従業員の不貞行為に会社はどう処分できる?判断を誤らないための実務ガイド

従業員の不貞行為に会社はどう処分できる?判断を誤らないための実務ガイド

「うちの社員が社内で不倫をしているらしい」という話が耳に入ってきたとき、社長はまず何を考えるでしょうか。「放置はできない」「でも処分したら逆に訴えられないか」「そもそも会社が口を出していいのか」——そういった答えのでない問いが頭を巡り、結局「様子を見よう」と先送りになるケースは少なくありません。

しかし、その「様子見」が後々の対応を一気に難しくします。職場内の不貞行為は、放置すればするほど「会社は知っていたのに何もしなかった」という事実として積み上がり、被害を受けた側からも加害者側からも、会社の責任を問われる場面をつくり出します。

この記事では、従業員の不貞行為に対して会社がどこまで処分できるのか、どんな準備が必要なのか、そして処分を誤った場合に何が起きるのかを、実務の視点から整理します。

「私生活の問題」で片付けてはいけない理由

不貞行為は本来、当事者間の民事上の問題です。配偶者のいる人が別の人と関係を持つことは、配偶者への不法行為として慰謝料請求の対象になりますが、それは個人対個人の話であり、会社には関係がないとも言えます。

ところが、相手が同じ職場の従業員となると話は変わります。なぜなら、職場内の不貞関係は、当事者以外の従業員にも職場秩序という形で影響を与えるからです。特に、管理職と部下の関係、同じチームのメンバー同士、人事権を持つ上司と評価される立場の部下——こうした関係性の中で起きた場合、他の従業員が感じる不公平感、ハラスメントとの境界線の曖昧さ、職場環境の悪化といった問題が必ず付随します。

また、職場内の不貞関係が破綻したとき、当事者の一方が退職するケース、ストーカー被害に発展するケース、被害者側の家族が会社に乗り込んでくるケースなども現実に起きています。「二人の問題だから」と距離を置いていた会社が、突然の紛争の当事者になる——これが社長が最初に知っておくべき現実です。

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なぜ会社の処分判断が揺れるのか——判断ミスの構造

【図解】「私生活の問題」で片付けてはいけない理由への対応フロー

① 問題発生
② 事実確認・記録
顧問弁護士に相談
④ 対応策の実行

※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。

不貞行為を理由とした懲戒処分を検討するとき、多くの会社が「どこまで踏み込んでいいのかわからない」という状態に陥ります。その理由は、三つの構造的な問題にあります。

第一に、就業規則の規定が曖昧なことです。多くの会社の就業規則には「職場の秩序を乱す行為」「会社の名誉を傷つける行為」といった文言が入っています。しかし、不貞行為がこの文言に当てはまるかどうかは、行為の態様や職場への影響によって判断が分かれます。規定が抽象的なまま処分に踏み切ると、「規定に明記されていない行為を理由とした処分は無効」という判断を裁判所から受けるリスクがあります。

第二に、「調査する権限があるのか」という迷いです。従業員のプライベートに会社が立ち入ることへの抵抗感から、十分な事実確認をしないまま、あるいはしすぎて個人情報保護の問題を招く形で、調査がうまく機能しないケースがあります。

第三に、処分の重さの判断が難しいことです。不貞行為を理由とした処分は「懲戒解雇」から「譴責(けん責)」まで幅があります。行為の内容や職場への影響を正確に評価しないまま重い処分をすると、後から「処分が重すぎる」として無効とされるリスクを抱えます。

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処分が有効になる条件とならない条件

裁判所が懲戒処分の有効性を判断するとき、以下の点を総合的に見ます。

  • 就業規則に根拠規定があるか:処分の根拠となる行為が就業規則に明記されていることが大前提です。「職場秩序を著しく乱す行為」といった文言が不貞行為に適用できるかどうかも、規定の書き方と行為の態様によって判断が分かれます。
  • 職場秩序への具体的な影響があったか:私生活上の不貞行為が職場に影響を与えていなければ、重い処分は認められにくい傾向があります。職場での公然化、業務への支障、他の従業員への悪影響といった事実が必要です。
  • 適正な手続きを踏んでいるか:本人への事実確認、弁明の機会の付与、懲戒委員会等での審議——これらの手続きを経ずに処分を下すと、手続き上の瑕疵として処分が無効になる可能性があります。
  • 処分の重さが行為に見合っているか:懲戒解雇は最も重い処分です。不貞行為の態様、職場への影響の大きさ、本人の反省態度などを考慮せずに最重処分を選択すると、「解雇権の濫用」として無効とされるリスクがあります。

