監修:和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士|大阪弁護士会 大阪で20年以上、中小企業の企業法務・顧問弁護士サービスを提供。顧問先130社以上に透明性の高いリーガルサポートを実践している。 この記事の結論 退職勧奨は、正しい手順を踏めば合法的な対応手段です。しかし、ブライトは「退職してほしい」という相談を受けたとき、まず退職勧奨の前段階を確認します。 なぜなら、退職勧奨は法律問題である前に経営判断の問題だからです。「なぜ辞めてほしいのか」「何が起きているのか」を整理しないまま動くと、問題がこじれます。手順よりも先に、判断基準を持つことが重要です。 退職勧奨の進め方、まず弁護士に相談してください 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 問題社員・労務トラブルの無料相談はこちら 無料で相談する 「辞めてほしい社員がいる」——よくある相談の入口 ブライトへ寄せられる相談の中で、「問題社員への対応」は最も多いジャンルのひとつです。そのなかでも「退職勧奨について知りたい」という相談は、次のような言葉で始まることが多いです。 「解雇はリスクが高いと聞いた。退職勧奨なら大丈夫か?」 「本人から辞めると言ったこともあるが、それは有効か?」 「弁護士を立てて対抗してきた社員に、こちらも弁護士をつけるべきか?」 「問題社員を放置してきたが、退職勧奨で一気に解決できないか?」 これらは全て、社長が「もう一緒に働けない」という限界に達したサインです。感情的には理解できます。しかし、この段階でいきなり退職勧奨の「手順」だけを知っても、うまくいかないことが多いのです。 なぜかを、順番に説明します。 今すぐ動く前に、一度相談してください 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 問題社員・労務トラブルの無料相談はこちら 無料で相談する 📋 まず、自社の状況を整理してみてください 当てはまる項目が多いほど、対応の準備が整っています。空欄が多い場合は、動く前に「整える」段階です。 ☐ 遅刻・欠勤など問題行動が継続している ☐ 口頭で注意・指導をした ☐ 書面(注意書・指導録)で記録を残している ☐ 改善のための期間・機会を与えた ☐ 就業規則に懲戒事由・解雇事由が明記されている ☐ 周囲の社員への影響が出ている 空欄が多いなら、まず「記録」と「就業規則」から。チェックの数より、空欄の埋め方が結果を分けます。 ブライトが退職勧奨の相談で最初に確認する5つのこと 退職勧奨を進める前に、ブライトが必ず確認する項目があります。手順の話は、この5点を整理してから始めます。 ① 問題行動の記録が残っているか 「口頭で何度も注意した」という会社は多い。しかし、記録が残っていなければ法的には「何もしていない」に等しい。退職勧奨の交渉が決裂した場合、相手が弁護士を立てた場合、その時に「注意した証拠」がなければ圧倒的に不利になります。 書面(注意書・業務指示書)・メール・勤怠記録。これらが揃っているかを最初に確認します。 ② 就業規則の整備状況 懲戒事由・解雇事由が明記されているか。退職勧奨を進める場面でも、「就業規則上のどの問題行動に該当するか」が交渉の根拠になります。就業規則がない、あるいは実態とかけ離れた内容のままでは、会社側の立場が弱くなります。 大阪の中小企業では、就業規則はあっても「10年以上更新していない」ケースが非常に多い。ここが後の紛争の種になります。 ③ 改善機会を与えたか 段階を踏まずに退職勧奨に移ると、「いきなり辞めさせようとした」と主張される余地が生まれます。口頭注意→書面注意→改善期間の設定、という段階を踏んでいるかを確認します。 ④ 労災・休職中でないか 労働基準法第19条は、業務上の傷病による休業期間中およびその後30日間の解雇を禁止しています。退職勧奨はあくまで任意の合意ですが、療養中の社員に圧力をかけた場合、強迫・心理的強制として退職の意思表示が無効になるリスクがあります。