この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生 「あの社員を、調査が終わるまでいったん出社させたくない」——社内で不正の疑いが出たとき、ハラスメントの申告が上がったとき、経営者や人事担当者が最初に思いつく手が自宅待機です。顔を合わせないようにすれば、証拠を消される心配も、他の従業員が萎縮する心配も、ひとまず止められる。そう考えるのは自然なことです。 ところが、この一手は見た目ほど単純ではありません。「待機させている間の給与は払うのか」「6割でいいと聞いたが本当か」「就業規則に書いていないが出せるのか」「いつまで続けていいのか」——実際に命令を出した後で、この4つに答えられずに止まってしまう会社が少なくありません。そして厄介なことに、自宅待機の出し方を誤ると、後から本体の懲戒処分そのものが崩れる、あるいは「違法な退職強要だった」と別の紛争を呼び込むことがあります。 この記事では、大阪で中小企業の労務トラブルに会社側の立場で関わってきた視点から、自宅待機命令の法的な位置づけ、給与の扱い(民法536条2項と労働基準法26条の関係)、命令書に書くべき項目、期間の決め方、そして実務でつまずきやすい型までを順番に整理します。 この記事の守備範囲(先に棲み分けを明示します) 本記事が扱うのは、調査のために就労を止める「業務命令としての自宅待機」です。就業規則に基づく懲戒処分としての出勤停止(けん責・減給に続く制裁としての出勤停止)は、要件も賃金の扱いも別物であり、出勤停止命令が無効になるケースと会社側の対応で解説しています。処分としての段階設計そのものを知りたい方は懲戒処分の進め方|譴責・減給・出勤停止・懲戒解雇の5段階と手続きをご覧ください。 「調査中だから休ませる」のか「処分として休ませる」のか。この2つを混ぜたまま命令を出すことが、後の紛争の入口になります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 1. 「自宅待機」と「出勤停止」は、同じ休みでも法的性質が違う まず用語を整理します。会社が従業員を出社させない場面は、法的には大きく3つに分かれます。呼び名は現場でかなり混ざって使われていますが、賃金を払うかどうかの結論が変わるため、切り分けが最初の作業になります。 1-1. 3つの類型と、それぞれの賃金の扱い 類型 法的性質 就業規則の根拠 賃金の扱い(原則) 典型場面 ①業務命令としての自宅待機 労働契約に基づく指揮命令権の行使。処分ではない なくても可能とされるのが一般的。ただし明記が望ましい 原則として全額支払い 不正・ハラスメントの調査中/証拠保全のため ②懲戒処分としての出勤停止 企業秩序違反に対する制裁 必須(労働基準法89条9号) 期間中は無給とすることが可能とされる 調査を終え、非違行為が確定した後 ③会社都合の休業 経営上の事情による就労の休止 不要 労働基準法26条の休業手当(平均賃金の6割以上)が最低ライン 受注減・設備トラブル等 実務で問題になるのは、ほぼ①です。会社としては「まだ処分は決めていない。調べるまでの間だけ」という感覚で出しますが、法的には会社の側の都合で労働者から就労の機会を奪っている状態であり、賃金の問題が正面から立ち上がります。 1-2. 「自宅謹慎」という呼び方には注意が必要です 現場でよく使われる「自宅謹慎」という言葉には、法律上の定義がありません。そして「謹慎」という語感が、すでに処分であるかのような響きを持っています。調査のための待機のつもりで「自宅謹慎を命じる」という書面を出した結果、従業員側から「会社は事実確認もせずに処分を下した。弁明の機会もなかった」と主張される——この構図は珍しくありません。 さらに実務上厄介なのは、後から正式な懲戒処分を出したときに「二重処分ではないか」と争われる点です。謹慎させたうえで出勤停止処分を重ねると、同一の行為に二度の制裁を科したと評価される余地が生まれます。調査目的であることを明確にするため、書面上の表現は「自宅待機」で統一し、処分ではない旨を本文に明記しておくのが安全です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 2. 