「チェックインのときに全員のパスポートを確認しなければいけないのか」「スタッフが外国語に不慣れで、確認作業が毎回ぎこちない」「写真で見せてもらえば十分なのか、原本でないとダメなのか」——ホテルや旅館を運営していると、こうした”どこまでやれば足りるのか”という問いが現場から上がってくることがあります。 これは単なる現場の手間の話ではありません。本人確認の方法を誤ると、行政処分の対象になるリスクがある一方、過剰に厳格にすると外国人旅行者の受け入れがスムーズにいかず、顧客体験を損なう結果にもなります。正解がどこにあるのか、社長や運営責任者が判断に迷うのは当然です。 この記事では、旅館業法が定めるホテルの本人確認義務の内容と、現場での実務対応における判断のポイントを整理します。「知らなかった」では済まない場面のために、今のうちに押さえておいてください。 ホテルの本人確認義務は旅館業法に定められている ホテルや旅館の本人確認については、旅館業法第6条に根拠があります。宿泊者名簿の備え付けと記載義務、そして宿泊者への告知義務が規定されており、都道府県知事から求められた場合には提出する義務もあります。 具体的には、ホテルは宿泊者から以下の事項を申告させ、名簿に記載しなければなりません。 氏名 住所 職業 宿泊日および出発日 国籍(外国人の場合) 旅券番号(外国人の場合) 日本への上陸年月日(外国人の場合) ここで重要なのは、「申告させる」ことと「本人確認書類を確認する」ことは、法律上別の義務として存在するという点です。宿泊者名簿への記載を求めることは義務ですが、どの方法で本人を確認するかについては、法令上の詳細な規定と実務上の運用がセットで理解される必要があります。 また、旅館業法は2023年に改正され、宿泊者名簿の電子化や感染症対策に関連する規定が整備されるなど、運用上の変化が生じています。最新の法令状況に沿った対応が求められます。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先141社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 外国人宿泊者のパスポート確認:「写真データ」でいいのか 【図解】ホテルの本人確認義務は旅館業法に定められへの対応フロー ① 問題発生 → ② 事実確認・記録 → ③ 顧問弁護士に相談 → ④ 対応策の実行 ※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。 実際に顧問先のホテル運営会社から相談が寄せられるのが、「外国人宿泊者がパスポートの写真をスマートフォンで見せた場合、それで確認義務を果たしたことになるか」という問いです。 旅館業法の解釈上、旅券番号などの記載事項を確認するためには原本またはそれに準じる方法での確認が求められると解されています。スマートフォン画面上の写真データの提示については、原本確認に代わる方法として明確に法令上認められているわけではなく、各都道府県の旅館業法担当部署の解釈や指導内容によっても運用が異なる場合があります。 重要なのは、「今うちのやり方が問題ないかどうか」を担当部署や法律専門家に確認せずに、「多分大丈夫だろう」で進めてしまうことのリスクです。実際、あるホテル運営会社では、スタッフの英語対応力の問題からパスポート原本確認を省略する運用が暗黙の了解になっており、監督官庁の調査が入って初めて問題を認識したという事例があります。 証拠の観点からも重要です。宿泊者名簿は行政指導や事件捜査の際に提出を求められることがあります。記録が不正確・不完全であれば、ホテル側の責任を問われる根拠にもなりかねません。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先141社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) なぜ判断ミスが起きるのか:現場まかせの構造的問題 ホテルの本人確認で判断ミスが起きる背景には、いくつかの構造的な原因があります。 ①「現場が対応する問題」として切り分けられがち 本人確認は毎日の受付業務の一部であるため、経営者や法務担当者の目が届きにくく、現場スタッフの裁量に委ねられやすい業務です。「フロントが対応している」で終わっていると、法的に見たとき何が問題かが見えにくくなります。 ②法令が変わっても社内ルールが追いつかない 旅館業法は数年おきに改正が入ります。一方で、現場のオペレーションマニュアルは一度作ると更新されにくい。法改正への対応が遅れ、古いルールのまま運用が続くケースは珍しくありません。 ③「拒否できるケース」の判断が曖昧になっている 旅館業法には、宿泊者が伝染病の疑いがある場合など一定の事由に限り宿泊を断れる規定があります(第5条)。本人確認が取れない場合に宿泊を断ることができるのか、それとも断ることでトラブルになるのかという判断を、現場が即座に迫られることがあります。この判断を経営者が事前に整理しておかないと、スタッフが板挟みになります。 ④インバウンド対応でそもそも確認が難しい場面がある 言語の壁により、外国人宿泊者に適切に申告を求めることが難しいケースがあります。