大阪高等裁判所の平成6年の判例(平成5年(ネ)第1324号)では、不貞行為が職場内の秩序を乱し会社の名誉・信用を著しく傷つけるものとして、諭旨解雇を有効とした判断が示されています。一方で、神戸地方裁判所の平成14年の判例(平成14年(ワ)第11号)では、行為が職場秩序への具体的影響を欠くとして解雇が無効とされています。同じ「不貞行為」でも、事実の中身と手続きによって全く異なる結果になることがわかります。

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問題が起きる前にできること——就業規則と体制の整備

不貞行為に限らず、職場内の問題行動への対処は「何か起きてから考える」では遅すぎます。会社が取れる予防策は明確です。

就業規則の具体化です。「職場の秩序を乱す行為」という抽象的な文言だけでなく、「職場内での交際関係が業務に支障を生じさせた場合」「職場内の人間関係を利用した不適切な関係」など、具体的な行為類型を就業規則に書き込むことで、処分の根拠を明確にできます。また、処分の種類と基準(どの行為にはどの処分が対応するか)を規定に落とし込むことで、処分判断のブレを減らせます。

相談窓口と通報制度の設置です。職場内の問題行動を会社が把握するためには、従業員が安心して申告できるルートが必要です。内部通報制度や相談窓口を整備しておくことで、問題が大きくなる前の段階で会社が動けるようになります。

管理職向けの研修です。問題の一報が管理職に入ることが多い現実を踏まえると、管理職が「これは会社として動くべき問題か」を判断できる教育が必要です。放置してしまう管理職の存在が、後から会社の組織的な黙認とみなされるリスクもあります。

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問題発生時の対応フロー——証拠の残し方が勝負を分ける

不貞行為の情報が会社に入ってきたとき、まず確認すべきは「それが職場秩序に影響を与えているか」です。プライベートな問題のまま完結しているのか、職場に波及しているのかによって、会社が取るべき対応は変わります。

情報の確認から処分に至るまでの流れを整理すると、以下のようになります。

  1. 事実の初期確認:誰が何を知っているのかを把握する。申告者、目撃者、関係者のそれぞれから、別々に聴き取りを行う。この段階でのメモや記録が後の証拠になります。
  2. 当事者への事実確認と弁明の機会付与:当事者に対して、事実を確認する面談を行う。この際、相手が否定した場合も含めて、面談の日時・内容・発言を記録します。録音は事前に告知しなくても行えますが、後のトラブルを避けるためにも、記録を残す形でのメモ作成が基本です。
  3. 懲戒委員会または審議体制の設置:就業規則に規定がある場合は、委員会を開催した記録を残します。
  4. 処分の決定と通知:処分内容を文書で通知します。口頭だけの通知は後から「言った・言わない」になるため、必ず書面を交わします。

証拠は、紛争になってから急に作れるものではありません。特に「会社が事実を把握したタイミング」「本人が弁明する機会を与えられたか」「処分の根拠となった事実が何か」は、後に訴訟になった場合に必ず問われます。この三点を書面で残しておくことが、処分を守る最低限の防衛線です。

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失敗事例の構造——なぜ相談が遅れ、証拠が残らなかったのか

実際の相談の中で多く見られる失敗パターンには、共通した構造があります。

「噂が入ってきた段階で動けなかった」パターンです。不貞行為の情報は、最初は噂や伝聞として会社に届くことがほとんどです。この段階では「証拠もないのに動けない」という判断が働き、事実確認を先送りにします。その間に当事者間の関係が破綻し、一方が退職を希望したり、配偶者が職場に乗り込んでくるなどの二次的な問題が発生します。会社が「何もしていなかった」状態のまま紛争が始まるため、後手に回ります。

「とにかく早く決着させたかった」パターンです。問題を早く終わらせたい気持ちから、手続きを省略して処分を下してしまうケースです。弁明の機会を与えなかった、懲戒委員会を開かなかった、処分通知を口頭だけで済ませた——こうした手続き上の省略が、後から処分を無効とする根拠になります。処分した側の会社が、逆に訴えられる立場になります。

「人事担当者だけで抱え込んだ」パターンです。デリケートな問題であることから、情報を最小限の人数に絞る判断は正しいのですが、その結果、法的な観点からのチェックが入らないまま処分が進んでしまいます。弁護士への相談が「処分した後」になるのが最も多いパターンです。処分の取り消しや損害賠償交渉に対応する段階で初めて弁護士を使っても、すでに打てる手は限られています。

揉めてから弁護士を使うのではなく、揉めないように弁護士を使う——この考え方が、処分の場面でも最も有効に機能します。

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うちの会社ではどう考えればいいのか——規模・業種別の視点

不貞行為への対応に「一律の正解」はありません。会社の規模、業種、当事者の役職、行為の態様によって、適切な処分の重さも手続きの設計も変わります。

ただし、どの会社にも共通して言えることが二つあります。

一つ目は、「何もしない」は選択肢ではないということです。問題を知りながら放置した事実は、後から必ず会社の不作為として問われます。被害者がいる場合は特に、安全配慮義務の観点から会社の責任が問われる場面が出てきます。

