従業員の不貞行為を理由に懲戒処分できるか|会社が誤りやすい判断と正しい対応手順

従業員の不貞行為を理由に懲戒処分できるか|会社が誤りやすい判断と正しい対応手順

「あの二人、関係があるらしい」という情報が社内に広まった。あるいは、退職した従業員の不貞行為が取引先との関係に影響していると気づいた。そんなとき、社長や人事担当者の頭に浮かぶのは「これは処分できるのか。それとも会社は手を出せないのか」という問いではないでしょうか。プライバシーに関わる話だから腰が引ける。かといって放置すれば職場の秩序が乱れるかもしれない。その迷いのまま時間だけが過ぎていく——これが多くの会社で起きていることです。

不貞行為は「プライベートな問題」で片づけてよいのか

従業員の不貞行為は、基本的には私生活の問題です。会社は従業員の私生活に干渉する権限を持っておらず、「社員が不倫をしていた」というだけで懲戒処分を下すことは、原則として許されません。裁判所もこの立場を繰り返し示しており、「会社の企業秩序を乱すとまでいえない」不貞行為による解雇は無効と判断されてきました(東京地裁1994年判決・詳細は末尾の参考裁判例参照)。

ただし、「原則として処分できない」は「どんな場合でも処分できない」とは違います。不貞行為が職場の秩序・業務・対外的な信用に具体的な影響を与えている場合は、懲戒処分の対象になりえます。問題は、この「線引き」を社長や人事が正確に把握しないまま、感情や世間体で動いてしまうことにあります。

なぜ会社は判断を誤るのか——ミスが起きる構造

【図解】不貞行為は「プライベートな問題」で片づけへの対応フロー

① 問題発生
② 事実確認・記録
③ 顧問弁護士に相談
④ 対応策の実行

※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。

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不貞行為への対応で会社がミスをする背景には、いくつかの共通した構造があります。

  • 「道徳的に許せない」と「法的に処分できる」を混同する
    不貞行為は道義的に問題があっても、それだけでは懲戒理由になりません。「けしからん」という感情が先行し、法的要件を確認せずに処分を下してしまうケースが後を絶ちません。
  • 就業規則の「服務規律」条項を広く解釈しすぎる
    「品位を傷つける行為を禁ずる」「社員の信頼を損なう行為を禁ずる」といった条文が就業規則にあると、それを根拠に何でも懲戒できると思いがちです。しかし裁判所は、条文の文言だけでなく「その行為が本当に職場秩序に影響したか」を問います。
  • 被害者・加害者が混在するハラスメント案件と混同する
    不貞行為(相互の合意がある関係)と、セクシャルハラスメント(一方的な性的加害)は法的に全く異なります。合意があるかどうかの事実確認を怠ったまま処分すると、後から「同意があった」と反論され、懲戒処分が覆るリスクがあります。
  • 「バレる前に処分したい」という焦りから証拠確認を省く
    噂や内部告発だけを根拠に処分を急ぐと、後で「事実ではなかった」「証拠がない」という状況に陥ります。懲戒処分は事実の確認と証拠の裏付けが前提です。

問題が起きる前にできること——予防段階での取り組み

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不貞行為への対応は、問題が起きてから考えるのでは遅すぎます。就業規則と社内規程の整備が、処分の有効性を左右します。

就業規則に「懲戒事由」を具体的に書く

「品位を傷つける行為」のような抽象的な文言だけでは不十分です。職場内の不適切な関係が業務に支障をきたした場合、会社の対外的な信用を著しく損なった場合、などどのような状況が懲戒対象になるかを具体的に明記しておくことが重要です。ただし、書きすぎると「私生活への過剰介入」とみなされるため、弁護士と一緒に文言を設計する必要があります。

利益相反・関係申告の仕組みを作る

上司と部下、あるいは人事権を持つ管理職が関係にある場合、評価の公正性・ハラスメントリスク・情報漏洩リスクが発生します。これらを早期に把握するために、職場内の特定の関係について会社に申告させる仕組みを導入することも選択肢の一つです。強制ではなく申告制にすることで、プライバシーへの配慮と職場管理のバランスをとれます。