自宅待機中の給与は払うのか|「6割でいい」は多くの場面で誤りです ここが本記事の中心です。「休ませているのだから、ノーワーク・ノーペイで無給でよいのでは」「休業手当の6割を払えばよいと聞いた」——この2つの理解が、実務で最も多く見かける誤解です。 2-1. 出発点は民法536条2項(危険負担) 民法536条2項は、債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は反対給付の履行を拒むことができないと定めています。労働契約に当てはめると、労働という債務を受け取る側(=会社)の事情で働けなくなった場合、会社は賃金の支払いを拒めない、という意味になります。 従業員は出社して働く意思と能力があるのに、会社の判断で就労を止めている。これが業務命令としての自宅待機の実態です。したがって原則は賃金の全額支払いであり、無給で足りるという前提から出発するのは危険です。 2-2. 労働基準法26条の「6割」は、最低保障のラインです 労働基準法26条は、使用者の責に帰すべき事由による休業について、平均賃金の6割以上の休業手当の支払いを義務づけています。罰則の付いた強行規定であり、これを下回ることは許されない最低ラインです。 問題は、この「6割」が上限のように語られてしまうことです。実際には、労働基準法26条の帰責事由は民法536条2項のそれより広く捉えられており、両者は重なり合う関係にあります。民法536条2項に当たる場面であれば賃金は全額で、6割で足りるのは「26条には当たるが536条2項の帰責事由までは認められない」という限られた領域にとどまります。会社の一存で調査のために休ませる自宅待機は、通常、会社側の事情によるものと評価されやすい類型です。 場面 賃金の扱い(一般的な整理) 実務上の考え方 調査のため会社の判断で就労を止めた 全額が原則 最も多い類型。無給・6割で処理すると差額請求のリスク 証拠隠滅・関係者への働きかけの現実的な危険があり、就労させることが業務上著しく不相当 支払義務を負わない余地があるとされる あくまで例外。その必要性を記録で説明できるかが分かれ目 従業員本人の申し出・同意により休んでいる 合意の内容による 同意は書面で。口頭合意は後に否定されやすい 懲戒処分としての出勤停止(調査終了後) 期間中を無給とすることが可能とされる 就業規則の根拠と弁明機会が前提 例外にあたるかどうかは、事案ごとの具体的な事情の積み重ねで決まります。「不正の疑いがあるから当然に無給」という一般論は成り立ちません。自社のケースが例外にあたると考えるのであれば、その判断の根拠を後から説明できる形(誰が、何を根拠に、いつ判断したか)で残しておく必要があります。 2-3. 年次有給休暇を充てさせることはできません 「有給を使わせておけば給与の問題は起きない」という処理も見かけますが、これは避けるべきです。年次有給休暇は労働者が時季を指定して取得するものであり、会社が一方的に自宅待機期間へ振り替えることはできません。本人が自ら申請した場合を除き、賃金支払いの問題を有給消化で回避しようとすると、年休の不利益取扱いという新たな争点を招きます。 2-4. 賞与・査定まで一気に不利益を重ねない 実務で見落とされがちなのが、待機期間の扱いを賞与や人事考課に反映してしまうケースです。調査中で処分が確定していない段階で、待機を理由に賞与を不支給とする、査定を大幅に下げる——こうした対応を重ねると、本体の処分とは別に「不利益取扱いの是非」という争点が増えます。実際、調査中であることを理由とした賞与の不支給が、待機命令そのものの当否とあわせて正面から争われる例があります。争点が増えるほど、会社側の説明責任は重くなります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 3. 自宅待機命令の出し方|命令書に書くべき7項目 3-1. 口頭ではなく書面で出す理由 「とりあえず明日から来なくていい」と口頭で伝えるだけの運用は、会社にとって不利にしか働きません。