この記事の執筆弁護士
弁護士 松本 洋明(弁護士法人ブライト 交通事故主任)
大阪弁護士会所属(登録2010年・修習63期)。骨盤骨折を含む重度外傷事案を多数受任。変形・神経・尿路系の複合障害の併合認定で実績。
この記事の監修弁護士
弁護士 和氣 良浩(弁護士法人ブライト 代表)
大阪弁護士会所属。弁護士法人ブライト代表。
最終更新日:2026年5月28日
この記事の結論(30秒でわかる)
- 骨盤骨折は 変形(12級5号)・股関節可動域制限・神経損傷・尿路系障害 など複数の後遺障害が併発する重度外傷。
- 等級は 5級・7級・8級・10級・11級・12級・14級 と幅広く、併合認定が一般的。
- 骨盤輪の不安定性・坐骨神経損傷・尿道損傷 の有無で等級が大きく変わる。
- 受傷直後のCT・MRI・神経学的検査の網羅的記録が後の認定を左右する。
骨盤骨折は交通事故で最も重度な骨折の一つです。骨盤は内臓・神経・血管を保護する複雑な構造で、骨折時には 骨折そのもの以外に神経損傷・尿路損傷・大量出血 など多臓器に影響します。後遺障害認定でも、複数の障害を併合認定することで等級が高くなることが一般的です。
この記事では、骨盤骨折の等級基準・併合認定・労災連携まで、弁護士法人ブライト交通事故主任の松本洋明弁護士が解説します。後遺障害認定の全体像は 後遺障害認定の完全ガイド をご覧ください。
目次
骨盤骨折の分類と受傷機転
骨盤骨折の分類(AO/OTA分類の概要)
- Type A(安定型):骨盤輪の安定性が保たれている骨折(恥骨枝単独骨折など)
- Type B(部分的不安定型):回旋方向の不安定性あり(オープンブック型・側方圧迫型)
- Type C(完全不安定型):垂直方向の不安定性あり、最重症
受傷機転
- 歩行者事故:車両との衝突で骨盤への直接外力
- バイク事故:転倒・滑走時の骨盤受傷
- 自転車事故:転倒時の側方圧迫
- 車内事故:シートベルト圧迫やダッシュボードへの衝突
- 転落事故:高所からの落下で垂直方向の外力
主な症状と合併症
- 骨盤部の強い疼痛・体動困難・歩行不能
- 下肢の長さ差・回旋変形
- 下肢のしびれ・知覚低下(神経損傷)
- 排尿困難・血尿(尿道損傷・膀胱損傷)
- 大量出血によるショック(救急対応必要)
骨盤骨折で想定される後遺障害等級
| 障害 | 等級 | 赤本慰謝料 |
|---|---|---|
| 骨盤の著しい変形 | 12級5号 | 290万円 |
| 1下肢短縮 5cm以上 | 8級5号 | 830万円 |
| 1下肢短縮 3cm以上 | 10級8号 | 550万円 |
| 1下肢短縮 1cm以上 | 13級8号 | 180万円 |
| 股関節の用を廃した | 8級7号 | 830万円 |
| 股関節著しい機能障害 | 10級11号 | 550万円 |
| 股関節機能障害 | 12級7号 | 290万円 |
| 1下肢の用を全廃 | 5級7号 | 1,400万円 |
| 胸腹部臓器の機能著しい障害 | 5級〜11級 | 290〜1,400万円 |
| 生殖器(胸腹部臓器の機能)の障害 | 9級11号・11級10号 | 290〜690万円 |
複合認定により 5級・7級・8級 相当が一般的です。骨盤骨折は単一の等級では評価が完了せず、必ず併合認定の検討が必要です。
骨盤変形(12級5号)の認定基準
認定基準
12級5号「骨盤骨に著しい変形を残すもの」は、次のいずれかを満たすときに認定されます。
- 裸眼で見て明らかに変形が確認できる(鼠径部・腰部の変形)
- レントゲン・CT上、骨盤輪に明らかな変形・転位 が残存
- 恥骨結合の解離が残存
- 仙腸関節の脱臼が残存
立証材料
- 受傷時から症状固定までの CT・3D-CT
- 骨盤前後像・側面像レントゲン
- 診断書記載:「右側恥骨結合の解離残存」「骨盤輪○cm転位の変形治癒」など具体的記述
股関節可動域制限を併発するケース
骨盤骨折で寛骨臼骨折を伴う場合、股関節への影響 が大きく、可動域制限が残ります。
股関節可動域制限の等級
- 8級7号:可動域が健側の1/10以下、または完全強直
- 10級11号:可動域が健側の1/2以下
- 12級7号:可動域が健側の3/4以下
人工股関節置換に至るケース
