「とりあえず会社に来ないでほしい。でも給料はどうすればいいんだろう」——そう頭を抱えたことはありませんか。 不正が発覚した従業員、職場で問題行動を繰り返す社員、ハラスメントの疑いがある管理職。一刻も早く現場から離したい気持ちは当然です。しかし「自宅謹慎させた間の給料を払わなければならないのか」という問いに、自信を持って答えられる社長は多くありません。 この判断を曖昧にしたまま進めると、後から未払い賃金として請求されたり、逆に不当な賃金カットとして訴えられたりするリスクがあります。この記事では、自宅謹慎と給料の関係について、社長が「なぜ判断ミスをしてしまうのか」という構造から整理し、具体的な対応の手順をお伝えします。 自宅謹慎とは何か——「出社禁止」と「懲戒処分」は違う まず整理しておきたいのは、「自宅謹慎」という言葉が会社によって全く異なる意味で使われているという現実です。大きく分けると以下の2種類があります。 調査のための出社停止(就業禁止):不正・ハラスメント等の事実確認中、証拠隠滅や被害拡大を防ぐために一時的に会社に来させない措置 懲戒処分としての出勤停止:調査が終わり、事実が認定された後に科す懲戒処分の一種 この2つは法的な性質がまったく異なります。にもかかわらず、現場では「とりあえず謹慎させた」という一言で両者が混同されがちです。この混同こそが、後の賃金トラブルを生む温床になります。 自宅謹慎中の給料——払う必要があるかどうかの基準 【図解】自宅謹慎とは何か——「出社禁止」と「懲戒への対応フロー ① 問題発生 → ② 事実確認・記録 → ③ 顧問弁護士に相談 → ④ 対応策の実行 ※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。 結論から言えば、「調査のための出社停止」の場合、原則として給料(賃金)を支払わなければならない可能性が高いです。一方、懲戒処分としての出勤停止であれば、就業規則に規定があれば賃金を不支給にできる場合があります。この違いを理解することが、すべての出発点です。 調査目的の出社停止(就業禁止)の場合 会社側の都合——たとえば調査のため、証拠保全のため——で従業員に「来ないでほしい」とお願いする場合、これは会社が仕事を与えない「使用者の責に帰すべき事由による休業」にあたる可能性があります。この場合、労働基準法第26条により、平均賃金の6割以上を休業手当として支払う義務が生じます。 さらに、民法上の「危険負担」の考え方では、会社側の事情で働かせなかった場合は賃金全額を支払う義務が生じるという解釈もあります。実務的には「6割か100%か」という判断の幅がありますが、0円というのは法的に成り立たないケースがほとんどです。 懲戒処分としての出勤停止の場合 一方、調査を経て事実が認定され、懲戒処分として出勤停止を科す場合は話が変わります。就業規則に「出勤停止期間中は賃金を支払わない」と明記されていれば、賃金の不支給が認められる可能性があります。ただし、就業規則の規定がなければこの扱いもできません。 ここで多くの社長が見落とすのが、「就業規則に書いてあるか」という確認を飛ばして動いてしまうことです。「問題を起こしたんだから給料を払わなくていいだろう」という感覚は理解できますが、法律はそう単純ではありません。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先141社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) なぜ社長は判断ミスをしてしまうのか——ミスが起きる構造 自宅謹慎と給料をめぐる判断ミスには、共通した構造があります。 ①「感情の速度」と「法律の速度」のズレ 問題が発覚した瞬間、社長は「すぐに現場から外したい」「このまま給料を払い続けるのはおかしい」という感情で動きます。この感情は正常な経営判断の表れです。しかし法律は、その感情と同じ速度では動きません。手順を踏まなければ、正しい結果にたどり着けないのです。 ②「事実確認」と「処分決定」を同時にやろうとする 「謹慎させながら調査して、悪いとわかったら給料をカットする」——この順番で考える社長は多いですが、この「遡及的な賃金カット」は法的に認められません。調査中の出社停止と懲戒処分としての出勤停止は、時間軸が違います。調査が終わって初めて処分の検討に入るのが正しい流れです。 ③ 就業規則を確認せずに動く 「うちの就業規則にはそういう規定があるはず」という思い込みで動くのも危険です。実際には規定がない、あるいは内容が曖昧で使えないケースが少なくありません。就業規則は「あること」ではなく「正しく機能する状態にあること」が重要です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先141社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題が起きる前にできること——予防のための3つの整備 自宅謹慎と給料の問題は、多くの場合「問題が起きてから初めて考える」ことで複雑化します。