後日、従業員側から「解雇されたと理解した」「退職を強要された」と主張されたときに、会社が何をどう伝えたのかを立証する手段がないからです。逆に、命令の趣旨・期間・賃金の扱いが書面に残っていれば、それ自体が会社の対応が適正であったことの証拠になります。 3-2. 命令書に必ず入れる7項目 # 記載項目 書き方のポイント 1 命令の性質 「本命令は懲戒処分ではなく、調査のための業務命令である」と明記する 2 目的 「◯◯に関する事実関係の調査のため」。調査対象の輪郭は示す(嫌疑の詳細まで全開示を要しない場面もある) 3 期間 始期と終期を日付で特定する。「追って通知する」は使わない 4 賃金の扱い 「待機期間中の賃金は通常どおり支払う」等、扱いを明記する 5 待機中の義務 連絡が取れる状態の保持、会社からの呼出しへの応答、長期に連絡不能とならないこと 6 接触・持ち出しのルール 関係従業員・取引先への業務上の連絡を控えること、貸与PC・入館証・データの取扱い 7 問い合わせ窓口 担当者を1名に特定する。複数の役員が別々に連絡すると説明が食い違う 5と6は特に落としやすい項目です。待機を命じておきながら連絡ルールを決めていないと、待機中の従業員が他の従業員へ個別に接触して口裏合わせが進む、SNSで会社批判が始まる、といった二次被害が起きます。実務では、待機を命じる文書の中に「調査が終わるまで、従業員および取引先への連絡を控えること」という一文をあわせて入れる設計を取ることがあります。競業や情報の持ち出しが疑われる事案では、この一文の有無が後の証拠収集の可否を分けます。 3-3. 交付の仕方と記録の残し方 手渡しであれば受領のサインをもらう、それが難しければ記録の残る方法で送付する。呼び出して交付する場合は、面談の日時・出席者・説明した内容をメモに残す。ここまでを一連の作業として行います。「渡したはずだが控えがない」は、実務で最も後悔される抜けです。 4. 期間の決め方|「追って通知する」と書かない 4-1. 無期限の待機が争点になる理由 終期を定めずに自宅待機を命じ、そのまま数か月が経過する。これは会社側の対応として非常に危うい形です。就労を止めている状態が長引くほど、「調査に必要な範囲」を超えて労働者に不利益を与えているのではないかという評価に傾きます。労働契約法3条5項は、労働契約に基づく権利の行使は濫用してはならないと定めており、業務命令であっても無制限ではありません。 実務では、会社が「コンプライアンス違反の調査中」という理由で期限を示さないまま待機を続け、調査の具体的な内容も本人に開示せず、弁明の機会も設けないまま推移した結果、待機命令そのものの有効性が正面から争われる、という構図が現実に生じています。こうした事案では、就業規則上の根拠があるか、賃金が支払われているか、権利の濫用にあたらないか、業務命令としての正当性に疑義がないか——という順で検討していくことになります。期限・理由・弁明機会の3つが同時に欠けると、会社側の説明が一気に苦しくなると考えておくのが実際的です。 4-2. 区切りを入れて、更新するときは理由を書面で 目安としては、まず2週間から1か月程度で終期を切り、調査が終わらない場合に理由を付して延長する運用が取りやすい形です。延長の都度、「何が終わり、何が残っているために延長が必要なのか」を1〜2行でも書面に残します。この積み重ねが、会社が漫然と就労を止めていたのではないことの記録になります。 【図解】自宅待機から処分決定までの流れ(設計の型) 【STEP1】端緒の把握 → 証拠保全(PC・メール・入退室記録を先に押さえる) ↓ 【STEP2】待機の要否を判断(就労させると調査に支障が出るか/出ないなら命じない) ↓ 【STEP3】命令書を交付(性質・目的・期間・賃金・待機中の義務・接触ルール・窓口の7項目) ↓ 【STEP4】周辺者ヒアリング → 客観資料の突合 → 本人聴取(弁明の機会) ↓ 【STEP5】事実認定 → 処分の要否・重さを決定(ここで初めて懲戒の話になる) ↓ 【STEP6】待機の解除、または処分の通知(待機の終わり方も書面で示す) この流れで重要なのは、STEP2が独立した判断として存在していることです。