メンタル不調を訴える社員への会社対応|休職・復職・解雇の判断基準 この記事でわかること: メンタル不調社員を放置した場合に発生する3つの具体的リスク(訴訟・損害賠償・職場崩壊) 休職・復職・解雇それぞれの正しい判断基準と対処ステップ 顧問弁護士が早期に関与することで防げるコストと、今からでも取れる対策 📋 この記事の法律問題について、顧問弁護士に相談しませんか? 弁護士法人ブライトは大阪の中小企業の外部法務部として、継続的に法務課題をサポートします。顧問先130社以上・弁護士歴平均14年以上。 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 無料で相談する(お問い合わせ) 「診断書を持ってきた…どうすればいい?」その迷いが後から大きなコストになる ある朝、社員が「うつ病の診断書」を持って出社してきた。どう声をかければいいのかわからない。休ませるべきか、それとも様子を見るべきか。解雇できるのか、できないのか。 こうした状況に直面したとき、多くの中小企業の経営者・人事担当者は「とりあえず今は何もしない」という選択を取りがちです。しかしその「何もしない」という判断が、数ヶ月後・数年後に深刻なコストとなって返ってくることがあります。 本記事では、メンタル不調社員への対応を放置した場合に起きること、そして会社が踏むべき正しいステップを、実際に起きた事例も交えながら解説します。 メンタル不調社員を放置した場合のリスク3つ リスク①:不当解雇・解雇無効として訴えられる(損害賠償・バックペイの発生) メンタル不調を理由にすぐ解雇することは、法律上ほぼ認められません。労働契約法第16条は「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない解雇は無効」と定めており、裁判所はうつ病等の精神疾患を理由とした解雇に対して厳しい姿勢をとっています。 適切な休職措置を取らずに解雇した場合、解雇無効の判断が下ると、解雇日から判決日まで働いていなかった期間の賃金(バックペイ)を全額支払う義務が生じます。月給30万円の社員であれば、1年間の争いで360万円以上、2年になれば720万円超のコストになります。これに加えて弁護士費用・訴訟コストが上乗せされます。 リスク②:安全配慮義務違反として損害賠償請求を受ける 会社には「社員が安全・健康に働けるよう配慮する義務(安全配慮義務)」があります。メンタル不調のサインを見て見ぬふりをした場合、「会社が適切な措置を取らなかったせいで症状が悪化した」として損害賠償請求を受けるリスクがあります。 過去の裁判例では、過重労働やハラスメントによるうつ病発症について会社側の損害賠償責任が認められたケースが複数あり、認容額が数百万円から1,000万円を超えるケースも存在します。「知らなかった」「相談されなかった」では通用しないのが安全配慮義務の怖さです。 リスク③:職場環境の悪化と連鎖退職による採用・業務コストの増大 メンタル不調社員への対応が曖昧だと、周囲の社員にも影響が出ます。「あの人がああいう状態なのに、なぜ会社は何もしないのか」「自分もこうなったら同じように放置されるのか」という不安が広がり、優秀な社員から先に転職を選ぶケースが後を絶ちません。 1名の採用コストは中途採用の場合、求人広告費・エージェント手数料・引継ぎ期間中の生産性低下などを含めると、50〜100万円以上かかるとも言われています。連鎖退職が3〜5名規模になれば、それだけで数百万円単位の損失です。 実際に起きた事例:放置が招いた「証拠不足」という最悪の結末 あるサービス業の会社では、経理担当の社員に不正行為(業者からのキックバック受領)の疑惑が浮上しました。しかし「証拠が固まるまで待とう」という姿勢で、会社は具体的な調査・書面化に着手しませんでした。その後、その社員は「体調不良」を理由に診断書を提出し、そのまま休職に入りました。 担当した弁護士の見立ては「懲戒解雇は証拠不足のため困難。退職勧奨を試みるか、証拠収集を続けるしかない」というものでした。休職期間の上限(最大3ヶ月)が迫る中、会社は非常に難しい対応を迫られることになりました。 この事例から得られる教訓は明確です。疑惑や問題行動が出た段階で、書面による事実確認・証拠保全のフローをすぐに設計すべきだったということです。「もう少し証拠が揃ってから」という先送りが、会社の選択肢を大幅に狭めました。顧問弁護士がいれば、疑惑が浮上した段階で面談の設計・録音・書面化をすぐに始めることができました。 会社が踏むべき正しい対処ステップ ステップ1:診断書を受け取ったら、まず「休職命令」の検討 社員がうつ病等の診断書を持参した場合、まず会社側から「休職を命じる」という形を取ることが重要です。本人が「休みたくない」と言っても、就業規則に休職規定がある場合は会社から命じることができます。 このとき確認すべきポイントは以下の3点です。 就業規則に休職期間・復職条件・休職期間満了時の扱いが明記されているか 休職中の賃金・社会保険料負担のルールが整備されているか 主治医と産業医(または会社側医師)の連携体制が取れるか 特に就業規則の整備は最優先事項です。「休職期間が満了しても復職できない場合は自然退職(または解雇)とする」旨が就業規則に明記されていなければ、後の対応が著しく困難になります。 ステップ2:休職中の定期的な連絡・状況確認を記録する 休職期間中は、会社から定期的(月1回程度)に社員の状況を確認することが求められます。「連絡を取ってはいけない」と過剰に遠慮する必要はありませんが、過度な連絡や業務指示はNGです。 重要なのは、やり取りを必ず書面・メール等で記録に残すこと。口頭でのやり取りだけだと、後から「言った・言わない」の争いになります。