ハラスメント相談窓口を機能させる

不貞行為がハラスメントに転化するケース(関係が壊れた後の嫌がらせ、権力関係を利用した関係の強要など)に備えて、相談窓口が実際に機能している状態を維持してください。窓口があっても機能していなければ、会社の安全配慮義務違反を問われるリスクがあります。

問題が発生したときの対応フロー——証拠の残し方を含めて

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従業員の不貞行為に関する情報が入ってきたとき、会社が取るべき手順は以下の通りです。

  1. 情報の受け取り方・記録
    誰が、いつ、何を、どのように報告・告発してきたかを文書化します。メモ書きでも構いませんが、日付・報告者・内容の記録は必須です。後から「あのとき何を聞いたか」が問われます。
  2. 事実確認(ヒアリング)の設計
    当事者へのヒアリングは慎重に設計してください。最初に誰に聞くか、どの順番で確認するかによって、証拠隠滅・口裏合わせのリスクが変わります。ヒアリングの内容は必ず書面で記録し、当事者に署名を求めることが理想です。
  3. 関係する「職場への影響」の特定
    不貞行為そのものではなく、「その行為が職場にどのような具体的影響を与えたか」を確認します。業務の滞り、他の従業員への影響、会社の対外的信用への損害など、処分の根拠となるのはこの「影響」の部分です。
  4. 証拠の保全
    メール・チャット・業務記録・目撃証言(書面化)など、処分の根拠となりうる資料を早期に収集・保全してください。証拠は紛争になってから急に作れるものではありません。
  5. 処分の検討(弁護士との協議)
    事実が確認できた段階で、その事実が懲戒処分の要件を満たすかどうかを弁護士と確認します。処分の種類(注意・戒告・減給・出勤停止・降格・懲戒解雇)は、行為の重大性と職場への影響の程度に応じて選択します。

失敗事例の構造——なぜ相談が遅れ、証拠がなかったのか

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実際の相談案件を振り返ると、対応の失敗には共通した構造があります。

「社内でうまく処理しよう」という判断が傷口を広げる

上司が「内々で注意して解決した」と判断したものの、実は当事者の一方が強い不満を持っていて、後から「不当な扱いを受けた」として会社に申立てをしてくる——このパターンは珍しくありません。注意した記録が残っていない、ヒアリングの内容が口頭だけ、という状態では会社は反論できません。

「まだ確認できていない」の間に状況が変わる

事実確認を慎重に進めようとしているうちに、当事者が退職した、証拠となる業務データが消えた、他の従業員に情報が漏れて噂が広まった——という事態になることがあります。「弁護士に相談しようと思っていたが、忙しくて後回しにした」という言葉を、相談の場で何度も耳にします。

処分後に「不当解雇」として争われる

懲戒解雇まで踏み切ったが、事実確認が不十分だったため「処分は重すぎる」「手続きに問題がある」として労働審判を申し立てられた——このケースでは、会社が証拠を十分に持っていないまま審判に臨むことになります。適切な手続きを踏んでいれば避けられた争いです。

うちの会社ではどう考えればいいのか——判断の基準

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「不貞行為=処分できる」でも「不貞行為=処分できない」でもなく、以下の問いに答えることが判断の出発点です。

  • その行為は、職場内で起きたのか、あるいは職場外でも職場への具体的影響があるか
  • 業務の遂行・職場の秩序・他の従業員の就労環境に実際の支障が生じているか
  • 会社の対外的な信用・社会的評価に具体的な損害が生じているか(または生じうるか)
  • 当事者間の関係は合意に基づくものか、あるいはハラスメント・強要の要素があるか
  • 就業規則の懲戒事由に、その行為が該当するか(文言と実態の両方で確認する)