事前に以下の3点を整備しておくだけで、判断の質が大きく変わります。 ①就業規則に「出勤停止」と「就業禁止」を明記する 懲戒処分としての出勤停止と、調査目的の就業禁止(出社停止)を明確に区別して規定します。それぞれの期間中の賃金の扱い(支払うか・どれだけ支払うか)も明記しておくことが重要です。 ②賃金規程・懲戒規程との整合性を確認する 就業規則、賃金規程、懲戒規程がバラバラに作られている会社では、「出勤停止中は賃金を支払わない」と就業規則に書いてあっても、賃金規程と矛盾していて使えないケースがあります。規程同士の整合性チェックは、年1回程度行う「法務ドック」の中で確認することをお勧めします。 ③問題発生時の初動フローを決めておく 「誰が、何を確認して、誰に報告し、誰が判断するか」という初動フローを文書化しておくと、感情が先走るリスクを減らせます。特に社長が直接判断を下す前に、顧問弁護士に一報を入れるという習慣だけでも、大きな判断ミスを防げます。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先141社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題発生時の対応フロー——自宅謹慎を命じる際の正しい手順 実際に問題が発覚し、従業員を自宅謹慎にする必要が生じた場合の対応フローを整理します。 事実の初期確認:何が起きたのか、関係者から速やかに情報を収集する。この段階では処分を決めない。 出社停止の指示と書面化:「調査のため出社を禁ずる」旨を書面(メール可)で通知する。口頭だけでは後から「言った・言わない」になる。 賃金の扱いを明示する:「期間中は平均賃金の6割以上を休業手当として支払う」または「全額支払う」のかを書面に明記する。 調査を行う:当事者・関係者からの聴取、証拠の収集・保全を行う。 事実認定と処分の決定:調査結果に基づき、懲戒処分を行うかどうか、行う場合どの種類の処分にするかを就業規則に照らして決定する。 処分の通知:処分内容を書面で本人に通知する。 この流れの中で最も重要なのは、「調査中の出社停止」と「懲戒処分としての出勤停止」を時間軸で明確に分けることです。調査と処分を同時に行うことはできません。 証拠の残し方——紛争になってから急に作れるものではない 後のトラブルに備えるために、以下の証拠を残しておくことが重要です。 出社停止を指示した日時・方法(メール・書面) 指示の理由(「調査のため」であることを明記) 賃金の取り扱いについて説明した記録 調査の経過と結果をまとめた文書 本人への処分通知書(受領確認を含む) 証拠は、紛争になってから急に作れるものではありません。問題が発生したその日から、記録を残す習慣が会社を守ります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先141社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 失敗事例の構造——なぜ相談が遅れ、なぜ証拠がなかったのか 実際の相談事例を振り返ると、「もっと早く相談してほしかった」というケースには共通したパターンがあります。 「まず自分たちでやってみよう」という判断 問題が発覚したとき、多くの社長は「これくらいは自分で対処できる」と考えます。その判断自体は決して間違いではありませんが、労務問題は「やってみてから直す」が難しい分野です。一度払ってしまった賃金の返還請求は難しく、逆に払わなかった賃金の未払い請求は時効まで続きます。 「書面を残すのは大げさだから」という遠慮 特に小規模な会社では、「書面を渡すのはドライすぎる」「関係性が壊れる」という遠慮から、口頭の指示だけで動いてしまうケースがあります。しかし問題が深刻になればなるほど、その口頭指示の内容が争点になります。「そんな指示は受けていない」「謹慎は自分の意思だった」という主張に対抗できるのは書面だけです。 「就業規則はあるはず」という思い込み 就業規則を最後に見直したのがいつか、すぐに答えられる社長は多くありません。作った当時は適切でも、会社の規模や業態が変わり、現実に合わなくなっているケースは珍しくありません。「あるはず」という規定を頼りに処分を進め、後から「その規定は無効」と指摘されるケースも実際にあります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先141社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) うちの会社ではどう考えればいいのか——判断の軸を整理する 自宅謹慎と給料の問題を整理する際、以下の問いに順番に答えていくと判断が整理されます。 それは「調査目的の出社停止」か「懲戒処分としての出勤停止」か?調査中なら、原則として賃金の支払いが必要(少なくとも平均賃金の6割以上)。 