カスハラ防止条例と法改正の動向|東京都条例の内容・企業が今すぐすべき対応【弁護士解説】

カスハラ防止条例と法改正の動向|東京都条例の内容・企業が今すぐすべき対応【弁護士解説】

2025年4月施行の東京都条例と今後施行されるカスハラ防止法について、企業が取るべき具体的な対策を徹底解説。カスタマーハラスメントから従業員を守るための基本方針策定から、対応マニュアルの作成、研修の実施まで、企業が今すぐ始めるべき実践的な対策をわかりやすく紹介します。顧客と従業員の健全な関係構築のために必要な施策と、法令遵守のポイントを網羅した必読ガイドです。

カスハラを放置した企業が直面する3つのリスク|東京都条例・カスハラ防止法で変わる企業対応

この記事でわかること:

  • カスハラを放置し続けた場合に発生する、具体的な3つのコストとリスク
  • 東京都条例・カスハラ防止法が企業に求める対応義務の内容
  • 今すぐ始められる実務対策と、顧問弁護士が早期介入できるポイント

「うちの会社には関係ない」と思っていませんか?

顧客からの理不尽なクレームや長時間の電話対応、SNSへの誹謗中傷投稿――こうした「カスタマーハラスメント(カスハラ)」に悩む現場は、業種を問わず広がっています。

しかし、こんなふうに考えて対応を先送りにしていませんか?

  • 「クレーム対応はそれが仕事のうちだから、社員にもう少し頑張ってもらおう」
  • 「大ごとにすると余計こじれそうで、なんとなく耐えてしまっている」
  • 「カスハラの法律ってまだ整備されていないと思っていた」

もしこれらに一つでも当てはまるなら、今すぐ見直すことをお勧めします。2025年現在、東京都のカスハラ防止条例が施行済みであり、国レベルのカスハラ防止法の整備も急速に進んでいます。法的な枠組みが整うにつれ、「対応していなかった」ことで生じる企業リスクは確実に大きくなります。

この記事では、カスハラを放置した場合に企業に何が起きるのかを「コスト」の視点で具体的に解説し、今すぐ始められる実務対策をお伝えします。

カスハラ対応を放置すると発生する3つのコスト

コスト①:従業員の離職・採用コスト(1人あたり50〜100万円以上)

カスハラが放置された職場で最初に起きるのは、従業員の疲弊と離職です。

厚生労働省の調査によると、直近3年間にカスハラを経験した労働者の約20〜30%が「転職を検討した」と回答しています。対応フローがなく、上司も助けてくれない状況では、真面目で顧客対応が丁寧な社員ほど先に燃え尽きて辞めていきます。

1人の中途採用にかかるコストは、求人広告費・採用担当者の工数・研修費用を合わせると50〜100万円以上ともいわれます。さらに戦力化まで半年〜1年かかることを考えると、離職の連鎖は経営に直結するダメージです。

また、「この会社はカスハラが多い」という評判がSNSや口コミサイトに広まると、採用自体が困難になります。人手不足が深刻な業界では、これは死活問題です。

コスト②:メンタル不調による休職・労災リスク(損害賠償数百万円〜)

カスハラによる精神的ダメージが積み重なると、従業員がうつ病などのメンタル不調に陥るケースがあります。この場合、会社が安全配慮義務を果たしていなかったと判断されると、損害賠償請求の対象になります。

裁判例では、顧客対応のストレスが原因で発症したうつ病について、会社側の安全配慮義務違反が認定され、数百万円規模の賠償が命じられたケースも存在します。

カスハラ対応マニュアルがない・従業員へのフォロー体制がない・上司への相談窓口が機能していない、といった状態は「義務を怠った」と判断されやすい状況です。これは今後の法整備が進むほど、企業が問われる責任が重くなります。

また、労災認定がなされた場合、会社の労災保険料率が上昇する可能性もあります。

コスト③:法令違反・行政指導・ブランド毀損(事業全体への打撃)

東京都の「カスタマー・ハラスメント防止条例」は2024年に成立し、都内で事業を行う企業に対して、カスハラ防止のための措置を講じることを義務付けています。具体的には、基本方針の策定・従業員への研修実施・相談窓口の設置などが求められます。

さらに、国レベルでのカスハラ防止法の制定に向けた議論も加速しており、義務化の範囲は今後全国に広がる見通しです。

対応を怠った企業は、行政からの指導・勧告を受けるリスクがあるだけでなく、「カスハラを放置している企業」としてメディアやSNSで取り上げられた場合の風評被害・ブランド毀損は計り知れません。BtoC事業においては、売上に直接影響する問題です。

