この記事の執筆者・監修者
笹野 皓平(ささの こうへい)
弁護士法人ブライト|労災事故部統括弁護士
大阪弁護士会所属 登録番号45457|修習64期(登録2011年・弁護士歴15年)
労災事故・安全配慮義務違反の損害賠償を専門に担当。フォークリフト・機械事故による重篤災害の解決実績多数。
監修
和氣 良浩(わけ よしひろ)
弁護士法人ブライト 代表弁護士|大阪弁護士会所属
この記事のポイント
- フォークリフトの後退時死角による接触事故は「バックブザー未設置・警報装置故障」「後方確認の安全手順未確立」が会社側の義務違反となる
- 後退時接触事故で被災者に一定の過失があっても、会社の安全管理義務違反が認定されれば損害賠償を請求できる
- 労働安全衛生規則第151条の3(作業計画)・同151条の11(立入禁止)・同151条の12(誘導者配置)が会社責任の法的根拠
- 後退時事故では誘導者(合図者)の不配置が最大の争点になりやすく、これが立証できれば大幅増額につながる
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フォークリフト後退時死角事故の実態
フォークリフトによる労働災害の中でも、後退時の死角による接触・轢かれ事故は特に多発しています。厚生労働省の統計では、フォークリフト関連の死傷事故のうち「激突され」の類型が一定割合を占めており、その多くは後退時に作業員の存在を確認できなかったことが原因です。
フォークリフトは荷物を前面のフォーク(爪)に積んで走行する構造上、前方視界が荷物で遮られるため、後退走行が多用されます。後退中は運転者の後方確認が困難であり、作業員が後方に立ち入っていることに気づかずに衝突するという事故パターンが繰り返されています。
典型的な後退・死角事故のパターン
- 通路での後退時接触:狭い通路でフォークリフトが後退中、後方から歩いてきた作業員を跳ねる
- 荷置き作業後の後退:荷置き完了後に後退する際、後方で作業していた者に気づかず接触
- 交差点での死角衝突:倉庫内のT字路・交差点でバック走行中、直進してきた歩行者と衝突
- 積み込み・積み降ろし中の後退:トラックの荷台への積み込み・積み降ろし作業中に後退する際に接触
後退時死角事故で会社が問われる安全管理義務違反
誘導者(合図者)を配置しなかった義務違反
労働安全衛生規則第151条の12は、フォークリフトの誘導者に関して、「車両系荷役運搬機械等を用いて作業を行うときは、当該機械が接触することにより労働者に危険が生ずるおそれのある箇所に労働者を立ち入らせてはならない」と定め、誘導者の配置義務を規定しています。後退時に誘導者を配置していなかった事実は、この条文違反として会社の過失を直接基礎付けます。
弁護士法人ブライトが対応した実案件では、後退時に誘導者が配置されていなかった事実を、作業計画書の記載内容および現場にいた他の作業員の証言で立証し、会社の過失を認定させた経緯があります。「誘導者がいなくても普段は問題なかった」という会社側の主張に対して、条文を根拠に義務違反を明確に指摘することで、交渉を有利に進めました。
バックブザー(後退警報装置)の故障・未設置
フォークリフトのバックブザーは後退時に自動的に鳴動する安全装置です。この装置の故障・不作動を放置したまま稼働させた場合、作業員への危険の警告義務を怠ったとして安全配慮義務違反が認定されます。バックブザーが「壊れていることを知っていたが修理していなかった」という事実は、会社の悪意・重大な過失として評価され、過失相殺の際に被災者側に有利に働きます。
点検記録(フォークリフトの月次・週次点検表)にバックブザーの「不具合あり」「要修理」などの記載がある場合、または過去に複数回の不具合が記録されている場合は、会社が危険を認識していながら放置したという立証に直結します。
作業通路・歩車分離の不備
労働安全衛生規則第151条の9は、最高速度・走行路の制限を定め、第151条の11では作業区域内への労働者の立入禁止を規定しています。フォークリフトが走行する通路と歩行者が通行する通路が分離されておらず(ゾーニング・マーキングの未整備)、同じ空間で人とフォークリフトが混在していた場合、この条文に基づく義務違反が成立します。
通路マーキング(床の塗装・ラインテープ)の有無・状態は、現場写真・安全点検記録で確認できます。後退時事故が起きた現場の通路設計に問題があった場合は、弁護士が現場確認を申し入れることが有効です。
被災者に過失があっても損害賠償は請求できる
後退時の死角事故では、「被災者が立入禁止区域に入っていた」「後方から近づいてきた被災者が不注意だった」などと会社側が主張し、被災者の過失割合を高くする交渉戦略をとることがあります。
しかし重要なのは、被災者に一定の過失があっても、会社側の義務違反が認定されれば損害賠償請求が成立するという点です。過失相殺(民法722条2項)によって受取額が減額されることはあっても、請求権は失われません。
実務では、誘導者未配置・バックブザー不作動・通路マーキング不備など会社側の複数の義務違反が立証できる場合、過失相殺割合を被災者3割・会社7割程度にとどめることができるケースもあります(専門書『労働関係訴訟Ⅱ 最新裁判実務大系』青林書院・2018 参照)。
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後退事故で請求できる損害賠償の項目と相場
後退・死角事故によって怪我を負った場合、会社に請求できる損害賠償の項目は以下のとおりです。
| 損害項目 | 内容 | 労災保険との関係 |
|---|---|---|