確認できなかったことを記録せず、「とりあえずチェックインしてもらった」という処理が積み重なると、宿泊者名簿の実態が形骸化します。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先141社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題が起きる前にできること:予防のための3つの整備 本人確認に関するトラブルを防ぐには、問題が起きてから対応するのではなく、日常的な運用の「仕組み」を作ることが重要です。 ① チェックイン手順書の整備と定期見直し 「誰が、どの順番で、何を確認するか」を明文化した手順書を作ることが出発点です。特に外国人宿泊者への対応フロー、パスポート確認方法、名簿記載の確認方法を具体的に書き込んでおきます。手順書は法改正のたびに見直す運用ルールも設けてください。 ② 宿泊者名簿の記録方法の標準化 紙でも電子でも、「記載すべき項目が漏れなく入っているか」を日次でチェックする仕組みを作ります。空欄が多い名簿は、行政調査時に「確認していなかった」と評価される可能性があります。日付・担当者の記録も残しておくことで、あとから「誰が確認したか」を追跡できます。 ③ 都道府県担当部署との定期的な確認 旅館業法の運用は、都道府県によって解釈や指導内容に差が出る場合があります。「自分たちのやり方が現在の法令・指導方針に合っているか」を定期的に確認する姿勢が、リスクを最小化します。顧問弁護士を通じてこうした確認を行う体制があれば、日常的な変化に対応しやすくなります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先141社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題発生時の対応フロー:記録と相談のタイミング 万が一、本人確認の不備を行政から指摘された場合、あるいは宿泊者との間で本人確認をめぐるトラブルが生じた場合には、以下の順番で動くことが重要です。 指摘の内容を正確に記録する:口頭での指摘であっても、いつ・誰から・何を言われたかをメモに残す。後から「言った・言わない」の問題が生じないよう、記録の習慣をつけてください。 現状の宿泊者名簿を保全する:問題が指摘された日以降の名簿を改ざん・廃棄しない。調査や証明の場面で、元の記録が残っているかどうかは非常に重要です。 対応前に弁護士に確認する:行政への回答書類を作成する前、あるいは対外的な説明をする前に、弁護士に相談してください。対応の方向性を誤ると、問題が大きくなる場合があります。 再発防止策を文書化する:指摘を受けた場合、再発防止策を具体的に文書化して行政に示すことが、その後の処分を軽減する上で有効なケースがあります。 「軽い指摘だと思って放置していたら、後から行政処分の話になった」という事例は珍しくありません。証拠は、紛争になってから急に作れるものではありません。問題の芽が小さいうちに、正確な記録と早期の相談が鍵になります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先141社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 失敗事例の構造:なぜ相談が遅れたのか ある関西のホテル運営会社では、外国人宿泊者への対応について現場スタッフが「スマートフォンの写真で確認している」という運用が定着していました。法務担当者もいなかったため、その運用が問題ないと誰も疑わなかったのです。 問題が表面化したのは、旅館業法に基づく立入調査が行われたときでした。宿泊者名簿を確認した行政担当者から、旅券番号の記載が多数の宿泊者について空欄になっていることを指摘されました。 なぜ相談が遅れたのか:「本人確認は現場の業務」として経営者の認識が薄く、法的な問題として認識される前に時間が経過していました。また、「法律の問題というより、業界慣行の問題」と捉えていたため、弁護士への相談という選択肢がそもそも浮かばなかったと言います。 なぜ証拠が残っていなかったのか:宿泊者名簿の空欄を後から埋めようとしたことで、記録の信頼性がさらに損なわれました。「後で確認しておけばいい」という判断が、状況を複雑にしてしまったのです。 この事例から得られる教訓は明確です。「問題が起きてから弁護士に相談する」のではなく、日常的な運用を法的に確認しておく体制が、長期的には会社を守ります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先141社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) うちの会社ではどう考えればいいのか:判断の基準を整理する ホテルや旅館の経営者が本人確認について自社で判断するときの基準として、以下の問いに答えてみてください。 