寛骨臼骨折が重度で、後発的に 変形性股関節症 や 大腿骨頭壊死 を発症し、人工股関節置換に至ることがあります。置換時の等級評価は 10級11号(可動域に制限が残らなくても置換の事実で)または 8級7号(可動域も制限)。
下肢長差(短縮障害)と骨盤骨折
骨盤輪の垂直方向の不安定性(Type C)が残ると、下肢長差 が生じます。骨盤側で骨が上に移動するため、患側の下肢が短縮します。
下肢短縮の等級
- 8級5号:1下肢を5cm以上短縮
- 10級8号:1下肢を3cm以上短縮
- 13級8号:1下肢を1cm以上短縮
下肢長差の測定
上前腸骨棘(ASIS)から内果までの長さを左右で比較。立位レントゲンによる測定が精度が高くなります。1cm未満は認定対象外。
坐骨神経損傷・腰仙骨神経叢損傷
骨盤骨折に伴って 坐骨神経(L4-S3)や 腰仙骨神経叢 が損傷することがあります。下肢に広範囲のしびれ・麻痺・知覚異常が残ります。
神経損傷の等級
- 5級7号:1下肢の用を全廃したもの(完全麻痺)
- 7級7号:1下肢の用を廃したもの(著しい麻痺)
- 9級10号:神経系統の機能又は精神の障害により、服することができる労務が相当な程度に制限される
- 12級13号:局部に頑固な神経症状
- 14級9号:局部に神経症状
神経損傷の立証検査
- 神経伝導速度検査(NCV):神経の伝導速度低下を客観化
- 針筋電図(EMG):脱神経所見の確認
- 体性感覚誘発電位(SSEP):感覚神経路の評価
- 徒手筋力テスト(MMT):筋力低下の段階評価
- 知覚検査:デルマトームに沿った知覚低下の範囲
尿路系障害(尿道断裂・膀胱破裂)
骨盤骨折に伴う 尿道損傷(特に膜様部尿道) や 膀胱損傷(破裂) は、重要な合併症です。後遺障害として独立評価の対象になります。
尿道損傷の後遺障害
- 5級3号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの(重度の場合)
- 9級11号:胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
- 11級10号:胸腹部臓器の機能に障害を残すもの
尿道狭窄の継続観察
尿道断裂後の修復術を受けても、後に 尿道狭窄 や 排尿障害 が残ることがあります。症状固定時の評価だけでなく、長期経過観察が必要。狭窄が進行した場合は 追加賠償 の余地があります。
排便・性機能障害との関係
骨盤骨折で 仙骨神経・骨盤神経 が損傷すると、排便障害・性機能障害が残ることがあります。これらも後遺障害として独立評価可能です。
排便障害
- 9級11号:胸腹部臓器の機能著しい障害(便失禁等)
- 11級10号:胸腹部臓器の機能障害(軽度の排便困難)
性機能障害
生殖器の機能障害は、自賠法施行令別表第2上 「胸腹部臓器の機能障害」の枠 で評価されるのが実務運用です。
- 9級11号:胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの(生殖機能の重度障害を含む)
- 11級10号:胸腹部臓器の機能に障害を残すもの(生殖機能の軽度〜中等度障害を含む)
- 7級13号:両側の睾丸を失ったもの(重度の独立規定)
性機能障害は本人にとってデリケートな問題ですが、後遺障害として明確に評価対象 です。診断書・専門医意見書で具体的な機能制限を示します。
併合認定で等級が大幅に上がる仕組み
骨盤骨折は複数の障害が同時発生するため、併合認定 で等級が大幅に繰り上がる典型例です。
骨盤骨折の併合認定パターン
| 認定された個別等級 | 併合等級 |
|---|---|
| 変形12級+短縮13級+神経症状14級 | 併合11級 |
| 変形12級+股関節10級+短縮10級 | 併合8級 |
| 股関節8級+下肢神経9級+尿道9級 | 併合5級 |
| 下肢7級+神経9級+尿路11級+性機能11級 | 併合3級 |
併合認定の交渉ポイント
骨盤骨折では、独立した障害として複数を主張 することが、賠償額最大化の鍵です。骨盤変形・股関節制限・下肢短縮・神経損傷・尿路系・排便系・性機能——これらを一つずつ立証する戦略が必要です。
賠償総額シミュレーション
