーセントラルへのログイン可否、残高額、閉鎖・留保通知の時期と理由(メールが残っていれば保存)を整理します。 法的な根拠の整理:どの規約条項を根拠に留保されているか、不当利得返還請求等どの構成で請求するかを検討します。 弁護士名での通知書・請求書の送付:Amazonに対し、留保を続ける法的根拠と金額の説明を求め、返還を請求します。 交渉または訴訟:交渉で解決しない場合、日本の裁判所での手続きを検討します。当事務所はAmazonを相手方とする売上金返還請求訴訟を大阪地裁で現に係属させており、管轄や仲裁条項への対応を含めて対応しています。 より詳しい手順は退店・恒久停止後の残高の取り戻し方と90日以上留保が続く場合の解説をご覧ください。 時効が近くても打てる手はある——「完成猶予」と「更新」 「もう5年ギリギリかもしれない」という場合でも、直ちに諦める必要はありません。民法は、時効の完成を一時的に止めたり、進行をリセットしたりする制度を用意しています。 催告による完成猶予 内容証明郵便などでAmazonに履行を請求(催告)すると、そこから6か月間は時効の完成が猶予されます(民法150条)。時効完成が迫っている事案では、まず弁護士名の請求書を送って時間を確保し、その間に交渉や訴訟準備を進めるという組み立てができます。 裁判上の請求による完成猶予・更新 訴訟を提起すれば、その手続きの間は時効は完成せず(民法147条1項)、確定判決等で権利が確定すれば時効は更新されます(同条2項)。 これらの手段は「時効が完成する前」にしか使えません。完成してしまった後に催告をしても巻き戻せないため、閉鎖・留保から年数が経っている方ほど、確認を先送りしないことが重要です。 状態別・今日からの動き方 セラーセントラルにまだログインできる場合 ペイメントの画面で残高(未振込額・留保額)を確認し、スクリーンショットを保存してください。あわせて、パフォーマンス通知やメールに残っている閉鎖・留保の通知を日付ごとに保存します。この2つが揃えば、初回相談で見通しをお伝えしやすくなります。 ログインできなくなっている場合 閉鎖当時のメール(notification@やseller-performance@等からの通知)、売上レポートのダウンロード履歴、銀行口座への振込履歴などから、留保額と時期をある程度復元できます。「正確な金額がわからないから相談できない」と考える必要はありません。おおよその金額と時期がわかれば、確認の入口には十分です。 金額の目安について 回収手続きは成功報酬型を基本としているため、留保額がまとまった金額(目安として数十万円以上、特に100万円以上)のケースほど費用対効果が成立しやすくなります。金額が小さい場合には、費用倒れの可能性も含めて初回相談で率直にお伝えします。 今すぐ確認したい3点チェックリスト ①残高額:留保されている金額はいくらか(おおよそで構いません)。金額が大きいほど、成功報酬型でも費用対効果が成立しやすくなります。 ②閉鎖・留保の時期:いつ通知を受けたか。時効の検討に直結します。 ③閉鎖の理由:Amazonからの通知メールに記載された理由。対応できる類型かどうかの判断材料になります。 この3点がわかれば、初回のご相談で「動けるかどうか」の見通しをお伝えできます。 よくある質問 Q. 2年前・3年前に閉鎖されたアカウントでも相談できますか? できます。消滅時効の枠組みは「知った時から5年・権利を行使できる時から10年」ですから、2〜3年前の閉鎖であれば、時効にはかかっていません。考えるとすれば時効よりも、通知メールや取引記録といった証拠が時間とともに散逸していくことです。5年に近づいている・超えているように見える事案でも、留保が続いていた事情によっては「そもそも時効がまだ始まっていない」と構成できる場合を含め、動ける余地が残っていることがあります。自己判断で諦めず、資料が残っているうちにご相談ください。 Q. アカウントの復活も一緒に頼めますか? この分野で当事務所が扱うのは「留保された売上金の回収」であり、アカウント復活の代行サービスとは異なります。復活を目指す段階の方はアカウント停止の原因と復活方法の解説をご覧ください。 Q. 当時のメールや資料がほとんど残っていません。 セラーセントラルにログインできれば確認できる情報もあります。残っている資料の範囲で構いませんので、まずは状況をお聞かせください。 Q. 昔のことなので、閉鎖の理由をよく覚えていません。 問題ありません。Amazonからの通知メールが1通でも残っていれば手がかりになりますし、ヒアリングの中で「どの類型の閉鎖だったか」を一緒に整理できます。 まとめ:「諦めたお金」の正体を、一度だけ確認してください 昔留保された売上金は、あなたの中では「終わった話」でも、法的には「まだ生きている債権」であることがあります。一方で、消滅時効により本当に「終わった話」になってしまう日は、静かに近づいています。諦める前に、一度だけ状況を確認してみてください。 ▶ Amazonに留保された売上金の回収を弁護士に相談する(専門ページ) 関連:AmazonセラーのEC法務 総合ガイド この記事の監修 和氣 良浩(弁護士法人ブライト 代表弁護士・大阪弁護士会所属)。Amazonに対する売上金返還請求については、大阪地裁に係属中の案件を直接担当している。 企業法務の関連記事 顧問弁護士の返信が遅い・相談しづらいと感じたときの対処|我慢する前にできる3つのこと【弁護士解説】 営業秘密・顧客データの持ち出しへの対応|退職者・社員による情報漏えいの証拠保全と法的措置【弁護士解説】 架空発注・水増し請求の不正が発覚したら|経理不正の調査手順と損害賠償・刑事告訴【弁護士解説】 内部通報窓口の作り方|公益通報者保護法改正対応・中小企業の設置実務【弁護士解説】 養子縁組を無効にできるか?要件と手続きを弁護士が解説