退職代行から連絡が来たとき会社はどう対応すべきか|会社側の正しい初動【弁護士解説】

退職代行から連絡が来たとき会社はどう対応すべきか|会社側の正しい初動【弁護士解説】

退職代行から連絡が来たとき会社はどう対応すべきか|初動ミスが招く深刻なリスクと正しい対処法

📋 この記事でわかること

  • 退職代行への「よくある誤った初動」3つのパターン
  • 初動ミスが実際にどれほど深刻な事態を招くか(具体的事例付き)
  • 退職代行連絡を受けてから取るべき正しい初動フロー(ステップ形式)

月曜の朝、見知らぬ番号から電話が鳴る。「○○さんの退職代行を承っております」——。

突然の連絡に動揺するのは当然です。しかし、その動揺のまま最初の一手を間違えると、後から取り返しがつかない事態に発展するケースが少なくありません

「無視してしまった」「感情的に反論してしまった」「本人に直接連絡してしまった」。こうした初動ミスが、後になって未払い賃金請求・労働審判・損害賠償訴訟につながった事例は実際に存在します。

この記事では、退職代行からの連絡を受けた際に会社側が陥りやすい誤った初動のパターンを整理した上で、正しい対処フローを実務目線でお伝えします。

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退職代行とは何か|まず法的性質を押さえる

退職代行サービスとは、退職を希望する労働者に代わって、会社への退職意思の伝達や手続きを代行するサービスです。近年は弁護士が運営するものと、民間事業者が運営するものの2種類に大別されます。

弁護士が運営する退職代行の場合、会社との交渉(未払い賃金・有給消化・退職日の調整など)まで行うことができます。一方、民間の退職代行業者の場合は、法律上「交渉」を行う権限がなく、あくまで「退職の意思を伝える」メッセンジャー的な役割に限られます。

いずれの場合も、会社側は適切に対応する義務があります。無視すれば退職手続きの遅延として問題化し、過度な引き留めをすれば不当な退職妨害として争われるリスクがあります。

重要なのは、退職の意思表示自体は労働者の権利であり(民法第627条)、会社はこれを尊重しなければならないという点です。問題は「どのように対応するか」であり、その最初の一手が後のすべてを左右します。


よくある誤った初動のパターン3つ|なぜ初動が命取りになるのか

パターン①:退職代行業者を「無視」する

「弁護士でもない業者の連絡など相手にしなくていい」「本人から直接連絡が来るまで動かない」という判断は、非常に危険です。

退職代行からの連絡を無視し続けた場合、退職の手続きが宙に浮いた状態が続き、その間も賃金支払い義務は発生し続けます。また、対応しないまま放置されると、後から「会社が退職を妨害した」として労働審判や損害賠償請求に発展するケースがあります。

たとえ相手が民間業者であっても、背後には退職を望む労働者がいます。その意思表示を会社が組織的に無視した事実は、後の紛争において会社側に不利な材料となります。

パターン②:本人に直接連絡を取ろうとする

「本人の口から直接話を聞かなければ信じられない」「退職代行を通さず話し合いたい」と、本人の携帯に電話したりSNSでメッセージを送ったりするケースがあります。

これは最も深刻な初動ミスの一つです。退職代行サービスを使う労働者の多くは、「会社と直接やり取りしたくない」という強い心理的負荷を抱えています。会社側からの直接連絡は、ハラスメントや退職妨害と認定されるリスクがあります。

また、本人に精神的な不調がある場合、直接連絡が症状を悪化させたとして損害賠償を請求されるケースも報告されています。「一言だけ話したい」という善意の行動が、法的リスクに直結することを認識してください。

パターン③:感情的に「損害賠償を請求する」と伝える

突然の退職代行連絡に怒りを覚え、「無断欠勤扱いにする」「損害賠償を請求する」「給与を支払わない」などと伝えてしまうケースがあります。

この対応は複数の観点から問題です。まず、退職は労働者の権利であり、それを理由に損害賠償を請求することは原則として認められません(損害賠償が認められるのは、特定の業務遂行義務違反がある場合など、非常に限定的な状況です)。次に、給与の不払いは労働基準法違反となります。また、退職代行業者が弁護士である場合、こうした発言は証拠として記録され、後の交渉で不利な材料として使われます。