「○月○日に本人から連絡あり、体調は回復傾向との報告」など、簡単なものでも構いませんので記録を積み重ねることが、後の復職・退職判断の根拠になります。 ステップ3:復職判断は主治医の診断書だけで決めない 社員が「復職したい」と言い出したとき、主治医の「復職可能」という診断書だけを根拠に復職を認めるのは危険です。主治医は患者(社員)側の視点で診断するため、実際の業務負荷や職場環境まで考慮されていないことが多いからです。 会社としては、産業医や会社指定の医師による復職判断(ジョブリターン面談)を就業規則上のプロセスとして明文化しておくことが重要です。段階的復職(試し出勤・リハビリ出勤)の仕組みも、あらかじめルール化しておくことで、トラブルを防ぎやすくなります。 ステップ4:休職期間満了後の「自然退職」の要件を整える 休職期間が満了しても復職できない場合の退職処理は、就業規則の定めがすべてです。「期間満了をもって自然退職」という規定があれば、解雇ではなく自然退職として処理できます。これがないまま退職させようとすると、「解雇された」と主張される可能性が高まります。 なお、復職不能を理由とする退職・解雇が有効とされるためには、①休職期間を十分に与えたこと、②復職の可否について会社が誠実に検討したこと、③回復の見込みがないことを医学的根拠に基づいて判断したこと、の3点が求められます。 ステップ5:解雇を検討するなら、必ず事前に法律専門家に確認する メンタル不調を抱える社員の解雇は、法的リスクが非常に高い場面です。解雇を検討する段階になったら、必ず弁護士に相談してください。自己判断で動くと、後から不当解雇として訴えられ、解雇前より大きなコストが発生するケースが頻発しています。 解雇よりも、合意退職(退職勧奨)という選択肢を検討することで、法的リスクを大幅に下げられる場合もあります。退職勧奨の進め方については、弁護士と事前に段取りを組んで行うことが重要です。 「顧問弁護士がいれば」この段階で防げた 先ほどの事例のように、問題が深刻化してから弁護士に相談しても「できることが限られる」という状況は珍しくありません。メンタル不調への対応においても同様で、問題が顕在化した後では手遅れになるケースが多いのが実情です。 顧問弁護士がいる会社では、以下のような早期介入が可能です。 就業規則の休職・復職・退職規定を事前に整備しておく 社員がメンタル不調を訴えた初期段階で、対応方針を法的リスクを踏まえて設計できる 休職中の書面・記録のフォーマットを適切に準備できる 復職拒否・退職勧奨・解雇の判断基準を事前に明確化しておける 問題が起きてから「スポット依頼」で弁護士に相談するのと、日頃から顧問弁護士として関与してもらうのでは、打てる手の幅が根本的に異なります。特に中小企業では人事・法務の専門部署がないことが多く、顧問弁護士が「外部の法務部」として機能することで、こうしたリスクを事前に制御できます。 顧問弁護士の必要性・費用対効果について詳しくは、顧問弁護士は必要?重要性・利用すべき場面・費用対効果の判断基準もあわせてご覧ください。 企業法務全般のサポートについては、企業法務・顧問弁護士トップからご確認いただけます。 ⚠️ 「今は問題ないから大丈夫」は危険なサインです 就業規則の休職・復職規定が整備されていない会社は、今すぐ確認することをお勧めします。問題が表面化した後では、取れる選択肢が大幅に限られます。 無料で相談する(お問い合わせ) 顧問弁護士サービスを見る よくある質問(FAQ) Q1. すでに診断書を無視して「出勤するよう」指示してしまいました。今からでも対応を修正できますか? はい、今からでも対応を修正することは可能です。ただし、診断書を無視した出勤指示が続いていた期間があると、安全配慮義務違反の根拠として使われるリスクがあります。まず現状の経緯を整理した上で、弁護士に相談し、今後の対応方針を法的リスクを踏まえて設計し直すことを強くお勧めします。「動き始めるのに遅すぎる」ということはありませんが、放置期間が長いほどリスクは積み上がります。早期に動くことが最善です。 Q2. うつ病の社員を解雇・退職させるまでにかかるコストはどのくらいですか? 適切な手続きを経た場合でも、休職期間中の社会保険料の会社負担分・代替人員の確保コスト・弁護士相談費用などが発生します。スポット相談(1〜3時間程度)であれば3〜10万円程度が目安ですが、退職勧奨の設計・書面作成・交渉対応まで依頼する場合は別途費用が生じます。一方、対応を誤って訴訟になれば、バックペイだけで数百万円を超えることも珍しくありません。初期に適切なコストをかける方が、総額では大幅に安くなるケースがほとんどです。 Q3. 就業規則に休職規定がない場合、どう対応すればいいですか? 就業規則に休職規定がない場合、休職期間・復職条件・期間満了後の退職処理などの根拠がなく、後のトラブル時に会社が非常に不利な立場になります。まず現行の就業規則を弁護士に確認してもらい、不足している条項を早急に整備することが最優先です。規定がない状態でメンタル不調社員が発生した場合は、個別交渉での対応になりますが、その場合も弁護士と方針を確認しながら進めることが不可欠です。 監修:弁護士法人ブライト 企業法務チーム 大阪・神戸を拠点に企業法務・顧問弁護士サービスを提供。中小企業の法的リスク対応を日々サポートしています。 ※本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、個別の法律アドバイスではありません。具体的な問題については弁護士にご相談ください。 企業の法律問題でお困りの経営者様へ 弁護士法人ブライト|顧問先130社以上の実績・弁護士歴平均14年以上。まずはお気軽にご相談ください。 無料相談を申し込む 📞 0120-929-739