自社のECサイトや通信販売サービスを運営する企業担当者にとって、「自社サービスは特定商取引法の規制対象か?」という疑問は避けて通れません。結論からいえば、消費者向けに商品・サービスを販売している事業者の多くは何らかの類型に該当します。特定商取引法(特商法)が規制する取引類型は①通信販売②訪問販売③電話勧誘販売④連鎖販売取引(マルチ商法)⑤特定継続的役務提供⑥業務提供誘引販売⑦訪問購入の7種類です。本記事では各類型の概要から違反した場合のリスク、実務対応チェックリストまでわかりやすく解説します。 特定商取引法とは 特定商取引法(正式名称:特定商取引に関する法律)は、消費者被害が生じやすい取引形態を規制し、事業者の違法・不当な勧誘行為から消費者を保護することを目的とした法律です。1976年に「訪問販売等に関する法律」として制定され、時代の変化に合わせて繰り返し改正されてきました。2021年改正(2022年施行)では、悪質な定期購入商法への規制が大幅に強化されています。 規制対象となる7つの取引類型の概要は以下の通りです。 取引類型 主な規制内容 対象事業者例 ①通信販売 広告への必須記載事項、誇大広告の禁止、返品条件の明示 ECサイト、ネット通販、カタログ通販 ②訪問販売 書面交付義務、クーリングオフ(8日間)、不招請勧誘の禁止 飛び込み営業、キャッチセールス ③電話勧誘販売 書面交付義務、クーリングオフ(8日間)、再勧誘の禁止 テレマーケティング、アウトバウンドコール ④連鎖販売取引 書面交付義務、クーリングオフ(20日間)、誇大広告の禁止 MLM・ネットワークビジネス事業者 ⑤特定継続的役務提供 書面交付義務、中途解約権、クーリングオフ(8日間) エステ、語学教室、学習塾、フィットネス、パソコン教室、結婚相手紹介 ⑥業務提供誘引販売 書面交付義務、クーリングオフ(20日間) 内職・モニター商法、副業勧誘 ⑦訪問購入 書面交付義務、クーリングオフ(8日間)、不招請勧誘の禁止 貴金属・着物などの買取業者 なお、BtoB取引(事業者間取引)は原則として特定商取引法の適用対象外ですが、相手方が「営業のために」契約した場合でなければ適用される可能性もあるため注意が必要です。詳しくは後述のFAQも参照してください。 通信販売・ECサイトが特に注意すべき規制 EC事業者・通信販売事業者にとって最も身近な規制が、広告(サイト)への必須記載事項、いわゆる「特商法表示」です。特定商取引法11条は、通信販売の広告に以下の事項を表示することを義務付けています。これらが欠けていると、行政指導・業務停止命令の対象となるほか、消費者からの契約取消リスクも生じます。 特商法表示ページには、少なくとも以下の項目が必要です。 事業者の氏名(法人の場合は名称)・住所・代表者名 電話番号(連絡が取れる番号を明示。問合せフォームの場合はURLとともに記載) 販売価格(税込表示)および送料 支払時期・支払方法(クレジット・銀行振込・代引き等) 商品の引渡し時期(発送予定日・サービス開始時期) 返品・返金条件(返品特約。「返品不可」の場合もその旨を明示) 申込みの有効期限(期間限定キャンペーンの場合) 定期購入の場合、その旨・回数・総額・解約条件を申込み確認画面に表示 解約手続きの具体的方法・連絡先 不良品・瑕疵があった場合の対応方針 特に2022年施行の改正特定商取引法により、定期購入に関する規制が強化されました。申込み確認画面において「定期購入である旨」「解約条件」「各回の支払金額」などを明示しなければならず、これに違反した場合は消費者が申込みを取り消すことができます(法9条の2)。自社サービスが定期購入・サブスクリプション型である場合は早急な対応が必要です。 消費者保護の観点からは、消費者保護法(消費者契約法)とは|会社が知るべき義務と違反リスクも合わせて確認することをお勧めします。 実際にあった特商法違反リスクの相談事例 以下は実務でよく寄せられる相談のパターンです。自社サービスと照らし合わせてご確認ください。 ケース1:フィットネス事業者のオンラインサービスにおける表示義務違反 あるフィットネスジムでは、既存の会員向けにオンライントレーニング動画の視聴サービスをホームページ上で提供していました。