多額の費用と時間をかけたシステム開発が、完成しないまま途中で止まってしまう——いわゆる「頓挫(とんざ)」は、発注した企業(ユーザー)にとっても、開発を請け負った会社(ベンダー)にとっても、深刻な損失を生みます。そして頓挫が起きると、必ず「どちらの責任で止まったのか」が争われます。本記事では、ベンダーのプロジェクトマネジメント義務(PM義務)とユーザーの協力義務という2つの軸から、頓挫の責任の切り分けと費用の精算、そして予防策を、弁護士法人ブライトが裁判例をふまえて解説します。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 「頓挫」とは何か——なぜ責任の所在がもめるのか システム開発の頓挫とは、開発が完成に至らないままプロジェクトが中止・破綻した状態を指します。頓挫が法的にやっかいなのは、その原因が一方だけにあることは少なく、ベンダーの管理不足とユーザーの協力不足が絡み合って生じることが多いからです。 そのため裁判では、「ベンダーがきちんとプロジェクトを管理していたか(PM義務)」と「ユーザーが開発に必要な協力をしていたか(協力義務)」の両面が審理され、双方の落ち度が総合的に評価されるのが実務の傾向です。 頓挫の責任は「2つの義務」の綱引きで決まる ベンダー側の軸:プロジェクトマネジメント義務 専門家として開発を適切に管理し、リスクや遅延をユーザーに説明・警告し、是正を促す義務 ユーザー側の軸:協力義務 要件を確定し、必要な意思決定・資料提供・キーマンの関与など、開発に不可欠な協力を行う義務 → どちらの義務違反が頓挫を招いたかを比較し、過失相殺的に責任を分担させるのが近時の裁判例 ベンダーの「プロジェクトマネジメント義務(PM義務)」 ベンダーは、システム開発の専門家として、単に言われたものを作るだけでなく、プロジェクト全体を適切に管理し、進行上のリスクや問題点をユーザーに説明・警告し、必要に応じて開発内容の見直しを促す義務を負うと考えられています。これがプロジェクトマネジメント義務です。 システム開発が頓挫した場合のベンダーのPM義務について判断したリーディングケースとして、スルガ銀行対日本IBM事件(東京高等裁判所 平成25年9月26日判決・損害賠償・請負代金等反訴請求控訴事件)が広く知られています。この一連の裁判では、ベンダーがプロジェクトの状況に応じて適切な管理・説明を行っていたかが正面から問われました。 たとえば、ユーザーが過大な要求や仕様変更を繰り返している場面でも、ベンダーは専門家として「このままでは納期に間に合わない」「この変更は費用と期間に重大な影響がある」といったリスクを明確に伝え、軌道修正を働きかけることが求められる、という考え方です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) ユーザーの「協力義務」 一方、システム開発はベンダーだけで完成できるものではなく、ユーザーの協力が不可欠です。要件を固める、社内の意思決定を適時に行う、必要な資料や現場情報を提供する、キーパーソンを関与させる——こうした協力を怠れば、開発は前に進みません。裁判例は、ユーザーがこうした協力義務(信義則上の義務)を負うことを認めています。 ユーザーの協力義務が問題となった代表的な事案として、旭川医科大学対NTT東日本事件(札幌高等裁判所 平成29年8月31日判決・損害賠償請求控訴事件)が挙げられます。この事件では、ベンダーのプロジェクトマネジメント義務とユーザーの協力義務の双方が問題となりました。 責任はどう切り分けられるのか——「双方に帰責」が実務の現実 頓挫の責任は、ベンダーとユーザーのどちらか一方にすべて帰属するとは限りません。近時の裁判例は、両者の義務違反を比較して責任を分担させる傾向にあります。 たとえば、東京地方裁判所 令和6年2月29日判決(平成29年(ワ)第37821号ほか)は、システム開発の遅延(頓挫)について、発注者と受注者の双方に帰責事由があると認定し、当事者双方に相互に金銭の支払いを命じました(判示事項「システム開発の遅延に係る帰責事由が発注者及び受注者の双方について認定された事例」)。この判決は、頓挫の責任が一方に全て帰属するとは限らず、双方の落ち度が総合的に評価されることを具体的に示したものです(参照条文:改正前民法415条・545条1項・709条/出典:LLI/DB 判例秘書登載)。 