「何か起きた=とりあえず自宅待機」ではなく、就労させ続けると調査に具体的な支障が出るのか、を一度考える。支障がないのであれば、通常勤務のまま調査を進めるという選択肢もあります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 5. 実務でつまずく5つの型 ここからは、会社側の相談を受けてきた立場から、実際につまずきやすいパターンを整理します。いずれも、それ自体は善意の判断から始まっているのが特徴です。 型1|事実確認より先に、待機を出してしまう 申告や通報が上がった直後、まだ何が起きたのか輪郭も見えていない段階で、名前の挙がった従業員全員に自宅待機を指示してしまう。会社としては「公正に対応している」つもりです。しかし実務では、通知書に名前が記載されている複数の従業員について、処分を行うのであればまずヒアリング等の調査を先に実施し、その結果を踏まえて判断する必要があること、そして事実関係が明らかでない段階で自宅待機などを指示すること自体が、不適切な対応と評価されるリスクがあることを、会社へお伝えする場面があります。複数名が名指しされている事案でまとめて待機させると、後から関与の程度が大きく違ったことが判明したときに、対応の均衡が説明できなくなります。 型2|業務を取り上げて、そのまま放置する これが最も危険な型です。貸与PCを回収し、席を外し、仕事を与えないまま長期の自宅待機を続ける。会社としては「本人が居づらくなって自分から辞めてくれれば」という期待があることもあります。しかし実務では、PCを取り上げて自宅待機とし仕事を与えない対応について、違法な退職勧奨と認定される可能性が高いと判断し、そもそもその形を取らないよう会社に説明することがあります。弁護士名義の文書で進めることも見送り、会社名義の文書として穏当な範囲に組み替える——そこまで慎重に扱う類型だとご理解ください。退職を促す局面の線引きについては退職勧奨の進め方と違法性ラインもあわせてご確認ください。 型3|理由を告げず、弁明の機会も与えない 「調査中だから内容は言えない」という運用を長く続けると、本人からは「何を疑われているのかも分からないまま働かせてもらえない」という状態に映ります。調査の初期に手の内を明かせない場面があるのは事実ですが、最後まで一度も本人の言い分を聞かないまま処分に進むと、手続の適正さそのものが争点になります。本人聴取は、事実認定のためだけでなく、手続を踏んだ記録を残すためにも必要な工程です。 型4|待機・賞与・配置転換を一度に重ねる 待機を命じ、賞与を不支給とし、復帰後は別部署へ配転する。1つずつは会社の裁量の範囲に見えても、短期間に不利益な措置を重ねると、全体として不当な目的があったのではないかと見られやすくなります。特に配置転換については、実務では、業務上の必要性・合理性、不当な動機の有無、労働者が受ける不利益の程度を総合的に考慮し、とりわけ職種の変更が労働契約の範囲内といえるかが大きな分かれ目になる、という順序で検討します。措置は1つずつ、根拠を分けて判断するのが実務の基本です。 型5|社内で情報が広がってしまう 「なぜあの人は来ていないのか」は必ず社内で話題になります。ここで管理職が個別に事情を説明し始めると、まだ確定していない嫌疑が事実として社内に流通し、名誉やプライバシーの問題に発展します。実務では、従業員の重大な不正が疑われる局面で、まず経営トップと担当者だけに限定した連絡経路を新たに設け、情報の流れを絞るところから初動を始めることがあります。誰が何を知ってよいのかを最初に決めることが、結果的に本人の保護にも会社の保護にもつながります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 6. 待機期間中に、会社がやるべきこと 6-1. 証拠保全は「命じる前」に終えておく 待機を命じた瞬間、本人は自分が疑われていることを知ります。そこから会社が証拠収集を始めるのでは順番が逆です。業務用PCのデータ、メール・チャットのログ、入退室記録、経費精算の書類——本人が触れる可能性のあるものは、待機を命じる前に押さえておくのが原則です。