二つ目は、「処分の重さ」より「手続きの適正さ」が先だということです。どんなに行為が悪質でも、手続きが不適正であれば処分は無効になります。逆に、手続きをきちんと踏めば、軽めの処分であっても会社の判断として認められます。

社長がまず確認すべきは、「今の就業規則で、この行為に対して処分できる根拠があるか」です。規定がなければ処分の前に規則の整備が必要です。規定があれば、手続きのフローを専門家と確認した上で動く。この順番を守ることが、処分の有効性を守ることに直結します。

再発防止策——一度の対応で終わらせない体制へ

一件の不貞行為問題への対応が終わった後、会社に残るべきものは何でしょうか。それは、「次に同じ問題が起きたときに、同じ判断ができる体制」です。

  • 就業規則への事後反映:今回の対応で明確になった「規定の曖昧さ」「手続きの抜け」を就業規則に反映します。処分基準の明文化と、手続きフローの規定化が具体的な作業です。
  • 調査・処分の記録の保存:今回の対応のプロセス記録(面談記録、委員会議事録、処分通知書)を保存します。後に同種の案件が起きたときの参照資料になるとともに、訴訟リスクへの備えにもなります。
  • 相談窓口の見直し:今回の問題がどのルートで会社に届いたかを確認し、早期発見のための通報・相談ルートを強化します。
  • 管理職へのフィードバック:今回の対応から得た教訓を、管理職向けの教育に組み込みます。「どんな状態になったら会社に報告すべきか」の判断基準を共有します。

職場内の問題行動への対応は、一件ごとに会社の対応力が積み上がっていくものです。その積み上げを組織として残す仕組みを作ることが、再発防止の本質です。

不貞行為への懲戒処分は、一度の対応で終わる問題ではありません。就業規則の整備・調査手続きの適正化・相談体制の構築——これらを継続的に見直す体制が必要です。弁護士法人ブライトでは、顧問先141社の実名を公開し、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の弁護士が、就業規則の条項整備から個別案件の処分判断まで一貫してサポートしています。「みんなの法務部」として、困ったときだけでなく、問題が起きる前から継続的に経営判断を支えることを基本としています。単発の法律相談ではなく、職場環境を整える伴走者としての顧問弁護士体制を検討されている経営者の方は、ぜひ一度ご相談ください。

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よくある質問

Q1. 職場内の不貞行為が発覚しましたが、当事者が二人とも独身の場合でも処分できますか?

独身同士の交際そのものを理由として懲戒処分をすることは、私生活への不当な干渉となる可能性が高く、処分の有効性が認められにくいです。ただし、その関係が職場秩序に具体的な支障を与えている場合(業務への影響、他の従業員への悪影響など)であれば、「職場秩序を乱す行為」として処分の根拠を構築できる余地があります。処分を検討する前に、職場への影響の事実確認が必要です。

Q2. 就業規則に不貞行為に関する規定がない場合、処分はできませんか?

「不貞行為」という言葉が直接書かれていなくても、「職場の秩序を著しく乱す行為」「会社の信用を傷つける行為」などの規定があれば、それを根拠とすることは可能です。ただし、その規定が不貞行為の態様に適用できるかは個別の判断が必要です。規定が曖昧であれば、処分と並行して就業規則の整備を進めることをお勧めします。

Q3. 懲戒処分を下した後で、相手から「処分無効」と訴えられた場合、会社はどう対応すればいいですか?

処分が有効かどうかは、①就業規則上の根拠の有無、②手続きの適正さ(弁明機会の付与など)、③処分の相当性(重さのバランス)の三点で判断されます。処分前に書面を保全し、手続きの記録を残していれば、これらの点を主張する根拠が揃います。訴えを受けた段階で初めて弁護士に相談するのではなく、処分を検討する段階から弁護士と連携しておくことが、最もリスクを下げる方法です。

Q4. 不貞行為の当事者が上司と部下の関係だった場合、会社の責任も問われますか?

上司と部下の関係での不適切な関係は、ハラスメント(パワハラ・セクハラ)の問題と重なることがあります。この場合、会社の安全配慮義務違反や使用者責任として、被害を受けた従業員から会社が損害賠償を請求される可能性があります。特に、上司の立場を利用した関係である場合や、会社が問題を知りながら放置していた場合は、会社の責任が認められやすくなります。早期の事実確認と適切な対応が、会社の責任を限定する上で重要です。

和氣良浩 弁護士

この記事の監修者

和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士

/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒

専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生

不貞行為への対応・問題社員への懲戒処分・就業規則の整備など、経営上の課題を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先141社の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:06-4965-9590(平日9:00〜18:00)

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