「この条件、かなりきついな……でも断ったら取引がなくなる」 そう思いながらも、契約書にサインしてしまったことはないでしょうか。あるいは逆に、自社が設けた契約条件や取引ルールが、後から「これは違法だ」と指摘されて慌てたことは? 社長が日々向き合っている契約の現場では、「法律的に問題ない条件かどうか」を一つひとつ確認する余裕がないことがほとんどです。相手が大手だから大丈夫、これまでずっとこのやり方でやってきた、業界では普通のことだ——そういう判断をしながら、気づかないうちにリスクを抱えているケースが少なくありません。 「暴利行為」は、そうした「何となく締結してしまった契約」や「業界慣行として続けてきたルール」が、ある日突然に無効・取消しの対象になりうる法的概念です。被害者になる場合も、加害者と見なされる場合も、両方あります。この記事では、社長として知っておくべき暴利行為の考え方と、会社を守るための具体的な判断基準を整理します。 暴利行為とは何か——法律用語を使わずに説明する 暴利行為とは、一言でいえば「相手の弱みにつけ込んで、著しく不公正な利益を得る行為」のことです。 たとえば、資金繰りに困っている相手に対して「今すぐ現金が必要なら、この条件で貸すしかない」と、市場の常識をはるかに超えた高い利率で金銭を貸す。あるいは、判断力が低下した高齢者や、特定の情報を持っていない消費者に対して、一方的に有利な条件の契約を結ばせる。こうした行為が「暴利行為」と呼ばれます。 法律的には、民法90条の「公序良俗違反」として無効とされてきた概念で、裁判所は「①相手方の困窮・軽率・無経験などにつけ込み、②著しく過大な利益を取得すること」の2つの要素がそろったときに暴利行為として扱います。 重要なのは、相手が「同意した」「合意した」という事実だけでは、暴利行為の問題は消えないということです。形式上の合意があっても、その合意が「弱みにつけ込んで得たもの」であれば、裁判所は契約を無効と判断することがあります。 また2020年の民法改正で「意思能力」や「錯誤」「消費者契約法の適用」などの考え方が整備されたことで、暴利行為に関連する問題が争われる場面は増えています。「昔からこのやり方でやってきた」が通用しなくなるケースが出てきているのです。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) なぜ「気づかないうちに」巻き込まれるのか——判断ミスの構造 【図解】暴利行為とは何か——法律用語を使わずに説への対応フロー ① 問題発生 → ② 事実確認・記録 → ③ 顧問弁護士に相談 → ④ 対応策の実行 ※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。 社長が暴利行為のリスクに気づきにくいのには、構造的な理由があります。 まず、「業界の常識」が法律の基準と一致しているとは限らないという問題です。特定の業界では長年慣行として行われてきた取引条件が、法律的には暴利行為と判断される可能性があります。「みんなやっている」は法的リスクをゼロにしません。 次に、「合意があれば問題ない」という思い込み。契約書に双方がサインしているから安心、という感覚は経営者に広く共有されていますが、前述のように暴利行為においては合意の有無だけでは結論が変わりません。 さらに、加害者側の立場になることに無自覚なケースが実は多い。たとえば、フランチャイズ本部として加盟店に課す条件、下請けとして発注側が提示する取引条件、あるいは貸金業でなくても関係会社や取引先に行う融資の条件——これらが「相手の弱みにつけ込んで著しく有利な条件を得ている」と評価される可能性があります。 被害者として泣き寝入りするリスクだけでなく、加害者として突然「この契約は無効だ」「返還請求する」と訴えられるリスクも、社長は意識する必要があります。 問題が起きる前にできること——予防としての視点 暴利行為のリスクを予防するために、日常の取引の中でチェックしておきたいポイントがあります。 契約条件の「相場感」を定期的に確認する市場の標準的な条件と大きくかけ離れていないかを意識します。特に金利・違約金・損害賠償額の上限・解除条件などは要注意です。 相手方の状況を記録しておく相手が困窮状態にあると知りながら有利な条件で契約した、という事実が後から問題になります。相手の状況を把握していたかどうかの記録が重要です。 取引のプロセスを文書化する交渉経緯、条件提示の背景、双方が合意に至った理由を記録しておくことで、後から「弱みにつけ込んだ」という主張に対抗できます。 消費者・小規模事業者相手の契約は特に慎重に消費者契約法や下請法が絡む取引では、暴利行為の判断基準が厳しくなることがあります。条件設定の段階で弁護士に確認することが効果的です。 顧問弁護士がいれば、「この条件、問題ないか?」を契約締結前に確認できます。揉めてから弁護士を使うのではなく、揉めないために弁護士を使う——これが本来の法務活用の姿です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題発生時の対応フロー——証拠の残し方を含めて 「この契約は暴利行為だ」と相手から主張された場合、あるいは逆に自社が被害を受けていると気づいた場合、どう動けばよいのか。 被害を受けている側の場合 契約書・覚書・メールのすべてを保全する締結時の経緯がわかる資料(見積書、交渉メール、メモ)も含めて保存します。