しかし、そのページには運営会社の住所・電話番号・返金ポリシーの記載がなく、特定商取引法11条(通信販売の広告記載事項)に違反する可能性があることを顧問弁護士から指摘されました。 このような相談がよく寄せられます。指摘を受けた事業者は直ちに特商法表示ページを新設・整備し、行政処分を回避することができました。「オンラインサービスはECサイトではないから関係ない」と思い込んでいるケースが散見されますが、インターネット経由で対価を得て役務を提供する場合は通信販売に該当します。 ケース2:月額課金サービスにおける解約表示の不備 ある会員制サービス事業者が個人向けに月額課金型のオンラインサービスを提供していた際、解約手続きの方法・連絡先・解約が反映されるタイミングが申込みページや利用規約のいずれにも明確に記載されておらず、消費者から「解約できない」というクレームが多発。特定商取引法に基づく行政指導の対象となるリスクが発覚しました。 特定継続的役務提供に該当する可能性があるサービスでは、このようなリスクがあります。当該事業者は利用規約と申込み確認ページを全面的に見直し、解約フローを整備することで問題を解消しました。月額課金・年額課金サービスを提供する事業者は、解約に関する表示が特商法・消費者契約法の双方に適合しているかを定期的に確認する必要があります。 特定商取引法に違反した場合のリスク 特商法違反には、行政上のリスク・刑事上のリスク・民事上のリスクの3層構造があります。それぞれの内容を把握しておきましょう。 1. 行政処分(業務停止命令・業務改善指示)と氏名公表 消費者庁または都道府県知事は、違反事業者に対して業務改善指示(指示処分)や最大2年間の業務停止命令を発することができます(法7条・8条等)。さらに、悪質と認められる場合は、業務停止命令の対象となった事業者の氏名・違反内容が消費者庁の公式サイトに公表されます。公表されることで実質的な廃業に追い込まれるケースもあり、中小企業にとって致命的なダメージとなります。 2. 刑事罰(懲役・罰金)と法人両罰規定 不実告知・威迫行為については3年以下の懲役または300万円以下の罰金、書面不交付については1年以下の懲役または200万円以下の罰金が科される可能性があります。また、法人両罰規定により、違反行為者個人だけでなく法人に対しても最高3億円以下の罰金が科されます(法72条)。担当者個人の問題で終わらない点に注意が必要です。 3. 民事上のリスク(契約取消・差止請求) 不実告知や事実の不告知があった場合、消費者は契約を取り消すことができます(法9条の3等)。既に受領した代金の返還を求められるリスクがあります。また、適格消費者団体から不当な契約条項の差止請求を受けるリスクもあります。集団的なクレームや訴訟に発展すると、対応コストが大きく膨らみます。 4. 風評・ブランドダメージ 消費者庁の行政処分情報はウェブ上で誰でも閲覧でき、報道・SNSでの拡散により取引先・消費者・求職者からの信頼を失うリスクがあります。一度失ったブランドの信頼回復には多大なコストと時間がかかります。コンプライアンス対応を後回しにするコストは、対応を適切に行うコストをはるかに上回ることを認識しておく必要があります。 法的リスクへの継続的な対応には、顧問弁護士は必要?重要性・利用すべき場面・費用対効果も参考にしてください。 自社サービスの特商法対応チェックリスト ECサイト・通販事業者向けに、最低限確認すべき10項目をまとめました。すべての項目にチェックが入る状態を維持することが、特商法違反リスクを回避する基本となります。 特商法表示ページ(特定商取引法に基づく表示)が設置されている 事業者の正式名称(法人名)・所在地住所・代表者名が正確に記載されている 電話番号(または問合せフォームURL)が記載され、実際に連絡が取れる状態になっている 販売価格が税込で明示されており、送料・追加費用も明確に表示されている 支払時期・支払方法(クレジット、銀行振込、代引き等)が記載されている 商品の引渡し時期またはサービス開始時期が記載されている 返品・返金条件(返品特約)が消費者にわかりやすく明示されている 定期購入・サブスクリプションの場合、その旨・解約条件・各回支払額が申込み確認画面に表示されている 解約手続きの具体的方法・連絡先・反映タイミングが明示されている 2022年改正(定期購入の解約規制強化・申込み取消権)に対応した表示内容になっている よくある質問 Q1. BtoB取引には特定商取引法は適用されますか? 