つまり実務では、「相手が悪い」と主張するだけでは足りず、自社が義務を尽くしていたことを、議事録・報告書・メールなどの記録で立証できるかが勝敗を分けます。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 頓挫したとき、費用・報酬はどうなるのか 頓挫時に最も切実なのが、「すでに支払った代金は取り戻せるのか」「途中まで作った分の報酬はもらえるのか」という精算の問題です。契約の性質によって扱いが変わります。 請負契約の場合:仕事が完成していなくても、すでに行った仕事の結果のうち可分な部分でユーザーが利益を受けるときは、その部分を「仕事の完成」とみなし、ベンダーは利益の割合に応じた報酬を請求できます(民法634条)。 準委任契約の場合:ベンダー(受任者)は、履行した割合に応じて報酬を請求できます(民法648条3項)。準委任と請負の違い(IT契約)もあわせてご覧ください。 頓挫の原因がユーザー側にある場合:ユーザーの協力義務違反など、ユーザー側の事情で完成できなくなったときは、ベンダーが報酬全額を請求できる余地があります(民法536条2項の考え方)。 逆にベンダー側に重大な義務違反があれば、ユーザーは支払済み代金の返還(原状回復)や、損害賠償を求めることになります。どちらの立場でも、「どちらの義務違反が頓挫の主因か」の立証が精算額を左右します。 中途解約との関係 頓挫は、しばしば契約の解除・解約という形をとります。特に準委任契約では、当事者はいつでも契約を解除できる任意解除権(民法651条)があり、その行使が「頓挫」として現れることもあります。解約の可否・タイミング・清算の扱いは、準委任・コンサル契約の中途解約(民法651条)で詳しく解説しています。 予防:頓挫を「立証できる形」で管理する(顧問の価値) 頓挫紛争の勝敗は、結局のところ「記録が残っているか」で決まります。トラブルになってから記録を作ることはできません。顧問弁護士が開発の入口から関与することで、次のような予防が可能です。 フェーズ分割契約:要件定義(準委任)と製造(請負)を分け、中止時の精算ルールを段階ごとに定める 議事録・課題管理の運用設計:誰がいつ何を決めた/決めなかったかを残し、PM義務・協力義務の履行を可視化する 仕様変更・遅延時の書面化:リスク警告や仕様変更合意を書面で残す仕組み 中止条項・精算条項:頓挫時の費用負担・成果物の帰属をあらかじめ合意しておく 顧問契約なら、これらを自社の標準運用に組み込み、いざというときに「義務を尽くしていた」と立証できる体制を平時から整えられます。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) よくある質問 Q. 開発会社のせいで頓挫しました。支払った代金は全額返してもらえますか? A. ベンダーの義務違反の程度によります。すでに完成した可分な部分でユーザーが利益を受けている場合は、その分の報酬は控除されるのが原則です。全額返還が認められるかは、頓挫の主因がどちらにあるかの立証次第です。 Q. ユーザーが要件を決めてくれず開発が止まりました。報酬は請求できますか? A. ユーザーの協力義務違反が頓挫の原因と評価されれば、履行済み部分の報酬や、場合によっては報酬全額を請求できる余地があります(民法536条2項・648条3項等)。日々のやり取りの記録が重要な証拠になります。 Q. 「双方に責任あり」と言われたら、何も取り戻せないのですか? A. そうとは限りません。双方に帰責事由がある場合でも、過失の割合に応じて相互に金銭のやり取り(賠償・報酬)が命じられることがあります。自社の義務履行を立証できれば、負担を減らせます。 システム開発トラブル全体の見取り図はシステム開発トラブルを弁護士が解説に、納品・検収の場面は検収拒否・支払い留保への対応にまとめています。 料金は明朗です スタンダード(中小企業向け/顧問先の95%) 月額 5万円(税別) 上場企業・グループ会社対応 月額 10万円(税別) セカンドオピニオンプラン 月額 3万円(税別) ※追加費用は事前にご説明します。ご納得いただいてからのご契約です。 「みんなの法務部」というブライトの考え方 中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。弁護士歴平均15年以上のチームで、120社超の顧問先と向き合っています。 ▶ みんなの法務部とは(詳しく見る) 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生