感情的な対応は「後から取り返しがつかない状況」を作り出す最大の要因です。


実際に起きた事例|初動ミスがどれほど深刻な事態を招くか

ある小売・サービス業の会社では、復帰予定だった社員に対して「別店舗への配置転換」を口頭で提案したところ、社員がこれを拒否し、その後退職代行経由で弁護士を立てた通知が届きました。

会社側は当初「配置転換の提案をしただけ」という認識でいましたが、問題は初動の対応にありました。会社は退職代行からの最初の連絡を受けた際、担当者が感情的になり「こちらには損害が出ている」「簡単には辞めさせない」という趣旨の発言をしてしまったのです。この発言が記録され、相手方弁護士から「退職強要・退職妨害」として文書で指摘される事態になりました。

さらに、配置転換の業務上の必要性を示す書面がまったく準備されていなかったため、「不当な退職強要のための配置転換だった」という相手方の主張を覆す材料が不足してしまいました。最終的に、会社側は相手方との交渉を余儀なくされ、解決まで数ヶ月を要しました。

担当弁護士の分析によれば、「退職代行からの最初の連絡時点で正しく対応し、本人への直接連絡や感情的な発言をせず、速やかに弁護士に相談していれば、この案件は数日で整理がついた」とのことでした。また、「相手方に弁護士がついた時点で顧問弁護士がいれば即日で弁護士同士の交渉に移れるが、顧問なしの場合はこの段階から初めて弁護士を探す時間的ロスが発生し、それだけで交渉上不利な状況に陥る」と指摘しています。

初動の一言、一つの行動が、その後の数ヶ月の紛争を生み出すことがあります。


退職代行への正しい初動フロー|ステップ形式で解説

ステップ1:落ち着いて内容を記録する

退職代行からの連絡(電話・メール・書面)を受けたら、まず冷静になることが最優先です。電話の場合は、相手の事業者名・連絡先・対象となる従業員名・退職希望日を聞き取り、その場で書き留めてください。

「折り返します」と伝えて一度電話を切ることは問題ありません。感情的な状態のまま会話を続けることの方がリスクです。

ステップ2:相手が弁護士か民間業者かを確認する

退職代行の運営主体が弁護士かどうかによって、対応のスタンスが変わります。弁護士であれば交渉権限があるため、有給消化・退職日・私物返却などについて正式な交渉が始まる可能性があります。民間業者であれば、法律上の交渉権限はなく、あくまで「退職の意思を伝える」役割に限定されます。

弁護士の場合は弁護士法人名と担当弁護士名を確認し、弁護士会に登録されているかを念のため確認することも有効です。

ステップ3:本人への直接連絡を一切行わない

これは絶対的なルールです。退職代行サービスを使っている時点で、当該従業員は「会社との直接連絡を望まない」という意思を示しています。LINE・メール・電話・社内チャットツール、いかなる手段であっても本人への直接連絡は避けてください。

ステップ4:社内の関係者に状況を共有・業務整理を開始する

当該従業員が担当していた業務・顧客・案件・備品・社内アカウントについて、速やかに把握を始めます。感情的な対応を防ぐためにも、担当部署の責任者への周知は「事実の共有」に限定し、余計なコメントを加えないよう注意してください。

社内システムへのアクセス権限の停止・引き継ぎ手順の確認は、この段階から並行して進めます。

ステップ5:退職に必要な手続きを粛々と進める

退職日・有給消化の扱い・最終給与の振込日・雇用保険の手続き・離職票の発行・私物の返却方法——これらは退職代行業者(または本人)と書面でやり取りします。電話でのやり取りは必ず文書化し、口頭のみの合意は残さないようにしてください。

なお、退職を「認めない」という選択肢は原則として存在しません。民法上、期間の定めのない雇用契約は2週間前の通告で解約できます(民法第627条)。退職の意思表示が退職代行経由でなされた時点で、法的には退職の手続きが動き始めています。

ステップ6:弁護士に相談する(できれば即日)

未払い賃金の主張・ハラスメントの申告・損害賠償の請求など、退職代行の連絡に付随して法的請求が含まれている場合は、即日で弁護士に相談することを強く推奨します。特に相手方が弁護士を立てている場合、会社側も弁護士対応が必要です。

また、法的な請求がない場合でも、今後の手続きに不備がないかを確認する意味で弁護士に相談しておくことは有効です。顧問弁護士は必要?重要性・利用すべき場面・費用対効果の判断基準も参考にしてください。


