パワハラで会社が訴えられた場合の対応と損害賠償リスク

パワハラで会社が訴えられた場合の対応と損害賠償リスク

「うちの上司がパワハラをしていたらしい。被害者の社員から内容証明が届いた」「すでに弁護士がついているようで、会社も訴えると言っている」――このような状況に突然直面した経営者・人事担当者の方は、今まさに何をすべきか分からず焦っているかもしれません。しかし怖いのは「訴えられた瞬間」よりも、そこに至るまでの放置期間に積み上がったコストです。

この記事でわかること:

  • パワハラを放置していた場合に発生する3つの具体的コスト(金額の目安つき)
  • 訴えられた・訴えられそうなときの初動対応フローと判断ポイント
  • 顧問弁護士がいれば「どの段階で」リスクを止められたか

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「あの上司、少し問題があるけど…」を放置した会社が払う3つのコスト

パワハラ問題は、多くのケースで「うすうす気づいていたが動かなかった」状態から悪化します。経営者・人事担当者がよく口にする言葉が「仕事はできるから」「指導が厳しいだけだと思っていた」「本人同士の問題かと」です。しかし放置している間、コストは着実に積み上がっています。

放置コスト①:損害賠償請求(数十万〜数百万円)

パワハラ被害者が会社を訴えた場合、会社は主に2つの法的根拠で責任を問われます。ひとつは使用者責任(民法715条)です。従業員が業務の執行中に他者へ損害を与えた場合、会社も連帯して責任を負うとされており、上司のパワハラ行為が「業務との関連性あり」と判断されれば会社も当然に賠償義務を負います。

もうひとつは安全配慮義務違反(労働契約法5条)です。会社は労働者の心身の健康を守るために必要な配慮をする義務があります。パワハラを把握しながら放置した、相談窓口がなかった、防止研修を実施していなかった――こうした不作為が「義務違反」と認定されると、加害上司の責任とは別に、会社として独立した賠償責任が発生します。

実際の賠償額の相場は事案の重さによって大きく異なりますが、精神的損害(慰謝料)だけでも数十万〜数百万円の事例が多く見られます。休職や解雇に至っていれば、休業損害・逸失利益の算定が加わり、合計額が500万円を超えるケースも珍しくありません。さらに、2020年6月施行のパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)への対応が不十分だった事実は、裁判において「会社が義務を怠っていた証拠」として不利に働きます。

放置コスト②:退職の連鎖と採用コスト(1名あたり数十〜百万円超)

パワハラ加害者を放置することで発生するもうひとつの深刻なコストが「退職の連鎖」です。被害者だけでなく、その状況を見ていた周囲の社員も「この会社は守ってくれない」と判断して離職します。

ある物流業の会社では、業務に習熟しているという理由でパワハラ傾向のある社員を長年放置していました。その社員と同じ部署に配属された社員が次々と退職し、最終的に10名以上が会社を去ることになりました。採用・教育コストを考えると、1名の退職にかかるコストは一般的に50万〜150万円以上とも試算されます。10名を超える退職が生じれば、それだけで数百万〜千万円超の見えないコストになります。

さらに同事例では、パワハラ加害者本人が退職した後、弁護士を通じて未払い残業代300万円超の請求書が届きました。就業規則に固定残業代の定めがなく、慣習だけで「残業込みの給与」として運用していたことが請求の根拠となったのです。加えて、過去に退職した別の社員3名も別々の弁護士を通じて残業代請求を開始し、最終的に1件あたり150〜200万円での和解となりました。パワハラの放置が、残業代請求という別の法的リスクを誘発する――これが放置コストの連鎖です。

問題社員の放置が招く負の連鎖については、問題社員を放置していた会社が直面した3つのリスクもあわせてご確認ください。

放置コスト③:訴訟・労働審判への対応コスト(弁護士費用+工数)

訴訟や労働審判に発展した場合、会社側の弁護士費用だけでも着手金・報酬金合わせて数十万〜百万円以上かかるのが一般的です。それ以上に見過ごされがちなのが、経営者・人事担当者が対応に費やす時間と労力です。証拠書類の収集・整理、弁護士との打ち合わせ、審判期日への出席……これらは本来の業務を圧迫し、経営判断の遅れという形で別のコストを生み出します。

さらに、SNSや口コミサイトへの書き込みによって「パワハラを放置する会社」というレッテルが貼られると、採用市場での評判悪化・既存取引先への影響という形でブランドコストも発生します。一度広まった悪評の回収は非常に困難です。

パワハラで訴えられた・訴えられそうなときの初動対応フロー

もし現時点で被害申告が上がっている、あるいは内容証明や弁護士からの通知が届いているならば、今すぐ以下のステップで動くことが重要です。初動を誤ると、後から証拠隠滅・対応不誠実と判断されるリスクがあります。

ステップ1:事実関係の把握(当事者へのヒアリング)

まず被害申告者から丁寧にヒアリングし、いつ・どこで・どのような行為があったかを記録します。この際、被害者が「会社に伝えて不利益を受けないか」と不安を感じないよう、人事担当者や社外の相談窓口が対応する体制が理想です。並行して、加害者とされる側にも事情を確認しますが、被害者と加害者を同席させてはいけません。

