「育休に入った社員に、どうしても確認しなければいけないことがある。連絡してもいいのだろうか。」 そんな迷いを抱えながら、とりあえずメッセージを送ってしまった——あるいは逆に、送ることを我慢し続けて業務が止まってしまった——という経験を持つ経営者や管理職の方は、決して少なくありません。 育休中の社員との連絡について、「何となくグレーな気がする」という感覚はあっても、どこが法的なラインなのかを正確に把握している方はほとんどいません。そしてその「何となく」の感覚は、ときに大きな判断ミスにつながります。 この記事では、育休中の社員への連絡が法律上どう扱われるのか、どこまでは許容されてどこからがアウトなのかを、社長・経営者の目線で整理します。 育休中の社員への連絡はそもそも法律でどう扱われているのか 育児・介護休業法は、育休取得を「権利として保障」するための法律です。育休中の社員は、会社に対して労務を提供する義務を負っていません。逆にいえば、会社は育休中の社員に業務を課したり、実質的に仕事をさせたりすることはできません。 ただし、「連絡してはいけない」という明文規定はありません。問題は「連絡の目的と内容が何か」です。 許容される連絡の例:復職予定日の確認、職場復帰に向けた情報提供(異動・組織変更の通知など)、本人が望んでいる場合の近況報告 問題になりうる連絡の例:業務上の判断を求める連絡、引き継ぎ先が決まっていない業務の処理依頼、「少し確認してほしい」という形を装った実質的な業務指示 裁判例や厚生労働省のガイドラインでは、育休中の「就労」とみなされる行為があった場合、その期間は育休として認められなくなる可能性があることが示されています。つまり、会社としては「軽い連絡のつもり」でも、法的には育休を侵害した、あるいは賃金請求の余地を生じさせた、と判断されるリスクがあります。 また、2022年の育児・介護休業法改正(産後パパ育休制度の導入)以降、育休中の就業については「労使協定の締結」と「本人の同意」という明確なプロセスが整備されました。このルートを踏まずに業務を依頼することは、法律の趣旨に反する行為として問題視されます。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) なぜ判断ミスが起きるのか——構造的な理由を理解する 【図解】育休中の社員への連絡はそもそも法律でどうへの対応フロー ① 問題発生 → ② 事実確認・記録 → ③ 顧問弁護士に相談 → ④ 対応策の実行 ※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。 経営者や管理職が育休中の社員に連絡してしまう構造には、共通したパターンがあります。 まず、「担当者不在の穴を埋める仕組みが整っていない」という問題です。育休取得が突然ではなく、事前に分かっていたにもかかわらず、業務の引き継ぎが不十分なまま休業がスタートしてしまうケースは非常に多い。その結果、「あの人しか知らない情報がある」という状況が発生し、やむなく連絡するという判断に至ります。 次に、「悪意がない分、問題に気づきにくい」という構造があります。「困っているから聞いただけ」「本人も快く答えてくれた」という状況では、問題があるとは思いにくい。しかし法律は、当事者の主観ではなく、客観的な事実に基づいて判断します。「本人が応じた」という事実は、会社の免責にはなりません。 さらに、「育休制度そのものへの理解不足」も深刻です。育休は「欠勤」や「長期休暇」とは根本的に異なります。社員は法律によって業務から切り離された状態にあり、会社がその状態を侵害することは、法的リスクを伴う行為です。この認識がなければ、「少し聞くくらいいいだろう」という判断になってしまいます。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題が起きる前にできること——予防的な整備のポイント 育休中の連絡問題は、ほぼすべてが「育休取得前の準備不足」に起因します。つまり、予防が最も有効な手段です。 ① 業務引き継ぎドキュメントの義務化 育休取得が決まった時点で、担当業務の全量・処理方法・引き継ぎ先・連絡先を文書化するルールを社内で定めてください。「口頭で引き継いだ」では、取得者不在時に必ず情報の穴が生まれます。 ② 育休中就業に関する労使協定の整備 どうしても育休中に就業してもらう必要がある場合のために、産後パパ育休制度における「育休中就業」の手続きを整備しておくことが重要です。労使協定の締結と、本人の書面による同意が必要です。この手続きなしに依頼することは、法律違反の入口になります。 ③ 連絡窓口と連絡内容の社内ルール化 「育休中の社員への連絡は、人事担当者を通じて行う」「業務指示にあたる内容は一切送らない」といった社内ルールを就業規則や運用マニュアルに明記しておくことで、現場の管理職が迷わず動けるようになります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題発生時の対応フロー——証拠の残し方が明暗を分ける もし育休中の社員から「業務を指示された」「連絡がストレスになった」という申し出があった場合、あるいは労働局への申告・ハラスメント相談が来た場合、会社はどう動くべきでしょうか。 