実際に起きた事例:放置が招いた負の連鎖

ある物流業の会社では、業務に精通しているという理由で、顧客への強引な対応や部下への高圧的な言動が常態化していた社員を長年放置していました。この社員は取引先からのクレームにも独断で対応しており、いわば「カスハラを受けながら、社内でもハラスメントをしている」という状況でした。

結果として、同じ部署に配属された社員が次々と退職し、10名以上が会社を去りました。そして数年後、その社員自身が退職。退職後に弁護士を通じて未払い残業代300万円超の請求書が届きました。就業規則に固定残業代の定めがなく、「残業込みの給与」という慣習だけで運用していたことが根拠になったのです。

さらに、その交渉の最中に、過去に退職した別の社員3名も別の弁護士事務所を通じて残業代請求を開始。最終的に150〜200万円での和解となりました。

カスハラ対応の放置は、従業員の離職を招き、その離職が今度は労務問題という形で会社に跳ね返ってくる――この事例はその典型です。問題社員の放置リスクについては、問題社員を放置していた会社が直面した3つのリスクでも詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。

東京都条例とカスハラ防止法が企業に求める対応の全体像

カスハラの定義を正確に押さえる

カスハラとは、顧客・取引先などが、商品・サービスへの不満を背景に、社会通念上不相当な言動によって従業員に著しい精神的・身体的苦痛を与えたり、業務に支障を及ぼす行為のことです。

具体的には以下のような行為が該当します。

  • 長時間にわたる電話・来店での執拗なクレーム
  • 「クビにしろ」「土下座しろ」などの過剰な要求・脅迫的言動
  • SNSへの従業員個人の誹謗中傷投稿
  • 正当な理由のない返金・交換・謝罪要求の繰り返し
  • 暴力・暴言・性的な言動

「クレームかカスハラか」の判断が現場任せになっていると、対応が属人化し、被害が拡大します。企業として明確な基準を設けることが出発点です。

東京都条例が義務付ける企業の対応措置

東京都のカスハラ防止条例では、都内で事業を行う事業者に対して、以下の措置を講じることを義務付けています。

  • 基本方針の策定・周知:「当社はカスハラを許容しない」という姿勢を文書化し、社内外に明示する
  • 相談・報告体制の整備:従業員がカスハラ被害を安心して申告できる窓口を設ける
  • 被害発生時の迅速な対応:被害が確認された場合に組織として対処するフローの構築
  • 従業員への教育・研修:カスハラの知識と対応方法を定期的に教育する

これらは「やったほうがいい」ではなく「やらなければならない」義務です。違反した場合の勧告・公表の仕組みも条例に盛り込まれており、実効性があります。

企業が今すぐ始めるべき4つの対策ステップ

ステップ1:カスハラ基本方針の策定と社内外への周知

まず「当社はカスハラを容認しない」という方針を文書で定めます。これをWebサイトや店舗・オフィスに掲示することで、顧客・取引先への抑止効果も生まれます。また、従業員にとっては「会社が守ってくれる」という安心感につながり、離職防止にも効果的です。

ステップ2:カスハラ対応マニュアルの整備

現場が迷わないよう、以下の内容を盛り込んだマニュアルを作成します。

  • カスハラ行為の具体例と判断基準
  • 通常クレームとカスハラの切り分け方
  • 初期対応・エスカレーションのフロー(誰に報告し、誰が交代するか)
  • 録音・記録の方法と保管ルール
  • 悪質なケースの対応手順(警察・弁護士への相談を含む)

マニュアルは「作って終わり」にせず、定期的に見直す仕組みを作ることが重要です。

ステップ3:従業員への研修と相談窓口の設置

カスハラ対応は個人の忍耐力に依存させてはいけません。定期的な研修で判断基準と対応スキルを共有し、「一人で抱え込まない」文化を作ることが必要です。また、被害を報告できる相談窓口(上司・人事・外部窓口のいずれか)を明示し、実際に機能させることが求められます。

ステップ4:悪質なケースへの毅然とした対応と法的対処

暴力・脅迫・過度な要求が続く場合は、取引・来店・電話の拒否を文書で通知することが有効です。それでもエスカレートする場合は、警察への相談・弁護士を通じた内容証明郵便の送付・仮処分(接近禁止命令)の申立てなど、法的手段を躊躇なく検討すべきです。

