社内不倫・不貞行為社員への懲戒処分と解雇の可否|判例基準を弁護士が解説【会社側・使用者側】 この記事でわかること: 社内不倫を放置することで会社が直面する3つの具体的コスト 懲戒処分・解雇が認められる判例上の基準と手順 トラブルを最小化するための正しい対処ステップ 「社内不倫くらいで大げさな…」と放置した結果、何が起きるのか 社内不倫が社内で噂になっている。当事者2人の様子がおかしい。配偶者から会社に怒鳴り込みの電話がかかってきた——。そんな状況に直面して、「プライベートなことだから会社は関知できない」「様子を見よう」と判断した経営者・人事担当者は少なくありません。 しかし、その「様子見」が後から想像を超えるコストを会社に招くことがあります。社内不倫は単なる道徳問題ではなく、放置すると労務トラブル・訴訟リスク・職場崩壊という3方向から会社を直撃します。 この記事では、放置した場合に発生する具体的なリスクを数字とともに示し、正しい対処ステップをわかりやすく解説します。 こんな状況ではありませんか? 上司と部下の不倫が発覚し、他の社員から「何か対応するのか」と問い合わせが来ている 当事者の配偶者から「慰謝料を取るために会社情報を教えてほしい」と連絡が来た 「さすがにこれは解雇できるだろう」と思って懲戒処分を検討しているが、法的に問題ないか不安 逆に、処分して「不当解雇だ」と訴えられるリスクが怖くて何もできずにいる 放置した場合に発生する3つのコスト コスト①:職場環境悪化による生産性低下と採用コスト増 社内不倫の噂が広まった職場では、チームワークの崩壊・士気の低下・優秀な社員の離職が連鎖的に起きます。厚生労働省の調査(令和5年版労働経済白書)によれば、職場の人間関係トラブルを原因とした離職者が全離職者の約30%を占めるとされています。 中途採用1人あたりのコストは、求人広告費・選考工数・戦力化までの期間を含めると平均100万円前後に上ると言われます。「たった1件の不倫を放置した結果、数名が相次いで辞め、採用コストだけで数百万円かかった」という事態は、決して珍しくありません。 コスト②:不当解雇・懲戒無効の訴訟リスクと和解金 「これは解雇できる」と判断して処分したが、後から不当解雇と訴えられるケースがあります。日本の裁判所は、私生活上の行為を理由とした解雇に対して厳しい目を向けます。最高裁昭和52年1月31日判決(日本鋼管事件)が示す基準では、「企業外の私生活上の行為は、企業の社会的評価を著しく毀損する場合などに限り、解雇事由となりうる」とされています。 手続きに不備がある場合や基準を満たさない懲戒処分を行った場合、労働審判・訴訟で敗訴すると、バックペイ(未払い賃金)+解決金として100万〜500万円以上の支払いを命じられるケースもあります。弁護士費用まで含めると、最終的な会社側のコストはさらに膨らみます。 コスト③:第三者(配偶者)からの損害賠償請求に会社が巻き込まれる 意外に見落とされがちなのが、不貞の被害配偶者から会社が損害賠償請求される可能性です。「会社が不倫を黙認・助長した」「上司が部下を利用した」などの主張を根拠に、会社の使用者責任(民法715条)を問う訴訟が起こされることがあります。 認められるかどうかはケースバイケースですが、訴訟対応だけで50万〜100万円超の弁護士費用が発生し、対応する人事・経営者の時間コストも莫大になります。早期に社内ルールと対応方針を整えておけば回避できたリスクが、放置によって現実化するのです。 問題社員への対応を後回しにした場合の複合リスクについては、問題社員を放置していた会社が直面した3つのリスクでも詳しく解説しています。 実際に起きた事例:対応の遅れが招いた二重トラブル ある製造業の会社では、管理職と部下(どちらも既婚)の不倫関係が社内で公然の秘密となっていました。経営者は「業務に支障が出ていない」として半年以上放置。その後、部下の配偶者が会社に連絡を取り、「会社が関与した」として使用者責任を主張する内容証明を送付してきました。 慌てた会社側が管理職を「職場秩序を乱した」として懲戒解雇にしたところ、今度は当該管理職から「手続きが不当だ」として労働審判を申し立てられました。最終的に会社は、被害配偶者への解決金と管理職への和解金の両方を支払うという最悪の結果になりました。総額は弁護士費用込みで300万円を超えたといいます。 この会社が早い段階で専門家に相談していれば、①まず事実確認と記録保全、②就業規則に基づく段階的な指導、③退職勧奨の適法な実施——という手順を踏むことができ、少なくとも訴訟コストの大部分は回避できたはずです。 また、あるサービス業の会社では、上司と部下の不倫が発覚した際に「すぐに解雇したい」と焦りましたが、顧問弁護士の助言のもとで「口頭注意→書面注意→退職勧奨」という適正なプロセスを踏んだ結果、当事者の1人が自ら退職を選び、訴訟リスクなく問題を収束させることができました。 懲戒処分・解雇が認められる判例上の基準 解雇が認められるのはどんなケースか 裁判所は、社内不倫を理由とした解雇について、以下の要素を総合的に考慮します。 業務への具体的悪影響の有無:業務効率の低下、チームへの悪影響、顧客トラブルなど 企業の社会的評価の毀損:取引先・顧客・社会に対する信用失墜が客観的に認められるか 上下関係・権力関係の悪用:上司が部下を立場を利用して関係を強要・誘導したケース 会社の施設・時間・費用の不正使用:会社の資産を不倫に利用した事実があるか 不倫の継続・隠蔽・虚偽報告:会社の調査に対して虚偽の回答をした場合は加重事由 これらの要素が複数重なり、かつ就業規則に明確な懲戒規定がある場合にのみ、解雇が有効と認められる可能性が高まります。