また、退職代行への対応と並行して、在籍中の他の社員の問題行動への対応が必要になるケースも少なくありません。問題社員への対応手順の全体像は「問題社員への対応手順|タイプ別5つのステップ」でご確認ください。

「顧問弁護士がいれば初動の設計を事前にできる」という視点

退職代行への対応を事後的に「どう対処するか」と考えるのと、事前に「こういう連絡が来たら、誰が、何を、どの順番で対応するか」を設計しておくのでは、現場の混乱度がまったく異なります。

顧問弁護士がいる会社では、退職代行からの連絡が入った当日中に弁護士と状況を共有し、対応方針を確定することができます。担当者が感情的になっていても、弁護士が冷静に「今、言ってはいけないこと」「やってはいけないこと」を即座にアドバイスできるからです。

一方、顧問弁護士がいない会社では、「まず弁護士を探す」「費用の話をする」「事情を1から説明する」という工程が初動に入り込みます。その数日のロスが、交渉の主導権を相手方に渡してしまうことになります。

初動の設計は「有事の前」にしかできません

退職代行への対応フロー・従業員が弁護士を立てた際の連絡体制・社内担当者の役割分担——これらを事前に顧問弁護士と整備しておくことで、有事の際の初動が根本的に変わります。

さらに、退職代行の背景にハラスメントや未払い賃金の問題が潜んでいるケースも多く、日常的な労務管理の設計から顧問弁護士と連携することが、根本的な予防につながります。

退職代行案件に限らず、企業法務・顧問弁護士トップでは、中小企業が直面する労務・法務の課題への対応事例を幅広く掲載しています。ぜひ参考にしてください。

「顧問弁護士なんてうちの規模には必要ない」と思われているかもしれませんが、退職代行案件のように「突然やってくる有事への対応」こそ、顧問契約の最も大きなメリットが発揮される場面です。月次の相談コストより、一件の労働紛争対応にかかるコストの方が大きいことは、多くの経営者が経験してから気づく事実です。

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よくある質問(FAQ)

Q1. 退職代行からの連絡を受けた当日、本人が出勤してきた場合はどう対応すればよいですか?

退職代行業者を通じて退職の意思が示されている状況では、本人が出勤してきた場合でも、業務上の話以外で退職に関する話題を持ち出すことは避けてください。本人が「やはり続けたい」と言う場合は、退職代行業者経由でその意思を確認する手続きが必要です。会社側から「退職撤回を促す」行為は、その後の紛争で「引き留めのプレッシャーをかけた」と解釈されるリスクがあります。対応に迷う場合は、その日のうちに弁護士に相談することを強くお勧めします。

Q2. 退職代行業者に「対応できない」と断ることはできますか?

退職代行業者への対応を拒否すること自体は違法ではありませんが、対応拒否が「退職手続きの妨害」と見なされるリスクがあります。特に弁護士が代理人として通知を送ってきた場合、これを無視することは法的に問題となり得ます。民間業者の場合でも、「本人の意思確認ができてから対応する」という方針を取る場合は、その旨を書面で伝え、本人へ直接連絡は行わないよう注意してください。いずれにしても、対応方針は弁護士と相談した上で決定することをお勧めします。

Q3. 退職代行への対応を誤ってしまいました。今からでも挽回できますか?

誤った初動をしてしまった後でも、適切な対応に切り替えることで状況を改善できる場合がほとんどです。まず重要なのは、誤った対応(感情的な発言・本人への直接連絡など)を「これ以上続けない」ことです。その上で、すぐに弁護士に相談し、現状を正直に説明してください。弁護士は現状から最善の対処方針を設計します。「もう手遅れ」と判断して放置することが最も問題を悪化させます。誤りに気づいた段階が、正しい対応を始める最善のタイミングです。


監修:弁護士法人ブライト 企業法務チーム
大阪・神戸を拠点に企業法務・顧問弁護士サービスを提供。中小企業の法的リスク対応を日々サポートしています。

※本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、個別の法律アドバイスではありません。具体的な問題については弁護士にご相談ください。

本記事は、一般的な情報の提供を目的とするものであり、個別案件に関する法的助言を目的とするものではありません。また、情報の正確性、完全性及び適時性を法的に保証するものではありません。
なお、本記事の内容に関する個別の質問や意見などにつきましては、ご対応できかねます。ただし、当該記事の内容に関連して、当事務所へのご相談又はご依頼を具体的に検討されている場合には、この限りではありません。
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