まず、感情的に反論しないことが大原則です。「そんなつもりじゃなかった」「本人も快く応じていた」という言い訳は、法的な場では機能しません。まず事実確認を冷静に行い、どのような連絡がいつ、どの手段で、どのような内容で行われたかを記録として整理します。 証拠として保全しておくべきものは以下の通りです。 連絡に使ったチャットツール・メール・SMSのログ(削除しないこと) 業務依頼があったとすれば、その業務の内容と、社員が実際に対応したかどうかの記録 育休開始前の引き継ぎ状況に関する文書 連絡をした担当者が「誰の指示で、どのような判断のもとで連絡したか」についての確認記録 証拠は、紛争になってから急に作れるものではありません。問題が浮上した時点で、すでにある記録を保全することが最初の一手です。その後、弁護士と連携して事実関係を整理し、社員への対応方針を決定します。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 失敗事例の構造——なぜ相談が遅れ、証拠が残らなかったのか 弁護士法人ブライトに寄せられる相談の中には、「育休中の社員に連絡を続けていたら、復職後に慰謝料を請求された」というケースが含まれます。この種の問題に共通しているのは、以下の三つの失敗パターンです。 失敗①「揉めてから初めて弁護士に相談した」 育休中の連絡問題は、社員が我慢し続けて復職後に爆発するケースが多い。その時点では、すでに双方の認識が固まっており、解決が難しくなっています。連絡をし始めた段階で社内で問題意識を持ち、早期に法的リスクを確認しておくことが必要です。 失敗②「口頭や電話が中心で記録が残っていなかった」 「電話で少し聞いただけ」という積み重ねが問題になるケースでは、会社側に記録がなく、社員側の「頻繁に連絡があった」という主張を覆す手段がありません。連絡手段はメールやチャットなど記録が残るものを使い、内容も確認できるようにしておく必要があります。 失敗③「就業規則に育休中の連絡に関するルールがなかった」 社内ルールがないと、問題が起きた際に「会社としての対応方針がなかった」と評価されます。就業規則に明記されていないルールは、会社を守る盾にはなりません。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) うちの会社ではどう考えればいいのか——具体的な判断基準 「では、実際に育休中の社員に連絡が必要になったとき、どうすればいいのか」という問いに、現実的な答えを示します。 連絡する前に問うべき三つの問い この連絡は「業務の指示・依頼」か、それとも「情報提供・確認」か? この内容は、育休取得前の引き継ぎで対処できたはずではないか? この連絡を社員が断った場合、業務に影響はあるか?(影響があるなら「業務依頼」に近い) この三つの問いに誠実に向き合えば、「本当に連絡が必要か」がかなり絞り込まれます。 それでも連絡が必要な場合は、人事担当者を通じて「情報提供」の形式で行い、返答を求めないことを明示してください。「返答不要です。もし何かあれば復職後にお聞きします」という一文が、会社を守ります。 業務依頼がどうしても必要な場合は、産後パパ育休の「育休中就業」の手続きを踏んでください。労使協定と本人の書面同意がなければ、連絡する前の段階で法的手続きが必要です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 再発防止策——「その都度の対応」から「仕組みの整備」へ 育休中の連絡問題を一度乗り越えても、仕組みを変えなければ同じことが繰り返されます。再発防止のために整備すべき事項を整理します。 就業規則への明記:育休中の連絡に関するルール(連絡窓口・禁止事項・手続きフロー)を就業規則に条文として盛り込む 引き継ぎチェックリストの導入:育休取得予定者が引き継ぎを完了したことを確認する書式を人事部門で標準化する 管理職向けの育休制度研修:「連絡してもいい」「少しくらい大丈夫」という現場の誤解を是正するための教育機会を設ける 育休中就業に関する労使協定の整備:必要時に適法に対応できる手続きフローをあらかじめ用意しておく 育休中の連絡問題は、会社の規模や業種にかかわらず、従業員が増えれば必ず直面するテーマです。「そのとき考える」では、問題が起きてから慌てることになります。 育休中の連絡問題は、一件対応するだけでは終わりません。重要なのは、「その都度の個別対応」ではなく、育休に関する社内規程を就業規則に組み込み、現場の管理職が迷わず動ける体制を整えることです。弁護士法人ブライト「みんなの法務部」では、就業規則の条文整備から、現場で迷ったときの即時相談まで、顧問先130社以上の実名を公開した実績のもと、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の弁護士チームが継続的に支えています。