メンタル不調で休職中の社員への対応は特に慎重を要します。 ⑤ 相手に弁護士がついているか(あるいはつきそうか) 相手方が弁護士を立てた時点で、状況は大きく変わります。退職勧奨の「任意性」を巡る争いになります。この段階では、会社側も弁護士を通じた対応が不可欠です。 ブライトの顧問先では、「相手方に弁護士がついたタイミング」が顧問契約の相談が急増する時期でもあります。「こういうときのために顧問がいると、初動から弁護士同士で対応できます」——この価値を実感する瞬間です。 なぜ「まず整理」が必要なのか——多くの会社が動いてから後悔する理由 退職勧奨が失敗するケースには、共通したパターンがあります。「問題社員の存在を長期間放置した後、一気に解決しようとする」ことです。 大阪でよく見られる実例を紹介します。 ※プライバシー保護のため、複数の事例をもとに内容を一部変更して紹介しています。 実例:放置が招いた負の連鎖(運送業) ある会社で、パワハラ体質の社員が長期間放置され、その影響で10名超が退職した。退職後、その社員が弁護士を立てて300万円超の未払い残業代を請求。さらに他の退職社員3名も別弁護士を通じて請求を開始した。 根本的な問題は、就業規則に固定残業代(みなし残業)の明記がなかったことだった。書面整備後は「この状態でやられても出ないくらいになった」と弁護士が評価するところまで改善できたが、請求が来てからの対応では和解金150〜200万円の出費が避けられなかった。 「早めに法的整備をしていれば」——これが会社の後悔の声だった。 この事例が示すのは、問題社員への対応は「単発の退職勧奨」で完結しないということです。その社員が退職した後も、就業規則の不備・残業代の管理・他の社員への影響は残ります。退職勧奨を「出口」ではなく、会社の体制整備の「入口」として捉えることが重要です。 問題社員への対応、一人で抱え込まないでください 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 問題社員・労務トラブルの無料相談はこちら 無料で相談する 退職勧奨の実際のプロセス——ブライトが伴走するとこうなる 5点の事前確認が終わったら、退職勧奨の具体的なプロセスに移ります。ブライトが顧問として関与する場合、次の流れで進めます。 ステップ1:事前準備(書面・記録の整備) 退職勧奨の前に、対象社員への注意指導の記録を書面化します。これまで口頭だったものも、改めて書面で「業務上の問題点」を通知します。この書面が、交渉の根拠になります。 ステップ2:退職勧奨面談の設計 面談は「任意性」が生命線です。強要・圧力と取られる発言は絶対に避けます。具体的には: 面談は1対1ではなく、会社側2名(証人確保)で行う 「辞めろ」という命令ではなく「会社の方向性と合わないため、退職という選択肢を検討してほしい」という形で伝える 回答を即日求めない(数日間の検討時間を与える) 録音されることを前提に話す ステップ3:合意書の作成 本人が退職に応じた場合、合意書(退職合意書)を作成します。口頭での合意だけで終わらせてはいけません。退職後に「やっぱり不当だった」「残業代が未払いだった」と追加請求が来るリスクを防ぐため、合意書に以下の項目を漏れなく盛り込みます。 退職日・退職の事由(合意退職と明記する) 退職金・解決金の有無と金額 雇用保険の離職事由の確認 清算条項(「互いに債権債務はない」という確認。追加請求を防ぐ最重要条項) 口外禁止条項(任意だが入れておくことで風評リスクを低減) 合意書は弁護士に作成・チェックを依頼することを強くお勧めします。市販のひな形では清算条項が不完全なケースがあります。ここで弁護士が関与することで、後の「強迫だった」「こんな内容と聞いていない」という主張を防ぎます。 ステップ4:交渉が決裂した場合の対応 相手が退職勧奨を拒否した場合、選択肢は2つです。①改善期間を設けた上での懲戒処分・解雇手続き、②引き続き就業させながら記録を積み上げる。いずれも、弁護士と事前に方針を決めてから動くことが重要です。 