「法的に対処する」という姿勢を示すだけで、多くの場合は行動が収まります。逆に「どうせ何もしないだろう」と思われると、被害はエスカレートします。

顧問弁護士がいれば、この段階で防げた

カスハラ対応で問題が大きくなる企業の多くに共通するのが、「問題が起きてから弁護士に相談している」という点です。

先ほど紹介した物流業の事例も、問題社員の言動とカスハラ被害への対応を早期に整理し、就業規則・マニュアル・相談フローを事前に設計していれば、10名もの離職と数百万円規模の残業代請求という最悪の事態は避けられた可能性があります。

顧問弁護士がいる場合、次のような早期介入が可能です。

  • カスハラ基本方針・対応マニュアルのリーガルチェックと整備支援
  • 悪質なカスハラ事案への対応方針のアドバイス(法的措置の判断)
  • 従業員が被害を訴えた際の会社としての対応フロー設計
  • 相談窓口として機能する外部弁護士の提供
  • 問題が訴訟に発展した場合の初動対応

事が起きてから弁護士を探していては、対応が後手に回ります。顧問弁護士の必要性や費用対効果については、顧問弁護士は必要?重要性・利用すべき場面・費用対効果の判断基準で詳しく解説しています。

また、万が一カスハラが原因で従業員が退職を希望する場合や、問題のある社員の整理が必要になった場合の進め方については、退職勧奨で違法と言われないための進め方も参考にしてください。

まとめ:カスハラ対応の先送りは「コスト」になる

カスハラを放置することで発生する主なコストを整理すると、次のとおりです。

  • 従業員の離職・採用コスト(1人あたり50〜100万円以上)
  • メンタル不調・労災による損害賠償(数百万円〜)
  • 法令違反による行政指導・ブランド毀損(事業全体への打撃)

東京都条例はすでに施行されており、国レベルの法整備も進んでいます。「まだ義務ではないから」と放置できる時代は終わりつつあります。

まずは基本方針の策定とマニュアル整備から始めましょう。法律の専門家に相談しながら進めることで、対応の抜け漏れを防ぎ、万が一の場面での対処も確実になります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 東京都以外の企業でも、カスハラ対応は必要ですか?

はい、必要です。東京都条例は都内で事業を行う企業が対象ですが、国レベルのカスハラ防止法の整備も進んでおり、全国の企業が対象になる見通しです。また、都道府県レベルでも同様の条例を検討する動きが広がっています。現時点で条例が適用されない地域の企業でも、従業員保護のための安全配慮義務(労働契約法5条)はすでに全国共通で適用されます。カスハラを放置して従業員が精神的被害を受けた場合、安全配慮義務違反として損害賠償を請求されるリスクは地域を問わず存在します。

Q2. 今からカスハラ対策を整備しても間に合いますか?

間に合います。ただし、すでにトラブルが発生している場合は、事後対応と並行して体制整備を急ぐ必要があります。カスハラ基本方針の策定・マニュアル整備・研修実施は、専門家のサポートがあれば数週間〜数ヶ月で整備可能です。重要なのは、整備した内容を証拠として残しておくことです(策定日・周知方法・研修記録など)。これが万が一の際に「会社として対応していた」ことを証明する材料になります。対応を迷っている時間がそのままリスクになるため、まずは弁護士への相談から始めることをお勧めします。

Q3. カスハラ対策の整備にかかる費用はどのくらいですか?

自社で整備する場合の直接的な費用は、研修費用(外部講師を呼ぶ場合は1回あたり5〜20万円程度)や、マニュアル作成の人件費などが主なものです。弁護士に依頼する場合、スポット相談であれば1〜3万円程度、就業規則・マニュアルの作成・リーガルチェックを依頼する場合は10〜30万円程度が目安です。顧問弁護士契約を結んでいる場合は、これらの相談・整備支援が顧問料の範囲内で対応できることが多く、トラブルが起きるたびにスポット費用が発生するより割安になるケースが多いです。

監修:弁護士法人ブライト 企業法務チーム
大阪・神戸を拠点に企業法務・顧問弁護士サービスを提供。中小企業の法的リスク対応を日々サポートしています。

※本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、個別の法律アドバイスではありません。具体的な問題については弁護士にご相談ください。

本記事は、一般的な情報の提供を目的とするものであり、個別案件に関する法的助言を目的とするものではありません。また、情報の正確性、完全性及び適時性を法的に保証するものではありません。
なお、本記事の内容に関する個別の質問や意見などにつきましては、ご対応できかねます。ただし、当該記事の内容に関連して、当事務所へのご相談又はご依頼を具体的に検討されている場合には、この限りではありません。
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