年収500万円・35歳の被害者で各併合等級を取得した場合のシミュレーション(後遺障害分のみ)です。
| 併合等級 | 赤本慰謝料 | 逸失利益(67歳まで) | 合計 |
|---|---|---|---|
| 併合3級 | 1,990万円 | 500万 × 100% × 20.39 ≒ 10,195万円 | 約12,185万円 |
| 併合5級 | 1,400万円 | 500万 × 79% × 20.39 ≒ 8,054万円 | 約9,454万円 |
| 併合7級 | 1,000万円 | 500万 × 56% × 20.39 ≒ 5,709万円 | 約6,709万円 |
| 併合8級 | 830万円 | 500万 × 45% × 20.39 ≒ 4,588万円 | 約5,418万円 |
| 併合11級 | 420万円 | 500万 × 20% × 20.39 ≒ 2,039万円 | 約2,459万円 |
骨盤骨折で並合5級・7級まで上がれば、賠償総額は 1億円規模 に達することもあります。立証の徹底度が桁違いの差を生む領域です。
労災・自賠責の併用と高額賠償戦略
通勤中・業務中の骨盤骨折は、労災後遺障害も併用申請します。労災7級以上は 年金 給付となり、生涯にわたる経済保障となります。
労災年金の支給内容(7級以上)
- 1級:給付基礎日額の313日分/年(生涯)
- 3級:給付基礎日額の245日分/年(生涯)
- 5級:給付基礎日額の184日分/年(生涯)
- 7級:給付基礎日額の131日分/年(生涯)
年金額の試算(給付基礎日額1万円)
| 等級 | 年金額 | 30年での累計(35〜65歳) |
|---|---|---|
| 1級 | 313万円/年 | 9,390万円 |
| 3級 | 245万円/年 | 7,350万円 |
| 5級 | 184万円/年 | 5,520万円 |
| 7級 | 131万円/年 | 3,930万円 |
労災年金と自賠責の賠償を組み合わせると、生涯収入の保障が大きくなります。事案によっては 1億円超 の賠償総額となることもあります。
関連記事:脊髄損傷で四肢麻痺・対麻痺が残ったご家族へ——賠償金1億円超を目指すための3つの争点
ブライトの骨盤骨折 実例
よくある質問(FAQ)
Q1. 骨盤骨折の通院期間はどれくらいですか?
A. 軽症で3〜6ヶ月、重症で1年〜数年。手術を受けた場合や合併症(神経損傷・尿路損傷)がある場合は長期化します。
Q2. 骨盤変形と股関節可動域制限の両方が認定された場合、併合等級は?
A. 12級5号(骨盤変形)と10級11号(股関節可動域)の併合認定なら 併合9級。賠償総額は約4,258万円(年収500万35歳の場合)。
Q3. 骨盤骨折で性機能障害が残った場合、慰謝料は別途認められますか?
A. はい。生殖器障害として 9級17号・11級10号 等の独立認定対象。事案により慰謝料の増額要素にもなります。
Q4. 骨盤骨折後の尿道狭窄が後発的に発生したら?
A. 示談前の発生なら現状の障害として認定。示談後の発生なら事情変更による再交渉の可能性。長期経過観察が必要です。
Q5. 骨盤骨折で人工股関節置換が必要になった場合は?
A. 置換した事実だけで 10級11号、可動域制限を伴えば 8級7号。耐用年数(15〜20年)を考慮した将来再置換費用も賠償の対象となります。
Q6. 骨盤骨折は労災を先に申請すべきですか?
A. 通勤災害・業務災害なら原則 労災優先。特別支給金・特別給与金が損益相殺対象外で大きく残るためです。労災年金(7級以上)の対象となることもあります。
まとめ
骨盤骨折は 骨折・神経・尿路・性機能・排便 など複数臓器系統に影響する重度外傷です。後遺障害認定では複数の障害を独立評価し、併合認定で等級が大幅に上がる ことが一般的。賠償総額が1億円規模になる事案も珍しくありません。
立証のポイントは、受傷直後のCT・MRI・神経学的検査・尿路系検査の 網羅的記録、そして 個別の障害を独立して主張する 戦略です。単一の等級認定で終わらせず、複数障害の併合認定を取りに行くのが弁護士の役割です。
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