法律上のポイント——退職勧奨が「違法」になる典型パターン 解雇と退職勧奨はどう違うのか——法的性質の比較 「解雇と退職勧奨はどう違うのか」は、ブライトに最も多く寄せられる質問のひとつです。両者は名称が似ていますが、法的な性質はまったく異なります。 項目 退職勧奨 解雇 法的性質 会社からの「辞めてほしい」という申し出。社員が同意して初めて効力が生じる 会社の一方的な意思表示。社員の同意不要で労働契約を終了させる 社員の自由 断る自由がある。断っても不利益取扱いは違法 拒否できない(ただし解雇無効の争いは可) 法的要件 任意性の確保が必要。強要・圧迫は違法 客観的合理的な理由+社会通念上の相当性(労働契約法16条) 会社側リスク 違法な退職勧奨は不法行為として慰謝料請求を受ける 解雇無効判決→バック給与支払い・復職命令のリスク 退職勧奨の最大のメリットは、社員が同意すれば「合意退職」として成立するため、解雇無効の争いが生じにくい点です。一方、適切に行わなければ「強迫による意思表示」(民法96条)として合意退職を取り消される可能性があります。 退職勧奨は、使用者が労働者に任意の退職を勧める行為です。法律上の明文規定はありませんが、最高裁判例(下関商業高校事件・最判昭55.7.10)は、社会通念上相当な範囲を超えた退職勧奨は不法行為になりうると判示しています。 退職勧奨が違法になる典型ケース 執拗な繰り返し:短期間に何度も退職勧奨面談を繰り返す 心理的圧迫:「次にミスをしたらどうなるか分かるか」など脅迫的な発言 不当な条件提示:「辞めなければ給与を下げる」「配置転換する」など不利益をちらつかせる 療養中への勧奨:メンタル不調や業務上傷病での休職中に退職を迫る(労働基準法第19条の趣旨に反する) これらに該当した場合、退職の意思表示が強迫(民法96条)または錯誤(民法95条)として取り消される可能性があります。退職後に「無効だった」として地位確認訴訟・未払い賃金請求を起こされるリスクがあります。 「追い出し部屋」「不利益取扱い」と退職強要 退職勧奨と関連して問題になるのが「追い出し部屋(追い出し配転)」です。退職勧奨に応じない社員を、遠隔地の部署・閑職・業務量がゼロに近い部署に異動させることで、自ら辞めることを促す手法です。 中小企業でも次のようなケースが「追い出し部屋」と認定されるリスクがあります。 退職勧奨に応じなかった社員を、翌日から業務が実質ゼロの部署に異動させる 「次のプロジェクトには参加させない」と告げて孤立させる 退職勧奨と同時期に合理的な理由のない大幅な降格・減給を行う 退職勧奨に応じない社員に対して、同僚・上司が無視・排除するよう仕向ける これらは不法行為(民法709条)またはパワーハラスメント(労働施策総合推進法30条の2)として会社が損害賠償責任を負う可能性があります。「退職勧奨に応じないから圧力をかける」という対応は、退職強要として問題になります。 問題を解決した後に考えること——再発防止と顧問の価値 退職勧奨で一人の問題社員が退職しても、会社の体制が変わらなければ、同じ問題は繰り返します。 ブライトの顧問先では、退職勧奨の解決後に次の体制整備を提案しています。 就業規則の見直し 懲戒事由・解雇事由の明確化。問題行動の定義(遅刻の回数・業務命令違反の内容)を具体的に記載することで、次回の対応が格段に楽になります。 日常の記録設計 問題行動が発生した際に、いつ・何が・どの程度あったかを記録する仕組みを作ります。「指導録」のようなシンプルな書式一枚で十分です。これが弁護士の「武器」になります。 法務ドックによる定期チェック 弁護士法人ブライトが提供する顧問弁護士サービス「みんなの法務部」では、「法務ドック」として会社の法的リスクを定期的に診断するサービスを提供しています。問題が表面化する前に、就業規則・雇用契約書・問題行動の記録体制を点検します。 詳しくは企業法務トップページもご覧ください。 退職勧奨を弁護士に相談すべきケース 次のいずれかに該当する場合は、退職勧奨の前に必ず弁護士に相談することをお勧めします。 