宿泊者名簿に必要事項が漏れなく記載されているか、直近の記録を確認したことがあるか 外国人宿泊者のパスポート確認方法について、書面で社内ルールを定めているか フロントスタッフが本人確認で困ったとき、誰に確認すればいいかが明確になっているか 旅館業法の改正内容を、自社の手順書や名簿フォーマットに反映させているか 「全部できている」と自信を持って答えられない項目があれば、そこがリスクの入口になっています。すべてを一度に整備する必要はありませんが、「どの順番で手をつけるか」を決めることが、最初の一手です。 具体的には、まず現在の宿泊者名簿の記載状況を棚卸しし、空欄が多い項目を特定することから始めると、課題が見えやすくなります。その結果をもとに、手順書の整備や担当部署への確認を進めてください。 再発防止策:現場と経営をつなぐ仕組みづくり 一度問題が起きた後に「もう繰り返さない」ためには、個人の意識に頼るのではなく、仕組みとして再発を防ぐことが必要です。 定期チェックの仕組みを作る:月に一度、名簿の記載状況を責任者が確認するルーティンを設ける。 法改正情報の取り込みルートを確保する:旅館業法や関連法令の改正情報を受け取れるルートを確保する(業界団体、顧問弁護士からの情報提供など)。 スタッフ研修を定期化する:チェックイン対応の法的根拠と、判断に迷った場合の報告ルートをスタッフ研修で繰り返し共有する。 トラブル発生時のエスカレーションルールを明確にする:本人確認で問題が生じたとき、誰がどの段階で経営者や弁護士に報告するかを事前に決めておく。 これらの仕組みは「作れば終わり」ではなく、定期的に見直し、現場の実態に合わせてアップデートし続けることが重要です。 ホテル・旅館の本人確認は、単なる受付業務ではなく法令上の義務に基づく重要な管理事項です。一件の対応で終わらせず、旅館業法・景品表示法・カスタマーハラスメントへの対応など、ホテル運営に日常的に発生する法律問題を継続的に相談できる体制を整えることが、長期的なリスク管理として最も確実な方法です。弁護士法人ブライトでは、顧問先141社の実名を公開し、企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームがホテル・民泊業界の法務を継続してサポートしています。「みんなの法務部」として、現場の細かな疑問から契約書の整備まで、法律の問題をひとつの窓口でお受けします。 よくある質問(Q&A) Q1. 外国人宿泊者がパスポートを持参していない場合、チェックインを断ることはできますか? 旅館業法上、宿泊者の申告事項の確認は宿泊施設側の義務ですが、宿泊拒否が認められる要件は限定されており、「パスポートを見せなかった」という理由だけで直ちに拒否できるかは慎重な判断が必要です。都道府県の旅館業法担当部署の指導方針や、個別の事情を踏まえて対応を決める必要がありますので、あらかじめ対応手順を弁護士と確認しておくことをお勧めします。 Q2. 宿泊者名簿はどのくらいの期間、保存しなければなりませんか? 旅館業法の施行規則上、宿泊者名簿は3年間の保存が義務付けられています。電子保存も認められていますが、改ざん防止などの要件を満たす方法で管理することが求められます。 Q3. スマートフォンでパスポートの写真を撮って記録することは問題ありませんか? 宿泊者の個人情報(パスポートのコピー等)を撮影・保存する場合は、個人情報保護法上の利用目的の明示・本人同意の取得・適切な管理が求められます。また、旅館業法上の確認義務を果たすための方法として写真保存が認められるかどうかは、法令上明確でない部分があります。自社の運用が適切かどうか、一度確認することをお勧めします。 Q4. 行政から宿泊者名簿の提出を求められた場合、どう対応すればいいですか? 旅館業法第6条に基づく提出要求には原則として応じる義務があります。提出前に、記載内容に誤りや空欄がないかを確認するとともに、提出の経緯と内容を記録しておいてください。提出後に何らかの行政指導が入る可能性がある場合は、事前に弁護士に相談することが賢明です。 この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 /大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生 「みんなの法務部」というブライトの考え方 中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームで、141社の顧問先と向き合っています。 ▶ みんなの法務部とは(詳しく見る) 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先141社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 会社運営・企業法務の関連記事 ヤクザはホテルに泊まれない?企業が知るべき暴力団排除と法的リスクの判断軸 弁護士の利益相反とは?罰則・懲戒の仕組みと社長が知っておくべき対処法 従業員の不貞行為を理由に懲戒処分できるか|会社が誤りやすい判断と正しい対応手順 反省文を書かせる会社が知らないリスク|法的に有効な指導記録の残し方 リース契約を解約したい社長へ|弁護士が教える手続きの流れと交渉の注意点