原則として、特定商取引法は事業者が消費者(個人)に対して行う取引を規制対象としており、純粋なBtoB取引(法人対法人、または事業のために購入する個人事業主対法人)は適用除外となります(法26条1項1号)。ただし、相手方が「営業のために」購入したとは認められない場合や、個人事業主への訪問販売など実態がBtoCに近い場合は適用される可能性があります。取引の相手方が「事業者」か「消費者」かを実態に即して判断する必要があるため、判断に迷う場合は弁護士への確認をお勧めします。 Q2. 海外在住の消費者への販売にも特定商取引法は適用されますか? 日本の事業者が日本国内から海外在住の消費者に向けて販売する場合、基本的には特定商取引法の適用を受けます。一方、消費者の所在地の国の法律も適用される可能性があるため、越境ECを展開する場合は日本の特商法対応と並行して、現地の消費者保護法規の確認も必要です。また、海外在住者であっても日本語サイトで日本向けにサービスを提供している場合は特商法の規制対象となる可能性が高いと考えておくべきでしょう。 Q3. 定期購入を解約したいという消費者からのクレームはどう対応すればいいですか? まず、自社の利用規約・申込みページが2022年改正特定商取引法に準拠した表示になっているかを確認してください。解約条件や手続き方法が明確に表示されていない場合、消費者は申込みを取り消す権利を持ちます(法9条の2)。クレーム対応としては、①速やかに解約窓口に誘導し書面・メール等で解約の受付を記録に残す、②解約を不当に拒絶・妨害しない、③返金が必要な場合は規約に従い速やかに対応する、という3点が基本です。解約拒絶や過剰な引き留め行為は行政指導・業務停止命令の対象となるリスクがあるため、慎重な対応が求められます。 まずは弁護士に相談を 自社のECサイト・通販ページ・定期購入フローが特定商取引法に準拠しているか、一度弁護士にチェックしてもらうことをお勧めします。 弁護士法人ブライトでは、特商法対応のリーガルチェック・行政対応・消費者トラブルへの対応を承っています。 電話:0120-929-739(受付 9:00〜18:00) 顧問弁護士・企業法務サービスの詳細はこちら 監修:弁護士法人ブライト|企業法務・顧問弁護士サービス よくある質問 Q. BtoB取引なら特定商取引法は適用されないのか? A. 原則としてBtoB取引は適用外ですが、相手方が「営業のために」契約していない場合は適用される可能性があります。事業規模や契約形態によって判断が異なるため、詳しくは弁護士にご相談ください。 Q. 月額課金サービスで今から対応を始めるなら何が必須か? A. 申込み確認画面に「定期購入である旨」「解約条件」「各回の支払金額」を明示することが最優先です。現在のサイトが規定を満たしているか確認し、不備があれば早急な改善が必要です。 Q. 特商法違反で行政指導を受けた場合のリスクはどのくらいか? A. 業務改善指示や最大2年間の業務停止命令が課される可能性があり、悪質と判断されると事業者名が公表され実質廃業に至るケースもあります。個別の状況により対応が異なるため、早期に弁護士に相談することをお勧めします。 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法律相談ではありません。具体的な事案については弁護士にご相談ください。 関連記事 建設業でよくある法律トラブルと弁護士が必要なタイミング IT・SES業界でよくある法律トラブルと弁護士が必要なタイミング 製造業でよくある法律トラブルと弁護士が必要なタイミング 監修・著者情報 和氣 良浩(わき よしひろ)弁護士 弁護士法人ブライト 代表弁護士|大阪弁護士会所属弁護士登録:2006年(弁護士歴 20年)取扱分野:企業法務・労務問題・契約トラブル・M&A・債権回収