就業規則に該当する規定があるか?懲戒処分として出勤停止を科す場合、就業規則に「期間中は賃金を支払わない」旨の規定がなければ賃金カットはできない。 調査結果に基づいて事実認定が終わっているか?事実確認が不十分なまま処分を決めると、後から処分無効を争われるリスクが高まる。 書面で記録が残っているか?出社停止の指示・賃金の取り扱い・調査経過・処分通知が書面で残っているかを確認する。 この4つの問いに答えられれば、少なくとも「よくある判断ミス」の大部分は防げます。ただし、個別の事情によって判断は変わります。「うちの場合はどうか」を確認するために、1本電話を入れる習慣が会社を守ります。 再発防止策——今日から始められる3つのこと 自宅謹慎と給料をめぐるトラブルは、制度を整えれば大部分が防げます。今日から始められる再発防止策を3つ挙げます。 就業規則の見直し:懲戒規程(特に「出勤停止」の定義と賃金の扱い)と、調査中の就業禁止に関する条項を追加・整備する。 初動フローの文書化:問題発生時に「誰が・何をする」かを1枚の紙にまとめておく。社長の判断を要する前に必ず確認するチェックリストを作る。 「年1回の法務ドック」の習慣化:就業規則・賃金規程・懲戒規程が現状に合っているかを定期的に確認する。健康診断と同じ感覚で、法務リスクの健康診断を行う。 問題社員への対応は、一件起きるたびに「どうしよう」と考えるものではありません。制度と習慣があれば、社長は感情ではなく判断で動けるようになります。 自宅謹慎・出勤停止・懲戒処分など問題社員への対応は、一度の判断ミスが未払い賃金請求や不当解雇訴訟につながりかねません。就業規則に懲戒処分・出勤停止の規定を正確に整備し、問題発生時の初動フローを顧問弁護士とあらかじめ確認しておくことが、もっとも費用対効果の高いリスク管理です。弁護士法人ブライトでは、顧問先 141社 の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが就業規則の整備から個別ケースの相談まで、継続的にサポートします。日常的に相談できる「みんなの法務部」として、社長の判断の質を支えます。 よくある質問(Q&A) Q1. 問題を起こした従業員を自宅謹慎にした場合、給料を0円にできますか? A. 原則としてできません。調査目的で出社を禁じた場合、少なくとも平均賃金の6割以上(労働基準法第26条の休業手当)を支払う義務が生じる可能性が高いです。懲戒処分としての出勤停止であれば、就業規則に「期間中は賃金を支払わない」旨の規定があれば不支給とすることが可能な場合があります。まずは就業規則の確認が必要です。 Q2. 調査中に「謹慎してもらっている間の給料は後で返してもらう」という約束はできますか? A. 実務上、非常に難しいです。調査結果が出るまでは処分が確定していないため、「返してもらう」根拠が不明確です。また、労働者から賃金を事前に放棄させることは法的に無効とされるケースもあります。こうした取り決めを行う前に、必ず弁護士に確認することをお勧めします。 Q3. 就業規則に出勤停止の規定がない場合、懲戒処分として出勤停止を命じられますか? A. 就業規則に規定がない懲戒処分を科すことは、原則として認められません。「懲戒は就業規則の定めに基づかなければならない」というのが法的な原則です。規定がない状態で出勤停止を命じ、賃金を支払わなかった場合、後から未払い賃金として請求されるリスクがあります。就業規則の整備が先決です。 Q4. 自宅謹慎の期間に制限はありますか? A. 明確な法律上の上限規定はありませんが、懲戒処分としての出勤停止については、就業規則に定めた期間内に収める必要があります(多くの就業規則では「10日以内」「30日以内」などと規定されています)。調査目的の出社停止も、長期にわたると問題となる可能性があります。調査は速やかに行い、期間を必要最小限に留めることが重要です。 この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生 自宅謹慎・出勤停止・懲戒処分・問題社員対応など経営上の課題を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先 141社 の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:06-4965-9590(平日9:00〜18:00) 「みんなの法務部」というブライトの考え方 中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームで、141社の顧問先と向き合っています。 ▶ みんなの法務部とは(詳しく見る) 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先141社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料)