「なぜその条件に同意せざるを得なかったか」を説明できる資料が重要です。 自分の状況(困窮・情報格差)の証拠を集める当時の財務状況、取引の力関係を示す資料(取引規模、依存度、代替取引先の有無など)が証拠になります。 相手方との交渉は記録を残しながら行う口頭での交渉は避け、メール・書面で行うか、会話の概要をその日のうちに記録しておきます。 請求された・訴訟になった場合 すぐに弁護士に相談する暴利行為の主張は公序良俗違反(民法90条)を根拠とするため、訴訟戦略の立て方が重要です。初動を誤ると証拠保全の機会を失います。 「当時の取引経緯」を可能な限り再現する交渉担当者のメモ、当時の社内メール、稟議書など、意思決定の過程を示す内部資料を探します。 反論の柱を決める「困窮につけ込んだわけではない」「条件は市場相場の範囲内だ」「相手は十分な判断能力があった」など、争点を絞って証拠を揃えます。 証拠は、紛争になってから急に作れるものではありません。日常の記録習慣が、いざというときの会社を守る盾になります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 失敗事例の構造——なぜ相談が遅れ、証拠がなかったのか 暴利行為をめぐるトラブルで、会社が不利な立場に追い込まれるケースには共通のパターンがあります。 ケース1:取引先から突然「この契約は無効だ」と言われたケース 数年前に締結したフランチャイズ契約で、業績が悪化した加盟店側が「加入時の条件は暴利行為だ」と主張。本部側は「当時の交渉担当者がすでに退職しており、経緯を説明できる資料が社内に残っていない」という状況に陥りました。 なぜ相談が遅れたか:「相手が合意しているのだから問題ない」という思い込みがあり、請求書が届いてから初めて弁護士に相談した。その時点では、交渉経緯を示す資料のほとんどが失われていた。 なぜ証拠がなかったか:口頭での交渉が多く、メール記録が残っていなかった。担当者の退職時に引き継ぎがされておらず、社内ファイルも整理されていなかった。 ケース2:自社が暴利行為の「被害者」だったと気づくのが遅れたケース 資金繰りに困っていた時期に、取引先から「融通してやる」と言われ、極めて不利な担保条件・返済条件で契約した。経営が回復した後に条件の異常さに気づいたが、「当時は自分も合意した」という事実が足を引っ張り、交渉が難航した。 なぜ相談が遅れたか:「自分も同意したのだから文句は言えない」という心理的ブロックがあった。困窮時につけ込まれた契約でも取消しを求める手段があることを知らなかった。 なぜ証拠がなかったか:当時の困窮状況を示す資料(資金繰り表、借入交渉の経緯)を保存していなかった。「当時どれだけ追い詰められていたか」を客観的に示せる証拠がゼロだった。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) うちの会社ではどう考えればいいのか——業種・取引構造別の視点 暴利行為のリスクは、会社の業種や取引の立ち位置によって異なります。自社がどのパターンに近いかを確認してください。 フランチャイズ本部・加盟店の関係がある会社本部側は「加盟条件の公正性」を定期的に見直す必要があります。加盟店の立場が弱く、情報格差がある場合は特に要注意。逆に加盟店側であれば、契約時の条件が著しく不利だと感じた場合、専門家への相談が早期解決につながります。 下請け・発注側の関係がある会社下請法が適用される取引では、代金の不当減額・返品・買いたたきなどが問題になることがあります。暴利行為と下請法違反が重なるケースもあるため、条件設定には慎重さが必要です。 資金調達・融資に関わる場面がある会社貸金業者ではなくとも、取引先・関係会社間の金銭の貸し借りは暴利行為リスクの温床になりやすい。利率・担保条件・返済条件を設定するときは必ず専門家に確認を。 消費者向けビジネスを展開している会社消費者契約法と民法の公序良俗規定の両方が絡むため、利用規約・約款の内容を定期的に見直す必要があります。特に「違約金」「解約条件」「情報の非対称性」が問題になりやすいです。 「うちは普通の取引をしているから大丈夫」ではなく、「自社の取引条件が相手方の目から見てどう見えるか」を客観的に評価する習慣を持つことが重要です。 再発防止策——判断の質を上げる社内の仕組み 暴利行為リスクを一度対処して終わりにするのではなく、繰り返さない仕組みを作ることが会社の体力を高めます。 契約書レビューの仕組みを作る一定金額以上の契約や、相手方が個人・消費者である場合は、必ず弁護士レビューを経るルールを社内に設けます。「感覚で大丈夫だろう」で進める文化を変えることが第一歩です。 交渉記録の保存ルールを整備する交渉担当者が退職しても記録が残るよう、メール保存・議事録作成・クラウド共有のルールを定めます。担当者の頭の中だけにある情報は、会社の資産にはなりません。 取引条件の「相場チェック」を定期的に行う業界の標準的な取引条件は変化します。年に一度は主要取引の条件を見直し、市場から著しく乖離していないか確認する機会を設けましょう。 「違和感を声に上げる」社内風土を作る現場担当者が「この条件、大丈夫か?」と感じたときに上げやすい環境を整えます。社長だけが全契約を把握することには限界があります。 暴利行為のリスクは、個別の対応で完結するものではありません。会社全体の契約管理の水準を上げることが、長期的な企業防衛につながります。 暴利行為のリスクは、一件対応しても取引条件の設定方針や契約書のひな型が変わらなければ同じ問題が繰り返されます。