ストックオプション(新株予約権)の設計と税制適格要件 「優秀な役員を引き止めたい」「資金がなくてもインセンティブを出したい」——そのような経営者の悩みに応える手段のひとつが、ストックオプション(新株予約権)です。 上場企業だけのものと思われがちですが、非上場の中小企業でも導入できます。ただし、設計を間違えると税制上の優遇が受けられず、役員・従業員に予期しない税負担を与えることになります。 この記事では、ストックオプションの基本的な仕組みから税制適格要件、設計時の実務ポイントまでを経営者目線で解説します。 ストックオプション(新株予約権)とは何か ストックオプションとは、あらかじめ定めた価格(行使価格)で会社の株式を取得できる権利を、役員・従業員に付与する制度です。 会社の株価が上昇した後に権利を行使すれば、時価より安い価格で株式を取得できるため、将来の利益(キャピタルゲイン)がインセンティブになります。 導入の典型的なシーンは次のとおりです: 上場(IPO)を目指すスタートアップで役員・社員への長期インセンティブとして付与 事業拡大期に幹部の離職を防ぐリテンションツールとして使う 資金繰りが厳しい時期に、給与の代替としてインセンティブを設計する 注意点:ストックオプションは株式会社のみが利用できます。合同会社・合名会社・合資会社では利用できません。中小企業で検討する場合は、会社形態を先に確認してください。 このような相談がよくあります。「弊社は合同会社なのにストックオプションを導入しようとしていた」というケースです。その場合は、ファントム株(仮想株式)や利益分配型のインセンティブ設計への切り替えを検討することになります。 税制適格ストックオプションとは ストックオプションには大きく分けて「税制非適格」と「税制適格(特定新株予約権)」の2種類があります。 税制非適格の場合 権利行使時(株式取得時)に、時価と行使価格の差額が給与所得として課税されます。株を売却する前に税金が発生するため、「株はあるが現金がない」という問題が起きやすく、高額課税が役員のモチベーションを下げるリスクがあります。 税制適格の場合(租税特別措置法29条の2) 権利行使時には課税されず、株式を売却したとき(譲渡時)に譲渡所得として課税されます。税率は約20%(所得税15%+住民税5%)で、給与所得の最高55%と比べると大幅に低くなります。 税制適格にするためには、次の要件をすべて満たす必要があります。 税制適格要件の主な内容 ① 行使価格は付与時の時価以上 ストックオプションを付与したときの株式の時価(公正価値)以上の価格を、権利行使価格として設定しなければなりません。 非上場会社の場合は、株式評価(時価算定)を専門業者・税理士に依頼して算定します。決算書が最新でなければ評価が始まりません。 ② 権利行使期間は付与から2年後〜10年以内 ストックオプションを付与した日から最短2年後、最長10年以内に権利を行使しなければなりません。 ③ 年間行使価額は1,200万円以下 1人が1年間に行使できる金額の合計が1,200万円以下であること。 ④ 譲渡禁止 付与されたストックオプション(新株予約権)は第三者に譲渡できない条件(譲渡禁止)を付ける必要があります。 ⑤ 付与対象者の要件 税制適格ストックオプションを付与できる相手方には制限があります。自社の取締役・執行役・従業員が原則対象で、大口株主(発行済株式の3分の1超)は対象外です。社外監査役への付与も要件確認が必要です。 ⑥ 契約締結と届出 会社と付与対象者の間で新株予約権付与契約を締結し、所定の書類を保管・届出する必要があります。 設計時の実務ポイント 在籍条件(退職した場合の失権規定) 「退職したらストックオプションは失効する」という在籍条件を契約書に明記することが一般的です。これを設定しないと、退職後も権利を行使できる状態が続くため、インセンティブとしての機能が弱まります。 行使条件(業績条件)の設定 「売上◯億円達成時のみ行使可能」など業績連動の行使条件を設定することもできます。ただし、条件の設定方法によっては税制適格要件に影響することがあるため、設計段階で弁護士・税理士に確認が必要です。 株式評価のタイミング 非上場会社では、ストックオプション付与時点の株式時価を算定しなければなりません。決算書の数字が固まってから評価を依頼するのが一般的で、決算確定前に付与すると後から評価のやり直しが必要になるケースもあります。 → 関連:M&A・事業譲渡の法務デューデリジェンスとは 弁護士・税理士・株式評価専門家の役割分担 ストックオプション導入は、法律・税務・財務の3分野にまたがります。それぞれの専門家が連携して進めることが必要です。 分野 担当者 主な役割 法務 弁護士 付与契約書・規程の作成、会社法上の手続き確認 税務 税理士 税制適格要件の確認、行使時・譲渡時の税務処理 財務 株式評価専門家 非上場株式の時価算定 このような相談がよくあります。「税理士に相談したら法務面が手薄で、弁護士に相談したら税務面が抜けていた」というパターンです。三者が連携してチームを組むことで、設計ミスを防ぐことができます。 → 関連:顧問弁護士の費用対効果・中小企業に必要な理由 → ご相談はこちら:/corporationlaw/ 電話:0120-929-739(受付 9:00〜18:00) よくある質問 Q. 合同会社でもストックオプションを使えますか? A. ストックオプション(新株予約権)は株式会社のみが発行できます。合同会社では利用できません。代替手段としてファントム株(仮想株式)や利益分配型のインセンティブ設計を検討することになります。 Q. 非上場会社でも税制適格ストックオプションを導入できますか? A. はい、できます。ただし株式の時価算定(非上場株式評価)が必要になるため、専門家への依頼が不可欠です。決算書が最新の状態で評価を依頼することが前提になります。 Q. 大口株主(オーナー社長)には付与できませんか? A. 発行済株式の3分の1超を保有する大口株主は税制適格ストックオプションの付与対象外となります。オーナー社長自身への付与は多くの場合に税制非適格となるため注意が必要です。 Q. 費用はどのくらいかかりますか? A. 規程・契約書の作成費用、株式評価費用、税理士への相談費用など複数の費用が発生します。事案の内容によって異なりますので、みんなの法務部では初回相談無料でご案内しています。 → みんなの法務部サービスの詳細はこちら:/corporationlaw/service/ 電話:0120-929-739(受付 9:00〜18:00) 監修:弁護士法人ブライト 大阪・神戸を拠点に企業法務・顧問弁護士サービスを提供。みんなの法務部として中小企業の法的リスク対応を日々サポートしています。 本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、特定の事案に対する法律アドバイスではありません。個別の対応については弁護士にご相談ください。