| 傷害慰謝料 | 入院・通院中の精神的苦痛への賠償 | 労災保険に対応項目なし・全額請求可 |
| 後遺障害慰謝料 | 後遺障害等級認定後に請求 | 労災保険に対応項目なし・全額請求可 |
| 逸失利益 | 将来収入の損失 | 障害補償給付との損益相殺あり(超過分を請求) |
| 休業損害差額 | 労災補償給付(60%)との差額20〜40% | 損益相殺後の差額を請求 |
| 治療費・交通費 | 自費診療・交通費等 | 療養補償でカバーされない分を請求 |
証拠収集のポイント
後退時死角事故の損害賠償請求に向けた証拠収集では、以下を優先的に確保します。
フォークリフトの点検記録・整備記録
バックブザーの不具合履歴、整備記録(修理台帳)は企業が保管する法定書類または社内管理書類です。弁護士会照会または訴訟手続きにおける文書提出命令で取得できます。点検記録に不具合の記録がある場合、会社が危険を認識していたことの直接証拠になります。
労働基準監督署の調査書類
フォークリフトによる死傷事故は、労働安全衛生法に基づき会社が労働基準監督署へ死傷病報告書を提出する義務があります。この報告書には事故の態様・原因・再発防止措置が記載されており、情報公開請求で取得することができます。会社が「作業者の不注意」と記載していた場合でも、その内容が事実と異なれば反論の材料になります。
現場のCAD図・写真・動画
事故発生現場の通路設計・フォークリフト動線・立入禁止表示の有無を記録した写真・動画は重要な証拠です。事故直後は会社が現場を改修することがあるため、できるだけ早期に現場の状況を記録・保全することが重要です。
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後退事故の事例紹介
事例. フォークリフト後退接触・後遺障害14級・会社側過失7割で解決
倉庫内でフォークリフトが後退中に気づかず接触され、腰部・頸部に損傷を受けた事例(30代男性・物流作業員)。会社側は「被災者が立入禁止区域に自分から入ってきた」と主張しましたが、ブライトは誘導者の不配置・バックブザーの点検不備(月次点検で「要確認」が複数回記録)を証拠化し、会社側過失7割を維持して交渉を進め、後遺障害14級に対して解決金を受領しました。
後退時事故では会社側が「被災者の不注意」を最大の盾として使うため、会社側の義務違反の証拠をいくつ積み上げられるかが交渉の核心になります。弁護士が早期に証拠保全に動くことが結果を左右します。
フォークリフト後退事故で弁護士に依頼するメリット
- 条文・判例に基づく交渉力:誘導者未配置・バックブザー不具合・通路マーキング不備など、具体的な条文違反を根拠に会社と交渉できる
- 証拠収集のスピードと範囲:弁護士会照会・情報開示請求で、個人では取得できない社内記録を取得できる
- 過失割合の交渉:会社側が「被災者の過失が大きい」と主張してきても、適正な割合に引き下げる交渉ができる
- 後遺障害等級認定のサポート:等級認定前から関与することで、申請書類の記載内容を最適化できる
フォークリフト後退事故の詳しい損害賠償手順については、フォークリフト事故の労災・損害賠償の総合解説もご参照ください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. フォークリフトに後ろからぶつかられました。会社を訴えられますか?
はい、フォークリフトの後退時接触事故は会社に安全配慮義務違反(誘導者不配置・バックブザー不備・通路マーキング不備等)を問える典型的なケースです。まず事故の状況・現場の安全設備の状態を弁護士に伝えていただくことで、請求の見通しを判断できます。
Q2. 会社から「あなたが立入禁止区域に入ったからだ」と言われました
被災者に過失があっても会社の義務違反が認定されれば損害賠償は請求できます(過失相殺で減額されるだけ)。また、「立入禁止区域」が実際にマーキング・表示されていたかどうかも確認が必要です。適切な表示がなかったなら会社側の主張は弱くなります。弁護士に相談して事実関係を整理することを推奨します。
Q3. 事故後に会社に言われた内容で示談書にサインしてしまいました
示談後でも、示談の意思表示が錯誤(重大な勘違い)や強迫(脅し)を原因とするものであれば取消しが可能な場合があります。また、後遺障害が残ることが想定されていなかった場合など示談の範囲外の損害があれば別途請求できる余地もあります。まず弁護士に示談書の内容を見てもらい、追加請求の可否を確認することをお勧めします。
Q4. バックブザーが壊れていたことはどうやって証明しますか?
フォークリフトの月次・週次の点検記録(法定書類または社内書類)に「不具合」「要修理」などの記載がある場合が最も有力です。弁護士会照会または訴訟手続きの文書提出命令で取得できます。現場の他の作業員の証言も重要な証拠になります。
まとめ
- フォークリフト後退時の死角接触事故は、誘導者不配置(安衛則151条の12)・バックブザー不作動・通路マーキング不備が会社の安全配慮義務違反となる
- 被災者に一定の過失があっても、会社側の義務違反が立証されれば損害賠償請求は可能(過失相殺による減額にとどまる)
- バックブザーの点検記録・労基署調査書類・現場写真など、早期の証拠保全が請求額を左右する
- 弁護士の介入で誘導者未配置・装置不備を根拠に過失相殺割合を適正化し、慰謝料・逸失利益の増額が可能
フォークリフト後退事故でお困りの方は、弁護士法人ブライトの労災専門チームにご相談ください。全国対応・電話・Zoom相談可。
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