これらの問いに対して「具体的な影響がある」「就業規則上の根拠がある」と答えられるならば、懲戒処分を検討する余地があります。逆に「道徳的に問題があるが職場への影響は確認できない」という状況であれば、処分は難しく、無理に進めると会社が敗訴リスクを抱えます。

なお、不貞行為を理由とした懲戒解雇は最も重い処分であり、裁判所の審査も厳しくなります。よほど重大な影響がない限り、段階的な処分(注意・戒告・降格など)を先に検討することが現実的です。

再発防止策——次の問題が起きる前に整えること

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一度対応が終わっても、職場環境の根本が変わっていなければ同種の問題は繰り返されます。以下の取り組みが再発防止の柱になります。

  • 就業規則の見直し:懲戒事由の文言、手続き規定(ヒアリング・弁明機会の付与)、段階的処分のフローを整備する
  • 管理職へのマネジメント教育:問題が起きたときに「まず上司が対処しようとして悪化する」ケースを防ぐため、報告・相談のルートを明確にする
  • ハラスメント防止研修の継続実施:不貞行為とハラスメントの境界を正しく理解させ、相談しやすい組織文化をつくる
  • 記録文化の定着:口頭での注意で終わらせず、業務上の指示・注意・相談の内容を記録に残す習慣を徹底する

不貞行為に関する問題は、就業規則と規程の整備だけで解決するものではありません。「いざというとき、どこに相談するか」という体制が整っているかどうかが、対応の質を大きく左右します。顧問弁護士がいれば、懲戒処分の妥当性確認から就業規則の条文設計、ヒアリング設計のサポートまで、一連の流れを継続的に支えることができます。弁護士法人ブライトでは、顧問先141社の実名を公開し、企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが「みんなの法務部」として経営者の判断を支えています。問題が起きてから相談するのではなく、問題が起きても迷わず動ける体制を平時から整えておくことが、最も安価で確実なリスク管理です。

よくある質問

Q. 社内恋愛が不貞行為に発展した場合、会社はどこまで関与できますか?

社内恋愛自体を禁止する規定がない限り、会社が関与できるのは「職場への具体的な影響が生じている場合」に限られます。業務妨害・情報管理上のリスク・ハラスメントへの転化など、職場秩序に実際の問題が生じている場合は、その事実を根拠に対応することが可能です。関係そのものを理由に処分しようとすると、プライバシー侵害・不当処分のリスクがあります。

Q. 上司と部下の不貞行為が発覚した場合、特別に考慮すべきことはありますか?

はい。上司と部下という権力関係が絡む場合、「合意があった」としても実質的には強要・ハラスメントの要素がある可能性があります。また、評価の公正性・人事権の乱用・職場環境への悪影響が問題になりやすく、合意の有無の確認と、関係解消後の嫌がらせリスクへの備えを同時に進めることが必要です。このケースでは早期に弁護士と方針を確認してください。

Q. 懲戒解雇まで踏み切れるのはどんなケースですか?

裁判例をみると、職場内に広く周知されて職場秩序が著しく乱れた場合や、会社の対外的な信用を著しく傷つけた場合は懲戒解雇が有効とされる余地があります(東京警察病院看護師事件など)。ただし懲戒解雇は最も重い処分であるため、手続き(弁明機会の付与など)と事実確認が不十分だと、後から無効と判断されるリスクが高くなります。段階的処分を経てから解雇に至るプロセスが現実的です。

Q. 会社として動く前に弁護士に相談するタイミングはいつですか?

「ヒアリングをどう設計するか」「就業規則の条文が根拠になるか」を確認する段階、つまり処分を検討し始めた時点で相談してください。処分の後から弁護士に相談しても、手続きの瑕疵は修正できません。また、当事者の一方がすでに弁護士を立てている場合は、会社側も弁護士と協議しながら対応を進めることが重要です。

和氣良浩 弁護士

この記事の監修者

和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士

/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒

専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生

従業員の不貞行為・問題社員対応・懲戒処分など経営上の課題を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先141社の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:06-4965-9590(平日9:00〜18:00)

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