重要なのは”その都度の消火”ではなく、取引条件の設定基準・契約書レビューのプロセスを社内規程として整備し、現場が安心して動ける体制を整えることです。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが顧問先130社以上の実名とともに対応している弁護士法人ブライトでは、「みんなの法務部」として条項整備から個別取引の事前相談まで継続して支えます。顧問弁護士との継続的な関係があれば、「この条件、問題ないか?」を締結前に確認できる安全装置が社内に生まれます。 よくある質問(Q&A) Q1. 暴利行為と認定されると、契約はどうなりますか? 民法90条の公序良俗違反として契約が無効になる可能性があります。無効になると、すでに支払われた金銭の返還義務が生じることがあります。ただし、どの部分が無効になるか(契約全体か一部か)は、具体的な内容と裁判所の判断によります。 Q2. 相手が合意していたとしても、暴利行為として問題になりますか? はい、問題になる可能性があります。「合意があった」という事実だけでは公序良俗違反の問題は解決しません。相手方の困窮・判断能力の低下・情報の格差を利用して合意させた場合、その合意自体が無効とされることがあります。 Q3. 自社の契約条件が暴利行為にあたるかどうか、どうやって判断すればいいですか? 「市場の相場と比べて著しく有利な条件か」「相手方の弱みを知ったうえで条件を設定していないか」の2点を自問するところから始まります。ただし、業種や取引の具体的な状況によって判断が変わるため、気になる条件がある場合は弁護士に確認することをお勧めします。 Q4. 過去に締結した契約が暴利行為だったと気づいた場合、今から何かできますか? 時効や除斥期間(権利を行使できる期間の限界)が関係するため、気づいた時点でなるべく早く弁護士に相談することが重要です。時間が経過するほど選択肢が狭まることがあります。「もう遅い」とあきらめる前に、まず状況を整理することから始めましょう。 当事務所が参考にした実務書 当事務所では本テーマに関する最新の実務書を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした書籍を以下に紹介します。 『新注釈民法(3)総則(3)』 — 潮見佳男ほか編/有斐閣/2022年/分類:条文逐条解説書 『民法(債権法)改正の概要と実務対応』 — 内田貴/商事法務/2017年/分類:学術書・体系書 『契約書作成・審査の実務(第2版)』 — 岡口基一ほか/日本加除出版/2021年/分類:Q&A形式の実務解説書 『公序良俗と私的自治』 — 山本敬三/有斐閣/2000年/分類:学術書・体系書 『消費者法の現代化と基盤整備』 — 河上正二編/信山社/2019年/分類:学術書・体系書 ※ 書籍内容は引用しておらず、書誌情報のみ表示しています。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。 参考裁判例 当事務所では本テーマに関する最新の裁判例を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした裁判例を以下に紹介します。 大判大正10年5月9日「貸金請求事件」(大審院)要旨:暴利行為の基本法理を示した先例。被貸主の窮迫・軽率を利用した高利貸付が公序良俗違反として無効とされた。 最判昭和61年11月20日「根保証無効確認等請求事件」(最高裁第一小法廷)要旨:著しく不均衡な保証条件につき、暴利行為の観点から公序良俗違反を検討した事例。 最判平成9年11月11日「損害賠償請求事件」(最高裁第三小法廷)要旨:契約条件の著しい不均衡と相手方の経済的困窮の組み合わせによる公序良俗違反を認定。 東京高判平成14年3月25日「不当利得返還請求事件」(東京高等裁判所)要旨:フランチャイズ契約の加盟条件が暴利行為に当たるかが争われ、情報格差・交渉力の差が判断要素とされた。 最判平成22年7月16日「違約金減額請求事件」(最高裁第二小法廷)要旨:過大な違約金条項について公序良俗違反・暴利行為の観点から一部無効を検討した。 ※ 裁判例情報は公開判例情報を参照した書誌情報です。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。 この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 注力分野:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生 暴利行為・不公正な取引条件・契約リスクなど経営上の法的課題を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先130社以上の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:0120-929-739(平日9:00〜18:00) 「みんなの法務部」というブライトの考え方 中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームで、130社以上の顧問先と向き合っています。 ▶ みんなの法務部とは(詳しく見る) 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料)