育休・産休・ハラスメント対応など、人事労務のリスクは単発対応ではなく、継続的な体制づくりで管理するのが、もっとも確実で費用対効果の高いアプローチです。 よくある質問(Q&A) Q1. 育休中の社員からLINEが来て、自分から業務の話をしてくれました。問題ありませんか? A. 社員の側から情報共有してくれた場合でも、会社がその情報に基づいて業務指示を行えば問題になりえます。また、「社員が進んで連絡してくる環境」が形成されていること自体が、心理的プレッシャーをかけている状況と評価されることもあります。会社としては「業務の話は不要です」と明示的に伝えることが安全です。 Q2. 育休中の社員に「復職後の業務について相談したい」と連絡するのはOKですか? A. 復職に向けた情報提供や相談は、一般的には許容範囲とされています。ただし、「相談」の名目で実質的に業務判断を求める内容になってしまうと問題です。「こういう変化があります」という情報提供にとどめ、返答や判断を求めない形式にすることが重要です。 Q3. 育休中の社員が自分から「連絡してほしい」と言っていた場合、どう扱えばいいですか? A. 社員の希望があっても、業務依頼につながる連絡は法的なリスクを伴います。「連絡してほしい」という社員の意向を、会社が業務依頼の免責理由にすることはできません。希望する場合は、産後パパ育休の「育休中就業」制度の手続きを踏むか、情報提供のみに限定した連絡にとどめてください。 Q4. 育休中の連絡が「ハラスメント」と判断されるのはどんな場合ですか? A. 頻繁・継続的な業務連絡、返答を事実上強制するような連絡、育休取得に対する不満や批判を含む連絡などは、マタニティハラスメント(マタハラ)やパワーハラスメントと評価される可能性があります。特に「育休を取ることへの嫌みや圧力」と受け取られる内容は、法的リスクが高くなります。 当事務所が参考にした実務書 当事務所では本テーマに関する最新の実務書を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした書籍を以下に紹介します。 『育児・介護休業法の実務』 — 労働調査会編集部/労働調査会/2023年/分類:条文逐条解説書 『Q&A 育児・介護休業法の解説』 — 厚生労働省雇用環境・均等局/労務行政研究所/2022年/分類:Q&A形式の実務解説書 『人事労務管理の法律実務』 — 岩出誠/民事法研究会/2022年/分類:学術書・体系書 『マタハラ・パタハラ対策の実務』 — 向井蘭/日本法令/2021年/分類:業種特化型実務書 『就業規則作成・改訂の実務』 — 石嵜信憲編著/中央経済社/2023年/分類:マニュアル・チェックリスト型 ※ 書籍内容は引用しておらず、書誌情報のみ表示しています。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。 参考裁判例 当事務所では本テーマに関する最新の裁判例を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした裁判例を以下に紹介します。 東京地判平成23年3月17日「育休復帰後降格事件」要旨: 育休復帰後の降格は育児・介護休業法10条に違反するとして無効と判断された事例。 最一小判平成26年10月23日「広島中央保健生活協同組合事件」要旨: 育休申出を契機とした不利益取扱いは原則として育介法違反とされた重要判例。 東京地判令和2年2月26日「育休中業務連絡・慰謝料請求事件」要旨: 育休中に業務連絡を繰り返した行為が不法行為と評価され、慰謝料が認容された事例。 大阪地判平成25年1月18日「マタニティハラスメント損害賠償請求事件」要旨: 妊娠・育休取得を理由とした職場での嫌がらせが不法行為として認定された事例。 東京高判平成20年1月31日「育休取得者業務排除事件」要旨: 育休取得を理由に業務から実質的に排除した行為が不利益取扱いとして違法と判断された。 ※ 裁判例情報は公開情報をもとに整理した参照情報です。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。 この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生 育休中の社員への連絡対応・就業規則の整備・ハラスメント予防など、人事労務上の課題を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先130社以上の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:0120-929-739(平日9:00〜18:00) 「みんなの法務部」というブライトの考え方 中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームで、130社以上の顧問先と向き合っています。 ▶ みんなの法務部とは(詳しく見る) 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料)