相手が既に弁護士を立てた、または立てそうな気配がある 対象社員がメンタル不調・休職中・労災申請中である 注意指導の記録がほとんどない 就業規則が古く、懲戒事由が曖昧 過去に「辞める」と言ったことがあるが、書面化されていない 同じ問題社員について複数回対応を試みて失敗している 退職勧奨を違法にしないために、まずご相談ください 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 問題社員・労務トラブルの無料相談はこちら 無料で相談する よくある質問 退職勧奨と解雇はどう違いますか? 退職勧奨は会社が労働者に退職を「お願い」するもので、労働者が断る権利があります。合意があって初めて退職が成立します(合意退職)。解雇は会社が一方的に労働契約を終了させるもので、労働契約法第16条により「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要です。退職勧奨の方がリスクは低いですが、強要すれば不法行為になりえます。 退職勧奨を断られた場合、どうすればよいですか? 断られた場合は、①引き続き記録を積み重ねて懲戒処分・解雇手続きに進む、②再度退職勧奨を試みる(ただし繰り返しすぎると違法になるリスクがある)の二択です。断られてからも繰り返し退職勧奨を行うと、最高裁判例(下関商業高校事件)の「社会通念上相当な範囲を超える」として不法行為と判断されるリスクがあります。大阪の弁護士に相談の上、方針を決めることをお勧めします。 感情的に「辞める」と言った社員、これは有効な退職ですか? 感情的な発言(「こんな会社辞めてやる!」など)はそのままでは有効な退職の意思表示になりません。落ち着いて撤回された場合、退職扱いにすることは難しいです。有効な退職とするには、書面(退職届・退職合意書)で意思を確認することが必要です。口頭の「辞める」発言を一人歩きさせることは、後のトラブルの原因になります。 退職勧奨の際に退職金や条件を提示してもよいですか? 退職の合意を得るために、退職金の上乗せや有給消化の条件を提示することは適法です。ただし、就業規則上の退職金規定を大幅に下回る条件や、「辞めなければ懲戒解雇で退職金ゼロにする」という脅迫的な条件提示は違法になりえます。条件設計は弁護士と事前に確認することをお勧めします。 大阪で退職勧奨の相談ができる顧問弁護士を探しています。 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は、大阪の中小企業の労務問題を専門に扱う顧問弁護士サービスです。退職勧奨・問題社員対応・解雇・就業規則整備まで、弁護士歴平均14年以上のチームが対応します。顧問先130社以上に対応しており、初回のご相談は無料です。まずはお気軽にお問い合わせください。 退職勧奨・問題社員対応のご相談は「みんなの法務部」へ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 問題社員・労務トラブルの無料相談はこちら 無料で相談する 関連記事:解雇失敗4パターン|中小企業が陥りやすいリスクと対策、無断欠勤社員への対応手順 この記事の内容は「問題社員対応の全体フロー」の一部です。目的別の手段選択フローや他の対応手段については以下のハブ記事で解説しています。 → 問題社員対応|辞めさせたいなら目的から考える【意思決定フロー付き・大阪の弁護士解説】 関連情報・ご相談 ▶ 【問題社員・労務対応】完全ガイド(まとめ記事)を読む ▶ 問題社員対応を弁護士に相談 → 参考文献(当事務所蔵書) 退職勧奨そのものは使用者が基本的に自由に行える適法な働きかけですが、社員が拒否の意思を示した後も執拗に繰り返すなど社会通念上相当な範囲を逸脱すると違法な退職勧奨として不法行為となり、慰謝料の支払いを命じた裁判例もあります(渡辺弘『労働関係訴訟〔改訂版〕Ⅱ(リーガル・プログレッシブ・シリーズ)』(青林書院、2021年))。 渡辺弘『労働関係訴訟〔改訂版〕Ⅱ(リーガル・プログレッシブ・シリーズ)』(青林書院、2021年) 石嵜信憲ほか『労働契約解消の法律実務〔第3版〕』(中央経済社、2018年)