ステップ2:証拠の保全

メールやチャットのログ、業務日報、医療機関の診断書、目撃者の証言などを早期に収集・保全します。電子データは誤って消去されるリスクがあるため、早い段階でバックアップをとることが重要です。

ステップ3:弁護士への相談(できれば24〜48時間以内)

相手方に弁護士がついている場合や、訴訟・労働審判の可能性がある場合は、会社側も早期に弁護士へ相談してください。弁護士なしで被害者側弁護士と直接交渉することは、発言内容が後に不利な証拠として使われるリスクがあります。

ステップ4:再発防止策の実施と被害者への配慮

事実認定後は、加害者と被害者の接触を防ぐ配置転換・隔離措置を講じます。また、社内のハラスメント相談窓口の整備や、管理職向け研修の実施など、再発防止のための具体的措置を記録として残すことが、後の損害賠償額の軽減にも影響します。

なお、パワハラを受けた社員が退職に向かっている場合は、退職勧奨の手続きについても慎重な対応が必要です。詳しくは退職勧奨で違法と言われないための進め方をご参照ください。

「顧問弁護士がいれば、この段階で止められた」

前述の物流業の事例を振り返ると、もし顧問弁護士がいた場合、少なくとも以下の3つの段階でリスクを抑えられていました。

  • 就業規則の整備段階:固定残業代の規定が適切に整備されていれば、退職後の残業代請求は大幅に減額できた可能性が高い
  • 退職者が出始めた段階:問題のある社員に対し、法的に適切な方法で指導・処分を行うアドバイスを受けられた
  • 被害申告が上がった段階:申告を受けた時点でヒアリング設計・証拠保全の方針を即座に示せた

顧問弁護士がいない会社は、問題が表面化して初めて弁護士を探し始めます。その時点では既に証拠が散逸し、相手方の準備が整い、選択肢が狭まっているケースが多い。一方、顧問契約を結んでいる会社は「困ったことが起きる前に相談する」という行動習慣が生まれます。これが、放置コストを生まないための最大の防御策です。

顧問弁護士の必要性・費用対効果については顧問弁護士は必要?重要性・利用すべき場面・費用対効果の判断基準で詳しく解説しています。

月額数万円の顧問費用と、数百万円の損害賠償・採用コスト・弁護士費用を比べたとき、どちらがリスクとして大きいかは明らかです。特に中小企業においては、社内に専任の法務担当者を置けないからこそ、外部の顧問弁護士を「法務部の代わり」として活用することが経営リスクの低減に直結します。

まとめ:パワハラ放置が招く損害賠償リスクを防ぐために今すぐできること

パワハラ問題で会社が被る損害は、賠償金だけではありません。退職の連鎖、採用コスト、訴訟対応費用、経営者・人事の工数、そして企業ブランドの毀損まで含めると、放置のコストは想定をはるかに超えます。

今すぐできることは次の3点です。

  1. ハラスメント相談窓口の設置・周知(社内または外部委託)
  2. 就業規則・懲戒規定の見直し(パワハラの定義と処分規定を明記する)
  3. 顧問弁護士への相談体制の構築(問題が表面化する前に動ける体制をつくる)

「うちはまだ大丈夫」と思っているうちに、社内で誰かが限界を迎えているかもしれません。放置がコストを生む前に、今日動き始めることが最大のリスク対策です。

よくある質問(FAQ)

Q1. パワハラで訴えられた場合、今からでも対応できますか?

はい、対応できます。ただし、初動が遅れるほど選択肢は狭まります。相手方に弁護士がついている場合、会社側も早急に弁護士へ相談し、ヒアリング方法・証拠保全・交渉窓口の整理を進めることが必要です。また、訴訟提起後であっても、和解や調停での解決ができる段階があります。「もう手遅れ」と判断する前に、まず弁護士に現状を伝えることが先決です。

Q2. パワハラ問題の対応にかかる費用はどのくらいですか?

弁護士費用は事案の複雑さによって異なりますが、初回相談(無料〜1万円程度)から始まり、交渉代理であれば着手金10〜30万円前後、訴訟になれば着手金・報酬金合わせて数十万〜百万円以上が目安です。これに対し、損害賠償の支払い・従業員の退職・採用コストを合算した「放置コスト」は数百万円規模になりうるため、早期に弁護士を入れて問題を小さく解決する方が経済的合理性は高いケースがほとんどです。顧問契約を活用することで、相談のたびに費用が発生しない体制をつくることも有効です。

Q3. 加害者である上司を解雇したい場合、どうすれば良いですか?

パワハラを理由とした懲戒解雇は、就業規則に懲戒事由として明記されていること、事実認定がしっかり行われていること、処分の重さとして相当であることの3点が必要です。証拠不足や手続き不備があると、逆に解雇無効・不当解雇として訴えられるリスクが生じます。解雇の判断は必ず弁護士に相談のうえ、適切な手順を踏んでから実施してください。退職勧奨という選択肢も含め、状況に応じた対応を検討することが重要です。

監修:弁護士法人ブライト 企業法務チーム
大阪・神戸を拠点に企業法務・顧問弁護士サービスを提供。中小企業の法的リスク対応を日々サポートしています。

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※本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、個別の法律アドバイスではありません。具体的な問題については弁護士にご相談ください。

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