「不倫した事実だけ」では、解雇の合理的理由として認められません。 懲戒処分を行う際の手続き上の要件 仮に実体的な解雇事由が認められるとしても、手続きに問題があれば処分は無効になります。必ず確認すべきポイントは以下のとおりです。 就業規則に懲戒事由・懲戒手続きが明記されているか(労働基準法89条) 就業規則が労働基準監督署に届け出られ、社員に周知されているか 処分前に本人に弁明の機会を与えているか 処分の重さが行為の程度と均衡しているか(比例原則) 同様の事案で過去に同程度の処分をしているか(平等取扱い原則) 退職勧奨を選択肢として検討する場合も、違法とならないための進め方を事前に把握しておく必要があります。詳細は退職勧奨で違法と言われないための進め方をご覧ください。 社内不倫への対応も、基本は問題社員対応の型(事実確認・記録化→弁明の機会→処分の選択)に沿って進めます。全体の手順は「問題社員への対応手順|タイプ別5つのステップ」をご覧ください。 正しい対処ステップ:発覚から処分までの流れ ステップ1:事実確認と証拠の保全 まず、感情的・拙速な判断を避け、事実関係を冷静に確認します。第三者からの報告、当事者の言動、業務への影響など、客観的な事実を記録します。この段階では処分を匂わせる言動を慎みましょう。 ステップ2:就業規則の確認と法的リスクの整理 自社の就業規則に懲戒事由として「職場秩序を乱す行為」「会社の名誉・信用を傷つける行為」などが明記されているかを確認します。規定が不十分な場合は、この機会に整備することを検討してください。 ステップ3:当事者への事情聴取と弁明機会の付与 当事者双方から個別に話を聞き、書面で記録します。この際、「尋問」ではなく「確認」の姿勢が重要です。録音・録画は当事者に告知するか、記録者を同席させましょう。 ステップ4:処分内容の決定と通知 事実と就業規則の照らし合わせに基づき、処分内容を決定します。口頭注意・書面注意・減給・降格・出勤停止・諭旨退職・懲戒解雇と段階があります。一足飛びに懲戒解雇を選ばず、行為の重大性に応じた処分を選択することが重要です。処分は書面で交付し、理由を明記します。 ステップ5:職場環境の回復と再発防止 処分後も、残った社員の士気回復・ハラスメント防止研修の実施・職場環境の点検を行います。「処分して終わり」では、職場秩序の回復は期待できません。 「顧問弁護士がいれば、この段階で防げた」 上述のような二重トラブルに陥った会社に共通しているのは、「専門家に相談するタイミングが遅すぎた」という点です。社内不倫のトラブルは、発覚した時点で顧問弁護士に相談できれば、多くのケースで訴訟に発展する前に収束させることができます。 具体的には、就業規則の整備・事情聴取の同席・退職勧奨の進め方のアドバイス・相手方との交渉など、弁護士が関与することで手続きの適法性が担保され、相手方も安易な訴訟に踏み切りにくくなります。 「事が起きてから弁護士を探す」のと「顧問弁護士と日頃から関係を持っておく」のでは、対応スピードと費用対効果に大きな差があります。顧問弁護士の必要性や費用対効果については顧問弁護士は必要?重要性・利用すべき場面・費用対効果の判断基準もあわせてご覧ください。 社内不倫トラブル、放置する前にまず相談を 「処分して大丈夫か」「どう進めればいいか」——企業法務に特化した弁護士チームが、初回無料でご相談に応じます。 問題社員・労務トラブルの無料相談はこちら 無料で相談する よくある質問(FAQ) Q1. 社内不倫が発覚してから時間が経ってしまいました。今からでも懲戒処分できますか? 懲戒処分には「相当期間内に行う」という要件があり、発覚から著しく長い期間が経過した後の処分は、有効性が争われるリスクがあります。ただし、「業務への継続的な悪影響が続いている」「新たな事実が判明した」などの事情があれば、処分の合理性が認められる場合もあります。いずれにせよ、早急に弁護士に相談し、現時点で取りうる最善の対応を確認することをおすすめします。 Q2. 社内不倫の対応を弁護士に依頼した場合、費用はどのくらいかかりますか? スポット相談(単発依頼)の場合、事情聴取への同席・就業規則の確認・交渉対応などで、数万円〜数十万円程度が目安です。顧問弁護士契約を結んでいる場合は、月額顧問料の範囲内で相談・アドバイスを受けられるケースが多く、トータルコストは大幅に抑えられます。訴訟に発展してからでは弁護士費用だけで100万円を超えることも珍しくないため、早期の相談が費用対効果の観点からも賢明です。 Q3. 社内不倫の当事者が「不当解雇だ」と言ってきた場合、会社はどう対応すればよいですか? まず、処分の根拠(就業規則の条文・事実認定の記録・手続きの経緯)を書面で整理することが重要です。「不当解雇だ」という主張があっても、適正な手続きと合理的な理由があれば、労働審判・訴訟でも会社側が有利になります。逆に、証拠や記録が不十分な場合は早期和解も検討に値します。いずれの判断も、専門家の意見を聞いた上で行うべきです。感情的な対応や事実に反する主張は状況を悪化させるため、弁護士への相談を最優先に動いてください。 監修:弁護士法人ブライト 企業法務チーム 大阪・神戸を拠点に企業法務・顧問弁護士サービスを提供。中小企業の法的リスク対応を日々サポートしています。 ※本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、個別の法律アドバイスではありません。具体的な問題については弁護士にご相談ください。