具体的な進め方は社内不正の調査の進め方|ヒアリング・デジタル証拠保全・本人聴取の実務手順、初動全体の時間設計は社員の横領・不正が発覚したときの初動対応|最初の72時間チェックリストで整理しています。 6-2. ヒアリングは、外側から内側へ 周辺の従業員から先に話を聞き、客観資料と突き合わせ、最後に本人から聞く。この順番を守ると、本人の説明が客観資料と食い違ったときに、その食い違い自体が意味を持ちます。逆に本人聴取を最初に行うと、以後の関係者への働きかけを止められません。ハラスメント申告を端緒とする場合の初動の組み立てはハラスメント申告を受けた会社の初動対応もご参照ください。 6-3. 待機の「終わらせ方」まで設計する 意外に準備されていないのが、待機を解除する場面です。調査の結果、処分に至らないと判断した場合、どのように職場へ戻すのかを決めておく必要があります。何の説明もないまま出社を再開させると、本人にも周囲にもわだかまりが残り、次のトラブルの種になります。解除の通知も書面で行い、「調査の結果、処分を行わないこととした」旨を簡潔に伝えるのが実務的です。処分に進む場合は、そこから初めて懲戒手続の話になります。 6-4. 待機命令に従わない場合 「納得できないので出社する」と言われることもあります。業務命令としての自宅待機が有効であれば、これに従わないこと自体が業務命令違反として評価される余地がありますが、前提として命令自体が適正であることが必要です。命令の根拠が薄いまま従わないことを責めると、争点が増えるだけになります。業務命令の有効性と不服従への対処の考え方は業務命令に従わない社員への対応で解説しています。 7. 弁護士に相談すべきタイミング 自宅待機は「命じてから相談する」より「命じる前に相談する」ほうが、打てる手が多い局面です。次のいずれかに当てはまるなら、命令を出す前に一度確認されることをおすすめします。 金銭の不正、情報の持ち出し、競業が疑われており、刑事・民事の請求まで視野に入るとき ハラスメントの申告があり、名指しされた従業員が複数いるとき 就業規則に自宅待機や出勤停止に関する規定が見当たらない、または規定の意味が読み取りにくいとき 待機がすでに1か月を超えており、終わらせ方が決まっていないとき 本人に代理人弁護士がついた、または労働組合から通知が届いたとき 待機と並行して、退職の話を持ちかけることを検討しているとき 特に最後の項目は要注意です。待機と退職勧奨を同時に走らせる設計は、会社側にとってリスクが高い組み合わせのひとつです。順番と役割分担を先に決めておくだけで、後の紛争の規模が変わります。 弁護士法人ブライトは大阪を拠点に、中小企業の労務トラブルに会社側の立場から対応しています。就業規則の該当条文の確認、命令書の文面、調査の順番、待機の終わらせ方までを一続きの設計としてご一緒します。問題社員対応の全体像は問題社員対応|会社側・使用者側の労務トラブルに特化した弁護士チームにまとめています。 なお、実際に代理人として交渉や手続を進める段階では、顧問プランまたは法務ドック(単発の法務診断)とあわせてお受けしています。ご相談の段階では顧問契約の有無を問いませんので、まずは状況をお聞かせください。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 8. よくある質問(Q&A) Q1. 就業規則に自宅待機の規定がありません。それでも命じられますか? 調査のための業務命令としての自宅待機は、労働契約上の指揮命令権の行使として、明文の規定がなくても可能と解されるのが一般的です。ただし、これは「規定がなくても自由に命じてよい」という意味ではありません。必要性・期間・賃金の扱いという3点で相当性が問われます。また、懲戒処分としての出勤停止には就業規則上の根拠が必要です(労働基準法89条9号)。この機会に、自宅待機と出勤停止の両方について規定を整えておくことをおすすめします。 Q2. 「調査中なので無給」と伝えてしまいました。取り返しはつきますか? 賃金の扱いは後から是正できます。速やかに扱いを見直し、差額があれば精算し、その旨を書面で本人に伝えるのが実務的な対応です。時間が経つほど不利になるのは、支払わなかった事実そのものより「指摘されるまで放置した」という経過です。並行して、待機の期間・目的が書面で特定されているかも確認してください。 Q3. 自宅待機中の社員が、他の社員にSNSで連絡を取っています。止められますか? 命令書に接触ルールを入れていれば、それに基づいて是正を求めることになります。入れていなかった場合でも、調査の公正を確保する必要性を説明したうえで、追加の書面で範囲を特定して指示することは考えられます。ただし、私生活上の交友関係の全面禁止まで及ぶと相当性を欠きます。「調査に関係する事項について、関係従業員へ働きかけないこと」といった目的に紐づいた形で限定するのが現実的です。 Q4. 大阪の会社ですが、待機中の社員が遠方へ帰省すると言っています。認めるべきですか? 自宅待機は「自宅から出るな」という命令ではありません。本質は就労を止めることと、呼出しに応じられる状態を保つことです。したがって、連絡が取れ、必要なときに聴取に応じられるのであれば、所在地を過度に制限する必要はありません。大阪の会社で本人が遠方へ帰省するようなケースでは、聴取をオンラインで行う、あるいは出頭が必要な日をあらかじめ調整しておく、といった運用で足りることが多いといえます。逆に、連絡不能な期間が生じる予定であれば、その点は事前の申告を求めておきます。 Q5. 待機させたまま、退職勧奨を進めてもよいですか? 同時進行は避けたほうが安全です。仕事を与えないまま退職の話を持ちかける形は、退職を強要したと評価されやすい典型です。調査と処分の判断をまず完結させ、そのうえで、必要であれば別の局面として話し合いの場を設ける。順番を分けるだけで、後の主張の通りやすさが変わります。 まとめ|自宅待機は「止める判断」ではなく「設計する判断」です 本記事の要点を整理します。 調査のための自宅待機(業務命令)と、懲戒処分としての出勤停止は別物。混ぜたまま命じない 賃金は全額支払いが原則。労働基準法26条の6割は最低ラインであり、上限ではない 年次有給休暇を会社が一方的に充てることはできない 命令書には性質・目的・期間・賃金・待機中の義務・接触ルール・窓口の7項目を入れる 期間は日付で区切る。「追って通知する」と書かない。延長は理由を書面で残す 証拠保全は待機を命じる前に終える。本人聴取は最後 業務剥奪型の長期待機、待機と退職勧奨の同時進行は会社側のリスクが高い 待機の「終わらせ方」まで設計してから命じる 自宅待機は、緊急時に会社が単独で打てる数少ない手です。だからこそ、勢いで出してしまいやすい。しかし、出した後に効いてくるのは、目的が書いてあるか、期間が切ってあるか、賃金の扱いが決まっているかという地味な3点です。ここを押さえておけば、その後の調査も処分も、進めやすくなります。 問題社員対応の全体像や、他のタイプ別の対応については問題社員への対応方法、モンスター社員への対応方法|タイプ別の見分け方と手順、問題社員を降格させるには?手順と準備もあわせてご覧ください。弁護士法人ブライトの企業法務サービスの内容は顧問弁護士サービスのご案内に掲載しています。 監修:弁護士法人ブライト 和氣 良浩(代表弁護士・大阪弁護士会) 大阪・神戸を拠点に企業法務・顧問弁護士サービスを提供。顧問先130社以上を実名公開し、中小企業の労務トラブルに会社側の立場で日々対応しています。ご相談は 0120-929-739 まで。 ※本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、個別の法律アドバイスではありません。具体的な問題については弁護士にご相談ください。記載の法令は本記事公開時点のものです。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 会社側・使用者側専門 問題社員対応に特化した弁護士チームのご案内 タイプ別の対応方法・解決事例・費用の考え方を、1つのページにまとめています。「うちのケースはどれに当たるのか」からご確認いただけます。 → 問題社員対応の特化ページを見る→ タイプ別の対応一覧 → 解決事例